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  • 平成11年度|
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水田麦・大豆等の生産振興を図るための技術対策を適切に実施して事業効果の発現及び確保が図られるよう改善の処置を要求したもの


水田麦・大豆等の生産振興を図るための技術対策を適切に実施して事業効果の発現及び確保が図られるよう改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)農産園芸振興費
部局等の名称 農林水産本省、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各農政局
補助の根拠 予算補助
補助事業者 北海道ほか31県
間接補助事業者
(事業主体)
農業協同組合等延べ737事業主体
補助事業 水田麦・大豆生産振興緊急対策技術・営農実証事業
補助事業の概要 水田を活用して生産される麦及び大豆について生産性や品質の向上等の課題に対応するため、生産技術や営農体系を見直し技術の実証を行うもの
効果的に実施される仕組みとなっていない事業のうち検査した事業に係る国庫補助金交付額 154億0899万円(平成10、11両年度)

【改善の処置要求の全文】

水田麦・大豆等の生産振興を図るための技術対策の実施について

(平成12年11月17日付け 農林水産大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 事業の概要

(水田麦・大豆等生産振興緊急対策事業の概要)

 貴省では、「新たな米政策大綱」(平成9年11月20日農林水産省省議決定)に則し、転作による水田の有効活用や生産構造の転換を図ることを目的として、平成10、11両年度に、米の緊急生産調整推進対策を実施するとともに、水田を活用して生産される麦及び大豆(以下「水田麦・大豆」という。)について水田麦・大豆等生産振興緊急対策事業(以下「水田麦・大豆事業」という。)を実施している。この事業は、水田麦・大豆等の生産に意欲的に取り組む農業者を支援するため、生産性や品質の向上等の課題に対応した技術対策を計画的に実施する農業者・営農集団(以下「農業者等」という。)に対して必要な経費を助成するものである。

(水田麦・大豆における課題)

 水田麦・大豆については、水稲に比べて収益性が低いこと、作柄の変動により安定した収量を確保し難いことなどから、米の生産調整規模が緩和された時期に水田麦・大豆の作付地での復田が進み、地域ぐるみで取り組んできた転作団地等が崩壊しており、その生産が十分定着していない状況にある。そして、水田麦・大豆の収益性が低いことなどの要因としては、水田営農の規模拡大が進まないことのほか、基本的な栽培技術が十分実施されていないこと、品質にばらつきが多く、集出荷単位が小規模であるなど実需者のニーズに十分対応しきれていないことなどが指摘されている。
 このため、水田麦・大豆については、引き続き、作付けの団地化や大型機械の効率的利用を推進するとともに、基本的な栽培技術の十分な実施、実需者のニーズ等を踏まえた品種の栽培等により、生産性や品質の向上、集出荷単位の拡大を図ることが緊急の課題とされている。

(水田麦・大豆生産振興緊急対策技術・営農実証事業)

 上記の課題に対応するため、水田麦・大豆事業においては、市町村等に地域水田基幹作物生産振興推進計画(以下「推進計画」という。)を策定させるとともに、この推進計画に基づき、農業協同組合等が事業主体となり、農業生産体制強化総合推進対策実施要領(平成7年7農蚕第1840号。以下「実施要領」という。)に定められた営農排水、病害虫防除等の技術の実証を行う水田麦・大豆生産振興緊急対策技術・営農実証事業(以下「技術営農実証事業」という。)を実施している。
 この技術営農実証事業は、上記の実施要領及び「農業生産体制強化総合推進対策の運用について」(平成7年7農蚕第1979号。以下「運用通達」という。)により、原則として、事業主体が管内の農業者等に病害虫防除等の技術の実証を委託することとされている。そして、委託内容が適正に実施されたかを確認するため、本事業を受託する農業者等(以下「受託者」という。)は実際に行う作業等について記帳を行い、事業主体に報告することとされている。

(補助事業の実施)

 実証を行う技術は、受託者の栽培技術の水準等に応じて実施できるよう、次の3つの技術タイプに区分されている。

〔1〕 基礎技術実施タイプ

 「土壌改良技術」、「病害虫防除」、「営農排水」等の技術を実施するもの(以下「基礎タイプ」という。)

