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租税の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの


(54)租税の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの

会計名及び科目 一般会計 国税収納金整理資金  (款)歳入組入資金受入
  (項)各税受入金
部局等の名称 札幌中税務署ほか181税務署
納税者 430人
徴収過不足額 徴収不足額  1,118,103,338円 (平成7年度〜12年度)
徴収過大額  3,627,800円 (平成10年度)

1 租税の概要

 源泉所得税、申告所得税、法人税、相続税・贈与税、消費税等の国税については、法律により、納税者の定義、納税義務の成立の時期、課税する所得の範囲、税額の計算方法、申告・納付の手続などが定められている。
 平成12年度国税収納金整理資金の各税受入金の徴収決定済額は60兆6180億余円となっている。このうち源泉所得税は17兆3513億余円、申告所得税は3兆1955億余円、法人税は12兆6683億余円、相続税・贈与税は2兆0250億余円、消費税及地方消費税は15兆4363億余円となっていて、これら各税の合計額は50兆6766億余円となり、全体の83.5%を占めている。

2 検査の結果

(徴収過不足の事態)

 上記の各税に重点をおいて、課税が法令等に基づき適正に行われているかなどに着眼して、札幌中税務署ほか220税務署を検査したところ、札幌中税務署ほか181税務署において、納税者430人から租税を徴収するに当たり、徴収額が不足していたものが429事項1,118,103,338円(7年度〜12年度)、徴収額が過大になっていたものが1事項3,627,800円(10年度)あった。
 これを、税目別にみると次表のとおりである。

税目 徴収不足の事項数
徴収過大の事項数
徴収不足額
徴収過大額(△)

源泉所得税

10

65,295,608
申告所得税 104
1
201,731,830
△ 3,627,800
法人税 182
470,220,300
相続税・贈与税 73
211,707,500
消費税 60
169,148,100
429
1
1,118,103,338
△ 3,627,800

 なお、これらの徴収不足額及び徴収過大額については、本院の指摘により、すべて徴収決定又は支払決定の処置が執られた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、上記の182税務署において、納税者が申告書等において所得金額や税額等を誤るなどしているのに、課税資料の収集・活用が的確でなかったり、法令等の適用の検討が十分でなかったり、これを見過ごしたりしたため、誤ったままにしていたことなどによるものである。

(税目ごとの態様)

 この430事項について、源泉所得税、申告所得税、法人税、相続税・贈与税及び消費税の別に、その主な態様を示すと次のとおりである。

(1)源泉所得税に関するもの

 源泉所得税では徴収不足になっていたものが10事項あった。これらは、配当、退職手当、報酬及び給与等(給料、賃金、賞与等をいう。以下同じ。)に関するものである。
 配当、退職手当、報酬及び給与等の支払者は、支払の際に、所定の方法により計算した源泉所得税を徴収し、これを徴収の日の属する月の翌月10日までに国に納付しなければならないこととなっている。そして、この法定納期限までに納付がない場合には、支払者に対して、納税の告知をしなければならないこととなっている。
 この配当、退職手当、報酬及び給与等に関し、徴収不足になっている事態が10事項65,295,608円あった。その主な内容は、利益積立金の資本組入れによる配当とみなされる 金額や報酬及び給与等の支払額について、法定納期限を経過した後も長期間にわたって源泉所得税が納付されていないのに、課税資料の収集・活用が的確でなかったため、納税の告知をしていなかったものである。

 源泉所得税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例1>  報酬に関する源泉所得税について納税の告知をしていなかったもの
 A会社は、平成10年1月から12年3月までの間に非居住者(注) に支払った報酬を36,000,000円とし、これに対する源泉所得税額7,200,000円を納付していた。
 しかし、同会社から提出された法人税の申告書等によれば、上記の期間中に非居住者に支払った報酬は107,149,337円である。したがって、非居住者に係る源泉所得税額は21,429,867円となるのに、非居住者に支払った報酬についての課税資料の収集・活用が的確でなかったため、納付税額との差額14,229,867円について納税の告知をしておらず、同金額が徴収不足になっていた。

