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  • 平成5年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

飼料用外国産小麦の売渡しによるふすまの増産が適切かつ合理的に行われるよう是正改善の処置を要求したもの


飼料用外国産小麦の売渡しによるふすまの増産が適切かつ合理的に行われるよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 食糧管理特別会計
(輸入飼料勘定)
(款)輸入飼料売払代
 (項)輸入飼料売払代
部局等の名称 農林水産省畜産局、食糧庁
ふすま増産制度の概要 飼料需給安定法(昭和27年法律第356号)に基づき、家畜用飼料の需給及び価格の安定を推進するため、外国産小麦を飼料用に輸入し、これから採取する小麦粉の割合を低くしてふすまの増産を図るもの
増産ふすまの生産量が規定生産量に不足し、かつ実物の伴わない取引などを行っていた工場数と不足していた数量 23加工工場
58,469t
上記の不足していた数量に相当する飼料用小麦の数量 116,937t
上記の数量に対応する飼料用小麦と主食用小麦との売渡金額相当額の開差額 16億5583万余円
<検査の結果>

 飼料用小麦は、主食用小麦と何ら異ならないものであるが、ふすまの増産を図るため、玄麦重量に対して50%以上の歩留りでふすまを生産しなければならないことなどの一定の売渡条件を付して、主食用小麦よりも低い価格で加工工場に売り渡されている。
 そこで、調査したところ、57加工工場において、売渡条件に反して、売渡しを受けた飼料用小麦の一部を主食用に転用したり、50%に満たない歩留りでばん砕したりなどしていて、飼料用小麦からの規定生産量の増産ふすまの生産がなされていない事態が見受けらられた。
 そして、そのうち23加工工場においては、規定生産量に不足する分の全部又は一部について、他社で生産された増産ふすまを購入して充てたり、増産ふすまの実物の伴わない取引を行ったりして、規定生産量の増産ふすまの生産、販売が行われたかのようにしていて、著しく適切を欠いていると認められた。
 このような事態が生じているのは、各加工工場において売渡条件の履行について不誠実であったこともあるが、次のような理由などによると認められた。
(ア) 加工工場における売渡条件の履行状況を確認するための食糧事務所の立入調査や、財団法人日本穀物検定協会(以下「協会」という。)の検定及びこれに対する食糧事務所の指導監督が実効性のあるものとなっていないこと

(イ) ふすま増産制度を取りまく状況が制度創設当時と大きく変化してきていて、現行制度が飼料用小麦の売渡数量、売渡条件、加工工場の配置等の面でその変化に十分適応できておらず不合理な状態が生じているのに、農林水産省において、抜本的な見直しをしていないこと

<是正改善の処置要求>

 農林水産省においては、前記のような不適切な事態の再発を防止するとともに、より合理的に制度の目的を達成するよう、次のような改善の処置を執る要があると認められた。

(ア) 食糧事務所の立入調査、協会の検定等を実効あるものとするために、要領の改正、協会や加工工場等に対する指導体制の確立等の措置を早急に講ずること

(イ) 加工工場における増産ふすまの生産の実態、当面の増産ふすまの需給見通し等を調査し、これを踏まえて、現行制度における飼料用小麦の売渡数量、売渡条件、検定規格等について、早急に見直しを行い、合理的なものに改めること

(ウ) 中長期的観点から、今後の飼料の需給見通し等を考慮した上で、加工工場の指定やふすまの増産の方法等、さらにはふすま増産制度全体の在り方について一定の期間内に検討を行い、抜本的な見直しを行うこと

上記のように認められたので、会計検査院法第34条の規定により、平成6年12月9日に農林水産大臣に対して是正改善の処置を要求した。

【是正改善の処理要求の全文】

飼料用外国産小麦の売渡しによるふすまの増産について

(平成6年12月9日付け農林水産大臣あて)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。

1 ふすま増産制度の概要

(ふすまの増産)