〔2〕 標準技術実施タイプ

 「土壌診断に基づく施肥設計」、「堆肥施用による地力増進」、「弾丸暗きょの施工」等の技術を実施するもの(以下「標準タイプ」という。)

〔3〕 地域特認技術実施タイプ

 地域の実情を踏まえて都道府県知事が地方農政局長と協議して定める技術の中から事業主体が選定した技術と、機械化収穫作業技術の2技術を実施するもの(以下「特認タイプ」という。)

 事業主体及び受託者は、上記の各技術タイプの中に麦、大豆の作物別に示されている技術の中から、実証する技術を選定することとなっているが、〔1〕基礎タイプを行う場合は2技術、〔2〕標準タイプを行う場合は基礎タイプの2技術に加えて標準タイプの中から2技術(計4技術)、〔3〕特認タイプを行う場合は基礎タイプ及び標準タイプの各2技術に加えて特認タイプの中から2技術(計6技術)を選定することとされている。
 また、補助金の額は、各技術タイプごとに、技術の実証を行う水田面積(以下「実証面積」という。)10a当たり、基礎タイプについては5千円、標準タイプについては1万円、特認タイプについては1万7千円などと定められている。
 10、11両年度における技術営農実証事業に係る国庫補助金の交付額は、10年度で112億1536万余円、11年度で122億7471万余円、計234億9008万余円に上っている。

(水田農業経営確立対策の概要)

 貴省では、11年度まで実施した水田麦・大豆事業に引き続き、12年度から16年度までの5年間の事業として、新たに水田農業経営確立対策に取り組んでいる。これは、従来の米の生産調整対策を抜本的に見直し、米の計画的生産を図るとともに、水田麦・大豆等の生産を生産性や品質の向上を図りながら定着・拡大させて、実需者のニーズに対応した品質の良い、売れる作物づくりを進めることを趣旨とした対策となっている。
 同対策においても、水田麦・大豆等の本格的生産を図るため助成金を交付することとしており、この交付に当たっては、水田農業経営確立対策実施要綱(平成12年12農産第1932号。以下「実施要綱」という。)等により、麦及び大豆については、作付けの団地化又は土地利用の担い手への集積等のほか、実需者のニーズ等を踏まえた品種の栽培、基本的な栽培技術の実施が要件とされている。
 そして、これらの要件の中の基本的な栽培技術には、11年度までに実施された技術営農実証事業における各技術タイプの技術と共通のものが数多く含まれており、技術の具体的な実施内容もほぼ同様のものとなっている。
 そして、農業者等に対する助成金の交付は、上記の助成金交付要件が満たされているかを都道府県から確認事務の委託を受けた市町村が確認した後に、国から助成金交付事務の委託を受けた都道府県が行うこととなっている。

2 本院の検査結果

(検査の着眼点)

 12年度から実施されている水田農業経営確立対策における水田麦・大豆等の生産振興を図るための技術対策を着実に実施していくためには、事業目的や内容がほぼ共通している水田麦・大豆事業の実施状況等について検討し、その結果を今後の同対策の実施に適切に反映していくことが肝要である。
 そこで、水田麦・大豆事業における技術営農実証事業は実施要領等に基づいて適切に実施されていたか、事業実施に係る報告及び確認は適切に行われていたか、また、その結果、生産性や品質の向上等の課題に対応した効果を上げているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び結果)

 北海道ほか31県(注) の456市町村において、10、11両年度に延べ737事業主体が実施した技術営農実証事業に係る国庫補助金計154億0899万余円を対象として検査したところ、これらの事業について次のような事態が見受けられた。

(1) 事業の実施に当たり、実証する技術の判定方法が明確でないなどのため、事業が効果的に実施されていない事態

ア 機械等を用いて作業を実施する場合の技術数の判定方法について

 技術営農実証事業では、受託者の栽培技術の水準に応じて技術の実証ができるようにするため、例えば、病害虫防除の技術については、基礎タイプに機械使用を前提としないものと、標準タイプに特定の機械を使用して作業を実施するものとが設けられている。しかし、このような場合の技術数の判定方法が明確に定められていなかったため、一部の事業主体において、病害虫防除の作業を特定の機械を使用して実施した場合に、基礎タイプと標準タイプの2技術を同時に実証したと判定するなどの事態が見受けられた。
 このような事態は、より多くの技術の実証の促進が図られていない結果となっており、事業効果の観点から改善を要すると認められるものである。
 これを具体的に示すと次のとおりである。

