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  • 平成14年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

農業構造改善事業等により設置した農畜産物処理加工施設等において、地域の農畜産物を活用することなどにより、事業効果の発現を図るよう改善させたもの


(1)農業構造改善事業等により設置した農畜産物処理加工施設等において、地域の農畜産物を活用することなどにより、事業効果の発現を図るよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)農業構造改善対策費
部局等の名称 農林水産本省、東北、関東、北陸、東海、中国四国、九州各農政局
補助の根拠 予算補助
補助事業者 北海道ほか12県
間接補助事業者
(事業主体)
市3、町12、村3、農業協同組合6、その他5、計29事業主体
補助事業 経営基盤確立農業構造改善等
補助事業の概要 高品質で付加価値の高い農畜産物の産地形成等を図り、農家所得の拡大等を目的として、農畜産物処理加工施設等の整備を行うもの
効果が十分発現していない施設 34施設
上記の施設に係る事業費 85億7341万円
上記に対する国庫補助金 44億3584万円

1 事業の概要

(農業構造改善事業等の概要)

 農林水産省では、地域農業基盤確立農業構造改善促進対策要綱(平成7年7構改B第89号農林水産事務次官依命通達)等に基づき、21世紀を展望した望ましい農業構造の実現に向けた地域農業発展のための基盤の確立を図るため、経営基盤確立農業構造改善事業、地域連携確立農業構造改善事業、農村資源活用農業構造改善事業等(以下、これらを「農業構造改善事業等」という。)の国庫補助事業を実施している。
 そして、市町村等の事業主体では、上記の事業において、高品質で付加価値の高い農畜産物の産地形成、処理加工の高度化、地域の農畜産物の高品質化、新たな農業関連産業の育成等を図り、農家所得の拡大等を目的として、農畜産物の処理・加工、販売、食材供給等を行うための農畜産物処理加工施設、産地形成促進施設、総合交流ターミナル施設、地域食材供給施設、食の健康拠点施設等(以下、これらを「農畜産物処理加工施設等」という。)を整備している。これらの施設の概要は次のとおりである。
(ア) 農畜産物処理加工施設
 地域の農畜産物の処理・加工、冷蔵、貯蔵、包装用機械施設等
(イ) 産地形成促進施設
 地域の農畜産物の販路拡大、鮮度保持、貯蔵用施設等
(ウ) 総合交流ターミナル施設
 地域の特産物の展示、伝統文化の伝承、特産物の手作り体験、地域内の総合案内、地域に賦存する諸資源を活かした滞在型交流の推進のために必要な機能を有する施設
(エ) 地域食材供給施設
 滞在型宿泊施設等に供給する地域内の食材の購入、加工、配布のために必要な加工室、貯蔵室、処理加工機械施設等
(オ) 食の健康拠点施設
 地域の農畜産物の調理・加工施設、地域に賦存する諸資源を活かした研修・滞在施設等の複合施設

(事業の実施)

 農業構造改善事業等の実施に当たっては、市町村長等が、担い手の育成及び地域農業の振興に関する具体的な目標(以下「改善目標」という。)及び当該目標を達成するために必要な事業等を明記した構造改善計画を作成することとなっている。都道府県知事はこれを審査して、おおむね5年以内に改善目標が達成されることが見込まれることなどの要件に適合すると認めたものについて、あらかじめ地方農政局長等と協議のうえこれを認定することとなっている。
 そして、事業主体は、認定された構造改善計画に基づき、農畜産物処理加工施設等の整備事業の実施計画(以下「事業計画」という。)を策定して、これを実施することとなっている。

(構造改善計画の達成状況の報告等)

 農林水産省では、改善目標の達成状況、事業の対象としている地区の取組の状況等を把握するため、整備事業が完了した年度の翌年度から3年間、毎年度、構造改善計画の達成状況報告書を市町村長等に作成させ、都道府県知事を通じて報告させることとしている。
 また、農林水産省では、施設の利活用が事業計画に掲げられた目標(以下「計画目標」という。)の70%未満となっている施設については、都道府県に対して、事業主体が早急に個別の改善方策を検討し、計画目標の早期達成等に必要な措置を講じるよう指導することとしている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 農林水産省では、従来から農業構造改善事業等により農畜産物処理加工施設等の整備を行ってきており、平成12年度以降も経営構造対策事業により引き続き同種の施設整備を進めている。また、近年は、農林水産省、都道府県等において地産地消(注1) の推進に積極的に取り組んでおり、事業計画において地域の農畜産物を活用することとした農畜産物処理加工施設等の整備が今後も多数見込まれる状況にある。
 そこで、農業構造改善事業等により整備された上記の施設について、事業計画の主眼となっている地域の農畜産物の活用が十分なされているか、農畜産物の処理・加工、販売、食材供給等が事業計画に従って効果的に実施されているか、また、その収支が地域に過大な負担を及ぼさぬよう均衡のとれたものとなっているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象)

