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租税の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの


(2)租税の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの

会計名及び科目 一般会計 国税収納金整理資金 (款)歳入組入資金受入
 (項)各税受入金
部局等の名称 麹町税務署ほか168税務署
納税者 470人
徴収過不足額 徴収不足額 1,604,209,090円
徴収過大額 15,519,600円
 上記の169税務署において納税者470人から租税を徴収するに当たり、課税資料の収集・活用が的確でなかったなどのため、徴収額が不足していたものが465事項1,604,209,090円、徴収額が過大になっていたものが5事項15,519,600円あった。これらについては、本院の指摘により、すべて徴収決定又は支払決定の処置が執られた。

1 租税の概要

 源泉所得税、申告所得税、法人税、相続税・贈与税、消費税等の国税については、法律により、納税者の定義、納税義務の成立の時期、課税する所得の範囲、税額の計算方法、納付の方法などが定められている。

 平成5年度国税収納金整理資金の各税受入金の徴収決定済額は61兆3365億余円に上っている。このうち源泉所得税は20兆2819億余円、申告所得税は5兆1716億余円、法人税は12兆9676億余円、相続税・贈与税は3兆9129億余円、消費税は8兆5160億余円となっていて、これら各税の合計額は50兆8503億余円となり、全体の82.9%を占めている。

2 検査の結果

(徴収過不足の事態)

 上記各税の課税内容に重点をおいて検査したところ、麹町税務署ほか168税務署において、納税者470人から租税を徴収するに当たり、徴収額が不足していたものが465事項1,604,209,090円、徴収額が過大になっていたものが5事項15,519,600円あった。
 これを、税目別にみると次表のとおりである。

税目 徴収不足の事項数
徴収過大の事項数
徴収不足額
徴収過大額(△)

源泉所得税

25

87,736,083
申告所得税 156 408,670,900
2 △12,550,600
法人税 197 701,207,607
1 △891,000
相続税・贈与税 52 283,410,400
2 △2,078,000
消費税 33 120,674,600
その他 2 2,509,500
465 1,604,209,090
5 △15,519,600

  なお、これらの徴収不足額及び徴収過大額については、本院の指摘により、すべて徴収決定又は支払決定の処置が執られた。

(発生原因)

 上記の169税務署において、徴収不足又は徴収過大の事態を生じた原因は、納税者が申告書等において所得金額や税額等を誤っているのに、課税資料の収集・活用が的確でなかったり、法令等の適用の検討が十分でなかったり、これを見過ごしたりして、誤ったままにしていたことなどによるものである。

(税目ごとの態様)

 この470事項のうち、源泉所得税、申告所得税、法人税、相続税・贈与税及び消費税に関するものについて、その態様を示すと次のとおりである。

(1)源泉所得税に関するもの

 源泉所得税では徴収不足となっていたものが25事項あった。この内訳は、退職手当及び給与等に関するもの16事項及びその他に関するもの9事項である。

ア 退職手当及び給与等に関するもの

 退職手当及び給与等(給料、賃金、賞与等をいう。)の支払者は、支払の際に、所定の方法により計算した源泉所得税を徴収し、これを徴収の日の属する月の翌月10日までに国に納付しなければならないこととなっている。また、支払が確定した日から1年を経過した日において未払となっている利益処分等の賞与については、その日に支払があったものとみなし、支払者が賞与に対する税額を徴収してその翌月10日までにこれを国に納付しなければならないこととなっている。そして、この法定納期限までに納付がない場合には、支払者に対して、納税の告知をしなければならないこととなっている。
 この退職手当及び給与等に関し、徴収不足となっている事態が16事項あった。その主な内容は、税額の計算に誤りがあり、税額が過小のままとなっていたり、法定納期限を経過した後、長期間にわたって源泉所得税が納付されていなかったりしているのに、これを見過ごしたため、納税の告知をしていなかったものである。 (事例1参照)

イ その他に関するもの

 上記アのほか、配当等に関し、徴収不足となっている事態が9事項あった。

 源泉所得税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例1>  利益処分の賞与に関する源泉所得税について納税の告知をしていなかったもの

 A会社は、平成4年9月決算期の利益処分の賞与20,000,000円に対する源泉所得税を納付していなかった。
 しかし、上記の賞与は、同会社から提出された3年10月から4年9月までの事業年度分の法人税の申告書等によれば、4年11月20日に支払が確定し、その日から未払のまま1年を経過しているので、5年11月21日に支払があったものとみなされる。したがって、同年12月10日までに同賞与に対する源泉所得税が納付されていなければならないのに、これを見過ごしたため、納税の告知をしておらず、源泉所得税額9,400,000円が徴収不足になっていた。

