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  • 平成5年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第4 厚生省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

季節的業務に従事する酒造従業員に対する健康保険及び厚生年金保険の適用を適切に行うよう改善させたもの


季節的業務に従事する酒造従業員に対する健康保険及び厚生年金保険の適用を適切に行うよう改善させたもの

会計名及び科目 厚生保険特別会計 (健康勘定) (款)保険収入(項)保険料収入
(年金勘定) (款)保険収入(項)保険料収入
部局等の名称 宮城県ほか8都府県(48社会保険事務所)
健康保険及び厚生年金保険両事業の概要 健康保険法(大正11年法律第70号)及び厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)に基づき、常時従業員を雇用する事業所の従業員等を被保険者として医療、年金等の給付を行う事業
保険料納付義務者 316清酒製造業者
徴収されていなかった保険料の額 健康保険保険料 251,122,388円
厚生年金保険保険料 422,265,946円
673,388,334円
<検査の結果>
 上記の事業の実施に当たり、清酒製造業者が雇用する酒造従業員2,098人について被保険者資格取得届が提出されていなかったり、健康保険の適用を除外する申請書が提出されていたりしたため、健康保険及び厚生年金保険が適用されておらず、これら酒造従業員に係る保険料673,388,334円が徴収されていなかった。
 このような事態が生じていたのは、清酒製造業者において、健康保険及び厚生年金保険の適用についての十分な認識がなかったこと及び社会保険事務所において、酒造従業員の雇用期間の確認が十分でなかったことから健康保険の適用を除外する承認を行ったことなどによると認められた。
<当局が講じた改善の処置>
 本院の指摘に基づき、社会保険庁では平成6年11月に各都道府県に対して通知を発し、季節的業務に従事する酒造従業員について、健康保険及び厚生年金保険の適用を適切に行うよう指導するとともに、健康保険の適用除外の承認等に当たり酒造従業員の雇用期間の確認を行うことにより適用漏れのないよう体制を整える処置を講じた。

1 保険適用の概要

(健康保険及び厚生年金保険)

 社会保険庁では、健康保険法及び厚生年金保険法に基づき、健康保険及び厚生年金保険両事業を運営している。

(健康保険の被保険者の種別)

 健康保険の被保険者のうち、常時従業員を雇用する事業所の従業員は、健康保険法第13条等の規定により一般の被保険者とされている。また、雇用期間が4箇月を超える季節的業務に従事する者についても、事業主との間に常用的な雇用関係があるものとして、健康保険の一般の被保険者とされている。
 一方、雇用期間が4箇月以内の季節的業務に従事する者や日々雇い入れられる者等は同法により健康保険の日雇特例被保険者(以下「特例被保険者」という。)とされている。そして、特例被保険者が農業等他に本業を有し臨時に雇用される場合など特別の事由があるときは、特例被保険者の適用除外についての申請書を都道府県の社会保険事務所に提出し、承認を受けた場合には健康保険の被保険者とならないこととなっている。

(厚生年金保険の被保険者)

 厚生年金保険の被保険者については、厚生年金保険法第6条等の規定により、常時従業員を雇用する事業所の65歳未満の従業員及び雇用期間が4箇月を超える季節的業務に従事する者等とされている。

(被保険者資格得喪の手続)

 事業主は、従業員及び雇用期間が4箇月を超える季節的業務に従事する者を雇用したときに、都道府県の社会保険事務所に対し、健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格取得届を提出する。
 また、当該従業員が離職したときは、事業主は、都道府県の社会保険事務所に対し、健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格喪失届を提出する。

(保険料の徴収)

 事業主から健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格取得届の提出を受けた社会保険事務所は、届け書に記載された被保険者の報酬月額に基づいてそれぞれの標準報酬月額を決定し、これにそれぞれの保険料率を乗じて得た額を健康保険及び厚生年金保険の保険料として被保険者負担分を含めて事業主から徴収している。

(社会保険事務所による調査)

 社会保険事務所による調査には、随時に職員が事業所に赴いて行う調査と毎年定時に事業主を社会保険事務所に呼び出したりなどして行う調査とがある。これらにより従業員に係る被保険者資格取得の適否等の調査を行うこととしている。

(酒造従業員及び清酒製造業者)

 清酒の醸造に従事する従業員(以下「酒造従業員」という。)には、杜氏と呼ばれる熟練した専門技術者と蔵人と呼ばれる酒造工がおり、杜氏を中心として10人程度が一組となって、毎年10月頃から清酒製造業者に雇用される。そして、〔1〕 精米・洗米・蒸米〔2〕 麹造り〔3〕 もろみ造りなどの清酒の醸造に従事し、翌年4月頃雇用が終了する。このように酒造従業員は、一年間のうちの限られた期間、酒造りに従事する季節労働者であり、酒造を終えると農業を行っている者が多い。

2 検査の結果

(調査の対象)

 岩手県ほか9都府県(注1) の56社会保険事務所管内の470清酒製造業者について、季節的業務に従事する酒造従業員の雇用の実態、健康保険及び厚生年金保険の適用状況等を調査した。