 貴省では、飼料需給安定法(昭和27年法律第356号)に基づき、家畜飼料の需給及び価格の安定を推進し、もって畜産経営の安定に資することを目的として、毎年「輸入飼料の買入、保管及び売渡に関する計画」を定め、これにより外国産の麦類、とうもろこし等の買入れ、売渡しを行っている。
 そして、その一環として、家畜の主要飼料のひとつであるふすまの需給不均衡を是正するため、昭和32年度から、主食用小麦とは別に、これと品質の異ならない外国産小麦を飼料用小麦として輸入し、この小麦から採取する小麦粉の割合を低くしてふすまを増産することとしている(補図1参照)
 この飼料用小麦から生産されるふすま(以下「増産ふすま」という。)は、小麦粉にできる部分を多く含んでいることから、主食用小麦から生産される一般のふすまや、民間貿易により輸入されるふすまに比べて消化できる栄養分が多く、肉用牛、乳用牛を中心とした大型家畜、特に肉用牛の肉質改善に有効な飼料として使用されている。
 そして、増産ふすまの供給量は、平成5年度で約53万tで、ふすま全体の供給量の約4分の1となっている。

(飼料用小麦の売渡しと売渡条件)

 増産ふすまは、民間の製粉会社において生産し、需要者向けに販売することになっており、貴省では、その原料である飼料用小麦をこれら会社の希望やふすまの需給状況等を勘案して売り渡すこととしている。
 この売渡しに当たっては、本制度の目的に沿い、増産ふすまの安定的な供給を確保するなどのため、次のような方策が採られている。
 すなわち、飼料用小麦の売渡しは、「飼料小麦加工専門工場によるふすま増産措置要領」及び「一般製粉工場によるふすま増産措置要領」(いずれも昭和35年35畜第6659号農林事務次官依命通達。以下、これらを「増産措置要領」という。)に基づき、貴省から飼料小麦加工専門工場又はふすまの増産を行う一般製粉工場(以下、これらの工場を「加工工場」という。)の指定を受けた者を相手方とし、食糧事務所が随意契約により行うこととなっている。
 そして、その際、食糧事務所は、飼料需給安定法に基づき増産措置要領の定めるところにより、売買契約において条件を付することとなっている。この条件は、売り渡した飼料用小麦は主食用小麦と混合することなく、単独でばん砕(注) して加工し、「飼料増産用ふすまの検定について」(昭和43年43食糧第469号(検査)農林省畜産局長、食糧庁長官通達)により定められた「飼料増産用ふすま検定規格」(以下「検定規格」という。)に合致する品位の増産ふすまを、玄麦重量に対し50%以上の歩留りで生産しなければならないものとされている。また、このように生産した増産ふすまは、所定の農業団体等に対し、貴省が指示する全国一律の価格で譲渡することとされている。

飼料用小麦の売渡価格)

 飼料用小麦の売渡価格は、増産ふすまの歩留りが50%以上と主食用小麦のふすまの歩留りの約20%に比べて高く、そのためより高い価格で販売できる小麦粉の採取量が少ないこと、貴省の指示する増産ふすまの譲渡価格も小麦粉の価格に比べて著しく低いことを考慮して、主食用小麦の価格に比べて低く設定されている。
 そして、同じ銘柄・品質の主食用小麦と比較した場合、飼料用小麦の売渡価格は21〜23%程度低いものとなっている(平成5年度における主食用小麦の平均売渡価格60,421円/t、飼料用小麦の平均売渡価格46,261円/t)。

(売渡条件の履行状況の確認等)

 売り渡した飼料用小麦について、食糧事務所は、飼料需給安定法等に基づき定められた「政府操作輸入飼料の加工工場等に対する指導、監督要領」(昭和55年55食糧業第467号食糧庁長官通達)により、加工工場等に対して、所定の加工台帳、ふすま受払台帳等の帳簿類や在庫数量等を実地に調査・点検するなどして、売渡条件の履行状況を確認することとなっている。
 また、財団法人日本穀物検定協会(以下「協会」という。)が、「飼料増産用ふすまの検定について」により定められた「飼料増産用ふすま検定要領」に基づき、加工工場において常時、50%の歩留りによる生産量(以下「規定生産量」という。)以上の増産ふすまが生産されているか、生産された増産ふすまの水分、灰分、粒度等が検定規格に合致するかなどの検定を行うこととなっている。そして、食糧事務所は、この協会の検定が適切に行われるよう指導監督することとなっている。

2 本院の検査結果

(調査の観点)

