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  • 平成11年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 医療費

労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が適正でなかったもの


(228)労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が適正でなかったもの

会計名及び科目 労働保険特別会計(労災勘定) (項)保険給付費
部局等の名称 労働本省(支出庁)
北海道労働基準局ほか11労働基準局(審査庁)
支給の相手方 347医療機関
不適正な支払となっていた労災診療費 手術料、入院料、リハビリテーション料等
不適正支払額 57,469,142円(平成10、11両年度)

1 保険給付の概要

(労働者災害補償保険)

 労働者災害補償保険は、労働者の業務上の事由又は通勤による負傷、疾病等に対し療養の給付等の保険給付を行うほか、労働福祉事業を行う保険である。

(療養の給付に要する診療費の支払)

 療養の給付は、保険給付の一環として、都道府県労働基準局長の指定する病院若しくは診療所又は労働福祉事業で設置された病院において、負傷又は発病した労働者(以下「傷病労働者」という。)に対し診察、処置、手術等(以下「診療」という。)を行うものである。そして、診療を行ったこれらの医療機関は、都道府県労働基準局(平成12年度以降は都道府県労働局。以下同じ。)に対して診療に要した費用(以下「労災診療費」という。)を請求することとなっており、都道府県労働基準局では請求の内容を審査し、その結果に基づき、労働本省において労災診療費を支払うこととなっている。
 労災診療費は、労働省労働基準局長が定めた「労災診療費算定基準について」(昭和51年基発第72号。以下「算定基準」という。)に基づき算定することとなっている。この算定基準によれば、労災診療費は、労災診療の特殊性などを考慮して、〔1〕健康保険法(大正11年法律第70号)に基づく診療報酬点数表の点数(以下「健保点数」という。)に12円(法人税等が非課税となっている公立病院等については11円50銭)を乗じて算定すること、〔2〕初診料、再診料等特定の診療項目については、健保点数とは異なる点数又は金額を別に定めこれにより算定することとなっている。

2 検査の結果

(検査の対象)

 労災診療費のうち手術料、入院料等に着目して、北海道労働基準局ほか11労働基準局の審査に係る10、11両年度の労災診療費の支払についてその適否を検査した。

(不適正支払の事態)

 検査したところ、上記の12労働基準局において、手術料、入院料、リハビリテーション料、注射料、処置料等の労災診療費が適正に支払われていなかったものが、347医療機関について57,469,142円あった。
 このような事態が生じていたのは、医療機関が労災診療費を誤って算定し請求していたのに、12労働基準局において、これに対する審査が十分でないまま支払額を決定していたことによるものである。

(主な態様)

 上記の労災診療費が適正に支払われていなかった事態について、その主な態様を診療報酬の別に示すと次のとおりである。

ア 手術料に関するもの

 手術料は、創傷処理、植皮術等の区分ごとの所定点数により算定することとなっている。そして、1回の皮切により手術を行い得る範囲(以下「同一手術野」という。)の手術につき、2以上の手術を同時に行った場合の手術料は、主たる手術の所定点数のみにより算定することとなっている。
 しかし、12労働基準局管内の215医療機関では、同一手術野につき2以上の手術を同時に行っているのに、主たる手術の所定点数によらず、それぞれの手術の所定点数により算定したり、本来算定すべき区分の所定点数によらず、異なる区分のより高い所定点数により算定したりしていた。このため、手術料376件、22,701,426円が適正に支払われていなかった。

イ 入院料に関するもの

 傷病労働者が、医師又は看護婦の常時監視を要する症状であるなどの算定要件に該当する場合は、入院室料加算を算定できることとなっている。ただし、老人病棟入院医療管理料等の特定入院料を算定している場合は、入院室料加算を算定できないこととなっている。
 しかし、12労働基準局管内の93医療機関では、入院室料加算の算定要件に該当しない傷病労働者であるのに、入院室料加算を算定したり、特定入院料を算定しているのに、入院室料加算も算定したりしていた。このため、入院料492件、20,735,074円が適正に支払われていなかった。

ウ リハビリテーション料に関するもの

 リハビリテーション料は、理学療法等の区分ごとの所定点数により算定することとなっている。そして、特定の施設基準に適合しているものとして届出を行った医療機関において、入院の日等から起算して6箇月を超えた期間に理学療法等を行った場合、6箇月以内に行った場合の所定点数よりも低い所定点数により算定することとなっている。また、理学療法と複数部位の消炎鎮痛処置を同時に行った場合は、理学療法の所定点数及び消炎鎮痛処置の1部位に係る所定点数の合計と消炎鎮痛処置の複数部位に係る所定点数の合計とを比較して、点数の高いものを算定することとなっている。
 しかし、11労働基準局管内の38医療機関では、入院の日等から起算して6箇月を超えた期間に行った理学療法等であるのに、6箇月以内に行った場合の高い所定点数により算定したり、理学療法と複数部位の消炎鎮痛処置を同時に行った場合において、理学療法の所定点数と消炎鎮痛処置の複数部位に係る所定点数をそれぞれ算定したりしていた。このため、リハビリテーション料485件、5,883,724円が適正に支払われていなかった。

(都道府県労働基準局別の内訳)

 上記の適正に支払われていなかった労災診療費の額を都道府県労働基準局別に示すと次のとおりである。

労働基準局名 医療機関数 不適正支払件数 不適正支払額
    千円
北海道労働基準局 51 478 5,810
青森労働基準局 31 299 9,568
宮城労働基準局 10 94 2,497
東京労働基準局 55 181 9,432
神奈川労働基準局 13 28 1,056
京都労働基準局 21 54 1,705
大阪労働基準局 56 404 10,313
和歌山労働基準局 22 136 3,690
広島労働基準局 27 166 3,034
福岡労働基準局 24 52 3,065
佐賀労働基準局 20 57 3,106
熊本労働基準局 17 94 4,188
347 2,043 57,469