非居住者 国内に住所を有しておらず、かつ、現在まで引き続いて1年以上居所を有していない個人をいう。

(2)申告所得税に関するもの

 申告所得税では徴収不足又は徴収過大になっていたものが105事項あった。この内訳は、譲渡所得に関するもの31事項、不動産所得に関するもの31事項、雑所得に関するもの16事項、事業所得に関するもの9事項及びその他に関するもの18事項である。

ア 譲渡所得に関するもの

 個人が資産を譲渡した場合には、その総収入金額から譲渡した資産の取得費や譲渡に要した費用の額などを差し引いた金額を譲渡所得として、他の各種所得と総合して課税することとなっている。ただし、土地建物等及び株式等の譲渡による所得については、他の所得と分離して課税することとなっている。
 この譲渡所得に関し、徴収不足になっている事態が30事項79,817,100円、徴収過大になっている事態が1事項3,627,800円あった。その主な内容は次のとおりである。
(ア)相続財産を譲渡した場合の取得費に加算できる額の計算を誤るなど譲渡した資産の取得費等の額に誤りがあるのに、法令等の適用の検討が十分でなかったり、見過ごしたりしたため、譲渡所得の金額を過小のままとしていた。
(イ)優良住宅地の造成等のための土地を譲渡した場合の所得に適用される軽減税率を、優良住宅地の要件に該当しない土地に係る譲渡所得に適用するなど、税額の計算に誤りがあるのに、法令等の適用の検討が十分でなかったり、見過ごしたりしたため、税額を過小のままとしていた。
(ウ)株式等の譲渡所得があるのに、これに係る課税資料の収集・活用が的確でなかったため、課税していなかった。

イ 不動産所得に関するもの

 個人が不動産を貸し付けた場合には、その総収入金額から必要経費を差し引いた金額を不動産所得として、他の各種所得と総合して課税することとなっている。そして、不動産の貸付けについて、収入、経費の各項目の金額に消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)を含めて経理している場合には、経費に係る消費税等の額が収入に係る消費税等の額を超えるときに生じる消費税等の還付金は、不動産所得の計算上、総収入金額に算入することとなっている。
 この不動産所得に関し、徴収不足になっている事態が31事項57,265,400円あった。
 その主な内容は次のとおりである。
(ア)総収入金額から差し引く建物等除却損や修繕費等の必要経費の額を誤って過大としているのに、これを見過ごしたため、不動産所得の金額を過小のままとしていた。
(イ)収入及び経費に消費税等を含めて経理している場合の消費税等の還付金が総収入金額に算入されていないのに、これを見過ごしたため、不動産所得の金額を過小のままとしていた。

ウ 雑所得に関するもの

 個人が貸付金の利子(事業所得に該当するものを除く。)や租税の還付加算金などを受けた場合には、その総収入金額から必要経費を差し引いた金額を雑所得として、他の各種所得と総合して課税することとなっている。
 この雑所得に関し、徴収不足になっている事態が16事項28,482,730円あった。その主な内容は、経営している会社などへの貸付金の利子による所得があるのに、これに係る課税資料の収集・活用が的確でなかったため、課税していなかったものである。

エ 事業所得に関するもの

 個人が事業を営む場合には、その総収入金額から必要経費を差し引いた金額を事業所得として、他の各種所得と総合して課税することとなっている。そして、事業所得の計算上、事業を廃止した年には貸倒引当金勘定に繰り入れた金額があっても必要経費に算入しないこととなっている。
 この事業所得に関し、徴収不足になっている事態が9事項14,310,500円あった。その主な内容は、個人事業を廃止した年に貸倒引当金を計上するなど総収入金額から差し引く必要経費の額を過大としているのに、これを見過ごしたため、事業所得の金額を過小のままとしていたものである。

