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国際会議の開催等に必要な経費の支払に当たり、支払金額と実際に要した経費との差額を取引先に積み立てるなどしていて、会計経理が不当と認められるもの


(49) 国際会議の開催等に必要な経費の支払に当たり、支払金額と実際に要した経費との差額を取引先に積み立てるなどしていて、会計経理が不当と認められるもの

所管、会計名及び科目 外務省 一般会計  (組織)外務本省  (項)外務本省
     (項)経済協力費
   (組織)在外公館  (項)在外公館
大蔵省 一般会計  (組織)大蔵本省  (項)大蔵本省
部局等の名称
外務本省

外務本省における経費の概要 (1) 各種国際会議の開催や諸外国要人等の招へい事業等に必要となる経費(大蔵省からの支出委任分を含む。)
(2) 諸外国の青年等の招へい事業に必要となる経費
検査の対象とした支払金額 (1) 4,084,643,990円 (平成7年度〜13年度)
(2) 173,125,700円 (平成7年度〜12年度)
4,257,769,690円  
上記のうち経費が上乗せされているなどした支払金額 (1) 1,375,494,199円  
(2) 173,125,700円  
1,548,619,899円  
上記のうち不当に支払われた金額 (1) 286,424,466円  
(2) 27,489,029円  
313,913,495円  

1 事業の概要と不正事件に関連して行った外務省の調査等

(事業の概要)

 外務省では、国際社会における我が国及び国民の利益の増進を図ることなどを任務としており、その一環として、対日理解を増進し我が国との友好関係を一層促進するなどのため、対外経済関係、文化交流その他の外交に関する国際会議等を開催したり、諸外国の元首、閣僚等の要人や将来その国で指導的地位につくであろう青年等を招へいしたりするなどしている。
 そして、これらの事業の実施に際して、庁費、報償費、文化人等招へい費等多くの科目から毎年度多額の経費を支出している。

(外務省が実施した調査の概要)

 平成13年8月、12年度に開催された九州・沖縄サミットに際してハイヤー経費を水増しして請求させたことにより、職員が詐欺罪で起訴された(平成12年度決算検査報告参照)
 また、13年9月、7年度に東京及び大阪で開催されたアジア太平洋経済協力会議(以下「APEC会議」という。)に際して会場借料等を水増しして請求させたことにより、職員が詐欺罪で起訴された。
 外務省では、職員による上記のような一連の不祥事を受け、7年4月から13年7月までの6年4箇月にわたる省内各部局とホテル業、ハイヤー業、事務機器販売業、旅行業及び百貨店業の各業種の取引先計31業者との間の取引の実態について緊急に調査を実施した。
 調査に当たっては、取引先から取り寄せた会計帳簿等の上で比較的容易に把握することができる費消金額の確認等に重点をおいて実施した。
 そして、13年11月30日に公表した調査結果報告によれば、省内全119課室のうち71課室で、取引先に対して支払った金額と実際に要した経費との差額を、いわゆるプール金として積み立てていたこと、その費消金額は計159,976,098円であり、調査結果公表時点の取引先におけるプール金の残高は計42,405,837円であることが判明したとしている。
 また、APEC会議に際して会場借料等を水増しして請求させたことにより起訴された職員に対して別途に実施した調査等を通じて、欧州の青年を我が国に招へいし、研修の実施や我が国の青年との交流等を行う欧州青年招へい事業の実施に際して、同職員等が外務省認可の公益法人から事業費の残額計25,519,703円を受け取っていながら、これを国庫に返納していない事態が判明したとしている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 外務本省の各課室等では、国際会議等の開催や諸外国要人の接遇等の日程調整や会場設営等の事務を行っており、これに伴って、取引先に見積書、請求書等の提出を求めたり、支出依頼書を作成したりするなどして、これらを契約締結、支出手続等の事務を行っている会計課に提出している。
 本院は、これらの事務において、会計経理が会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)等の会計法令等に従い適正に行われているかを検査することとした。そして、外務省の調査が主として費消面に着眼したのに対して、本院は、プール金を積み立てているものについて、それらがどの支払からいくら積み立てられたかに着眼して分析した。
 また、欧州青年招へい事業において前記の事態が判明していたことから、その他の地域の青年等招へい事業も含めて、事業費の残額が国庫に適切に返納されているかを検査することとした。
 なお、プール金等の費消についても、可能な限り、その使途を確認することとした。

(検査の対象)

 本院は、証拠書類等の関係書類が保存されている7年度から13年度までの支払について検査することとした。そして、外務省の調査においてプール金が積み立てられていることが判明した9業者に、本院が前記APEC会議の関連経費を検査している過程で同様の事実が新たに判明した1業者を追加した計10業者に対する支払計9,003件、4,084,643,990円を検査の対象とした。
 また、青年等招へい事業については、西欧第一課ほか2課において7年度から12年度までに実施された事業計19件、事業費計173,125,700円を検査の対象とした。

(検査の結果)

