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  • 平成8年度|
  • 第3章 特定検査対象に関する検査状況

日本国有鉄道清算事業団の長期債務等について 


第5 日本国有鉄道清算事業団の長期債務等について

 日本国有鉄道清算事業団では、昭和62年4月の日本国有鉄道の改革以来、今日まで10年間にわたり、国鉄長期債務等の「長期債務」の償還及び事業団に帰属した土地、株式等の資産の処分等の業務を行っている。

 事業団では、土地、株式等の資産の処分等により債務の償還を進めてきたが、将来発生が見込まれる年金負担等を含む長期債務等の残高は62年度首に25兆52百億円であったものが、平成9年度首には28兆06百億円と増加している。

 このような状況から、現在、運輸省をはじめ政府において長期債務等の本格的処理のための具体的処理方策を検討中であるが、最終的に残る長期債務等についてはいずれ国民に負担を求めざるを得ないことから、国民の関心が極めて高い。

 このため、これまでにも政府において、随時、長期債務の償還状況等が明らかにされてきており、本院としても、昨年の平成7年度決算検査報告において、事業団の保有する土地について、その処分状況を掲記したが、本年次の検査においては、特に、長期債務の償還状況等について調査を実施した。

 その結果、土地及び株式の売却収入が昭和62年度から平成8年度までの10年間の早い段階で確保されなかったこと、国鉄改革後に年金負担に係る新たな債務が加わったことなどから、長期債務の償還等が円滑に進まず、この間毎年多額の金利負担が生じるなどして、平成9年度首における長期債務等の残高は28兆06百億円と、逆に増加している状況となっていた。

 この長期債務等について、長期債務は、〔1〕 9年度以降に償還期限が到来する都度、借換えを行わずその償還のための財源がすべて手当てされ、また、〔2〕 固定金利によるものは約定の金利を、変動金利によるものはすべて9年度に最初に到来する利払いの金利を用い、さらに、将来費用については、〔3〕 9年度首に想定される今後の発生見込額が変動せず、毎年度発生する費用の支払財源が必要となる都度すべて手当てされる、と仮定した場合、長期債務等の処理に伴う支払見込額は35兆11百億円と見込まれる。しかし、実際の長期債務等の処理に当たっては、長期債務の借換え等を行いながらその償還を進めることとなれば、上記の支払見込額以上の財源が必要になると見込まれる。

 したがって、長期債務の償還等について、その本格的処理を行うため、早急に国民の理解と合意を得られるような抜本的な措置が執られることが緊要である。

1 国鉄長期債務等の概要

(国鉄改革の概要)

 旧日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)は、昭和24年6月にそれまでの国による鉄道の直営制度を改め、公共企業体として発足した。その後、国鉄の決算は、39年度に純損失を計上して以来、各年度の純損失額は次第に増加し、長期借入金及び鉄道債券に係る債務(以下「国鉄長期債務」という。)の残高も同年度末に83百億円であったものが、年々増加し、61年度末では25兆06百億円となった。

 この間、国及び国鉄は、国鉄の経営状況の悪化に対処するため、44年度から60年度にかけて4次にわたり、再建計画を策定し、あるいは再建対策を講じたが、経営状況を抜本的に改善するには至らなかった。

 このような中で、57年7月の第2次臨時行政調査会の答申を受けて国鉄再建監理委員会が58年6月に発足し、60年7月、「国鉄改革に関する意見」を内閣総理大臣に提出した。この意見で、国鉄事業を再生するには速やかに分割・民営化施策を断行するしか道はない、との結論の下、経営形態についての考え方とともに、国鉄長期債務及びその他の債務(以下「長期債務」という。)及び年金負担等の将来費用(以下、これを「長期債務」と合わせて「長期債務等」という。)の処理についての考え方が示された。

 これを受け、61年11月、日本国有鉄道改革法をはじめとする国鉄改革関連8法が成立し、62年4月、国鉄改革が実施された。この結果、国鉄は旅客部門6社、貨物部門1社などに分割され、また、新幹線鉄道施設については新幹線鉄道保有機構が一括保有することとなった。

 この結果、上記の新会社等に承継されない資産の処分や長期債務等の処理及び国鉄職員の再就職促進に関する業務等は、日本国有鉄道清算事業団(以下「事業団」という。)において行うこととなった。

