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  • 平成8年度|
  • 第3章 特定検査対象に関する検査状況

住宅金融専門会社の債権債務の処理に係る公的資金の投入等について


第6 住宅金融専門会社の債権債務の処理に係る公的資金の投入等について

 国は、住宅金融専門会社の債権債務の処理を促進することにより、我が国の信用秩序の維持及び国民経済の健全な発展に資すること等を目的として、その処理に要する経費6850億円を、平成8年度一般会計予算に計上した。また、この財政資金6850億円の投入、特定住宅金融専門会社からの譲受債権等の回収等及びこの回収等による損失に対する財政資金の投入などの特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の枠組みを定めた「特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法」(平成8年法律第93号)が8年6月に施行された。

 公的資金の投入を含む特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の枠組みについては国民の関心も高く、国会の予算審議等においても多くの議論が行われた。このため、本院では、上記の法律に定められている枠組みに従って公的資金が使われたか、この枠組みが目的どおり機能し、特定住宅金融専門会社の債権債務の処理が進ちょくしているかという観点から、前記の財政資金6850億円の使途及び譲受債権等の回収状況等について検査した。

 その結果、上記の枠組みに基づいて、財政資金6850億円は特定住宅金融専門会社に係る債務処理等に充てられ、譲受債権等の回収等も行われていた。また、回収等により損失を生じたものはなく、このため8年度の譲受債権等の回収等に関しては新たな財政資金の投入は必要とはなっていなかった。

 しかし、前記法律の枠組みによれば、個別の譲受債権等ごとの回収金額が取得価額を下回ったことなどによる損失に伴う新たな財政資金が投入されることもあり、また、今後の譲受債権等の回収状況等の見通しには不確定な要素もある。したがって、本院においては、今後も譲受債権等の回収等について、その事態の推移を注視することとする。

1 住宅金融専門会社の債権債務の処理の概要

(1)住宅金融専門会社の債権債務の処理に至る経緯

 住宅金融専門会社が回収の困難となった多額の貸付債権等を有することとなったことにより、金融機関等からの多額の借入債務の返済に困窮している状況となった。このような中で、金融機関等関係当事者によるこれらの債権債務の処理が極めて困難となったことにより、我が国における金融の機能に対する内外の信頼が大きく低下するとともに信用秩序の維持に重大な支障が生じることとなることが懸念される事態となった。このため、国は、住宅金融専門会社を整理しその債権債務の処理を促進することにより、我が国の信用秩序の維持及び国民経済の健全な発展に資すること等を目的として、その処理に要する経費6850億円を、平成8年度一般会計予算に計上した。これは、預金保険機構に対する新たな出資金である預金保険機構出資金(50億円)と、住宅金融専門会社の債務処理のための助成金を交付するための基金に充てられる預金保険機構基金補助金(6800億円)とからなっている。この助成金は、住宅金融専門会社を整理する際に債権債務を処理することにより発生する損失(以下「一次損失」という。)のうち、関係金融機関等の負担により処理する以外の部分の処理の財源となるものである。

 また、住宅金融専門会社の債権債務の処理を促進するための「特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法」(平成8年法律第93号。以下「法」という。)が、8年6月18日に成立し、同月21日から施行された。

(2) 特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の枠組み

 法によると、特定住宅金融専門会社(注1) (以下「特定住専」という。)の債権債務の処理の枠組みは、次のとおりとなっている。

(預金保険機構の業務の特例)

 預金保険機構は、その業務の特例として、特定住専から財産を譲り受けてその処理等を行う会社を設立し、及び当該設立された会社(以下「債権処理会社」という。)に対して資金援助、指導及び助言をするなどの業務を行う。

(住専勘定の設置)

 預金保険機構は、これらの業務に係る経理をその他の経理と区分するために、特定住宅金融専門会社債権債務処理勘定(以下「住専勘定」という。)を設置する。

(債権処理会社への出資)

 預金保険機構は、債権処理会社を設立するために出資を行う。この出資の財源には、関係金融機関等からの拠出により預金保険機構の住専勘定に設置される金融安定化拠出基金の一部及び日本銀行の預金保険機構に対する拠出金を充てる。

(債務処理の助成金)

 預金保険機構は、国から預金保険機構基金補助金の交付を受けて、住専勘定に緊急金融安定化基金を設置する。そして、緊急金融安定化基金から債権処理会社に対し特定住専の債務処理に充てるための助成金を交付する。

(損失補てん助成金及び回収益納付金)

