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健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの


(42)  健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの

会計名及び科目 厚生保険特別会計 (健康勘定) (款)保険収入 (項)保険料収入
(年金勘定) (款)保険収入 (項)保険料収入
部局等の名称 北海道ほか25都府県(200社会保険事務所)
保険料納付義務者 2,666事業主
徴収不足額 11,365,595,422円
 健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、事業主からの届出に対する調査確認及び指導が十分でなかったため、上記の2,666事業主について徴収額が11,365,595,442円(健康保険保険料1,862,214,821円、厚生年金保険保険料9,503,380,621円)不足していた。これらについては、本院の指摘により、すべて徴収決定の処置が執られた。

1 保険料の概要

 (健康保険、厚生年金保険)

 健康保険は、常時従業員を雇用する事業所の従業員を被保険者として、業務外の疾病、負傷、分娩等に関し医療、療養費、傷病手当金、出産手当金等の給付を行う保険である。また、厚生年金保険は、常時従業員を雇用する事業所の65歳未満の従業員を被保険者として、老齢、死亡等に関し年金等の給付を行う保険である。

 (保険料の徴収)

 保険料は、被保険者と事業所の事業主とが折半して負担し、事業主が納付することとなっている。
 そして、これらの事業主は、都道府県の社会保険事務所に対し、健康保険及び厚生年金保険に係る次の届け書を提出することとなっている。

(ア) 新たに従業員を雇用したときには、資格取得年月日、報酬月額等を記載した被保険者資格取得届

(イ) 毎年8月には、同月1日現在において雇用している被保険者の報酬月額等を記載した被保険者報酬月額算定基礎届

(ウ) 被保険者の報酬月額が所定の範囲以上に増減したときには、変更後の報酬月額等を記載した被保険者報酬月額変更届

 これらの届け書の提出を受けた社会保険事務所は、届け書に記載された被保険者の報酬月額に基づいて標準報酬月額(注1) を決定し、これに保険料率を乗じて得た額を保険料として徴収している。

 (注1)  標準報酬月額  健康保険では第1級92,000円から第40級980,000円(平成6年9月までは第1級80,000円から第42級980,000円)まで、厚生年金保険では第1級92,000円から第30級590,000円(平成6年10月までは第1級80,000円から第30級530,000円)までの等級にそれぞれ区分されている。被保険者の標準報酬月額は、実際に支給される報酬月額をこの等級のいずれかに当てはめて決定される。

2 検査の結果

 (検査の観点及び対象)

 健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収不足の事態について、本院では、平成4年度決算検査報告においては1,264事業主について徴収額12億5144万余円が、また、平成5年度決算検査報告においては1,788事業主について徴収額21億7503万余円がそれぞれ不足していた事態を掲記している。指摘した事業主の多くは、特別支給の老齢厚生年金(注2) の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者(後掲の「厚生年金保険の老齢厚生年金等及び国民年金の老齢基礎年金の支給が適正でなかったもの」参照 )を雇用している事業主であった。そして、これらの中には、次のとおり、土木建築業を対象とする国民健康保険組合(注3) に加入している事業主及び地方公共団体である事業主が含まれていた。

(ア) 土木建築業を営む事業主は、作業現場に勤務する従業員を雇用している。これら従業員に対する健康保険及び厚生年金保険の適用については、昭和28年に健康保険法(大正11年法律第70号)及び厚生年金保険法(昭和19年法律第21号)が改正され、従来の任意的な適用を改め強制的に適用されることとなった。その際、健康保険及び厚生年金保険を適用する従業員の範囲については、当時の土木建築の作業現場に勤務する従業員の就労の実態等を勘案し、常用労働者である基幹要員及び基幹要員に準ずる者にとどめ、その他の者は日雇労働者として日雇労働者健康保険法(昭和28年法律第207号)の被保険者とし、厚生年金保険は適用しないこととされた。その後、作業現場に勤務する従業員の就労の実態の変化に対応して、59年に日雇労働者健康保険法が廃止され、その際、健康保険及び厚生年金保険を適用する従業員の範囲は拡大された。すなわち、基幹要員及び基幹要員に準ずる者以外の者であっても常用労働者とみることが適当な者については、日雇労働者として取り扱わず、常用労働者として健康保険及び厚生年金保険を適用することとされた。このことから、土木建築業を対象とする国民健康保険組合に加入している事業主に雇用される常用労働者については、医療保険は健康保険を管掌する社会保険事務所から適用除外の承認を受けて当該国民健康保険組合に加入し、年金保険は厚生年金保険に加入することとなった。
 しかし、前記の決算検査報告において指摘した事業主は、作業現場に勤務する従業員のうち常用労働者として取り扱うべき者を日雇労働者として取り扱っていた。このため、事業主は、厚生年金保険の被保険者資格取得届を提出しておらず、保険料については、徴収不足の事態となっていた。