(国鉄改革時の長期債務等の概要)

 国鉄改革時(62年4月)における上記の長期債務等の合計額は37兆11百億円となっており、その概要は、次のとおりである。

ア 長期債務の概要

 長期債務の額は、62年度首において31兆45百億円となっており、その内訳は次のとおりである。

〔1〕 国鉄長期債務 25兆06百億円
〔2〕 日本鉄道建設公団(以下「鉄建公団」という。)の鉄道施設の建設に係る費用のうち国鉄が負担することとされた債務(以下「鉄建公団債務」という。) 4兆45百億円
〔3〕 本州四国連絡橋公団の鉄道施設の建設に係る費用のうち国鉄が負担することとされた債務(以下「本四公団債務」という。) 64百億円
〔4〕 北海道旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社及び九州旅客鉄道株式会社(以下「3島会社」という。)の経営の安定を図るために設けられた基金に充てるための債務(以下「経営安定基金債務」という。) 1兆27百億円

イ 将来費用の概要

 長期債務と併せて処理することとされた将来費用の見込額は、62年度首において5兆66百億円となっており、その内訳は次のとおりである。

〔1〕 将来発生が見込まれる年金負担等 5兆00百億円
〔2〕 事業団の運営のための管理費等 35百億円
〔3〕 事業団が62年度から3年間行う再就職促進業務のための雇用対策費 30百億円

 上記のうち、〔1〕 の年金負担等の見込額は、追加費用、恩給負担及び公経済負担の各見込額の合計額であり、その詳細は次のとおりである。

 追加費用は、年金受給者の公共企業体職員等共済組合法施行日(31年7月1日)前の勤務期間を現行共済年金制度の組合員期間に算入したことにより生じる年金給付の費用であり、62年度首における見込額は4兆76百億円(平成52年度までの発生見込額10兆56百億円を確保するために、年利回り7.3%で運用することとして割り戻して計算した額)である。恩給負担は、昭和31年7月前に国鉄を退職した者に対する恩給の費用であり、同8百億円である。公経済負担は、年金給付の費用のうち国鉄が負担すべきであった61年度末における精算金であり、同15百億円である。

(長期債務等の承継)

 62年度首における上記の長期債務等の合計額は37兆11百億円であり、この額は事業団、JR各社等(注1) 及び新幹線鉄道保有機構が承継することとされ、その内訳は次表のとおりである。

(単位:百億円)

債務等の額及び承継先
長期債務等の項目
昭和62年度首の債務等の額 長期債務等の承継先
事業団 JR各社等
(注1)
新幹線鉄道保有機構
長期債務等 長期債務 国鉄長期債務
鉄建公団債務
本四公団債務
経営安定基金債務
2,506
445
64
127
1,643
149
64
127
478
115
-
-
384
180
-
-
小計 3,145 1,986 593 565
将来費用 年金負担等
管理費等
雇用対策費
500
35
30
500
35
30
-
-
-
-
-
-
小計 566 566 - -
合計 3,711 (注2)
2,552
593 565

(注1) JR各社等とは、東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社、西日本旅客鉄道株式会社、日本貨物鉄道株式会社、鉄道通信株式会社(現日本テレコム株式会社)及び鉄道情報システム株式会社である。

(注2) 事業団が承継する長期債務等の額は、平成元年12月の閣議決定時の額である。

長期債務等の承継先ごとの承継理由及び内容は次のとおりである。

ア JR各社等について

 3島会社については、厳しい経営環境にかんがみ長期債務等を承継しないこととされた。

 そして、東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社及び西日本旅客鉄道株式会社(以下「本州3社」という。)等については、国鉄長期債務と鉄建公団債務を承継するものの、最大限の効率的経営を行うことを前提に、当面収支が均衡し、かつ、将来にわたって事業等を健全かつ円滑に運営できる限度で負担することとされ、その額は5兆93百億円とされた。このうち鉄建公団債務については、鉄建公団から借り受けて経営する鉄道路線の貸付料を支払うこととされた(実際の債務償還は鉄建公団が行うことになる。)。

