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  • 平成4年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

肉用牛産地拡大推進事業の助成金の交付及び対象牛の年齢の取扱いを適切に行うよう改善させたもの


(1) 肉用牛産地拡大推進事業の助成金の交付及び対象牛の年齢の取扱いを適切に行うよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産省 (項)牛肉等関税財源畜産振興費
畜産振興事業団(助成勘定) (項)助成事業費
部局等の名称 農林水産省
畜産振興事業団(助成事業実施団体)
助成の根拠 畜産物の価格安定等に関する法律(昭和36年法律第183号)
事業主体 全国農業協同組合連合会ほか3団体
助成の事業 肉用牛産地拡大推進事業
事業の概要 肉用牛生産の拡大を推進し、肉用牛生産基盤の強化を図るため、畜産農家等の生産集団が繁殖雌牛の規模拡大等を行う場合に、全国農業協同組合連合会ほか3団体が畜産振興事業団の助成を受けて当該生産集団に助成金を交付する事業
調査した助成金の交付先 北海道ほか16県下の150生産集団
調査した助成金の交付額 894,653,000円(平成2年度〜4年度)
不適切に交付されていた助成金の額など 不適切に交付されていた助成金の額 6968万円
(平成2年度〜4年度)
高年齢の繁殖雌牛に交付されていた助成金の額 5506万円
(平成2、3両年度)
1億2474万円
(平成2年度〜4年度)
<検査の結果>
 上記の事業において、繁殖雌牛等の増加頭数の確認が十分でなく、実際の増加頭数を上回る頭数を助成の対象としたり、繁殖の用に適さない高年齢の繁殖雌牛を助成の対象としたりしていて、助成金1億2474万円の交付が適切でないと認められた。
 このような事態が生じていたのは、農林水産省において、事業主体等が繁殖雌牛等の増加頭数の確認をする際の確認内容等について具体的な取扱方法を示していなかったこと、繁殖雌牛の年齢に上限を設定していなかったことなどによると認められた。
<当局が講じた改善の処置>
 
本院の指摘に基づき、農林水産省では、平成5年11月に畜産振興事業団に対して通達を発し、交付要件の確認をする際の確認内容等についての具体的な取扱方法を示すとともに、一定年齢以上の雌牛については、繁殖雌牛の規模拡大の助成対象から除くなどの処置を講じた。

1 事業の概要

(肉用牛産地拡大推進事業の概要)

 農林水産省では、畜産物の価格安定等に関する法律(昭和36年法律第183号)に基づき、畜産振興事業団(以下「事業団」という。)に、事業団の指定助成対象事業一環として、平成2年度から全国農業協同組合連合会ほか3団体(以下「全国連」という。)(注1) が事業主体となって実施した肉用牛産地拡大推進事業(以下「産地拡大事業」という。)に対して、助成を行わせている。これは、牛肉の輸入自由化の下で我が国の肉用牛生産の拡大を推進し、もって肉用牛生産基盤の強化に資することを目的とするものである。この事業の実施に要する経費は、事業団が農林水産省からの交付金等を財源として社団法人全国肉用子牛価格安定基金協会(以下「全国協会」という。)に造成させた基金をもって充てることとなっている。
 そして、産地拡大事業は繁殖雌牛(注2) の規模拡大事業ほか5事業(メニュー)(注3) から成っている。全国連では、5以上の畜産農家等から構成される生産集団がこれらの事業を実施した場合、当該生産集団に対し、全国協会から資金助成を受けて助成金を交付している。
 この助成金の交付額は、平成2年度6億5753万余円、3年度7億2594万余円、4年度11億9638万余円、計25億7985万余円となっている。

〔肉用牛産地拡大推進事業の仕組み及び資金の流れ〕

〔肉用牛産地拡大推進事業の仕組み及び資金の流れ〕

(繁殖雌牛の規模拡大事業等の内容)

 農林水産省では、産地拡大事業について、肉畜生産対策事業実施要綱(昭和59年農林水産事務次官通達)等(以下「要綱等」という。)を定めており、また事業団では要綱等を受けて肉畜生産対策事業助成実施要綱(以下「助成要綱」という。)を定めている。これらによれば、助成対象となる上記の6事業のうち、主な2事業の内容は次のとおりとなっている。

