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  • 平成2年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第12 建設省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

公営住宅の建替事業の実施を適切なものとするよう改善させたもの


公営住宅の建替事業の実施を適切なものとするよう改善させたもの

所管、会計名及び科目 建設省 一般会計(組織)建設本省 (項)住宅建設等事業費
(項)北海道住宅建設等事業費
大蔵省 産業投資特別会計
(社会資本整備勘定)
(項)住宅建設等事業資金貸付金
(項)北海道住宅建設事業資金貸付金
部局等の名称 北海道ほか10都府県
補助の根拠 公営住宅法(昭和26年法律第193号)
事業主体 都、県1、市24、町11、計37事業主体
補助事業 公営住宅建設
補助事業の概要 公営住宅建替事業に関する計画又は公営住宅の用途廃止について建設大臣の承認を受け、老朽化した公営住宅を撤去し、その跡地に新たに公営住宅の建設を行う事業
国庫補助基本額(公営住宅建設事業費無利子貸付金の貸付けを含む) 1,603,443,000円(昭和61年度〜平成2年度)
上記に対する国庫補助金交付額(同上) 1,068,941,000円(昭和61年度〜平成2年度)
低減できた国庫補助金相当額(同上) 2億2430万円(昭和61年度〜平成2年度)
 
<検査の結果>
 上記の補助事業において、第一種公営住宅の従前入居者であり、かつ、国庫補助金の交付申請時に第二種公営住宅の収入基準を超えている者が入居する住宅を、第二種公営住宅として国庫補助金の交付を行っていたため、国庫補助金相当額約2億2430万円の交付が過大になっていた。
 このような事態が生じていたのは、建設省において、事業主体に対し、建替事業における入居者資格及び一種住宅と二種住宅の配分方法について明確な基準を示していなかったことなどによると認められた。
 したがって、速やかに、上記についての明確な基準を示すなどの方策を講じて、公営住宅の建替事業の適正な実施を確保する要があると認められた。
 
<当局が講じた改善の処置>
 本院の指摘に基づき、建設省では、平成3年11月に都道府県に対し通達を発するなどして、公営住宅の建替事業における入居者資格及び一種住宅と二種住宅の配分方法について明確な基準を示すとともに、事業主体等に対し関係法令等の周知徹底を図るなどの処置を講じた。

1 公営住宅の建替事業の概要

(事業の概要)

 建設省では、公営住宅法(昭和26年法律第193号。以下「法」という。)に基づき、公営住宅建設事業の一環として、公営住宅の建替事業を実施している都道府県及び市町村(以下「事業主体」という。)に対し、公営住宅建設事業費補助金の交付(公営住宅建設事業費無利子貸付金の貸付けを含む。以下同じ。)を行っている。
 この事業は、老朽化した公営住宅を撤去し、その跡地に新たに公営住宅を建設するもので、事業主体が、公営住宅建替事業に関する計画について建設大臣の承認を受けて行う法定建替事業と公営住宅の用途廃止について建設大臣の承認を受けて行う任意建替事業とがある。そして、法定建替事業においては、その施行区域を市街化区域等に限定し、新しく建設される住宅の構造・戸数に基準を設け、入居者に明渡し義務を課すなどの点で任意建替事業とは異なっている。

(公営住宅の種類)

 公営住宅は、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸することを目的とするもので、その種類として第一種公営住宅と第二種公営住宅がある。このうち、第二種公営住宅は、第一種公営住宅の家賃を支払うことのできない程度の低額所得者に賃貸する住宅であり、公営住宅の建設費に対する国の補助率は、第一種公営住宅の場合が2分の1、第二種公営住宅の場合が3分の2となっている。そして、入居できる者の収入(注1) 基準は、公営住宅法施行令(昭和26年政令第240号。以下「政令」という。)により、第一種公営住宅の場合は月額10万円を超え16万2千円以下、第二種公営住宅の場合は月額10万円以下と定められている。

(建替事業における入居者資格)

 本件事業においては、法第16条の規定に基づき、撤去すべき公営住宅の最終入居者(以下「従前入居者」という。)のうち、公営住宅に入居を希望する者については、公募によらずに入居させることができることとなっている。
 そして、この従前入居者の再入居の資格(以下「入居者資格」という。)は、再入居希望者が従前に入居していた公営住宅(以下「従前住宅」という。)の種類及びその希望者の収入により、次のようになっている。

(1) 法定建替事業の場合

 法第23条の8の規定により、従前入居者から建替後の公営住宅に入居の申込みがあれば当該住宅に入居させなければならないこととなっている。
 建設省によると、この規定は従前入居者を従前住宅と同種類の公営住宅に入居させることを保証することを念頭に置いて規定されたものであるとしている。このため、第一種公営住宅の従前入居者の第二種公営住宅への入居は、収入が第二種公営住宅の収入基準を超えている場合、原則として認められないとしている。

(2) 任意建替事業の場合(法定建替事業において従前入居者が他の公営住宅に入居を希望した場合を含む。以下同じ。)

