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  • 平成7年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第5 厚生省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

退職被保険者への資格異動を的確に行わせ、国民健康保険の療養給付費負担金の交付の適正化を図るよう改善させたもの


(2) 退職被保険者への資格異動を的確に行わせ、国民健康保険の療養給付費負担金の交付の適正化を図るよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計(組織)厚生本省(項)国民健康保険助成費
部局等の名称 厚生本省(交付決定庁)
北海道ほか14府県(支出庁)
交付の根拠 国民健康保険法(昭和33年法律第192号)
交付先 25市、25町、1村(保険者)
療養給付費負担金の概要 市町村等の国民健康保険事業運営の安定化を図るために交付するもの
退職対象者の医療給付費 31億8810万余円(平成4年度〜7年度)
過大に交付される結果となっていた国庫負担金額 12億7524万余円(平成4年度〜7年度)
<検査の結果>
 上記の51市町村において、年金受給権者一覧表から退職対象者(退職者医療制度の対象者)が把握できるのにこれを活用せず、退職対象者への届出の勧奨等資格の異動についての事務を的確に処理していなかったため、一般被保険者のままでいた退職対象者に係る国庫負担金12億7524万余円が過大に交付される結果となっていると認められた。
 このような事態が生じていたのは、市町村及び退職対象者において退職者医療制度等に対する理解が十分でなかったことにもよるが、厚生省において、市町村に対し、年金受給権者一覧表の活用方法などについて明確に示していなかったこと、未届出者に対し、継続的に届出の勧奨を行わせるなどの指導が十分でなかったことなどによると認められた。
<当局が講じた改善の処置>
 本院の指摘に基づき、厚生省では、平成8年10月に、各都道府県に対し通知を発し、年金受給権者一覧表の活用方法を明確に示すとともに、未届出者に対し、継続的に届出の勧奨を行うよう指導し、市町村及び退職対象者に対して退職者医療制度を周知徹底させるなどの処置を講じた。

1 制度の概要

 (療養給付費負担金)

 厚生省では、国民健康保険について各種の国庫助成を行っており、その一つとして療養給付費負担金(前掲の「国民健康保険の療養給付費負担金の交付が不当と認められるもの」参照 。以下「国庫負担金」という。)を交付している。

 (国庫負担金の算定方法)

 国庫負担金は、国民健康保険の被保険者(老人保健法(昭和57年法律第80号)による医療を受けることができる者を除く。以下同じ。)のうち、一般被保険者(退職被保険者及びその被扶養者(以下「退職被保険者等」という。)以外の被保険者をいう。以下同じ。)に係る医療給付費から保険基盤安定繰入金の2分の1に相当する額を控除した額に100分の40を乗じて算定することとなっている。

 (退職者医療制度)

 退職者医療制度は、被用者保険の被保険者が退職して国民健康保険の被保険者となり、老人保健制度が適用になるまでの間に、厚生年金等の受給資格がある場合に適用される制度である。この制度は、被用者保険(給付割合被保険者9割)と国民健康保険(給付割合同7割)との給付割合に格差があるため、医療に対する必要性が高まる高齢期になって給付水準が低下すること、また、退職者を多く抱える国民健康保険は、医療費負担が増大していることなどの給付面と負担面双方の不合理を是正するため、昭和59年に創設されたものである。
 そして、退職被保険者等の医療給付費については、当該医療給付費の合計額から退職被保険者等に係る保険料又は保険税の合計額を控除した額について、被用者保険の保険者が拠出し、社会保険診療報酬支払基金を通じて市町村(特別区を含む。以下同じ。)に交付される療養給付費交付金(以下「交付金」という。)で負担されている。また、本制度の給付割合は、被保険者については8割、被扶養者については入院8割、入院外7割となっている。

 (退職被保険者等の資格)

 退職被保険者は、国民健康保険の被保険者のうち、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)等の法令に基づく老齢又は退職を支給事由とする年金の給付を受けることができる者であって、年金保険の被保険者等であった期間が20年以上、又は40歳に達した月以後の年金保険の被保険者等であった期間が10年以上である者等となっている。そして、退職被保険者となるのは当該被保険者の年金受給権の取得年月日(ただし、受給権の取得年月日が国民健康保険の資格取得年月日以前の場合は国民健康保険の資格取得年月日。以下「退職者該当年月日」という。)とされている。
 また、国民健康保険の被保険者となっている退職被保険者の家族も被扶養者としてこの制度の対象者となるとされている。
 退職被保険者等が、老人保健法による医療を受けることができるようになった場合には、国民健康保険の資格は退職被保険者等から一般被保険者に異動することとなることから、退職者医療制度の対象とはならない。

 (退職被保険者等の資格確認等)