(2)申告所得税に関するもの

 申告所得税では徴収不足又は徴収過大となっていたものが158事項あった。この内訳は、不動産所得に関するもの57事項、配当所得に関するもの27事項、雑所得に関するもの23事項、譲渡所得に関するもの22事項及びその他に関するもの29事項である。

ア 不動産所得に関するもの

 個人が不動産を貸し付けた場合には、その総収入金額から必要経費を差し引いた金額を不動産所得として、他の各種所得と総合して課税することとなっている。
 そして、貸付けの用に供する不動産を借入金により取得する際に支払った借入保証料は、不動産所得の計算上、その保証期間にわたって配分しそれぞれの年分の必要経費に算入することとなっている。
 また、不動産所得の計算に当たって、貸付料等の収入、建物等の取得などに係る経費の各項目の金額に消費税を含めて経理している場合には、経費に係る消費税額が収入に係る消費税額を超えるときに生じる消費税の還付金は、不動産所得の計算上総収入金額に算入することとなっている。
 この不動産所得に関し、徴収不足となっている事態が57事項あった。その主な内容は次のとおりである。

(ア) 申告書等で、貸付けの用に供する不動産を借入金により取得する際の借入保証料で翌年以降の経費となるものなどが必要経費に算入されているのに、これを見過ごしたため、不動産所得の金額を過小のままとしていた。

(イ) 申告書等で、収入、経費に消費税を含めて経理している場合の消費税の還付金が総収入金額に算入されていないのに、これを見過ごしたため、不動産所得の金額を過小のままとしていた。

イ 配当所得に関するもの

 個人が法人から配当を受けた場合には、源泉分離選択課税(注) の適用を受けた配当などを除いて、配当所得として、他の各種所得と総合して課税することとなっている。そして、法人からの退社又は脱退による持分の払戻金の額のうち出資金に相当する額を超える部分の金額などは、配当の額とみなされることとなっている。
 この配当所得に関し、徴収不足となっている事態が27事項あった。その内容は、個人に法人から受けた配当による所得があるのに、これに係る課税資料の収集・活用が的確でなかったり、これを見過ごしたりしたため、この所得を他の所得と総合して課税していなかったものである。 (事例2 参照)

(注) 源泉分離選択課税 配当について、その支払を受ける者が法人の発行済株式の総数(又は出資金額)の100分の5以上を有する場合又は法人から支払を受ける配当の金額が1回25万円(年間50万円)以上の場合を除いて、その者の選択により他の所得と分離し100分の35の税率を適用して源泉所得税を課することをいう。

ウ 雑所得に関するもの

 個人が貸付金の利子(事業所得に該当するものを除く。)などを受けた場合には、その総収入金額から必要経費を差し引いた金額を雑所得として、他の各種所得と総合して課税することとなっている。
 この雑所得に関し、徴収不足となっている事態が23事項あった。その主な内容は、個人に貸付金の利子による所得があるのに、これに係る課税資料の収集・活用が的確でなかったため、この所得を他の所得と総合して課税していなかったものである。

エ 譲渡所得に関するもの

 個人が資産を譲渡した場合には、その総収入金額から譲渡した資産の取得費や譲渡に要した費用の額などを差し引いた金額を譲渡所得として、他の各種所得と総合して課税することとなっている。ただし、土地建物等(土地、建物、土地の上に存する耕作権等の権利などをいう。)及び株式等の譲渡による所得については、他の所得と分離して課税することとなっている。そして、土地建物等については、その所有期間に応じて長期譲渡所得(注1) と短期譲渡所得(注2) とに分けてそれぞれ特別な計算方法により税額を算出している。
 この譲渡所得に関し、徴収不足又は徴収過大となっている事態が22事項あった。その主な内容は次のとおりである。

(ア) 譲渡所得があるのに、これに係る課税資料の収集・活用が的確でなかったため、課税していなかった。 (事例3 参照)

(イ) 申告書等で譲渡に要した費用の額などに誤りがあり、譲渡所得の金額が少なく記載されているのに、法令等の適用の検討が十分でなかったり、これを見過ごしたりしたため、譲渡所得の金額を過小のままとしていた。