オ その他に関するもの

 上記のアからエのほか、配当所得、給与所得、一時所得等に関し、徴収不足になっている事態が18事項21,856,100円あった。

申告所得税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例2>  株式等の譲渡に係る譲渡所得について課税していなかったもの
 納税者Bは、平成10年分の所得税の申告をしておらず、譲渡所得はないとしていた。
 しかし、同人から10年9月に提出された相続税の申告書等によれば、同人はC会社ほか3社の株式等を相続している。そして、C会社等の9年1月から10年12月までの2事業年度分の法人税の申告書等によれば、これらの株式等は、10年1月に97,555,239円で譲渡されている。これにより同人には取得費等27,243,569円を差し引いた70,311,670円の譲渡所得があるのに、上記相続税及び法人税の申告書等からこの事実を把握せず見過ごしたため、申告所得税額13,948,200円が徴収不足になっていた。

<事例3>  不動産所得の総収入金額を過小としていたもの
 納税者Dは、平成10年分の申告に当たり、不動産所得の総収入金額を49,200,000円とし、この金額のうちに消費税等の還付金はないとしていた。そして、この金額から必要経費を差し引き不動産所得の金額を25,726,665円としていた。
 しかし、同人は不動産の貸付けに係る収入及び経費にそれぞれ消費税等を含めて経理しており、また、10年5月に同人に対して消費税等の還付金6,393,175円が支払われている。したがって、これを不動産所得の総収入金額に算入すると、不動産所得の金額は32,119,840円となるのに、これを見過ごしたため、申告所得税額3,196,500円が徴収不足になっていた。

(3)法人税に関するもの

 法人税では徴収不足になっていたものが182事項あった。この内訳は、法人税額の特別控除に関するもの41事項、退職給与引当金に関するもの29事項、同族会社の留保金に関するもの16事項、役員賞与の損金不算入に関するもの16事項及びその他に関するもの80事項である。

ア 法人税額の特別控除に関するもの

青色申告書を提出する法人のうち中小企業者等(注) が所定の電子機器利用設備等の設備を取得又は賃借(賃借期間が5年以上であるものに限る。)して事業に使用した場合には、資本又は出資の金額が3000万円を超える法人(農業協同組合等を除く。)が取得して使用した設備を除き、使用した最初の事業年度において、次のうちいずれか少ない金額を法人税額から控除できるなどとなっている。
〔1〕 取得価額又は賃借期間中に支払う費用の総額に一定割合を乗じた金額
〔2〕 確定申告書の法人税額の100分の20に相当する金額
 この法人税額の特別控除に関し、徴収不足になっている事態が41事項69,508,500円あった。その主な内容は次のとおりである。
(ア)資本又は出資の金額が3000万円を超える法人が取得して事業に使用した設備について特別控除をしたり、発行済株式の総数の2分の1以上を同一の大規模法人が所有しているなど中小企業者等に該当しない法人が特別控除をしたりしているのに、これを見過ごしたため、法人税額を過小のままとしていた。
(イ)設備を事業に使用した最初の事業年度において控除した金額をその後の事業年度の法人税額から重ねて控除しているのに、これを見過ごしたため、法人税額を過小のままとしていた。

中小企業者等 資本若しくは出資の金額が1億円以下の法人(発行済株式の総数又は出資金額の2分の1以上を同一の大規模法人が所有しているなどの法人を除く。)又は農業協同組合等をいう。