イ 新幹線鉄道保有機構について

 新幹線鉄道施設については、国鉄が自ら建設した東海道、山陽、東北の各新幹線及び鉄建公団が建設した上越新幹線を新幹線鉄道保有機構が一括保有することとされた。そして、同機構はこれらの施設を本州3社に貸し付け、これらの4新幹線の再調達価額を基に収益格差などを考慮して各社に配分した貸付料を徴収することとされた。これにより、同機構は4新幹線の資産価額の簿価に見合う国鉄長期債務と鉄建公団債務を承継することとされ、その額は5兆65百億円とされた。そして、長期債務とは別に、再調達価額と簿価との差額2兆88百億円もまた事業団に対して同機構が負う債務とされた。

ウ 事業団について

 事業団は、上記の承継先が承継してなお残る長期債務等25兆52百億円を承継することとなった。

 このうち、鉄建公団債務及び本四公団債務は、青函トンネル、瀬戸大橋等の鉄道施設の建設に係る費用である。そして、これらは、長期債務等を承継しないこととされた3島会社が経営することなどから、事業団が承継することとされたものである。

(事業団の償還財源)

 上記の結果、事業団は、国鉄改革時には37兆11百億円の長期債務等のうち25兆52百億円を承継した。そして、この長期債務等を処理するための財源(以下「償還財源」という。)は、次のとおり、計11兆75百億円と試算されていたことにより、結局、13兆77百億円が償還財源の不足となると見込まれていた。

〔1〕 土地売却収入 7兆70百億円
60年1月の公示地価等を基に地価の変動を考慮して推計した62年度首の土地の推計資産額
〔2〕 株式売却収入等 1兆16百億円
旅客会社及び貨物会社の株式の額面価額45百億円及び帝都高速度交通営団(以下「営団地下鉄」という。)の出資持分に係る評価額の合計額
〔3〕 新幹線鉄道保有機構からの貸付金収入 2兆88百億円

11兆75百億円

(長期債務等の処理に関する国の方針)

 上記の土地売却収入等の自主財源を充ててもなお残る長期債務等については、「日本国有鉄道清算事業団の債務の償還等に関する基本方針について」(昭和63年1月閣議決定)において、最終的には国において処理するものとされた。

 また、上記の閣議決定では、62年度首に事業団が承継するとされた長期債務から発生する利子の見込額7兆89百億円に加えて、債務の借換え等のための新たな借入れが必要となり、処理すべき債務等の予定額は増大すると考えられていた。そして、翌年の「日本国有鉄道清算事業団の債務の償還等に関する具体的処理方針について」(平成元年12月閣議決定。以下「具体的処理方針」という。)において、「事業団の長期債務等の処理は金利との競争であり、このまま推移すれば発生金利による債務等の累増が避けられない状況である」としたうえで、長期債務等の処理のため、事業団の保有する土地の処分については平成9年度までにその実質的な処分を終了するものとされた。

2 検査の背景

 国鉄改革により事業団において処理することとされた長期債務等残高は、昭和62年度首に25兆52百億円であったものが、平成9年度首においては28兆06百億円と増加している。そして、償還財源の不足となる額は昭和62年度首に見込まれた13兆77百億円に比べ相当多額になることが見込まれる状況となっている。

 このような状況から、現在、運輸省をはじめ政府において長期債務等の本格的処理のための具体的処理方策を検討中であるが、最終的に残る長期債務等については、いずれ国民に負担を求めざるを得ないことから、国民の関心が極めて高い。

 したがって、長期債務の償還等については、事業団において、引き続き、土地、株式の早期かつ効果的な処分に努めるとともに、政府、運輸省においても早急に本格的処理を行うための抜本的な措置を執り、国民の理解と合意を得ることが緊要である。

 このため、これまでにも、政府において、随時、長期債務の償還状況等が明らかにされてきており、本院としても、従来から事業団における長期債務等の処理について検査を行い、平成7年度決算検査報告において、事業団の保有する土地について、その処分状況を掲記した。本年次の検査においては、このような状況を踏まえ、特に、事業団の収入及び支出状況、長期債務の償還及び金利の状況等並びに事業団の保有する資産の状況等について調査を実施することとした。

3 検査の状況

(1) 事業団の収入・支出及び長期債務等の残高の推移等

(事業団の収入、支出)

 昭和62年度から平成8年度までの10年間の事業団における債券及び借入金の収入及び償還分を除いた実質の収入及び支出の各合計額は、次表のとおり、11兆82百億円及び16兆56百億円であり、収入が支出を4兆73百億円下回っている。