(ア) 繁殖雌牛の規模拡大事業(以下「規模拡大事業」という。)では、生産集団の構成員が、満12月齢以上の繁殖雌牛の飼養頭数を、自家保留(注4) 又は他からの購入により、年度末において年度当初より増加させた場合に、その増加頭数に応じて1頭当たり4万円以内(1頭目)又は6万円以内(2頭目以降)の助成金が交付される。この場合、農林水産省が別途国庫補助事業として実施している家畜導入事業資金供給事業(注5) により導入された雌牛等は、この事業の対象とはならないこととされている。 

(イ) 経営内一貫生産の導入事業では、生産集団の構成員が、満12月齢以上の肥育雄牛の飼養頭数を、自家保留により、年度末において年度当初より増加させた場合に、その増加頭数に応じて1頭当たり2万7千円以内の助成金が交付される。

(交付要件の確認等)

 農林水産省及び事業団では、要綱等及び助成要綱により、全国連に助成金の交付要件の確認等の事務を行わせることとし、全国連は、これを都道府県農業協同組合連合会及び各農業協同組合(以下「農協等」という。)に委託している。
 そして、要綱等、助成要綱及び全国連が定めた肉用牛産地拡大推進事業実施要領等によると、規模拡大事業の場合、助成金の交付要件の確認はおおむね次のとおり行うこととなっており、他の事業についてもほぼ同様となっている。

(ア) 生産集団は、助成金の交付を申請する場合には、交付要件を具備している旨の農協等の確認を受けたのち、農協等を通じ実績報告書を全国連に提出する。

(イ) 農協等は、生産集団の構成員ごとに、繁殖雌牛の増加状況等を記載した管理台帳を整備し、交付要件の確認に当たって、生産集団から提出された飼養雌牛の生年月日を証する登録書等の書類と照合確認する。

2 検査の結果

(調査の対象及び観点)

 全国連が、北海道ほか16県管内(注6) の150生産集団に対し、規模拡大事業ほか5事業の実施に伴って交付した助成金、2年度8,759頭、3億7720万余円、3年度8,599頭、4億1523万余円、4年度2,775頭、1億0221万余円、計20,133頭、8億9465万余円を対象として調査した。調査は、助成金の交付が適切に行われているか、助成対象牛の年齢の取扱いは適切に行われているか、という観点から実施した。

(調査の結果)

 調査の結果、次のとおり適切とは認められない事態が、2年度、3年度及び4年度に交付された助成金、計1億2474万円について見受けられた。

(1) 増加頭数の確認が十分でなく、助成金の交付が適切に行われていないもの

 北海道ほか15県管内(注7) の106生産集団に対する、規模拡大事業ほか3事業(注8) において、助成金の交付が適切に行われているとは認められない事態が、2年度842頭、3451万余円、3年度525頭、2712万余円、4年度160頭、803万余円、計1,527頭、6968万円見受けられた。
 これらについて、その主な態様を示すと、次のとおりである。

(ア) 年度当初から年度末までの間に死亡、廃用又は譲渡した繁殖雌牛等を、年度末の飼養 頭数に含めるなどして、実際の増加頭数を上回る頭数を助成の対象としているもの

465頭 不適切な助成金交付額 2473万余円

(イ) 前年度から飼養していて、年度当初既に満12月齢以上となっている雌牛等を、当該年度に新たに増加したものとして、助成の対象としているもの

414頭 不適切な助成金交付額 2234万余円

(ウ) 家畜導入事業資金供給事業等で導入している雌牛は、助成金の交付の対象にならないのに、これを助成の対象としているもの

99頭 不適切な助成金交付額 506万円

(エ) 複数の生産集団に属して畜産経営を行っている農家が、一方の生産集団で増加した繁 殖雌牛について助成金の交付を受けていながら、同一の雌牛を対象に他の生産集団においても助成金の交付を受けるなどしているもの