 政令附則第3項及び第4項の規定により、再入居希望者の収入が当該希望住宅の収入基準を超える場合は、従前住宅と同種類又は上位の種類の住宅に申込みをした場合にのみ入居が認められている。
 このため、第一種公営住宅の従前入居者の第二種公営住宅への入居は、収入が第二種公営住宅の収入基準を超えている場合、認められていないことになる。

(建替住宅の種類配分)

 建設省では、事業主体において、建替事業に伴う公営住宅の建設に当たり、国庫補助金を交付申請する場合の住宅の種類及び戸数については、入居希望者の従前住宅の種類及び収入により適切に決定する必要があるとしている。

2 本院の検査結果

(調査の対象)

 本院は、北海道ほか8都府県(注2) 及び北海道ほか9府県(注3) 管内の78市町村が事業主体となり、国庫補助金の交付を受けて建替事業により建設した公営住宅のうち、平成元年度及び2年度に第一種公営住宅の従前入居者を入居させている第二種公営住宅1,818戸(国庫補助基本額16,652,158,000円(昭和61年度〜平成2年度)、国庫補助金交付額11,101,390,000円(昭和61年度〜平成2年度))について、建替住宅の種類の配分状況及び再入居状況を調査した。

(調査の結果)

 調査したところ、次のとおり、第一種公営住宅の従前入居者であり、かつ、国庫補助金の交付申請時に第二種公営住宅の収入基準を超えている者(以下「入居者資格に適合しない者」という。)が入居する住宅を、第二種公営住宅として国庫補助金の交付を行っている事態(戸数172戸、国庫補助基本額1,603,443,000円、国庫補助金交付額1,068,941,000円)が見受けられた。

(1) 法定建替事業の場合において、入居者資格に適合しない者が、建替後の第二種公営住宅に再入居しているもの

事業主体 東京都ほか21事業主体
戸数 91戸
国庫補助基本額 820,267,000円
国庫補助金交付額 546,834,000円

(2) 任意建替事業の場合において、入居者資格に適合しない者が、建替後の第二種公営住宅に再入居しているもの

事業主体 東京都ほか18事業主体
戸数 81戸
国庫補助基本額 783,176,000円
国庫補助金交付額 522,107,000円

 しかし、上記(1)及び(2)の事態は、前記の入居者資格に照らし適切でないと認められた。なお、これらの入居者の再入居時の収入について確認したところ、その時点でも第二種公営住宅の収入基準を超えていた。
 したがって、建設省において、事業主体に対し、速やかに、建替事業における入居者資格及び一種住宅と二種住宅の配分方法についての明確な基準を示すなどの方策を講じて、公営住宅の建替事業の適正な実施を確保する要があると認められた。

(低減できた国庫補助金相当額)

 いま、上記の(1)及び(2)に係る第二種公営住宅172戸について、適切な入居者資格に適合するよう第一種公営住宅の建設を計画することとして国庫補助金交付額1,068,941,000円を修正計算すると844,564,000円となり、約2億2430万円の国庫補助金相当額を低減できると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のような理由によると認められた。

ア 建設省及び都道府県において、次のように適切でない点があったこと

(ア) 建替事業における入居者資格及び一種住宅と二種住宅の配分方法について、建設省が明確な基準を示していなかったこともあって、都道府県において、事業主体に対して建替事業の適切な執行についての指導を十分行っていなかったこと

(イ) 建設省及び都道府県における事業主体の建替事業の実施状況についての把握が十分でなく、審査が的確に行われていなかったこと

イ 事業主体において、次のように適切でない点があったこと

(ア) 建替事業の閏係法令等についての認識が十分でなく、再入居希望者の従前住宅の種類及び収入を十分考慮していなかったこと

(イ) 建設担当部門と管理担当部門との連絡が十分でなく、管理担当部門において把握している従前入居者についての情報を新たに建設する住宅の種類及び戸数を決定する際に反映させていなかったこと

(ウ) 建替住宅の再入居希望者に対して、当該住宅に係る入居者資格の説明を適切に行い、建替事業についての理解と協力を求める努力が十分になされていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、建設省では、3年11月に各都道府県に対し通達を発するなどして、公営住宅の建替事業における入居者資格及び一種住宅と二種住宅の配分方法について明確な基準を示すとともに、審査を的確に行うため、国庫補助金の交付申請書に添付する資料の充実を図った。また、事業主体等に対し、建替事業の関係法令等の周知徹底、建設担当部門と管理担当部門との連携強化、再入居希望者に対する入居者資格の十分な説明の実施等の徹底を図るよう指導するなどの処置を講じた。

(注1)  収入 入居者及び同居親族の過去1年間における所得税法(昭和40年法律第33号)の例に準じて算出した所得金額の合計から、同居親族等1人につき330,000円などを控除した額を12で除した額をいう。

(注2)  北海道ほか8都府県 東京都、北海道、大阪府、福井、愛知、広島、山口、福岡、長崎各県

(注3)  北海道ほか9府県 北海道、大阪府、秋田、福井、愛知、兵庫、広島、山口、福岡、長崎各県