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  • 平成14年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
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  • 不当事項|
  • 医療費(58)(59)

労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が適正でなかったもの


(59)労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が適正でなかったもの

会計名及び科目 労働保険特別会計(労災勘定) (項)保険給付費
部局等の名称 厚生労働本省(支出庁)
北海道労働局ほか14労働局(審査庁)
支払の相手方 318医療機関
不適正な支払となっていた労災診療費 手術料、入院料、注射料等
不適正支払額 52,943,061円(平成13、14両年度)

1 保険給付の概要

(労働者災害補償保険)

 労働者災害補償保険は、労働者の業務上の事由又は通勤による負傷、疾病等に対し療養の給付等の保険給付を行うほか、労働福祉事業を行う保険である。

(療養の給付に要する診療費の支払)

 療養の給付は、保険給付の一環として、都道府県労働局長の指定する病院若しくは診療所又は労働福祉事業で設置された病院において、負傷又は発病した労働者(以下「傷病労働者」という。)に対し診察、処置、手術等(以下「診療」という。)を行うものである。そして、診療を行ったこれらの医療機関は、都道府県労働局に対して診療に要した費用(以下「労災診療費」という。)を請求することとなっており、都道府県労働局で請求の内容を審査し、その結果に基づき、厚生労働本省において労災診療費を支払うこととなっている。
 労災診療費は、「労災診療費算定基準について」(昭和51年基発第72号労働省労働基準局長通達)に基づき算定することとなっている。この算定基準によれば、労災診療費は、労災診療の特殊性などを考慮して、〔1〕 健康保険法(大正11年法律第70号)に基づく診療報酬点数表の点数(以下「健保点数」という。)に12円(法人税等が非課税となっている公立病院等については11円50銭)を乗じて算定すること、〔2〕 初診料、再診料等特定の診療項目については、健保点数とは異なる点数又は金額を別に定め、これにより算定することとなっている。

2 検査の結果

(検査の対象)

 労災診療費のうち手術料、入院料等に着目して、北海道労働局ほか15労働局の審査に係る平成13、14両年度の労災診療費の支払についてその適否を検査した。

(不適正支払の事態)

 検査したところ、北海道労働局ほか14労働局の審査に係る労災診療費のうち、手術料、入院料、注射料、指導管理料、麻酔料等が適正に支払われていなかったものが、318医療機関について52,943,061円あった。
 これらの事態について、その主なものを示すと次のとおりである。
ア 手術料に関するもの
 手術料は、創傷処理、植皮術等の区分ごとの所定点数により算定することとなっている。
 しかし、北海道労働局ほか14労働局管内の205医療機関では、本来算定すべき区分の所定点数によらず、異なる区分のより高い所定点数により算定したり、算定できる要件を満たしていないのに算定したりなどしていた。このため、手術料312件、29,516,838円が適正に支払われていなかった。
イ 入院料に関するもの
 傷病労働者が医師又は看護師の常時監視を要する症状であるなどの要件に該当し、医療機関で個室から4人部屋までの病室に収容した場合、個室、2人部屋等の別に算定基準に定められた金額を限度(以下、この額を「上限金額」という。)に、各医療機関が表示している金額を入院室料加算として算定できることとなっている。
 また、入院基本料は、入院期間に応じ、所定点数を加算するなどして算定することとなっている。そして、傷病労働者が医療機関を退院後3月を経過する前に同一傷病により同一の医療機関に再度入院した場合は、原則として当該医療機関への初回入院日を起算日として入院期間を計算することとなっている。
 しかし、北海道労働局ほか14労働局管内の85医療機関では、入院室料加算について当該医療機関が表示している金額によらずに上限金額により算定したり、入院基本料について退院後3月を経過する前に同一傷病により同一の医療機関に再度入院しているのに、再度入院した日を起算日とした入院期間により所定点数を加算して算定したりなどしていた。このため、入院料569件、15,767,906円が適正に支払われていなかった。
ウ 注射料に関するもの
 薬剤には薬事法(昭和35年法律第145号)に基づいて承認された効能・効果等がある。そして、薬剤の治療効果を確保しつつ、その適正かつ効率的な使用を促進するため、健康保険においては、必要に応じて保険適用上の取扱い等が定められており、労働者災害補償保険上の取扱いは健康保険に準拠することとなっている。
 しかし、北海道労働局ほか6労働局管内の12医療機関では、注射に使用する薬剤について定められた保険適用上の取扱いと異なる場合に使用して、当該薬剤料を算定するなどしていた。このため、注射料34件、2,037,101円が適正に支払われていなかった。
 このような事態が生じていたのは、医療機関が労災診療費を誤って算定し請求していたのに、前記の15労働局において、これに対する審査が十分でないまま支払額を決定していたことによると認められる。
 上記の適正に支払われていなかった労災診療費の額を労働局別に示すと次のとおりである。

労働局名 医療機関数 不適正支払件数 不適正支払額
    千円
北海道労働局 19 42 3,074
岩手労働局 13 145 1,129
茨城労働局 16 29 2,823
東京労働局 38 171 5,235
神奈川労働局 14 27 1,976
富山労働局 15 48 1,889
長野労働局 23 68 2,965
静岡労働局 19 68 4,023
愛知労働局 21 50 2,138
三重労働局 9 20 983
滋賀労働局 4 20 650
大阪労働局 43 131 7,974
兵庫労働局 37 456 9,196
広島労働局 29 165 5,774
宮崎労働局 18 84 3,105
318 1,524 52,943