〔1〕 病害虫防除に関するもの

県数 市町村数 延べ事業主体数 延べ受託者数 実証面積 国庫補助金額
ha 千円
宮城県ほか13県 32 47 2,052 1,869 278,758

 これは、病害虫防除の作業を乗用管理機等又は無人ヘリコプターを使用して実施したことをもって、基礎タイプの「病害虫防除」と、標準タイプの「乗用管理機等による管理技術(病害虫防除)」又は特認タイプの「無人ヘリによる病害虫防除」の2技術を同時に実証したと判定しているものである。

〔2〕 中耕・培土に関するもの

県数 市町村数 延べ事業主体数 延べ受託者数 実証面積 国庫補助金額
ha 千円
宮城県ほか21県 104 176 15,289 14,241 2,158,470

 これは、中耕・培土の作業を乗用管理機等を使用して実施したことをもって、基礎タイプの「中耕・培土」と標準タイプの「乗用管理機等による管理技術(中耕・培土)」の2技術を同時に実証したと判定しているものである。

〔3〕 適正播種量の確保に関するもの

県数 市町村数 延べ事業主体数 延べ受託者数 実証面積 国庫補助金額
ha 千円
宮城県ほか22県 127 180 33,896 21,048 2,013,895

 これは、播種作業等を複合作業機を使用して実施したことをもって、標準タイプの「適正播種量の確保」と標準タイプの「複合作業機による耕起・施肥・播種同時作業体系」の2技術を同時に実証したと判定しているものである。

イ 土壌診断に関する技術等の判定について

 土壌診断に関して、その実施時期などが明確に定められていなかったため、技術の実証が効果的に行われていないと認められる事態が次のとおり見受けられた。

県数 市町村数 延べ事業主体数 延べ受託者数 実証面積 国庫補助金額
ha 千円
秋田県ほか8県 17 27 2,548 2,669 258,918

 「土壌診断に基づく施肥設計」は、運用通達によれば、土壌診断を実施し、その結果に基づき施肥設計を行うこととされている。しかし、上記の事業主体においては、事業実施の前に既に行っていた土壌診断の結果をもって本技術を実証したと判定するなどしていた。

(2) 事業の実施状況を十分確認できなかったり、事業の実効性が十分確保される仕組みとなっていなかったりしている事態

ア 事業の実施状況の確認について

〔1〕 技術営農実証事業の実施に当たっては、実施要領等により、事業主体は、各技術タイプごとに技術の実証面積等に係る資料を添付した事業実施計画書を都道府県知事に提出することとされている。しかし、本事業の完了後に都道府県知事に提出する事業実績報告書については、営農排水、病害虫防除などの各技術やその実証面積を報告させるようになっていなかった。このため、今回実施した本院の検査でも、道県において、各技術タイプごとに技術の実証を行っていたかどうかを確認できない状況となっていた。
〔2〕 事業実施について確認を適切に行うために、受託者は、作業等について記帳を行い、事業主体に報告することとされている。これらの状況について検査したところ、延べ33,180受託者(221市町村管内、実証面積19,395ha、国庫補助金額2,469,860千円)において、使用した薬剤等の資材の購入伝票等が報告に添付されていなかったり、延べ57,649受託者(192市町村管内、実証面積46,293ha、国庫補助金額5,513,542千円)において、水田麦・大豆の栽培全般についての作業記録が保存されていなかったりしていて、事業の実施を十分確認できない状況となっていた。