イ 退職給与引当金に関するもの

 退職給与規程を定めている法人が、使用人の退職給与に充てるために退職給与引当金勘定に繰り入れた金額については、次のうちいずれか少ない金額を限度として損金に算入できることとなっている。
〔1〕 期末退職給与の要支給額(注1) から前期末退職給与の要支給額を差し引いた金額(又は給与総額の100分の6に相当する金額)
〔2〕 期末退職給与の要支給額の100分の20に相当する金額(注2) から、前期から繰り越された退職給与引当金勘定の期末における金額を差し引いた金額
 また、使用人が退職した場合には、退職給与引当金勘定の金額から、当該使用人に係る前期末退職給与の要支給額に相当する金額を取り崩して益金に算入することとなっている。
 そして、上記の退職給与引当金勘定の金額などを超えて取り崩して益金に算入したときには、その超える部分の金額を前期までに所得金額に加算された退職給与引当金繰入限度超過額からの取崩しとして所得金額から減算できることとなっている。
 この退職給与引当金に関し、徴収不足になっている事態が29事項73,730,300円あった。その主な内容は次のとおりである。
(ア)繰入限度額の計算に誤りがあり、限度額を超えて繰り入れた金額が損金に算入されているのに、これを見過ごしたため、損金に算入する金額を過大のままとしていた。
(イ)退職した使用人に係る前期末退職給与の要支給額に相当する金額が、退職給与引当金勘定の金額から取り崩されず益金に算入されていないのに、これを見過ごしたため、益金に算入する金額を過小のままとしていた。
(ウ)使用人の退職により退職給与引当金勘定の金額から取り崩して益金に算入した金額を、前期までに所得金額に加算された退職給与引当金繰入限度超過額から取り崩したものとして所得金額から減算しているのに、これを見過ごしたため、所得金額を過小のままとしていた。

(注1) 期末退職給与の要支給額 期末において在職する使用人の全員が自己の都合で退職するものと仮定した場合に、各使用人について退職給与規程により計算される退職給与の合計額をいう。
(注2) 100分の20に相当する金額経過 措置として、平成10年3月31日までに開始する事業年度については100分の40に相当する金額で、その後毎年度漸減することになっており、100分の20となるのは15年4月1日以後に開始する事業年度からである。

ウ 同族会社の留保金に関するもの

 特定の同族会社(注1) については、通常の法人税のほか、利益のうち社内に留保した金額が一定の金額を超える場合には、その超える部分の金額(以下「課税留保金額」という。)に対し特別税率(注2) の法人税を課することとなっている。
 この同族会社の留保金に関し、徴収不足になっている事態が16事項41,817,900円あった。その主な内容は、特定の同族会社に該当し課税留保金額が算出されるのに、法令等の適用の検討が十分でなかったり、見過ごしたりしたため、特別税率の法人税を課 していなかったものである。

(注1) 特定の同族会社 発行済株式の総数(又は出資金額)の100分の50以上が、3人以下の株主等(株主等に同族会社でない法人がある場合はその法人を除く。)及びこれらと特殊の関係にある個人・法人によって所有されている会社をいう。
(注2) 特別税率 課税留保金額が年3000万円以下の部分については100分の10、年3000万円を超え1億円以下の部分については100分の15、年1億円を超える部分については100分の20となっている。

エ 役員賞与の損金不算入に関するもの

 代表取締役、専務取締役、常務取締役、監査役等法人の役員及び同族会社の使用人としての職務を有していて持株数等が一定の割合を超えている役員に対して支給した賞与は、損金に算入できないこととなっている。
 この役員賞与の損金不算入に関し、徴収不足になっている事態が16事項20,302,600円あった。その主な内容は、同族会社の使用人としての職務を有する役員の持株数等が一定の割合を超えているのに、これを見過ごしたため、これらに支給した賞与を損金に算入したままとしていたものである。

オ その他に関するもの

 上記のアからエのほか、外国法人税額の控除、固定資産の圧縮記帳、受取配当等の益金不算入等に関し、徴収不足になっている事態が80事項264,861,000円あった。

法人税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例4>  同族会社の課税留保金額に対して特別税率の法人税を課していなかったもの
 E会社は、平成9年3月から10年2月までの事業年度分の申告に当たり、特定の同族会社には該当しないとして、利益のうち社内に留保した金額に対し特別税率による税額計算をしていなかった。
 しかし、申告書等によれば、同会社は3人の株主及びこれらの親族が発行済株式の総数の100分の51.3を所有する特定の同族会社であり、所定の計算をすれば、課税留保金額108,665,000円が算出されるのに、これを見過ごしたため、特別税率の法人税を課しておらず、法人税額15,233,000円が徴収不足になっていた。