 検査の結果、国際会議の開催等や外国要人等の招へいにおいて、支払金額を上乗せすることにより差額をプール金として積み立てていたり、青年等招へい事業において、事業費の残額を国庫に返納していなかったりしている不適切な事態が、次のとおり見受けられた。

(1) 支払金額を上乗せして積み立てていたプール金について

ア プール金の全体額

 本院は、支払1件ごとに、支出決定決議書と取引先の会計帳簿等とを照合することとし、外務省の調査において取引先から既に取り寄せていた会計帳簿等のほかに、売掛金台帳等の書類提出も求めてプール金額を精査した。
 検査の結果、大臣官房総務課ほか10部局62課室等において、取引先への支払計1,172件、1,375,494,199円の中から、計286,424,466円のプール金を取引先に積み立てていた。
 これを年度別に示すと表1のとおりである。

表1 年度別内訳

7年度 223件 1億2505万余円
8年度 170件 3238万余円
9年度 185件 3307万余円
10年度 198件 2187万余円
11年度 215件 2672万余円
12年度 171件 4650万余円
13年度 10件 80万余円
1,172件 2億8642万余円

 また、積み立てたプール金の主な科目及び積立金額の多い課室等は表2、表3のとおりである。

表2 科目別内訳

(項)外務本省 (目)報償費 597件 5968万余円
(項)外務本省
 (目)アジア太平洋経済協力閣僚会議等開催庁費
3件 5955万余円
(項)外務本省 (目)招へい外国人滞在費 209件 4392万余円

表3 課室等別内訳

APEC準備事務局 3件 7593万余円
サミット準備事務局 4件 2400万余円
報道課 2件 1457万余円
国際経済第一課 20件 1380万余円
西欧第一課 44件 1237万余円

 このほか、取引先の会計帳簿等により一定金額が積み立てられていることは確認できるものの、支出決定決議書と取引先の会計帳簿等とを照合しても、その発生過程を特定できないものが、計252件、66,279,999円あった。
 また、取引先の会計帳簿等によると、7年度当初において既に、取引先4業者において計107,241,224円が積み立てられていたことが判明した。この金額は6年度以前の支払から積み立てられていたものと考えられるが、6年度以前の証拠書類は保存期間が経過していて残存していないなどのため、それらがどのようにして積み立てられたかを解明することはできなかった。
 一方、取引先の会計帳簿等によると、7年4月から13年9月までの間に計3,565件、403,528,754円が費消されており、13年9月末現在で取引先に計55,801,798円の残高があった。
 なお、上記会計帳簿等の一部に記載ミス等も見受けられるため、7年度当初既に積み立てられていた金額に7年度以降の積立額を加え、7年度以降の費消額を減じても、13年9月末現在の残高とは615,137円一致しない。

イ 発生過程

 各課室等においては、会議や接遇等の行事に当たり、会食等の出席人数が突然増加変更になったり、会議で新たな備品を急きょ使用することになったりするなどの不測の事態に臨機応変に対応し、業務を円滑に遂行することが必要であるとして、特定の取引先との契約に際し、人数、数量等を上乗せした見積書を提出させていた。しかし、各課室等では、実際には余裕を見込んだ人数、数量等を下回った場合でも、取引先に対して、これに相当する金額を減額することなく見積書記載の金額の請求書を提出するよう指示することが半ば慣例化していた。また、このような指示を頻繁に受けていた取引先では、自らの判断で見積書どおりの人数、数量等により請求書を発行していた。この請求書の提出を受けた各課室等はこれを会計課に提出し、会計課では支出の手続を行っていた。そして、取引先に支払われた金額と実際に要した経費との差額を取引先にプール金として積み立てていた。
 このようにして積み立てたプール金の中には、実際には会議等を行っていないのにあたかも行ったように装い、架空の請求書を発行させ、支払額の全額をプール金として積み立てているものが計356件、68,618,485円あった。
 さらに、プール金を積み立てたものの中には、前記のように、APEC会議に際して会場借料等を水増しして請求させたことにより、職員が起訴された事態がある。
 これらの事例を示すと次のとおりである。

<事例1>
 アフリカ第二課では、平成7年12月に、同課が所掌している国の閣僚の招へいに際し、宿泊先となったホテル業者から、室料、設宴等に要する経費として2,407,790円の見積書を徴していた。そして、招へい終了後、同社から2,389,133円の請求書の提出を受け、これに基づき会計課は、支出決定を行った上、同額を支払っていた。しかし、同社の売掛金台帳等によれば、この金額は、室料については部屋数を上乗せしたり、設宴費については実際には洋食レストランで行ったにもかかわらず高級日本料理店で行ったものとしたりするなどして請求させたものであり、実際に要した経費は882,022円であった。そして、差額の1,507,111円を同社にプール金として積み立てていた。