<収入> (単位:百億円)
年度
項目
昭和62 63 平成元 2 3 4 5 6 7 8
土地等売却 注(1) 13 20 27 81 80 90 63 40 42 105 564
株式売却 - - - - - - 107 - - 48 156
新幹線鉄道保有機構貸付金注(2) 23 23 95 23 18 12 12 11 12 11 244
補助金 16 19 61 15 10 9 8 7 6 5 159
その他 8 7 4 2 8 5 6 4 4 4 58

61 71 188 122 117 118 197 64 65 175 1,182

注(1) 「土地等売却」には建物提案方式による借入金収入を含む。

注(2) 「新幹線鉄道保有機構貸付金」は平成3年10月以降は鉄道整備基金貸付金となる。

<支出> (単位:百億円)
年度
項目
昭和62 63 平成元 2 3 4 5 6 7 8
利子 注(1) 87 106 106 107 98 106 100 94 94 90 992
共済年金等負担金 70 56 55 48 47 45 46 46 47 45 508
その他 注(2) 30 22 18 13 12 12 11 11 10 10 154

188 184 180 169 158 164 158 152 152 146 1,656

注(1) 「利子」は長期債務の利子に係る分である。

注(2) 「その他」には建物提案方式による借入金利子を含む。

 これを収入、支出に分けて詳述すると、次のア及びイのとおりである。

ア 収入について

(ア) 土地等の売却収入

 国鉄改革が行われた昭和62年度は、60年度頃からのいわゆる「バブル経済」の下、地価の急激な高騰が続いていた時期であった。このため、62年10月には、政府が決定した「緊急土地対策要綱」(昭和62年10月閣議決定)の方針に基づき、事業団の土地売却は、その原則である公開競争入札による売却が事実上凍結された。その後、事業団では、平成元年度以降においては、地価を顕在化させない処分方法として、土地信託方式(注3) 等を導入するとともに、地方公共団体等への随意契約による売却を進めてきた。このような状況から、過去10年間のうち3年度までの前半の5年間における土地等の売却収入の合計額は2兆23百億円と、当初の推計資産額7兆70百億円の28.9%にとどまった。

 その後、事業団では、バブルが崩壊し地価が沈静化する中で、6年度以降、建物提案方式(注4) 等の多様な土地処分方法を導入して土地処分の促進を図ってきている。しかし、地価下落の影響、地方公共団体等の財政事情、駅周辺の大規模用地の土地区画整理事業の遅れなどにより売却は難航し、結局、この10年間における土地の売却面積は事業団が承継した9,254haのうちの74.1%に当たる6,863ha、これに係る土地売却収入の合計額は、当初の推計資産額7兆70百億円の73.2%に当たる5兆64百億円となっている。

(注3) 土地信託方式 事業団の所有地を信託銀行に信託して建物の建設等の開発を委ねるとともに、事業団の信託受益権を小口に分割し、一般投資家を対象に公募により売却する方式
(注4) 建物提案方式 事業団が落札企業から土地代相当額を借り入れた上で、提案された土地開発プランに沿って事業団の出資会社が建物を建設し、建物完成時に、土地と建物を同時に企業側に引き渡すとともに、借り入れた土地代相当額を土地代として相殺する方式

(イ) 株式の売却収入

 旅客会社等の株式売却については、東日本旅客鉄道株式会社では、3年度決算で主要な株式の上場基準を達成したものの、株式市況が元年末をピークに急落し、その後も低迷が続いたことから、4年8月の総合経済対策(平成4年8月経済対策閣僚会議決定)でも同社の株式売却について4年度は見送ることとされた。そして、同社の総株式数4,000千株のうち2,500千株が実際に売却されたのは、5年度となった。

 また、西日本旅客鉄道株式会社の株式売却については、7年1月の阪神・淡路大震災の影響により6年度決算で上場基準を達成できなくなり、8年度に総株式数2,000千株のうちの1,365千余株の売却が実施された。