(イ) 地方公共団体である事業主は、地方公務員法(昭和25年法律第261号)に基づき正規職員のほか行政事務に従事する嘱託職員及び臨時職員と呼ばれる職員を雇用している。事業主が嘱託職員及び臨時職員を常用的に雇用する場合は、健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格取得届を社会保険事務所に提出することとなっている。なお、地方公共団体により組織された健康保険組合(注4) に加入している事業主は、健康保険の被保険者資格取得届を当該健康保険組合に提出することとなっている。
 しかし、前記の決算検査報告において指摘した事業主は、常用的に雇用している嘱託職員及び臨時職員に係る健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格取得届を提出しておらず、保険料については、徴収不足の事態となっていた。
 本年の検査に当たっては、上記のような状況を踏まえて、北海道ほか25都府県の200社会保険事務所管内の事業主のうち、次のような5,148事業主について、都道府県における保険料の徴収の適否を検査した。

(ア) 国民健康保険組合に加入していて日雇労働者として取り扱っている従業員を多数雇用している事業主

(イ) 地方公共団体であって正規職員以外に嘱託職員等を多数雇用している事業主

(ウ) 特別支給の老齢厚生年金の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者を雇用している事業主など

 (注2)  特別支給の老齢厚生年金  厚生年金保険において行う保険給付であり、厚生年金保険の被保険者期間が1年以上あって老齢基礎年金に係る保険料納付済期間が25年以上ある者などが退職したときに、その者が60歳以上65歳に達するまでの間支給される。そして、受給権者が厚生年金保険の適用事業所に雇用され被保険者資格を取得すると、その報酬月額に応じて年金の額の一部又は全部の支給が停止される。

 (注3)  国民健康保険組合  医療保険制度は、健康保険などの被用者保険と国民健康保険に大別される。国民健康保険は、市町村が行うものと国民健康保険組合が行うものとがある。国民健康保険組合は、被保険者の疾病、負傷等に関して必要な保険給付を行うため、同種の事業又は業務に従事する者を組合員として国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づき組織されたものである。全国の国民健康保険組合166組合のうち土木建築業を対象とする国民健康保険組合は34組合ある。

 (注4)  健康保険組合  健康保険には、政府が保険者となって保険給付を行うものと健康保険組合が保険者となって保険給付を行うものとがある。健康保険組合は事業主から納付された保険料を財源として被保険者に対する保険給付を行っている。地方公共団体により組織された健康保険組合は全国に41組合あり、99市町村が加入している。

 (徴収不足の事態)

 検査したところ、北海道ほか25都府県の200社会保険事務所において、5,148事業主のうち2,666事業主について徴収額が11,365,595,442円(健康保険保険料1,862,214,821円、厚生年金保険保険料9,503,380,621円)不足していた。これは、上記の26都道府県の200社会保険事務所において、事業主が次のように届出を適正に行っていなかったのに、これに対する調査確認及び指導が十分でなかったことによるものである。

(ア) 被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの
2,541事業主 徴収不足額 10,881,173,483円
(イ) 資格取得年月日の記載が事実と相違していたもの
90事業主 徴収不足額 426,382,695円

(ウ) 被保険者資格喪失届を誤って提出したりなどしていたもの

35事業主 徴収不足額 58,039,264円

 このように事業主が届出を適正に行っていなかったのは、事業主において、常用的に雇用していた従業員を日雇労働者として取り扱っていたり、常用的でないとしたり、従業員が受給している特別支給の老齢厚生年金が支給停止となる事態を避けようとしたりしていたことなどによるものである。
 なお、これらの徴収不足額については、本院の指摘により、すべて徴収決定の処置が執られた。
 徴収不足額の大部分を占める被保険者資格取得届の提出を怠っていた事例を示すと次のとおりである。