(ウ) 申告書等で譲渡所得に対する税額の計算に誤りがあるのに、法令等の適用の検討が十分でなかったり、これを見過ごしたりしたため、税額を過小のままとしていた。

(注1) 長期譲渡所得 譲渡した年の1月1日において土地建物等の所有期間が10年(昭和62年10月1日から平成9年3月31日までの間の土地等の譲渡又は2年1月1日から9年3月31日までの間の建物等の譲渡については5年)を超えるものの譲渡による所得をいう。

(注2) 短期譲渡所得 土地建物等の譲渡による所得のうち長期譲渡所得以外のものをいう。

オ その他に関するもの

 上記のアからエのほか、事業所得、一時所得等に関し、徴収不足又は徴収過大となっている事態が29事項あった。

 申告所得税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例2>  配当所得を分離課税の株式等に係る譲渡所得としていたもの

 納税者Bは、平成3年分の申告に当たり、C会社からの3年12月の退社による持分の払戻金105,000,000円から同人の出資金額60,000円を差し引いた104,940,000円について、所得の種類を株式等に係る譲渡所得とし、他の所得と分離して100分の20の税率を適用していた。
 しかし、上記持分の払戻金のうち出資金額を超える部分の金額は配当の額とみなされるので、上記の104,940,000円は配当所得として他の所得と総合して累進税率(課税される総所得金額の区分に応じ100分の10から100分の50の税率が適用される。同金額が2000万円を超える部分については100分の50)により課税されることとなるのに、これを見過ごしたため、申告所得税額22,277,400円が徴収不足になっていた。

<事例3>  譲渡所得について課税していなかったもの

 納税者Dは、平成3年分の申告に当たり、譲渡所得はないとしていた。
 しかし、他の納税者Eの確定申告書等によれば、Dは、3年4月に、長期に保有していた耕作権をEに35,000,000円で譲渡している。したがって、同人にはこの額から取得費等2,750,000円を差し引いた32,250,000円の長期譲渡所得があるのに、上記の申告書等からこの事実を把握していなかったなどのため、申告所得税額6,558,800円が徴収不足になっていた。

(3)法人税に関するもの

 法人税では徴収不足又は徴収過大となっていたものが198事項あった。この内訳は、土地等の譲渡等に係る譲渡利益に関するもの39事項、法人税額の特別控除に関するもの24事項、新規取得土地等に係る負債の利子に関するもの23事項、退職給与引当金に関するもの21事項、同族会社の留保金に関するもの19事項及びその他に関するもの72事項である。

ア 土地等の譲渡等に係る譲渡利益に関するもの

 法人の長期所有土地等(注1) 、短期所有土地等(注2) 、超短期所有土地等(注3) の譲渡等について、それぞれ区分し、収益の額から原価と経費の額を差し引いて譲渡利益金額が算出される場合には、通常の法人税のほか、それぞれの譲渡利益金額に対し特別税率の法人税を課することとなっている。
 そして、この特別税率の法人税額は、長期所有土地等、短期所有土地等及び超短期所有土地等の譲渡利益金額のそれぞれ100分の10、100分の20及び100分の30に相当する金額などとなっている。
 この土地等の譲渡等に係る譲渡利益に関し、徴収不足となっている事態が39事項あった。その主な内容は次のとおりである。

(ア) 申告書等で、長期所有土地等、短期所有土地等及び超短期所有土地等の区分を誤るなどし、それぞれの譲渡利益金額が記載されていなかったり、少なく記載されていたりしていた。しかし、法令等の適用の検討が十分でなかったり、これを見過ごしたりしたため、特別税率の法人税を課していなかったり、譲渡利益金額を過小のままとしたりしていた。

(イ) 申告書等で経費の額に誤りがあり、譲渡利益金額が記載されていなかったり、少なく記載されていたりしていた。しかし、法令等の適用の検討が十分でなかったり、これを見過ごしたりしたため、特別税率の法人税を課していなかったり、譲渡利益金額を過小のままとしたりしていた。

(注1) 長期所有土地等 法人が所有する土地等のうち短期所有土地等、超短期所有土地等以外の土地等をいう。

(注2) 短期所有土地等 譲渡した年の1月1日までに所有していた期間が10年(昭和62年10月1日から平成9年3月31日までの譲渡では5年)以下である土地等をいう。ただし、超短期所有土地等に該当するものを除く。

(注3) 超短期所有土地等 昭和62年10月1日から平成9年3月31日までに譲渡した土地等のうち、譲渡した年の1月1日までに所有していた期間が2年以下である土地等をいう。