(調査の結果)

 酒造従業員の雇用の実態について調査したところ、酒造従業員の大多数は、前記のとおり10月頃雇用され翌年の4月頃離職するという雇用形態を毎年繰り返していた。そして、これらの者は、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づき、短期雇用特例被保険者(注2) となり、雇用期間が6箇月以上の者を対象とする雇用保険の特例一時金(注3) の支給も都道府県の公共職業安定所から毎年受けていた。したがって、これらの者は雇用期間が4箇月を超えるものであることから、健康保険及び厚生年金保険の被保険者とすべき者であった。
 しかし、社会保険事務所におけるこれら酒造従業員に対する健康保険及び厚生年金保険の適用状況についてみると、管内すべての酒造従業員についてこれらの保険を適用しているものがある一方、管内の一部の酒造従業員について適用していないものがあったり、管内すべての酒造従業員について適用していないものがあったりした。
 そして、宮城県ほか8都府県の48社会保険事務所における436清酒製造業者のうち316清酒製造業者において、雇用期間が4箇月を超える酒造従業員2,098人について、次のようなことから健康保険及び厚生年金保険が適用されていなかった。

(ア) 被保険者資格取得届が提出されていなかったもの

 宮城県ほか8都府県の(注4) の48社会保険事務所において、256清酒製造業者に雇用される酒造従業員1,480人については、事業主が被保険者資格取得届を提出していなかったため、健康保険及び厚生年金保険の被保険者とされていなかった。

(イ) 誤って特例被保険者の適用除外の承認をしたもの

 酒造従業員の雇用期間は前記のとおり4箇月を超えるものであるから、健康保険の一般の被保険者として扱われるものであって、特例被保険者になり得ないものである。しかし、福島県ほか4府県の(注5) の14社会保険事務所において、75清酒製造業者(注6) が雇用する酒造従業員618人については雇用契約書に記載された雇用期間を調査確認しないまま特例被保険者とした上で、特例被保険者の適用除外の承認を行っていた。このため、健康保険及び厚生年金保険が適用されていなかった。

(徴収されていなかった保険料の額)

 これら酒造従業員に係る健康保険及び厚生年金保険の保険料673,388,334円(健康保険保険料251,122,388円、厚生年金保険保険料422,265,946円)は徴収されていなかった。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、主として次のことによると認められた。

(ア) 清酒製造業者において、健康保険及び厚生年金保険の適用についての十分な認識がないなどのため、酒造従業員に係る被保険者資格取得届の提出をしていなかったり、特例被保険者の適用除外の申請書を提出したりしていたこと

(イ) 社会保険事務所において、酒造従業員の雇用期間は、雇用契約書に明記されているのに、特例被保険者の適用除外の承認及び事業主に対する随時又は定時の調査に当たり、雇用契約書による雇用期間の確認を行っていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、社会保険庁では平成6年11月に各都道府県に対して通知を発し、季節的業務に従事する酒造従業員に係る保険適用を適切に行うよう次のような処置を講じた。

(ア) 清酒製造業者、酒造従業員、酒造組合(注7) 、健康保険組合等に対し指導啓発を行い、雇用期間が4箇月を超える酒造従業員については、健康保険及び厚生年金保険が適用されることの周知徹底を図るとともに、酒造組合等の協力を得るなどして、これら酒造従業員について健康保険及び厚生年金保険の適用を適切に行う。

(イ) 社会保険事務所における特例被保険者の適用除外の承認及び事業主に対する随時又は定時の調査に当たり、酒造従業員の雇用契約書に記載された雇用期間の確認を行うことにより適用漏れのないよう体制を整える。

(注1)  岩手県ほか9都府県 東京都、京都、大阪両府、岩手、宮城、福島、茨城、神奈川、新潟、兵庫各県

(注2)  短期雇用特例被保険者 季節的業務に4箇月を超えて雇用される者は、雇用保険法に基づき、短期雇用特例被保険者となる。都道府県の公共職業安定所では、事業主から提出された被保険者資格取得届及び雇用契約書により、被保険者資格の有無について確認を行っている。

(注3)  特例一時金 特例一時金は、短期雇用特例被保険者が失業し、かつ離職の日以前1年間の被保険者期間が通算して6箇月以上であったときに支給される一時金で、支給額は雇用保険法の定める基本手当日額の50日分である。

(注4)  宮城県ほか8都府県 東京都、京都、大阪両府、宮城、福島、茨城、神奈川、新潟、兵庫各県

(注5)  福島県ほか4府県 京都府、福島、茨城、新潟、兵庫各県

(注6)  75清酒製造業者 この中には(ア)の態様の酒造従業員を雇用する清酒製造業者が15含まれている。

(注7)  酒造組合 酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(昭和28年法律第7号)第3条の規定により税務署の管轄区域を地区として清酒等の酒類ごとに清酒製造業者が組織する組合で、清酒製造業者に対して各種の指導を行っている。