 北海道ほか15県(注2) において、8年度から12年度までに農業構造改善事業等により整備された農畜産物処理加工施設等(80施設、事業費計237億6376万余円、これに係る国庫補助金計118億5114万円)を対象に検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、北海道ほか12県(注3) の34施設(事業費計85億7341万余円、これに係る国庫補助金計44億3584万余円)において、次表のとおり、地域の農畜産物が十分活用されていなかったり、施設の利用実績が計画目標を大幅に下回っていたり、施設の収支が大幅な赤字になっていたりしていて、補助事業の効果が十分発現しておらず、適切とは認められない事態が見受けられた。

検査対象施設別・態様別の事業費、国庫補助金
施設区分 項目 検査施行数 事業の効果が十分発現していない施設  
(1)地域の農畜産物が十分活用されていない施設 (2)施設の利用実績が計画目標を大幅に下回っている施設 (3)施設の収支が大幅な赤字になっている施設
農畜産物処理加工施設 施設数
事業費
国庫補助金
21
58億4915万余円
28億9069万余円
8
20億9563万余円
11億3362万余円
1
8億9471万余円
4億4370万余円
8
20億9563万余円
11億3362万余円
3
3億9713万余円
1億8977万余円
産地形成促進施設 施設数
事業費
国庫補助金
24
36億3980万余円
18億1181万余円
10
11億5973万余円
5億7105万円
3
6億0750万余円
2億9616万余円
6
4億9512万余円
2億4716万余円
1
5710万余円
2772万円
総合交流ターミナル施設 施設数
事業費
国庫補助金
19
91億5844万余円
45億7829万余円
7
24億7302万余円
13億0812万余円
6
21億4374万余円
11億4812万余円
2
4億6945万余円
2億3008万余円


地域食材供給施設 施設数
事業費
国庫補助金
7
16億1786万余円
7億9588万余円
4
7億2823万余円
3億5907万余円
3
6億3481万余円
3億1276万余円
1
9341万余円
4631万余円


食の健康拠点施設 施設数
事業費
国庫補助金
2
27億3540万余円
13億6770万余円
1
16億4758万円
8億2379万円


1
16億4758万円
8億2379万円
1
16億4758万円
8億2379万円
その他の施設 施設数
事業費
国庫補助金
7
7億6309万余円
4億0674万余円
4
4億6920万余円
2億4018万円
2
3億1160万余円
1億4942万余円
2
1億5759万余円
9075万余円


(計) 施設数
事業費
国庫補助金
80
237億6376万余円
118億5114万円
34
85億7341万余円
44億3584万余円
15
45億9239万余円
23億5017万余円
20
49億5881万余円
25億7174万円
5
21億0181万余円
10億4128万余円

上記(1)(2)(3)の施設には、重複しているものがある。

 これらの事態について、態様別に示すと次のとおりである。

(1) 地域の農畜産物が十分活用されていないもの
10道県   14事業主体   15施設 事業費 45億9239万余円
国庫補助金 23億5017余円

 これらの施設は、事業計画において、地域の農畜産物を活用することにより、高品質で付加価値の高い農畜産物の産地形成等を図ることとしているにもかかわらず、地域の農畜産物の活用の実績が計画目標を大幅に下回っていた。

<事例>

 A町では、町内で生産された小麦を使用したうどんの販売拡大を通じて同町の小麦の生産振興を図ることなどを目的として、うどんの試食、販売、加工体験等を行う地域食材供給施設を事業費3億5000万円(国庫補助金1億7500万円)で整備している。そして、事業計画では、当該施設において、うどんのほか地域で生産された野菜等の食材を利用した加工食品を提供するなどすることとしていた。
 しかし、利用客の嗜好を十分に調査していなかったことなどから、町内で生産された小麦を使用したうどんが利用客に受け入れられなかったため、輸入小麦を使用したうどんを提供したり、その他の食材についても大半が地域外のものを使用したりしていた。
 この結果、当該施設において地域の農畜産物が十分活用されていない状況になっていた。

(2) 施設の利用実績が計画目標を大幅に下回っているもの
11道県   18事業主体   20施設 事業費 49億5881万余円
国庫補助金 25億7174万円

 これらの施設は、事業計画において予定された地域の農畜産物も含めた農畜産物全体の処理・加工、販売、食材供給等の実績が計画目標を大幅に下回っており、施設の利用が著しく低くなっていた。