イ 事業の実効性の確保について

 技術営農実証事業の実施に当たっては、生産性については収量、品質については等級別比率等の事業実績の目安を定量的に示すとともに、それらについての実績を把握することが、事業の実効性の確保を図るのに有効であると認められる。しかし、本事業においては、上記のような目安について定量的に示し、その実績を把握する仕組みとなっていなかったため、実施した事業が生産性や品質の向上等の課題に十分対応しているかを客観的に分析・評価することができず、ひいては事業の実効性を十分確保することができない状況となっていた。
 そこで、本院では、事業が効果的に実施されているかという観点から、技術の実証を継続的に行うことにより技術の定着が図られているか、また、収穫した水田麦・大豆の出荷により、大規模な集出荷単位での安定供給を求める実需者のニーズに合った生産物を確保しているかについて検査した。その結果、延べ12,536受託者(340市町村管内、実証面積3,741ha、国庫補助金額329,417千円)において、10年度は技術実証を行っているが、11年度は他作物に転換するなど自己都合により技術実証を行っていない事態が見受けられた。また、延べ24,546受託者(343市町村管内、実証面積5,872ha、国庫補助金額578,952千円)において、収穫した水田麦・大豆を自家消費するなどしていたため、収穫量に対する出荷量の割合が30%未満と著しく低調となっている事態が見受けられた。
 このような事態は、技術の定着が十分に図られておらず、実需者のニーズに合った生産物を確保するという本事業の趣旨に照らし、十分な成果が得られていないものと認められる。

(改善を必要とする事態)

 貴省では、12年度から取り組んでいる水田農業経営確立対策において、水田麦・大豆について、5年後の作付面積、販売数量、作付けの団地化率、土地利用の集積率、実施すべき生産技術等の目標を定めることとするなど、水田麦・大豆等の生産振興の効果的な実施を図るための処置を講じている。しかし、その処置は、上記の各事態を招来した要因に十分対処できるものとはなっておらず、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、主として次のことによると認められる。

(1) 貴省において、

ア 実施要領等において、技術数の判定方法を定めていなかったり、技術の実証に関する具体的な実施内容及び確認方法について明確に定めていなかったり、実証した技術の内容や実証面積について把握できるような様式を定めていなかったりしていて、事業実施についての審査・確認体制を整備していなかったこと
イ 市町村等に対し、その策定する推進計画等において事業実施により期待される収量、品質等について目標値を定めさせたり、その実績を報告させたりするなどして事業実施の効果を把握することなどについて都道府県に対する指導が十分でなかったこと

(2) 道県において、

ア 補助金の交付に当たり、実証した技術の内容や実証面積についての審査・確認が十分でなかったこと
イ より効果的な技術実証となるように各技術を選定すること及び技術の実証を裏付けるための資料を整備、確認することについて、事業主体に対する指導が十分でなかったこと、また、各技術の内容及び関連についての理解が十分でなく、事業主体に対する指導が適切でなかったこと

(3) 事業主体において、水田麦・大豆の生産について生産性や品質の向上等の課題に対応した水田営農を推進するという事業の趣旨についての認識が十分でなかったこと

3 本院が要求する改善の処置

 水田農業経営確立対策は、食料自給率の目標の達成に向けた施策の一つとして着実に実施する必要があり、今後ともその重要性は増大していくことが見込まれる。
 ついては、前記事態にかんがみ、貴省において、水田麦・大豆等の本格的生産の定着・拡大という事業効果の発現及び確保が十分に図られるよう、12年度から実施している水田農業経営確立対策における技術対策について、次のような処置を講ずる要があると認められる。

(1) 栽培技術の実施及び確認並びに事業実施による効果の把握に関して次の点について実施要綱等を改正するなどして明確に示すこと

ア 事業が効果的に実施されるように複数の栽培技術を同時に実施する場合の技術数の判定方法等を具体的に定めること
イ 栽培技術についてその実施による効果が確保されるように実施内容及び確認方法を具体的に定めること
ウ 栽培技術の実施等に係る要件を確認できる資料を整備すること
エ 水田麦・大豆等の本格的生産の定着・拡大を図るため、収量・品質等について目標値を定めさせたり、その実績について対策期間中報告させたりするなどして事業実施の効果が把握できるような体制を整備すること

(2) 都道府県及び都道府県から確認事務について委託を受ける市町村に対して、実施要綱等の周知徹底を図り、栽培技術の実施等の確認について的確に行うよう指導すること

北海道ほか31県 北海道、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、千葉、新潟、富山、石川、福井、岐阜、山梨、長野、愛知、滋賀、兵庫、鳥取、島根、岡山、山口、徳島、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎各県