 債権処理会社は特定住専から譲り受けた貸付債権その他の財産(以下「譲受債権等」という。)の回収等を行う。そして個別の譲受債権等ごとにその回収金額と取得価額とを比較し、回収金額が取得価額を下回ったことなどにより債権処理会社に損失が生じたときには、国は、預金保険機構に対し、その生じた損失(以下「二次損失」という。)の金額の2分の1に相当する金額の補助金を交付することができる。そして、預金保険機構は、この補助金の額の範囲内で債権処理会社に対し、助成金(以下「損失補てん助成金」という。)を交付することができる。

 また、個別の譲受債権等ごとに、その回収金額と取得価額とを比較し、回収金額が取得価額を上回ったことなどにより債権処理会社に利益が生じたときは、債権処理会社はその利益の金額を預金保険機構に納付し、預金保険機構はこの納付金(以下「回収益納付金」という。)に相当する金額を、国庫へ納付する。

(円滑な業務の遂行のための助成金)

 預金保険機構は、債務処理の助成金及び損失補てん助成金のほか、債権処理会社の円滑な業務の遂行のため必要があると認めるときは、金融安定化拠出基金から、債権処理会社に対し、助成金を交付する。

(債権処理会社の諸計画)

 債権処理会社は、譲受債権等の回収、処分等を15年以内を目途として完了する計画(以下「処理計画」という。)を作成するとともに、毎年度、当該年度以降2年間についての事業計画及び資金計画を作成し、これらについて預金保険機構の承認を受ける。

(注1)  特定住宅金融専門会社 住宅金融専門会社のうち、その財産の状況が著しく悪化していることから、法に定める特別の措置によりその債権債務の処理を促進する必要があるとされたもの。「特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法施行規則」(平成8年大蔵省令第34号)により7社が定められた。なお、当該7社は8年8月31日又は9月1日にすべて解散し、清算法人となった。

2 検査の観点、対象及び方法

 上記の特定住専の債権債務の処理の枠組みについては、公的資金を民間企業の債務処理に投入するという特別な措置であり、将来的に更に財政資金の投入がありうることなどから、国民の関心も高く、国会の予算審議等においても多くの議論が行われた。このため、本院では、法に定められている特定住専の債権債務の処理の枠組みに沿って公的資金が使われたか、この枠組みが目的どおり機能し、特定住専の債権債務の処理が進ちょくしているかという観点から、前記の財政資金6850億円の使途及び譲受債権等の回収状況等について検査を実施することとした。

 本院では、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき預金保険機構から本院に提出されている合計残高試算表、財務諸表及びその添付書類並びにその他の書類について書面検査を行った。さらに、預金保険機構に対して、9年3月6日及び7日の2日間並びに7月11日、14日及び15日の3日間の2度にわたり会計実地検査を実施し、関係書類等の提示を受けたり、説明を聴取したりして調査した。

3 検査の状況

 上記の検査の観点に基づいて検査した状況は、次のとおりである(図「特定住専の債権債務の処理に係る資金等の流れ」参照)

(1) 財政資金6850億円の使途について

(ア) 預金保険機構出資金(50億円)

 預金保険機構は、8年6月26日に住専勘定を設置し、法に定められた業務の円滑な運営に資するための資金として、国から7月1日に50億円の出資を受けた。同日、預金保険機構は住専勘定に政府出資金としてこれを計上している。

(イ) 預金保険機構基金補助金(6800億円)

 預金保険機構は、譲受債権等の回収等を促進し安定した金融機能の確保に資するための補助金として、国から8月20日に6800億円の交付を受け、これを住専勘定に設置された緊急金融安定化基金に充てている。そして、預金保険機構は、預金保険機構の出資(注2) により7月26日に債権処理会社として設立された株式会社住宅金融債権管理機構(以下「住宅金融債権管理機構」という。)に対して12月26日に同基金から6800億円の助成金を交付した。なお、この基金の運用益994百万円は、9年1月10日に預金保険機構から国庫に納付されている。

 住宅金融債権管理機構は、8年10月1日に特定住専から譲受債権等6兆1129億余円を承継している。そして、その対価として6兆0944億余円(注3) を、関係金融機関等からの借入金等を財源として12月26日に特定住専へ支払った。

 そして、この対価をもってしてもなお特定住専の債務処理には6兆4993億余円不足することとなった。これが一次損失の金額であり、その処理のための財源の一部として、住宅金融債権管理機構は、上記の預金保険機構からの助成金6800億円と関係金融機関等からの贈与5300億円との合計額1兆2100億円を、同日、特定住専に対して支援金として交付した。(なお、特定住専はその借入債務を返済するため、譲受債権等の対価及び支援金の合計7兆3044債余円を、同日、関係金融機関等に支払った。また、一次損失のうち支援金を充てて処理をした以外の部分5兆2893億余円については、関係金融機関等がその債権を放棄した。)