<事例1>  国民健康保険組合に加入している事業主が被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの

 A会社は、土木建築業に従事する従業員46人を雇用していた。これら従業員は、健康保険に係る被保険者の取扱いについては、社会保険事務所の承認を受け、B国民健康保険組合の被保険者となっていた。同組合においては、被保険者を常用労働者と日雇労働者とに区分していたことから、この組合に加入している事業主は、このうち常用労働者についてのみ厚生年金保険の被保険者資格取得届を提出するものとしていた。これにより、同会社は、従業員のうち常用労働者として取り扱っていた従業員32人については、社会保険事務所に対して厚生年金保険の被保険者資格取得届を提出していたものの、日雇労働者として取り扱っていた従業員14人については厚生年金保険の被保険者資格取得届を提出していなかった。
 しかし、日雇労働者としていた従業員について賃金台帳、雇用契約書等により調査したところ、同会社はこれら従業員14人を常用的に雇用しており、厚生年金保険の被保険者資格取得届を提出すべきであった。
 このため、厚生年金採険の保険料22,542,800円が徴収不足になっていた。

<事例2>  嘱託職員等を雇用している地方公共団体が被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの

 C市は、行政事務に従事する嘱託職員53人及び臨時職員103人計156人を雇用していた。同市は、これら職員のうち嘱託職員53人について、同市職員で組織する健康保険組合に対して健康保険の被保険者資格取得届を提出していたものの、社会保険事務所に対して厚生年金保険の被保険者資格取得届を提出していなかった。また、同市は、臨時職員103人について、常用的な雇用でないとして健康保険組合に対して健康保険の被保険者資格取得届を、また、社会保険事務所に対して厚生年金保険の被保険者資格取得届をそれぞれ提出していなかった。
 しかし、嘱託職員及び臨時職員の賃金台帳、任用に関する書類等を調査したところ、嘱託職員53人については全員が、臨時職員103人については84人が、それぞれ常用的に雇用されていた。したがって、同市は、健康保険組合に対して臨時職員84人に係る所定の届け書を提出するとともに、社会保険事務所に対して嘱託職員53人及び臨時職員84人に係る厚生年金保険の被保険者資格取得届を提出すべきであった。
 このため、嘱託職員53人及び臨時職員84人に係る厚生年金保険の保険料41,812,975円が徴収不足になっていた。

<事例3>  特別支給の老齢厚生年金の受給権者を雇用している事業主が被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの

 D会社は、運送、梱包等の業務に従事する従業員309人を雇用していた。同会社は、これら従業員のうち297人については、社会保険事務所に対して被保険者資格取得届を提出していた。しかし、同会社は、定年退職後に再雇用した者であって年金の受給権者である従業員から、被保険者資格取得届が提出されると当該従業員が受給している特別支給の老齢厚生年金が支給停止になるとの申し出を受けるなどしたため、12人について社会保険事務所に対して被保険者資格取得届を提出していなかった。
 しかし、年金の受給権者である従業員等について賃金台帳、雇用契約書等により調査したところ、同会社はこれら12人を常用的に雇用しており、被保険者資格取得届を提出すべきであった。
 このため、健康保険及び厚生年金保険の保険料9,441,200円(健康保険保険料3,776,100円、厚生年金保険保険料5,665,100円)が徴収不足になっていた。
 なお、健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格取得届等の届出を適正に行っていなかった2,666事業主は、上記の常用的に雇用していた従業員について雇用保険法(昭和49年法律第116号)による被保険者資格取得届を都道府県の公共職業安定所に提出していて、当該従業員を雇用保険の被保険者としていた。

 (再発防止策の必要性)

 上記の事態にかんがみ、社会保険庁においては、今後の事業の実施に当たり、事業主に対する指導啓発を強化するとともに、都道府県との一層の連携を図り、社会保険事務所における定時又は随時の調査を的確に実施させることなどにより被保険者資格取得届の提出漏れ及び保険料の徴収不足の事態を防止する要があると認められる。

 (都道府県別の徴収不足額)

 これらの徴収不足額を都道府県別に示すと次のとおりである。

これらの徴収不足額を都道府県別に示すと次のとおりである。