<事例2>
 北米第一課では、平成11年9月に、同課が所掌している国の閣僚の招へいに際し、宿泊先となったホテル業者から、同ホテル内にある日本料理店で15名が出席する局長主催の設宴に要する経費として547,100円の見積書を徴していた。そして、招へい終了後、同社から519,480円の請求書の提出を受け、これに基づき会計課は、支出決定を行った上、同額を支払っていた。しかし、設宴予定日には、別のホテルで大規模なレセプションが開催されており、この設宴は実際には行われておらず、全額を同社にプール金として積み立てていた。

<事例3>
 APEC準備事務局では、平成7年10月及び11月にそれぞれ東京及び大阪で開催されたAPEC会議の開催に際し、会場となったホテル業者から、会場借料や設宴等に要する経費として、422,158,761円の見積書を徴していた。そして、会議終了後、同社から見積額と同額の請求書の提出を受け、これに基づき会計課は、支出決定を行った上、同額を支払っていた。しかし、この金額は、同事務局職員の浅川某が自ら利用する目的で同社の営業担当者と共謀して、43,872,325円水増ししたものであった。そして、この水増額を同社にプール金として積み立てていた。

ウ 新たな取引先におけるプール金

 前記「ア プール金の全体額」のうち、本院がAPEC会議に係る他の経費を検査している過程で、外務省が調査対象としていなかった新たな取引先において判明したプール金の概要は、次のとおりである。
 7年11月に大阪市内のホテルにおいて開催されたAPEC会議の開催に際し、報道課の職員が中心となって設置されたAPECプレス準備室では、広告代理業者からプレスセンターの設営に係る経費として、187,675,720円の見積書を徴していた。そして、会議終了後、同額の請求書の提出を受け、これに基づき会計課は、支出決定を行った上、同額を支払っていた。
 しかし、この金額は、契約締結時までに必要な機材等を細部にわたって確定することが困難なため、会議開催中に急きょ必要となる機材の調達に備えるとの理由から、同準備室が同社から提出された見積額に10,000,000円を上乗せさせたものであった。同準備室では、この上乗せ分を会議開催中に使用することがなかったため、プール金として同社に積み立てていた。そして、会議終了後に、このプール金を、職員が会議開催中に宿泊した同ホテルの宿泊費に充当することにして同社に対してホテル業者に支払うよう指示し、同社はホテル業者に支払っていた。
 なお、同準備室では、職員の宿泊料を一括して支払うため、大阪に出張した89人の職員に対して支給された旅費の中から宿泊費を一括して支払うこととして計9,553,200円を徴収していたが、上記のとおりホテル業者に支払う必要がなくなったため、報道課で同額を管理していた。

エ 使途

 本院では、外務省が実施した前記の調査で確認していなかった売掛金台帳等も精査した結果、前記のとおり計3,565件、403,528,754円の費消があることを確認した。その使途を分類すると、次のとおりである。

〔1〕ホテルでの飲食代に充てられていたもの 1,899件 1億4092万余円
〔2〕ホテルの宿泊代に充てられていたもの 595件 9658万余円
〔3〕ホテル利用券等クーポン券の発券に充てられていたもの 65件 1677万余円
〔4〕事務費等その他に充てられていたもの 113件 1391万余円
〔5〕取引先の会計帳簿等によってもその使途が不明なものなど 893件 1億3533万余円

(2) 国庫に返納されていなかった事業費の残額について

ア 事業費の残額

 検査の対象とした前記の青年等招へい事業計19件(事業費計173,125,700円)のすべてについて、事業費に残額が生じているのにこれを国庫に返納しておらず、その額は計27,489,029円となっていた。
 これを課別に示すと表4のとおりである。

表4 課別内訳

西欧第一課 7〜12年度 6件 2551万余円
中・東欧課 8〜12年度 7件 171万余円
中南米第二課 7〜9年度 6件 25万余円
19件 2748万余円

イ 発生過程

 上記の3課では、事業の実施に当たって、被招へい者の航空券や国内交通手段の手配等の業務を、外務省認可の公益法人に委託していた。また、外務省から同公益法人に対して、被招へい者の本邦滞在中の宿泊費、食費及び雑費の必要額が概算で別途に渡されていて、同公益法人は、研修期間中におけるこれらの経費の支払事務を行い、研修終了後、担当課に残額を返納していた。しかし、これらの課では、この残額を国庫に返納していなかった。

ウ 使途

 APEC会議に際して会場借料等を水増しして請求させたことにより起訴された西欧第一課の職員等は、返納された残額を個人的に使用するために管理していた。また、中・東欧課及び中南米第二課の職員は、同じく返納された残額を課内で使用するために管理しており、その一部はタクシー代等に充てられていた。
 このように、支払金額の上乗せによって計286,424,466円のプール金を積み立てていたり、事業費の残額計27,489,029円を国庫に返納しなかったりしている事態は、会計法令等に違反し、著しく不当であると認められる。
 このような事態が生じていたのは、外務省において、職員全般における公金に対する認識が著しく欠如していたこと、会計法令等を遵守するよう職員に対し徹底していなかったことなどによると認められる。