(注2) 預金保険機構の出資 金融安定化拠出基金のうちの1000億円及び日本銀行が預金保険機構に拠出した1000億円の合計2000億円を財源としている。
(注3) 6兆944億余円 住宅金融債権管理機構は、譲受債権等6兆1129億余円とともに、それに伴う一部の負債184億余円を承継している。このため、譲受債権等の対価は、譲受債権等の価額から承継した負債の価額を差し引いたものとなっている。

(2) 譲受債権等の回収状況等について

 預金保険機構では、住宅金融債権管理機構が申請した、処理計画、8年度及び9年度の事業計画並びに資金計画を、8年12月18日に承認している。処理計画によると、住宅金融債権管理機構は、その時々の経済情勢等も十分考慮に入れながら、預金保険機構の指導の下、一体となって強力かつ効率的な回収等を行うことにより、国民の負担を最小限に止めるよう最大限の努力をすることとされている。また、8年度及び9年度の事業計画並びに資金計画によると、8年度における貸付債権の回収予定額は2743億円となっている。

 住宅金融債権管理機構は、譲受債権等を承継した10月1日からこの回収等を行っているところであり、8年度中におけるその状況は次表のとおりである。

表 譲受債権等の残高推移等
(単位:百万円)

区分 期首残高
(8年10月1日)
8年度中 期末残高
(9年3月31日)

回収益納付金 損失補てん助成金
増価額 減少額
金銭債権 4,704,214 254,347 4,449,867 292
土地・建物 165,013 13,116 3,090 175,039 509
有価証券 3,787 178 3,608 0
保証債務 336 336
その他の資産 17,588 12,167 5,421 108
小計 4,890,941 13,116 270,120 4,633,936 911
現預金 1,217,195  
営業用資産 4,784
譲受債権等 計 6,112,920

(注)1.上記区分の各資産の期首残高、8年度中減少額及び土地・建物以外の期末残高は、取得価額によって表示している。土地・建物の8年度中増加額は、主として代物弁済によるもので、この代物弁済による額は、代物弁済を受けるもととなった金銭債権の取得価額である。

2.現預金及び営業用資産は、回収益納付金及び損失補てん助成金の対象となっていない。

3.営業用資産とは、土地・建物を除く譲受債権等のうち、店舗等を借りるために差し入れた敷金など営業の用に継続して使用するために譲り受けたものである。

 譲受債権等の主たるものである金銭債権の残高についてみると、10月1日現在で4兆7042億余円であり、8年度中に回収等により2543億余円減少したことにより、8年度末現在では4兆4498億余円となっている。

 なお、金銭債権の8年度中減少額2543億余円のうち貸付債権の元本部分の回収によるものは2444億余円ある。これ以外に、貸付債権に対する弁済等として収納しているが、充当する債権が未定のため経理上仮受金に計上していて、債権額を減少させていないものが311億余円あり、上記元本部分の回収額と合計すると2756億余円となる。これは、8年度における貸付債権の元本部分の回収予定額2743億円を上回っている。

 また、8年度において、譲受債権等のうち、その取得価額を上回る金額で回収が行われたことなどにより、利益が生じたものがあり、その金額は、回収益納付金として9年7月31日に預金保険機構に納付されている。この金額は、上記の表のとおり、合計911百万円となっており、預金保険機構は同日に、緊急金融安定化基金を通じてこれに相当する金額を国庫へ納付している。その一方で二次損失は生じていないため、損失補てん助成金は交付されていない。

 なお、住宅金融債権管理機構の円滑な業務の遂行のため、預金保険機構が必要と認めるときに交付する助成金については、交付されていない。

4 本院の所見

 以上のとおり、我が国の信用秩序の維持等を図ること等を目的として制定された法による特定住専の債権債務の処理の枠組みに基づいて、財政資金6850億円は特定住専に係る債務処理等に充てられ、住宅金融債権管理機構による譲受債権等の回収等も行われている。8年度中には、取得価額を上回った回収等となり、利益を生じているものもあった。一方、二次損失は生じていないため、8年度の譲受債権等の回収等に関しては、新たな財政資金の投入は必要とはなっていなかった。

 しかし、法の枠組みによれば、個別の譲受債権等ごとの回収金額が取得価額を下回ったことなどによる損失に伴う新たな財政資金が投入されることもあり、また、今後の譲受債権等の回収状況等の見通しには不確定な要素もある。したがって、本院においては、今後も譲受債権等の回収等について、その事態の推移を注視することとする。

住宅金融専門会社の債権債務の処理に係る公的資金の投入等についての図1