イ 法人税額の特別控除に関するもの

 青色申告書を提出する法人のうち中小企業者等が電子機器利用設備を取得し又は賃借(賃借期間が5年以上であるものに限る。)した場合には、その設備を事業に使用した最初の事業年度において、次の金額のうちいずれか少ない金額を限度として法人税額から控除する特例を適用できることなどとなっている。

〔1〕 取得価額又は賃借期間中に支払う費用の総額に一定の割合を乗じて得た金額

〔2〕 確定申告書の法人税額の100分の20に相当する金額

 この法人税額の特別控除(以下「税額控除」という。)に関し、徴収不足となっている事態が24事項あった。その主な内容は次のとおりである。

(ア) 申告書等で、特例の適用ができない賃借期間5年未満の設備について税額控除されているのに、これを見過ごしたため、法人税額を過小のままとしていた。 (事例4 参照)

(イ) 申告書等で、前期以前に既に税額控除された金額が当期の法人税額から重複して控除されているのに、これを見過ごしたため、法人税額を過小のままとしていた。

ウ 新規取得土地等に係る負債の利子に関するもの

 法人が、新規取得土地等(昭和63年12月31日以後に取得した土地等)を有し、当該土地等が長期間にわたって使用される建物等の敷地の用に供されていない場合には、当該土地等に係る負債の利子は取得後4年間損金に算入しないこととなっている。そして、当該負債の利子は、損金に算入されなかった期間の末日を含む事業年度の翌事業年度から4年間で均等額を損金に算入することなどとなっている。
 この新規取得土地等に係る負債の利子に関し、徴収不足となっている事態が23事項あった。その主な内容は、申告書等で、長期間にわたって使用される建物等の敷地の用に供されていない新規取得土地等があるのに、これを見過ごしたため、当該土地等に係る負債の利子を損金に算入したままとしていたものである。 
(事例5 参照)

エ 退職給与引当金に関するもの

 退職給与規程を定めている法人は、その使用人の退職の際に支給する退職給与に充てるための金額を退職給与引当金勘定に繰り入れることができる。そして、この繰り入れた金額については、次の金額のうちいずれか少ない金額を限度として、損金に算入できることとなっている。

〔1〕 期末退職給与の要支給額(注) から前期末退職給与の要支給額を差し引いた金額(又は給与総額の100分の6に相当する金額)

〔2〕 期末退職給与の要支給額の100分の40に相当する金額から、前期から繰り越された退職給与引当金勘定の期末における金額を差し引いた金額

 また、使用人が退職した場合には、退職給与引当金勘定の金額から、退職者の前期末退職給与の要支給額に相当する金額を取り崩して益金に算入することとなっている。

 この退職給与引当金に関し、徴収不足又は徴収過大となっている事態が21事項あった。その主な内容は次のとおりである。

(ア) 申告書等で期末や前期末の退職給与の要支給額等に誤りがあり、限度額を超えて繰り入れた金額が損金に算入されているのに、これを見過ごしたため、繰入額を過大のままとしていた。

(イ) 申告書等で使用人に対する退職給与の支払額が記載されていながら、退職者の前期末退職給与の要支給額に相当する金額が、退職給与引当金勘定の金額から取り崩され益金に算入されていないのに、これを見過ごしたため、この要支給額に相当する金額を益金に算入しないままとしていた。

(注) 期末退職給与の要支給額  期末において在職する使用人の全員が自己の都合で退職するものと仮定した場合に、各使用人について退職給与規程により計算される退職給与の合計額をいう。

オ 同族会社め留保金に関するもの

 特定の同族会社(注1) については、通常の法人税のほか、利益のうち社内に留保した金額が一定の金額を超える場合には、その超える部分の金額(以下「課税留保金額」という。)に対し特別税率(注2) の法人税を課することとなっている。
 この同族会社の留保金に関し、徴収不足となっている事態が19事項あった。その内容は次のとおりである。

(ア) 申告書等で課税留保金額が算出されるのに、これを見過ごしたため、特別税率の法人税を課していなかった。

(イ) 申告書等で課税留保金額や税額の計算に誤りがあり、特別税率の法人税額が少なく記載されているのに、これを見過ごしたため、特別税率の法人税額を過小のままとしていた。

(注1) 特定の同族会社  発行済株式の総数(又は出資金額)の100分の50以上が、3人以下の株主等(株主等に同族会社でない法人がある場合はその法人を除く。)及びこれらと特殊の関係にある個人・法人によって所有されている会社をいう。