 結局、この10年間の株式売却収入は1兆56百億円と額面価額45百億円を上回ったが、売却時期は当初の見込みより大幅に遅れた。

 東海旅客鉄道株式会社の株式は、平成9年10月に、総株式数2,240千株のうち1,353千余株の売却が実施された。

 なお、評価額70百億円の営団地下鉄の出資持分については、昭和62年度から平成元年度までの3年間で、国に対する長期債務の一部(一般会計からの無利子借入金)の償還に充てるため、総額3百億円を一般会計に譲渡している。そして、2年度に、有利子の長期債務(資金運用部資金からの借入金)の負担を軽減するため、残る出資持分全部を再評価したところ93百億円となり、これを一般会計に譲渡したことにより、譲渡代価相当の長期債務は事業団から一般会計に承継された。

(ウ) 新幹線鉄道保有機構貸付金からの収入

 昭和62年度首における新幹線鉄道保有機構に対する貸付金債権2兆88百億円については、当初、30年間の元利均等償還とされていた。これにより毎年23百億円の元本及び利子が事業団に償還されていたが、長期債務の累増を防止するため、平成元年度に元本72百億円の早期償還が行われるとともに、償還期間についても元年度から15年度までの14年間に短縮された。

 しかし、3年10月に、旅客会社の株式売却に必要な環境整備を図るため、新幹線鉄道施設は本州3社に譲渡することとされ、新幹線鉄道保有機構は解散し、鉄道整備基金(注5) がその権利義務を承継することとなった。その際、事業団の同基金に対する貸付金債権は、償還期間が平成63年度までの60年間と延長され、また、各年度の償還額は、償還財源である本州3社からの同基金に対する償還金を営団地下鉄南北線等の建設のための無利子貸付等に充てることとされたことから、当該建設の進ちょく状況により変動することとなった。また、上記の新幹線鉄道施設の譲渡時には、再調達価額を新たに算定したため、新幹線鉄道保有機構から承継した債務との差額1兆08百億円が生じたが、これに係る本州3社からの償還金は、いわゆる整備新幹線建設のための交付金に充てられることとされた。

 結局、上記の措置が執られた結果、この新幹線鉄道保有機構貸付金収入は、10年間で元本1兆01百億円(当初の推計資産額2兆88百億円の35.0%)、利子1兆42百億円にとどまった。

(注5)  「鉄道整備基金」は、平成9年10月1日に解散し、同日に解散した「船舶整備公団」と合わせ、その一切の権利及び義務を「運輸施設整備事業団」が承継した。

(エ) 補助金収入

 国は、昭和62年度以降、長期債務の累増を防止するため、長期債務に係る利子の支払の一部に充てるものとして、事業団に対して一般会計から補助金を交付している。そして、平成元年度においては当初予算の16百億円に加え補正予算で更に45百億円が交付され、この補助金は10年間で総額1兆59百億円が交付された。

イ 支出について

 この10年間における事業団の実質の支出額は、大部分が長期債務から発生する利子の支払で、毎年87百億円から1兆07百億円の利子を支払っており、その総額は9兆92百億円となっている。近年、金利の低下でわずかに減少傾向にあるが、債務の借換え等のための新たな借入れが加わり長期債務が累増しているため、8年度においてもその支払額は90百億円となっている。

 共済年金等負担金については、昭和62年度首における10年間の発生見込額4兆40百億円に対して、実支出額は5兆08百億円(115.4%)と大幅に上回った。これは、鉄道共済年金の財政危機に対して、年金支給を確保するための措置として、平成2年度から8年度までの間に、70百億円の特別負担(旅客会社及び貨物会社の特別負担は15百億円)が新たに加わったことによるものである。

 管理費等については、昭和62年度首における10年間の発生見込額は35百億円であったが、10年間の実支出額は48百億円となっている。

 雇用対策費については、62年度首における発生見込額は30百億円であったが、平成3年度までに支払を完了し、その実支出額は22百億円であった。

(長期債務等残高及び金利の推移)

ア 残高の推移

 上記のように、土地及び株式の売却収入が10年間の早い段階で確保されなかったこと、毎年の金利負担が多額に上ったことなどから、長期債務等の残高は、次表のとおり、昭和62年度首に25兆52百億円であったものが、平成9年度首には長期債務24兆43百億円、将来費用3兆62百億円、合計28兆600億円と増加している。

 このうち、9年度首における将来費用の見込額3兆62百億円は72年度までの発生見込額7兆14百億円を確保するために、年利回り7.3%で運用することとして割り戻して計算した額である。

(単位:百億円)