 国民健康保険の被保険者の資格を取得している者が退職被保険者等となったときは、年金証書等が到達した日の翌日から起算して14日以内に、また、年金受給権を有している者が国民健康保険の退職被保険者等となったときは、国民健康保険の資格を取得した日から14日以内に、それぞれ所定の事項を記載した届け書を市町村に提出しなければならない。そして、この届出は、年金受給権及び年金保険の被保険者等であった期間を証明する年金証書等を提示して行うこととされ、市町村においては、これらを確認したうえで届け書を受理することとなっている。

 (年金受給権者一覧表)

 市町村は、退職者医療制度の対象者(以下「退職対象者」という。)を確認し、届出勧奨を行うために、年金保険の保険者が作成する年金受給権者一覧表(以下「一覧表」という。)を毎年2回、各都道府県の国民健康保険団体連合会を経由して送付を受けている。そして、この一覧表は、半年分の新規裁定者分に係る氏名、生年月日、住所、受給権発生年月、年金保険の被保険者等であった期間が20年未満の者については40歳以降の被保険者等期間などを内容として市町村別に作成されている。

2 検査の結果

 (調査の観点)

 国民健康保険に加入している被保険者のうち退職被保険者等に係る医療給付費は、前記のとおり国庫負担金の交付の対象とはならず、退職被保険者等に係る保険料又は保険税と被用者保険の保険者が負担する交付金により賄われている。このことから、市町村が一覧表により退職対象者を把握し、届出の勧奨を行う等資格の異動についての事務を的確に処理し、その結果、国庫負担金の交付が適正なものとなっているかという観点から調査した。

 (調査の対象及び方法)

 北海道ほか17府県(注1) の153市町村について、これらの市町村に対し送付されている一覧表のうち、5年9月送付分(5年2月から同年7月までの新規裁定者)、6年3月送付分(5年8月から6年1月までの新規裁定者)、同年9月送付分(6年2月から同年7月までの新規裁定者)の3回分により把握される退職対象者数についての8年2月末現在の資料の提出を求め、それに基づく資格の異動等の状況及び国庫負担金の交付申請等について調査を実施した。

 (調査の結果)

 調査の結果、次のように適切とは認められない事態が見受けられた。

(ア) 北海道ほか14府県(注2) の旭川市ほか50市町村においては、毎年2回、一覧表を受領しているにもかかわらず、これを有効に活用せず、退職対象者の把握を行っていなかった。このため、上記の3回分の一覧表から把握することができた退職対象者計6,908人のうち、約5割に相当する3,771人、及び本人の資格の異動に伴って異動する被扶養者1.870人、計5,641人は8年2月末現在においても未届のままであり、退職被保険者等への資格の異動もなされていなかった。

(イ) 上記(ア)の退職対象者6,908人のうち、市町村が一覧表を受領してから資格の異動処理を的確に行わなかったため、それ以降再び被用者保険に加入したりなどしていた退職対象者が、51市町村のうち45市町で8年2月末現在において、500人、及び被扶養者193人、計693人見受けられた。これらの者は、結局、退職被保険者等に資格を異動することなく、他の制度へ異動するなどしていた。

 (過大に交付される結果となっていた国庫負担金)

 上記(ア)、(イ)のとおり、8年2月末現在、未届である者及び未届のまま他の制度へ異動していた者等について、資格の異動処理を的確に行わなかったため、計6,334人の退職者該当年月日から8年2月までの医療給付費計31億8810万余円に係る国庫負担金計12億7524万余円が過大に交付される結果となっていると認められた。

 (発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。

(ア) 市町村において、一覧表の活用方法などについて、十分理解していなかったこと、また、都道府県においてその指導が十分でなかったこと

(イ) 厚生省において、市町村に対し、一覧表の活用方法などについて明確に示していなかったこと、未届者に対し、継続的に届出の勧奨を行わせるなどの指導が十分でなかったこと、また、市町村及び退職対象者に対する退職者医療制度についての周知徹底が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、厚生省では、8年10月に各都道府県に対し通知を発し、退職被保険者への資格異動を的確に行い、国庫負担金の交付の適正化を図るよう、次のような処置を講じた。

(ア) 一覧表の活用方法を明確に示すとともに、退職対象者を把握し、届出の勧奨を継続的に行うことなどを指導した。

(イ) 市町村及び退職対象者に対して退職者医療制度の周知徹底を図るよう指導した。

 (注1)  北海道ほか17府県 北海道、京都府、岩手、秋田、茨城、群馬、千葉、新潟、石川、長野、岐阜、愛知、奈良、島根、徳島、大分、宮崎、沖縄各県

 (注2)  北海道ほか14府県 北海道、京都府、秋田、茨城、群馬、千葉、新潟、長野、岐阜、愛知、奈良、島根、徳島、宮崎、沖縄各県