(注2) 特別税率  課税留保金額が年3000万円以下の部分については100分の10、年3000万円を超え1億円以下の部分については100分の15、年1億円を超える部分については100分の20となっている。

カ その他に関するもの

 上記のアからオのほか、特定の資産の買換えの特例、受取配当等の益金不算入等に関し、徴収不足となっている事態が72事項あった。
 法人税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例4>  電子機器利用設備を賃借した場合の税額控除の特例の適用を誤っていたもの

 F会社は、平成2年7月から3年6月までの事業年度分の申告に当たり、税額控除の特例を適用して、期中に取得し又は賃借して事業の用に供した12の電子機器利用設備の取得価額及び賃借期間中に支払う費用の総額にそれぞれ一定の割合を乗じて算出した金額の合計額13,950,625円を法人税額から控除していた。
 しかし、申告書等によれば、上記13,950,625円のうち2設備分4,143,625円は賃借期間が5年未満の設備に係るものであり、税額控除の特例の適用はできない。したがって、税額控除の金額は9,807,000円となるのに、これを見過ごしたため、法人税額4,143,700円が徴収不足になっていた。

<事例5>  長期使用建物等の敷地の用に供されていない新規取得土地等に係る負債の利子を損金に算入していたもの

 G会社は、平成2年8月から4年7月までの2事業年度分の申告に当たり、2年10月に取得した1,597m2 の土地(取得価額141,250,324円)及び3年11月に取得した1,012m2 の土地(同79,120,000円)に係る負債の利子を損金に算入していた。
 しかし、申告書等によれば、これらの土地は長期間にわたって使用される建物等の敷地の用に供されていないので、これらの新規取得土地に係る負債の利子は損金に算入できない。したがって、両期において、損金に算入できない負債の利子6,356,264円、11,639,819円があるのに、これを見過ごしたため、法人税額1、939,300円、3,967,900円、計5,907,200円が徴収不足になっていた。

(4)相続税・贈与税に関するもの

 相続税・贈与税では徴収不足又は徴収過大となっていたものが54事項あった。この内訳は、相続税については土地建物等の価額に関するもの18事項、その他に関するもの11事項、贈与税については25事項である。

ア 相続税に関するもの

(ア) 土地建物等の価額に関するもの

 個人が相続又は遺贈により財産を取得した場合には、その取得した財産の価額に対し相続税を課することとなっている。そして、取得した財産の価額は、相続又は遺贈により取得したときの時価とされていて、土地建物等の価額については、路線価、固定資産税評価額等を基にして計算することとなっている。ただし、被相続人が相続開始前3年以内に取得した土地建物等(被相続人が居住の用に供していたものを除く。)については、被相続人が取得したときの取得価額によることとなっていて、この場合、借地権相当額、借家権相当額等の控除はできないこととなっている。
 この土地建物等の価額の計算に関し、徴収不足又は徴収過大となっている事態が18事項あった。その主な内容は、申告書等で相続により取得した建物等の価額の計算において、被相続人が相続開始前3年以内に取得した建物等の取得価額から借家権相当額を控除しているのに、法令等の適用の検討が十分でなかったり、これを見過ごしたりしたため、建物等の価額を過小のままとしていたものである。

(イ) その他に関するもの

 上記(ア)のほか、相続税の総額を計算する場合の相続人の数(注) 、有価証券の価額等に関し、徴収不足となっている事態が11事項あった。 (事例6 参照)

(注) 相続税の総額を計算する場合の相続人の数 民法に規定する相続人の数を原則とし、被相続人に実子と養子がいる場合、養子は1人、養子のみの場合、養子は2人までとして計算した相続人の数をいう。

イ 贈与税に関するもの

 個人が贈与により財産を取得した場合には、その取得した財産の価額に対し贈与税を課することとなっている。そして、同族会社である株式会社が新株を発行する際、従前の株主が新株の引受けをせず、その株主の親族が新株引受権を取得し、有利な発行価額による新株の引受けをした場合には、その親族が従前の株主から新株引受権を贈与により取得したものとみなされることとなっている。
 この贈与税に関し、徴収不足となっていたものが25事項あった。その主な内容は、同族会社における従前の株主からその親族が新株引受権を贈与により取得しているのに、これに係る資料の収集・活用が的確でなかったため、贈与税を課していなかったものである。

 相続税・贈与税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例6>  相続税の総額を計算する場合の相続人の数を誤っていたもの