区分
年度
長期債務 将来費用 長期債務等の残高

長期債務及び将来費用の主な増減理由等

昭和62年度首 1,986 566 2,552 長期債務には62年4月2日以降に承継予定の1兆79百億円含む。
63年度首 2,107 506 2,614  
平成元年度首 2,220 472 2,692  
2年度首 2,208 496 2,705 (長期債務の減)新幹線鉄道保有機構貸付金早期償還(72百億円)
(将来費用の増)共済年金の特別負担発生(2〜8年度、毎年10百億円)
3年度首 2,147 471 2,619 (長期債務の減)営団地下鉄出資持分評価額相当の長期債務を一般会計に承継 (93百億円)
4年度首 2,187 452 2,640  
5年度首 2,241 423 2,664  
6年度首 2,200 403 2,603 (長期債務の減)JR東日本株式会社売卸(1兆07百億円)
7年度首 2,288 402 2,691  
8年度首 2,375 382 2,758  
9年度首 2,443 362 2,806 (長期債務の増)厚生年金への統合に伴う移換金債務発生 (概算80百億円)

イ 金利の状況

 長期債務の残高が増加しているが、これは、昭和62年度から平成8年度までの10年間の支出額の合計16兆56百億円のうち支払利子額の合計が9兆92百億円となっているように、金利が大きな要因になっており、元年の政府の具体的処理方針で危ぐされていたとおり、発生金利によって長期債務が累増している状況となっている。

 すなわち、昭和62年度首及び平成9年度首における長期債務の残高(上記の表において長期債務の残高から未承継分や概算額を除いた金額)はそれぞれ18兆06百億円及び23兆63百億円となっている。

 このうち、有利子債務についてみると、平均金利は、この間の低金利傾向を反映して7.08%から4.74%に低下しているが、一方、長期債務の残高は12兆66百億円から18兆31百億円に増加している。したがって、低金利のメリットはあるものの、土地及び株式の売却収入等が早い段階で確保されなかったことなどから長期債務の残高が増加している状況となっている。

 そして、9年度首における長期債務の残高の内訳についてみると、資金運用部資金借入金及び同引受債等の債務残高は15兆49百億円と有利子債務18兆31百億円の84%を占め、この中には最高で8.70%(25年償還、固定金利)という高金利時代のものが含まれていることからその平均金利は5.20%となっている。

 一方、民間借入金の債務残高は2兆76百億円と有利子債務の15%を占めているが、その大部分は事業団移行後に調達した償還期間3年の長期プライムレートに基づく変動金利によるものであることから、その平均金利は2.13%となっている。

 上記10年間の支払利子額9兆92百億円は、その51%が資金運用部資金に対する支払となっていた。

(2) 今後処理すべき長期債務等の金額

(平成9年度首における事業団の資産及び債務)

 9年度首に事業団が保有している資産の額は、次のとおりである。

 すなわち、土地については、事業団が9年1月の公示地価等を基に推計した土地の推計資産額は1兆40百億円である。

 株式については、〔1〕 東日本旅客鉄道株式会社は8年3月から、西日本旅客鉄道株式会社は同年10月の上場から、それぞれ9年2月までの平均株価に事業団の売却後の保有残株式数を乗じた額、〔2〕 東海旅客鉄道株式会社は9年8月の入札による落札合計額と、売出価格に事業団の入札後の保有残株式数を乗じた額の合計額、〔3〕 これら3社以外の株式保有会社は額面に保有株式数を乗じた額、とした推計資産額は1兆89百億円である。

 また、鉄道整備基金貸付金債権については1兆86百億円である。

 以上のとおり、9年度首の推計資産額の合計額は5兆15百億円となる。

 したがって、昭和62年度首においては長期債務等の残高25兆52百億円に対して13兆77百億円が償還財源の不足になると見込まれたが、平成9年度首においてみると、長期債務等の残高28兆06百億円に対して22兆90百億円が償還財源の不足となっていると見込まれる。

 上記について、表にして示すと次のとおりである。

  昭和62年度首 平成9年度首 備考

長期債務等の残高

25兆52百億円 28兆06百億円  
償還財源(推計資産額等)

土地

面積8808ha
7兆70百億円
面積2390ha
1兆40百億円

10年間の売却面積は6863haであるが、62年4月1日以降に鉄建公団からの承継等による増加が445haあった。

株式等

1兆16百億円 1兆89百億円  
 

株式

45百億円 1兆89百億円 62年度首は額面価額である。
営団地下鉄出資持分 70百億円 - 62年度首は評価額である。
鉄道整備基金貸付金債権 2兆88百億円 1兆86百億円 62年度首及び9年度首ともに元本の金額である。