<事例5>  法人税額から控除する外国法人税額の計算を誤っていたもの
 法人が各事業年度において、外国の法令により課される法人税に相当する税で一定の要件に該当するものの税額(以下「外国法人税額」という。)を納付することとなる場合には、所定の方法により計算した金額(以下「控除限度額」という。)を限度として、その外国法人税額を法人税額から控除することとなっている。そして、外国法人税額が控除限度額を超える場合で、前期以前3年間における、外国法人税額が控除限度額に満たない場合のその差額(以下「繰越控除限度額」という。)があるときは、更にその金額を限度として法人税額から控除することとなっている。
 F会社は、平成10年1月から11年12月までの2事業年度分の申告に当たり、外国法人税額25,062,297円及び22,650,699円について、それぞれ各期の控除限度額はないが、繰越控除限度額の範囲内であるとして、全額を各期の法人税額から控除していた。
 しかし、申告書等によれば、各期の繰越控除限度額は12,743,433円及び0円である。したがって、各期の法人税額から控除する外国法人税額はこれらの額となるのに、これを見過ごしたなどのため、法人税額12,318,800円及び23,150,400円、計35,469,200円が徴収不足になっていた。

(4)相続税・贈与税に関するもの

 相続税・贈与税では徴収不足になっていたものが73事項あった。この内訳は、相続税については土地建物等の価額に関するもの34事項、有価証券の価額に関するもの20事項、相次相続控除に関するもの7事項及びその他に関するもの3事項、贈与税については新株引受権の取得に関するものなど9事項である。

ア 相続税に関するもの

(ア)土地建物等の価額に関するもの

 個人が相続又は遺贈により財産を取得した場合には、その取得した財産に対し相続税を課することとなっている。そして、取得した財産の価額は、相続又は遺贈により取得したときの時価とされていて、土地建物等の価額については、路線価、固定資産税評価額等を基にして計算することとなっている。ただし、被相続人等が事業又は居住の用に供していた宅地等のうち一定の面積までの部分については、小規模宅地等として、次に掲げる区分に応じ、土地等の価額にその割合を乗じた額を減額できることとなっている。

〔1〕 特定事業用宅地等(注) などに該当するもの 100分の80
〔2〕 上記以外のもの 100分の50

 この土地建物等の価額に関し、徴収不足になっている事態が34事項81,740,700円あった。その主な内容は、土地の価額の計算において、特定事業用宅地等に該当しない小規模宅地等について、減額割合を誤って100分の80としているのに、これを見過ごしたため、土地の価額を過小のままとしていたものである。

特定事業用宅地等 被相続人等の事業の用に供していた宅地等で、その宅地等を相続又は遺贈により取得した者のうちに、一定の要件に該当する親族がいる場合の宅地等をいう。

(イ)有価証券の価額に関するもの

 個人が相続又は遺贈により取得した有価証券のうち取引相場のない株式又は出資の価額については、株式を発行した会社等の各資産の価額の合計額から各負債の金額の合計額を差し引いた純資産価額等を基にして計算することとなっている。
 この有価証券の価額に関し、徴収不足になっている事態が20事項40,477,800円あった。その内容は、取引相場のない同族会社の株式又は出資の価額の計算を誤っているのに、これを見過ごしたため、株式又は出資の価額を過小のままとしていたものである。

(ウ)相次相続控除に関するもの

 個人が相続により財産を取得した場合において、被相続人が今回の相続の開始前10年以内に相続により財産を取得していたときは、前回の相続の相続税額のうち今回の被相続人に係る相続税額を基に算出された金額を、今回の相続の相続税額から相次相続控除額として差し引くこととなっている。そして、この場合の前回の相続の相続税額は、今回の相続の相続税の申告期限までに確定した税額によることとなっている。
 この相次相続控除に関し、徴収不足になっている事態が7事項42,584,900円あった。その内容は、相続税額から控除する相次相続控除額を前回の相続の相続人全員に係る相続税額を基に算定していたり、前回の相続の相続税額を今回の相続の相続税の申告期限の後に修正申告等により確定した税額としたりしているのに、法令等の適用の検討が十分でなかったり、見過ごしたりしたため、相続税額を過小のままとしていたものである。