78頭 不適切な助成金交付額 426万余円

 不適切な助成金交付額 

(2) 繁殖雌牛の助成対象年齢の取扱いが適切とは認められないもの

 北海道ほか11県管内(注9) の72生産集団において、2、3両年度に規模拡大事業により、頭数が増加したとして助成対象となった繁殖雌牛9,435頭(2年度4,084頭、3年度5,351頭)についてみると、8歳以上の雌牛が2年度については607頭、3年度については600頭、計1,207頭見受けられた。これを年齢別にみると、8歳から10歳の牛が561頭(2年度285頭、3年度276頭)、11歳から13歳の牛が4449頭(2年度222頭、3年度227頭)、14歳か19歳の牛が197頭(2年度100頭、3年度97頭)となっていた。
 そして、このような8歳以上の繁殖雌牛は高年齢であるため、助成後も引き続き繁殖の用に供しているかを調査する要があると認められた。そこで、2年度に助成金の交付対象となった上記607頭の繁殖雌牛について、畜産農家の購入後の飼養状況を調査した。
 その結果、繁殖雌牛が高年齢で繁殖の用に適さないため、増加した雌牛が廃用牛として食肉用に出荷されるなどしていて、助成の対象となった2年度以降検査時点(5年2月から9月)までに繁殖雌牛として飼養されなくなっているものが、次表のとおり、上記607頭のうち、翌年度134頭、翌々年度以降138頭、計272頭見受けられた。そして、廃用等の割合は対象牛の年齢が高くなるに応じて高くなっていた。

肉用牛産地拡大推進事業の助成金の交付及び対象牛の年齢の取扱いを適切に行うよう改善させたものの図1

 また、3年度に助成の対象となった前記の600頭についても、翌年度に150頭が廃用等されていて、2年度とほぼ同様な状況となっていた。
 以上のことから、前記の高年齢の繁殖雌牛に係る助成金2年度607頭、2746万円、3年度600頭、2760万円、計1,207頭、5506万円は、短期間で廃用等となる可能性の高い繁殖雌牛を助成の対象としていて事業の実施が適切でないと認められた。

 したがって、繁殖雌牛等について実際の増加頭数を上回る頭数を助成の対象としたり、繁殖の用に適さない高年齢の繁殖雌牛を助成の対象としたりしている事態は、事業の実施が適切でなく、改善の要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、生産集団の構成員の本制度に対する理解が十分でなかったことにもよるが、主として次の理由によると認められた。

(ア) 農林水産省において、要綱等で、交付要件の確認をする際の確認内容及び確認方法等について具体的な取扱方法を示しておらず、事業団等を十分指導していなかったこと

(イ) 農林水産省において、要綱等で、規模拡大事業における助成金の交付対象牛を満12月齢以上の繁殖雌牛と定めているのみで、年齢の上限を設定していなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、5年11月に事業団に通達を発 し、次のとおり、確認内容等について具体的な取扱方法を示すとともに、規模拡大事業における助成金の交付対象牛に年齢の上限を設けるなどの処置を講じた。

(ア) 交付要件の確認をする際の確認書類に牛の異動状況を的確に把握できるよう家畜導入伝票等の書類を追加し、また、確認内容を具体的に示すとともに、現地確認を実施することとするなど、農協等における確認内容、確認方法等を改善する。

(イ) 規模拡大事業における助成金の交付対象牛について、家畜導入事業資金供給事業の場合に準じて満4歳以上の雌牛は助成対象から除外する。

(注1) 全国農業協同組合連合会ほか3団体  全国農業協同組合連合会、全国畜産農業協同組 合連合会、全国開拓農業協同組合連合会、全国酪農業協同組合連合会
(注2) 繁殖雌牛  子牛を生産することを目的として、飼養している雌牛
(注3) 繁殖雌牛の規模拡大事業ほか5事業  繁殖雌牛の規模拡大、経営内一貫生産の導入、肥育仕向け雌牛の繁殖利用、双子生産技術の活用、放牧の活用、多産繁殖雌牛の利用の各事業
(注4) 自家保留  自家生産した子牛を販売することなく、引き続き生産した農家で飼養することをいう。
(注5) 家畜導入事業資金供給事業  農協等が事業主体となり、4歳未満の繁殖雌牛を購入 し、一定期間畜産農家等に貸し付けた後、その者に譲渡する事業
(注6) 北海道ほか16県  北海道、青森、岩手、秋田、栃木、石川、静岡、三重、兵庫、島根、山口、愛媛、長崎、熊本、大分、宮崎、沖縄各県
(注7) 北海道ほか15県  北海道、青森、岩手、秋田、栃木、石川、三重、兵庫、島根、山口、愛媛、長崎、熊本、大分、宮崎、沖縄各県
(注8) 規模拡大事業ほか3事業  繁殖雌牛の規模拡大、経営内一貫生産の導入、肥育仕向け雌牛の繁殖利用、放牧の活用の各事業
(注9) 北海道ほか11県  北海道、岩手、秋田、栃木、兵庫、島根、山口、長崎、熊本、大分、宮崎、沖縄各県