 飼料用小麦は、主食用小麦と同じ銘柄・品質のものであって、主食用小麦と全く同じように加工し同じ量の小麦粉を採取できるものではあるが、前記のとおり、本制度が有効に機能しその目的を達成するよう、売渡価格が低く設定されている。
 こうした中で、近年、加工工場では、輸入ふすまの増加や牛肉の輸入自由化等による一般ふすまの価格低下を受けて、増産ふすまの需要が減少したことにより、地域や時期によっては増産ふすまの滞貸が生じる状況となっている。一方、製粉技術の進歩により、市場性の高い上質の小麦粉の採取比率が著しく向上した反面、主食用小麦から発生する上質の小麦粉以外の小麦粉(以下「低質粉」という。)の品質が更に低下し、その需要減から低質粉の処理にも困る状況となっている。また、畜産業の特定地域への集中により、増産ふすまの需要地と加工工場の立地場所に隔たりが見られ、全国一律の譲渡指示価格の下では、運送経費等の点で需要地から離れた加工工場は不利な状況となっている。
 そこで、こうした状況に鑑み、飼料用小麦の売渡しを受けた加工工場において、本制度の目的を達成するため売買契約で付された売渡条件を適正に履行して増産ふすまの生産を行っているかなどについて調査する必要があると考えられたので、今回、これらの点について重点的に調査した。

(調査の対象)

 平成5年度に全国の120加工工場に売り渡された飼料用小麦106万余t、売渡金額491億7,742万余円のうち、15食糧事務所管内に所在する57加工工場に売り渡された飼料用小麦70万余t、売渡金額326億2,216万余円について調査した。

(調査の結果)

 調査の結果、調査を行った57加工工場において、売渡条件に反して、売渡しを受けた飼料用小麦の一部を主食用に転用したり、50%に満たない歩留りでばん砕したりなどしていて、飼料用小麦からの規定生産量の増産ふすまの生産がなされていない事態が見受けられた(これら57加工工場における増産ふすまの規定生産量351,915tに対し、不足していた数量114,865t。この不足分に相当する飼料用小麦229,731t、売渡金額相当額106億4,988万余円)。
 そして、上記57加工工場のうち、34加工工場では、規定生産量に不足する分について、主食用小麦から生産された低質粉等を混入していたものの、規定生産量に相当するふすまを確保し、実際に販売していた。
 しかし、23加工工場においては、規定生産量に不足する分の全部又は一部について、他社で生産された増産ふすまを購入して充てたり、増産ふすまの実物の伴わない取引(以下「空取引」という。)を行ったりして、規定生産量の増産ふすまの生産、販売が行われたかのようにしていて、著しく適切を欠いていると認められた。
 これら23加工工場(飼料用小麦の売渡数量238,575t、規定生産量に不足する増産ふすまの数量58,469t)における事態について、増産ふすまの生産方法で大別して示すと、次のとおりである。

(1) 飼料用小麦を主食用に転用していたもの

工場数及び飼料用小麦の売渡数量

17加工工場、159,151t

増産ふすまの規定生産量 79,575t
増産ふすまの実際の生産量 35,335t
規定生産量に不足する数量 44,240t

 これらの加工工場では、売渡しを受けた飼料用小麦の一部を主食用に転用していて、このためばん砕した数量が売渡しを受けた数量より少なくなっており、さらに、このうち14加工工場では、残りの小麦を玄麦重量に対し50%に満たない歩留りでばん砕していた。
 これらのため、17加工工場では、増産ふすまの生産量が規定生産量に不足していた。そして、この不足分について、専ら空取引を行うことにより、又は主食用小麦から生産された低質粉を混入するほか、他社で生産された増産ふすまの購入や増産ふすまの空取引を行うことにより、規定生産量の増産ふすまを生産、販売したこととしていた。

<事例>

加工工場 飼料用小麦の売渡数量 増産ふすまの規定生産量 増産ふすまの実際の生産量 規定生産量に不足する数量
(t) (t) (t) (t)
A工場 20,996 10,498 4,521 5,977

 A工場では、20,996tの飼料用小麦の売渡しを受け、10,498t以上の増産ふすまを生産することとなっていた。しかし、実際には、飼料用小麦8,939tを主食用に転用し、さらに、残りの12,057tの飼料用小麦を約37%の歩留りでばん砕して4,521tの増産ふすましか生産していなかった。そして、不足する5,977tについて、自社の主食用小麦から生産された低質粉1,507tを混入するとともに、なお不足する4,470tについては増産ふすまの空取引を行うことにより、これについても生産、阪売が行われたかのようにして、規定生産量の増産ふすまを生産したこととしていた(補図2参照)

(2) 飼料用小麦を50%に満たない歩留りでばん砕していたもの

工場数及び飼料用小麦の売渡数量 6加工工場、79,424t
増産ふすまの規定生産量 39,712t
増産ふすまの実際の生産量 25,483t
規定生産量に不足する数量 14,229t