(エ)その他に関するもの

 上記の(ア)から(ウ)のほか、相続税額の加算等に関し、徴収不足になっている事態が3事項18,305,100円あった。

イ 贈与税に関するもの

 個人が贈与により財産を取得した場合には、その取得した財産に対し贈与税を課することとなっている。そして、同族会社である株式会社が新株を発行する際、従前の株主が新株の引受けをしなかったことにより、その株主の親族が新株引受権を取得し、有利な発行価額による新株の引受けをした場合には、その親族が従前の株主から新株引受権を贈与により取得したものとみなされることとなっている。
 この贈与税に関し、徴収不足になっている事態が9事項28,599,000円あった。その主な内容は、同族会社における従前の株主等からその親族が新株引受権等を贈与により取得しているのに、これに係る課税資料の収集・活用が的確でなかったため、贈与税を課していなかったものである。

相続税・贈与税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例6>  相次相続控除額の計算を誤っていたもの  納税者Gは、平成9年10月相続分の申告に当たり、相続により取得した財産に係る相続税額から差し引く相次相続控除額を15,560,249円としていた。
 しかし、申告書等によれば、この相次相続控除額の計算の基とした前回(5年4月)の相続の相続税額54,897,200円は相続人全員の相続税の合計額であり、今回の相続の被相続人に係る前回の相続税額は5,489,700円であった。そして、同金額を基に計算すると、相次相続控除額は1,573,011円となるのに、これを見過ごしたなどのため、相続税額13,595,800円が徴収不足になっていた。
 なお、Gの共同相続人H及びIにおいても同様の事態があり、相続税額9,864,800円及び4,292,800円が徴収不足になっていた。

(5)消費税に関するもの

 消費税では徴収不足になっていたものが60事項あった。この内訳は、課税仕入れに係る消費税額の控除に関するもの25事項、簡易課税制度の適用に関するもの18事項、課税売上高の計上に関するもの11事項及び納税義務の免除規定の適用に関するもの6事項である。

ア 課税仕入れに係る消費税額の控除に関するもの

 事業者は、課税期間(納付する消費税額の計算の基礎となる期間で、個人事業者は暦年、法人は事業年度)における課税売上高に対する消費税額から課税仕入れに係る消費税額を控除した額を消費税として納付することとなっている。この課税仕入れに係る消費税額の控除額は、課税期間における課税売上割合(課税売上高を総売上高で除した割合をいう。)が100分の95以上のときは、課税仕入れに係る消費税額の全額、100分の95未満のときは課税売上高に対応する部分の金額となっている。
 そして、国又は地方公共団体が特別会計を設けて行う事業については、その特別会計ごとに事業者とみなされ、他の事業者と同様に消費税が課されることとなっている。ただし、これらの事業において、消費税の対象となる資産の譲渡等の対価に該当しない補助金、他会計からの繰入金等の収入があり、そのうち給料、賃金等の支払など課税仕入れ以外の支出に使途が特定されたもの等を除いた収入(以下「特定収入」という。)を、総売上高にその特定収入を加えた額で除した割合(以下「特定収入割合」という。)が100分の5を超える場合には、次のとおり納付税額を算出することとなっている。

租税の徴収に当たり、徴収額に過不足があったものの図1

 この場合において、特定収入の額は、法令又は補助金の交付要綱等により物品の購入、工事の発注など課税仕入れの支出に使途が特定されているものはその金額とし、使途が特定されていないものについては、課税仕入れの支出に対応する額と課税仕入れ以外の支出に対応する額との割合であん分して算出することとなっている。また、借入金等の返済に充てられた他会計からの繰入金等については、当該借入金等に係る事業が行われた各課税期間について上記と同様の方法により計算された割合であん分した額を特定収入に含めることとなっている。
 この課税仕入れに係る消費税額の控除に関し、徴収不足になっている事態が25事項112,221,400円あった。その主な内容は次のとおりである。
(ア)地方公共団体の特別会計において、特定収入の額の算出を誤るなどして、特定収入に係る課税仕入れ消費税額を過小としているのに、これを見過ごしたため、課税売上高に対する消費税額から控除される税額を過大のままとしていた。