<事例>

 B村では、地域で栽培されているアロエを産地化することなどにより、農家所得の向上等を図ることなどを目的として、有限会社Cが事業主体となって、農畜産物処理加工施設を事業費2億9479万余円(国庫補助金1億9652万余円)で整備している。そして、事業計画では、同施設において地域の栽培農家から買入れたアロエを搾汁処理するなどしてジュース等を製造し、これを販売することとしていた。
 しかし、地域のアロエ栽培農家が買入れ単価の高い業者と取り引きするなどしたため、事業計画上のジュース等の製造に必要なアロエが確保できなかったり、ジュース等の販売を予定していた会社との取引条件が整わなかったため、十分な販路が確保できなかったりしていた。
 このような状況から、平成12年度から14年度までの各年度におけるジュース等の販売額は、それぞれ事業計画で予定していた販売額に対して12年度約3%、13年度約6%、14年度約6%となっていて、施設の利用が著しく低くなっていた。

(3) 施設の収支が大幅な赤字になっているもの
4県   4事業主体   5施設 事業費 21億0181万余円
国庫補助金 10億4128万余円

 これらの施設は、収支が継続して赤字になっていて、これらの赤字額を事業主体が補てんするなど地域の負担となっており、施設の健全な運営が行われているとは認められない状況になっていた。

<事例>

 D村では、地域の農畜産物の生産拡大や新規作物の導入を図ることなどを目的として、農畜産物の処理・加工、販売、食材供給等の機能を複合した食の健康拠点施設を事業費16億4758万円(国庫補助金8億2379万円)で整備している。そして、事業計画では、同施設の管理運営を株式会社Eに委託し、地域の農畜産物を活用した飲食物を提供したり、これらを加工した食品を販売したりなどすることとしていた。
 しかし、平成10年度の営業開始から同施設の売上が低迷していて、売上高は計画を下回る状況が続いていた。
 このため、12年度から14年度までの各年度における同施設の収支は、それぞれ12年度約3900万円、13年度約4100万円、14年度約3400万円の大幅な赤字となっていて、これらの赤字額については、D村が株式会社Eに対して補てんするなど地域の負担となっており、健全な運営が行われているとは認められない状況になっていた。
[上記(1)、(2)、(3)の各事態に掲げた施設には重複しているものがある。]

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のようなことなどによると認められた。

ア 事業主体において

(ア) 高品質で付加価値の高い農畜産物の産地形成を図るなどの事業の目的に対する理解が十分でなく、地域の農畜産物を積極的に活用しようとする意識が低かったこと
(イ) 事業計画の策定段階において、地域の農畜産物の仕入先や販路の確保についての検討を十分に行っていなかったこと
(ウ) 地域の農畜産物の活用が十分でなかったり、施設の利用状況が低調になっていたり、収支が赤字になっていたりしている場合に、計画目標を達成するための見直しを図るという認識が十分でなかったこと

イ 道県において

(ア) 高品質で付加価値の高い農畜産物の産地形成を図るなどの事業の目的を理解させ、地域の農畜産物を積極的に活用させるといった事業主体に対する指導が十分でなかったこと
(イ) 事業計画において、地域の農畜産物の仕入先及び販路が十分確保されているかについての審査等が十分でなかったこと
(ウ) 施設の利活用が計画目標に達していない場合に、事業主体に対し、計画目標を達成するための改善指導を十分に行っていなかったこと

ウ 農林水産省において

(ア) 事業主体が事業目的に沿って事業を実施することの重要性を理解させるような道県に対する指導が十分でなかったこと
(イ) 事業計画において、地域の農畜産物の仕入先及び販路が十分確保されているかについての審査等が十分でなかったこと
(ウ) 施設の利活用が計画目標に達していない場合に、事業主体が計画目標を達成できるようにするため、道県に対し改善指導をすることとなっているのに、これを十分に行っていなかったこと
(エ) 達成状況報告書において、地域の農畜産物の活用状況及び施設の利用状況等が的確に把握できるようにしていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、15年11月に各地方農政局等に対して通知を発し、事業の効果が発現するよう次のように都道府県等に対して措置を講じた。
ア 事業主体が事業計画を策定するに当たっては、高品質で付加価値の高い農畜産物の産地形成を図るなどの事業の目的を十分理解させ、地域の農畜産物の仕入先や販路の確保について具体的な検討を行わせるとともに、地方農政局及び都道府県に対して、事業計画についての審査を適切に実施するよう指導した。
イ 地域の農畜産物の活用が十分でなかったり、利用状況が低調となっているなどの施設については、事業主体に改善計画の作成を徹底させることとし、地方農政局及び都道府県がその実施状況を把握する体制を整備した。
ウ 地域の農畜産物の活用状況及び施設の利用状況等を的確に把握できるような報告書を事業主体に作成させ、報告させることとした。

(注1) 地産地消 地域生産地域消費の略で、地域で生産された農畜産物を地域で消費すること
(注2) 北海道ほか15県 北海道、青森、岩手、秋田、茨城、石川、愛知、兵庫、岡山、広島、山口、香川、福岡、長崎、宮崎、沖縄各県
(注3) 北海道ほか12県 北海道、青森、岩手、茨城、石川、愛知、岡山、広島、山口、香川、長崎、宮崎、沖縄各県