11兆75百億円 5兆15百億円  

償還財源不足額

13兆77百億円 22兆90百億円  

(長期債務等における支払見込額及び発生見込額)

ア 長期債務の支払見込額

 9年度首における長期債務の残高は24兆43百億円である。このうち、9年度首に鉄道共済年金が厚生年金へ統合されることに際し負担することとされた積立金の不足分に係る債務(以下「移換金債務」という。)の概算額は80百億円であり、これを別にすると、23兆63百億円となっている。

 この23兆63百億円から今後発生する利子については、前提とする条件によりさまざまになるが、〔1〕 9年度以降に償還期限が到来する都度、借換えを行わずその償還のための財源がすべて手当てされることとし、また、〔2〕 固定金利によるものは約定の金利を、変動金利によるものはすべて9年度に最初に到来する利払いの金利を用いて、試算すると、4兆11百億円(9年度以降5年間に長期債務のうち約48%の償還期限が到来する。)となる。これに、上記の移換金債務80百億円から今後発生すると見込まれる利子24百億円を加えると4兆36百億円となる。

 また、「日本国有鉄道清算事業団の債務の負担の軽減を図るために平成9年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律」(平成9年法律第73号)により、10年3月31日において、日本国有鉄道清算事業団債券の額面合計3兆00百億円の債務を一般会計に承継するなどの措置が執られ、10年度以降83百億円の利子の支払が軽減されることとなっている。

 したがって、9年度首における長期債務残高24兆43百億円に、上記による9年度以降の長期債務の利子3兆53百億円を含めた支払額は、27兆97百億円と見込まれる。

イ 将来費用の発生見込額

 将来費用について、毎年度発生する費用の支払財源がアと同様に必要となる都度すべて手当てされることを前提とすると、その発生見込額は9年度首で、6年度の年金財政再計算の数値等に基づき見直しを行った72年度までの共済年金等負担金6兆98百億円、及び15年度までの事業団等における管理費等の発生見込額16百億円の合計7兆14百億円となる。

(長期債務等の支払見込額とその財源)

 上記ア及びイの仮定条件の下で算出した長期債務等の処理に伴う支払見込額は、次表のとおり、35兆11百億円に上ると見込まれる。

 しかし、実際の長期債務等の処理に当たっては、長期債務の借換えを行いながら、長期にわたってその償還を進めることとなれば、上記の支払見込額以上の財源が必要になると見込まれる。

(単位:百億円)

金額の内訳
長期債務等の内訳
9年度首債務等の額 利子等 利子等の軽減措置額 利子等を含めた今後の発生見込額
長期債務 2,443 436 △83 2,797
  移換金債務を除く債務 2,363 411 △83 2,692
移換金債務 80 24 - 104
将来費用 362 352 - 714

2,806 788 △83 3,511

 一方、その償還財源は、9年度首において事業団の保有する資産の推計資産額等5兆15百億円に、鉄道整備基金貸付金債権から発生する利子1兆74百億円(運輸省の試算に基づく35年度までの利子)を含めた6兆89百億円となっている。

4 本院の所見

 長期債務等については、政府、特に運輸省においてこの処理のための各種施策を実施し、また、事業団においても、これに基づき土地等の資産の効果的処分や金利負担の軽減を図るなどして、長期債務の償還等に努めてきている。しかし、上記のとおり、土地及び株式の売却収入が10年間の早い段階で確保されなかったこと、国鉄改革後に年金負担に係る新たな債務が加わったことなどから、当初の試算及びその後の政府の処理方針に対して長期債務の償還等が円滑に進まなかった。この結果、事業団では、収入が支出を下回る年度が多くなっており、特に利子の支払が毎年度巨額に上り長期債務が累増し、この長期債務から発生する利子は、8年度では1日当たり24億円となっている。

 したがって、この長期債務等の増加を抑え、更に処理を進めるため、事業団の保有する土地及び株式について更なる売却の促進に努めるとともに、長期債務の償還等について、その本格的処理を行うため、早急に国民の理解と合意を得られるような抜本的な措置が執られることが緊要である。