 これらの加工工場では、売渡しを受けた飼料用小麦の全量、又は主食用小麦を混合するなどして売渡しを受けた数量と同量あるいはそれ以上の小麦をばん砕しているが、玄麦重量に対し50%に満たない歩留りでばん砕しており、このため増産ふすまの生産量が規定生産量に不足していた。そして、この不足分について、主食用小麦から生産された低質粉を混入するほか、他社で生産された増産ふすまの購入や増産ふすまの空取引を行うことにより、規定生産量の増産ふすまを生産、販売したこととしていた。

<事例>

加工工場 飼料用小麦の売渡数量 増産ふすまの規定生産量 増産ふすまの実際の生産量 規定生産量に不足する数量
(t) (t) (t) (t)
B工場 29,859 14,929 8,468 6,461

 B工場では、29,859tの飼料用小麦の売渡しを受け、14,929t以上の増産ふすまを生産することとなっていた。しかし、実際には、飼料用小麦を約28%の歩留りでばん砕して8,468tのふすましか生産していなかった。そして、不足する6,461tについて、自社の主食用小麦から生産された低質粉2,283tを混入するとともに、なお不足する4,178tのうち、408tについては他社から増産ふすまを購入し、残りの3,770tについては増産ふすまの空取引を行うことにより、これについても生産、販売が行われたかのようにして、規定生産量の増産ふすまを生産したこととしていた。
 上記23加工工場における飼料用小麦から生産された増産ふすまの規定生産量に不足していた数量58,469tに相当する飼料用小麦116,937tについて、その売渡金額相当額を、主食用小麦として売り渡した場合の売渡金額相当額と比較すると、16億5,583万余円の開差が生じることとなる。

(是正改善を必要とする事態)

 上記のように、加工工場においては、売渡しを受けた飼料用小麦の加工に当たって、売渡条件に反して、一部を主食用に転用したり、低い歩留りでばん砕したりなどしていて、規定生産量の増産ふすまの生産がなされていなかった。また、不足分について、空取引等により増産ふすまの生産が行われたかのようにしていた。
 このような事態は、ふすまの安定的な供給等を推進し畜産農家の経営安定に資することを目的とするふすま増産制度の趣旨を損なうばかりでなく、ふすま増産用として主食用小麦に比べて低い価格で売り渡された飼料用小麦の売渡価格設定の前提に反するもので、適切とは認められず、是正改善の必要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、加工工場において売渡条件の履行について不誠実であったこともあるが、次のような理由などによると認められる。

(ア) 加工工場における売渡条件の履行状況を確認するため、食糧事務所による立入調査や、協会による検定及びこれに対する食糧事務所の指導監督が行われているが、これらの確認方法が実効性のあるものとなっていないこと

(イ) 現行のふすま増産制度が導入されて以来30年以上が経過し、前記のように、ふすまの需給状況、他の飼料との競合、製粉技術の進歩、加工工場の立地等制度を取りまく状況が変化してきている。しかし、本制度が飼料用小麦の売渡数量、売渡条件、加工工場の配置等の面で硬直的で、これらの変化に十分適応できておらず、制度の目的を達成する上で不合理な状態が生じているにもかかわらず、貴省において、抜本的な見直しをしていないこと

3 本院が要求する是正改善の処置

ついては、今回加工工場において見受けられたような不適切な事態の再発を防止するとともに、より合理的に制度の目的を達成するよう、貴省において、次のような改善の処置を執る要がある。

(ア) 食糧事務所による立入調査、協会による検定及びこれに対する食糧事務所の指導監督を実効あるものとするために、関係要領の改正、協会や加工工場等に対する指導体制の確立などの所要の措置を早急に講ずること

(イ) 加工工場における増産ふすまの生産の実態、当面の増産ふすまの需給見通し等を調査し、これを踏まえて、現行のふすま増産制度における飼料用小麦の売渡数量、売渡条件、検定規格等について、早急に必要な見直しを行い、合理的なものに改めること

(ウ) 中長期的観点から、今後の飼料の需給見通し等を考慮した上で、加工工場の指定やふすまの増産の方法等、さらにはふすま増産制度全体の在り方について、一定の期間内に検討を行い、抜本的な見直しを行うこと

(注)  ばん砕 小麦から小麦粉を生産するために、小麦を破砕して、ふるい分けを行うなどの加工工程をいう。

(注)ばん砕小麦から小麦粉を生産するために、小麦を破砕して、ふるい分けを行うなどの加工工程をいう。