 納税者Hは、平成2年3月相続分の申告に当たり、他の2人の相続人とともに被相続人から相続により取得した財産の課税価格の合計額580,601,000円に係る相続税の総額を216,030,000円とし、同人の相続税額を98,835,800円としていた。そして、この計算に当たっては、相続税の総額の計算の対象となる相続人の数を実子1人、養子2人、計3人としていた。
 しかし、実子がいる場合、相続税の総額を計算する際の相続人の数に算入できる養子の数は1人とされているので、相続人の数は実子1人、養子1人の計2人となる。したがって、これにより計算した相続税の総額250,590,000円に基づき、同人の相続税額を算出すると114,647,400円となるのに、これを見過ごしたため、相続税額15,811,600円が徴収不足になっていた。

(5)消費税に関するもの

 消費税では徴収不足となっていたものが33事項あった。この内訳は、簡易課税制度の適用に関するもの17事項、仕入れに係る消費税額の控除に関するもの12事項及びその他に関するもの4事項である。

ア 簡易課税制度の適用に関するもの

 事業者は、課税期間(個人事業者は暦年、法人は事業年度)における課税売上高に対する消費税額から仕入れに係る消費税額を差し引いた額を消費税として納付することとなっている。そして、この場合、その課税期間の基準期間(個人事業者については前々年、法人については前々事業年度)における課税売上高が4億円(平成3年9月30日までに開始する課税期間については5億円)以下であるときは、課税売上高に対する消費税額に所定の率(注) を乗じて得られる金額を仕入れに係る消費税額とみなして税額を計算する簡易課税制度を適用することができることとなっている。
 この簡易課税制度の適用に関し、徴収不足となっている事態が17事項あった。その主な内容は、基準期間における課税売上高が4億円(3年9月30日までに開始する課税期間については5億円)を超えている事業者が簡易課税制度を適用していて、納付する税額が少なくなっているのに、これを見過ごしたため、消費税額を過小のままとしていたものである。

(注) 所定の率 事業の種類ごとに次のとおり定められている。

第一種事業(卸売業) 100分の90
第二種事業(小売業) 100分の80
第三種事業(製造業等) 100分の70
第四種事業(サービス業等) 100分の60

 イ 仕入れに係る消費税額の控除に関するもの
 事業者は、仕入れに係る消費税額の控除に当たっては、簡易課税制度を適用する場合を除き、課税期間における課税売上割合(注) が100分の95以上のときは、商品の仕入れや建物(自己の居住の用に供するなど事業用とはならないものを除く。)の取得等に係る消費税額の全額を、また、100分の95未満のときは課税売上高に対応する部分の金額を控除することとなっている。
 この仕入れに係る消費税額の控除に関し、徴収不足となっている事態が12事項あった。その主な内容は次のとおりである。

(ア) 申告書等で課税売上割合が100分の95未満でありながら、建物の取得等に係る消費税額の全額が控除されているのに、これを見過ごしたため、仕入れに係る消費税額を過大のままとしていた。 (事例7 参照)

(イ) 申告書等で建物のうちに自己の居住の用に供していて事業用とはならない部分かありながら、これを含めた建物全体の取得に係る消費税額が控除されているのに、これを見過ごしたため、仕入れに係る消費税額を過大のままとしていた。

(注) 課税売上割合 次の算式により計算した割合をいう。

(注)課税売上割合次の算式により計算した割合をいう。

ウ その他に関するもの

 上記ア、イのほか、貸倒れに係る消費税額の控除等に関し、徴収不足となっている事態が4事項あった。
 消費税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例7>  仕入れに係る消費税額の計算を誤っていたもの

 納税者Iは、平成4年1月から12月までの課税期間分の申告に当たり、貸付けの事業の用に供している建物の取得等に係る消費税額9,460,157円全額を仕入れに係る消費税額とし、これを課税売上高に対する消費税額から控除していた。
 しかし、同人の申告所得税の申告書等によれば、貸付事業のうちの大部分は課税の対象とならない住宅の貸付けで、課税売上割合は100分の95未満となっているので建物の取得等に係る消費税額の全額を控除することはできない。したがって、仕入れに係る消費税額について課税売上高に対応する部分の金額を計算すると控除すべき税額は1,740,091円となるのに、これを見過ごしたため、消費税額7,720,000円が徴収不足になっていた。

(国税局等別の徴収過不足額)

 これらの徴収不足額及び徴収過大額を国税局等別に示すと次のとおりである。

 これらの徴収不足額及び徴収過大額を国税局等別に示すと次のとおりである。