(イ)課税売上割合の計算を誤り、同割合が100分の95未満であるにもかかわらず、商品の仕入れや建物の取得等に係る消費税額の全額を課税仕入れに係る消費税額としたり、課税売上高に対応する課税仕入れに係る消費税額の金額を誤って過大に計算したりしているのに、これを見過ごしたため、消費税額を過小のままとしていた。

イ 簡易課税制度の適用に関するもの

 事業者は、課税期間の基準期間(個人事業者については前々年、法人については前々事業年度)における課税売上高が2億円以下であるときは、課税売上高に対する消費税額に事業の種類ごとに定められている所定の率(注) を乗じて得られる金額を課税仕入れに係る消費税額とみなして納付税額を計算する簡易課税制度を適用することができることとなっている。
 この簡易課税制度の適用に関し、徴収不足になっている事態が18事項20,100,700円あった。その内容は次のとおりである。
(ア)事業の種類の判定を誤って第五種事業に該当する事業を第四種事業に該当するなどとし、課税仕入れに係る消費税額とみなされる金額を過大に計算しているのに、これを見過ごしたため、消費税額を過小のままとしていた。
(イ)基準期間における課税売上高が2億円を超えている事業者が簡易課税制度を適用していて、納付税額が少ないものとなっているのに、これを見過ごしたため、消費税額を過小のままとしていた。

(注) 所定の率
第一種事業 (卸売業) 100分の90
第二種事業 (小売業) 100分の80
第三種事業 (製造業等) 100分の70
第四種事業 (第一種、第二種、第三種及び第五種事業以外の事業) 100分の60
第五種事業 (飲食店業を除くサービス業等) 100分の50

ウ 課税売上高の計上に関するもの

 課税売上高には、事業者が国内において行った資産の譲渡及び貸付け並びに請負等の役務の提供に係る収入金額(土地の譲渡、住宅の貸付け等に係る収入金額を除く。)を計上することとなっている。
 この課税売上高の計上に関し、徴収不足になっている事態が11事項13,826,700円あった。その内容は、貸付け等の事業の用に供していた建物等やゴルフ会員権を譲渡しているのに、これを見過ごしたため、課税売上高を過小のままとしていたものである。

エ 納税義務の免除規定の適用に関するもの

 基準期間における課税売上高が3000万円以下の場合、課税期間の課税売上げについて納税義務が免除されることとなっている。
 この納税義務の免除規定の適用に関し、徴収不足になっている事態が6事項22,999,300円あった。その主な内容は、基準期間の課税売上高が3000万円を超えてい て納税義務が免除されないのに、当該課税期間の申告がされていないことを見過ごした ため、消費税を課していなかったものである。

 消費税に関する徴収不足の事例を示すと次のとおりである。

<事例7>  課税仕入れに係る消費税額の計算を誤っていたもの
 J市下水道事業特別会計は、平成9年4月から11年3月までの2課税期間分の申告に当たり、特定収入割合が100分の5を超えていることから、課税仕入れに係る消費税額から特定収入に係る課税仕入れ消費税額を差し引いた額159,005,812円及び107,363,003円をそれぞれ課税売上高に対する消費税額から控除していた。
 しかし、同特別会計において、借入金の元金返済に充てられた一般会計からの繰入金のうち課税仕入れの支出に対応する額を特定収入の額に含めていなかったため、特定収入の額が過小となっていた。そして、正しい特定収入の額により特定収入に係る課税仕入れ消費税額を計算すると、課税売上高に対する消費税額から控除される税額はそれぞれ150,187,824円及び94,275,189円となるのに、これを見過ごしたため、消費税額8,817,900円及び13,087,800円、計21,905,700円が徴収不足になっていた。

(国税局等別の徴収過不足額)

 これらの徴収不足額及び徴収過大額を国税局等別に示すと次のとおりである。

これらの徴収不足額及び徴収過大額を国税局等別に示すと次のとおりである。