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  • 平成14年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

漁港利用調整事業の実施に当たり、事業基本計画の審査を十分行うとともに事業の進ちょく状況等を的確に把握するなどして、事業効果を早期に発現させるよう改善させたもの


(4)漁港利用調整事業の実施に当たり、事業基本計画の審査を十分行うとともに事業の進ちょく状況等を的確に把握するなどして、事業効果を早期に発現させるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)水産庁 (項)水産基盤整備費
〔平成12年度以前は、(項)漁港漁村整備費〕
部局等の名称 水産庁
補助の根拠 予算補助
補助事業者
(事業主体)
5県1市
補助事業 漁港利用調整
補助事業の概要 漁港を利用する遊漁船等が増加していることに伴い、漁港内における漁船と遊漁船等とのトラブルを防止するため遊漁船等を専用に収容する施設を整備するもの
事業効果が十分発現していないと認めた漁港数 6漁港
補助対象事業費 48億0964万余円 (昭和63年度〜平成13年度)
上記に対する国庫補助金交付額 24億8473万円  

1 事業の概要

(事業の概要)

 水産庁では、遊漁船、ヨット、モーターボート等(以下、これらを「遊漁船等」という。)が増加し、漁船と漁港利用上のトラブルが発生するなど、漁業生産活動に支障を与える事例が増加していることから、このようなトラブルを解消するため、遊漁船等を分離収容する専用施設(以下「利用調整施設」という。)の整備を行う漁港利用調整事業(以下「調整事業」という。)を推進している。
 利用調整施設の整備は「漁港利用調整事業実施要領」(昭和62年62水港第2614号農林水産事務次官依命通知)等に基づいて行われており、当該漁港を管理する都道府県等が事業主体となって、昭和62年度から平成14年度までの間に35漁港で実施され、その事業費は、315億8963万余円(うち国庫補助金163億9108万余円)に上っている。

(調整事業の対象漁港)

 調整事業の対象となる漁港は、港内に遊漁船等が多いため漁業生産活動に支障が生じている漁港、周辺漁港の遊漁船等を集中させることにより、周辺漁港の利用調整が可能となる漁港などの要件のうちいずれかに該当し、かつ遊漁船等がおおむね40隻以上存在する漁港、又は事業実施後の遊漁船等利用隻数がおおむね40隻以上と見込まれる漁港などの要件に該当するものとされている。

(補助対象施設)

 主な補助対象施設は、利用調整施設を構成する外郭施設(防波堤、護岸等)、水域施設(航路、泊地等)及び係留施設(岸壁、桟橋等)などとなっている。このうち、係留施設については、当該漁港を拠点としていない遊漁船等を一時的に係留するためのもので不特定多数の者が利用するものが補助対象とされていることから、特定の者が長期的に利用する遊漁船等のための係留施設を必要とする場合には、都道府県等が単独事業により整備することとなっている。

(事業基本計画の承認)

 調整事業を実施しようとする都道府県等は、事業目的、漁港の現況、事業計画、資金計画等に関する事項を記載した事業基本計画を都道府県知事に提出し、都道府県知事は水産庁長官に対しその承認申請を行うこととされている。そして、水産庁長官は、都道府県知事から承認申請のあった事業基本計画が所定の要件を満たし、当該事業を実施することが適当であると認めた場合に、当該事業基本計画を承認することとしている。
 なお、この事業基本計画の作成に当たっては、現に漁港に存在する遊漁船等の隻数の調査を行うなどして利用調整施設の規模が決定されている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 遊漁船等の実態については、8年及び14年に水産庁及び国土交通省(旧運輸省、旧建設省)共同で全国実態調査を実施している。8年の調査結果によれば、漁港区域内の遊漁船等は約5万隻、14年の同調査(速報値)では6万隻で、約1万隻増加している。また、漁港区域内の遊漁船等のうち漁港管理者により認められた施設や区域以外の場所に係留等されている遊漁船等は3万隻以上存在しているとされており、漁船と遊漁船等との利用を調整することによって漁港利用の秩序を維持し、漁業生産活動の円滑化を図ることはますます重要となっている。
 以上のような状況を踏まえ、調整事業により整備された利用調整施設が、事業基本計画どおり、漁業生産活動に支障を与えないよう、遊漁船等を漁船と分離収容するための施設として、その目的を達しているか、国庫補助事業と単独事業が連携し、利用調整施設全体が一体となってその機能を有効に発揮しているかなどに着眼して検査を実施した。

(検査の対象)

 調整事業により施設を整備した前記35漁港のうち、供用開始後1年以上経過しているものは21漁港あり、このうち北海道ほか7県(注1) 14漁港で供用中の利用調整施設(補助対象事業費88億3596万余円、国庫補助金44億9789万余円)を対象として検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、岩手県ほか4県(注2) において6事業主体が整備した6漁港(補助対象事業費48億0964万余円、国庫補助金24億8473万円)の利用調整施設について、次のとおり、事業効果が十分発現していないと認められる事態が見受けられた。

(1) 国庫補助事業により外郭施設等は完成しているものの、単独事業により整備することとしている係留施設等が未整備であるなどしていて、施設全体としての事業効果が発現していないと認められるもの
3県 3事業主体 3漁港
補助対象事業費 21億1900万円
国庫補助金 11億2950万円

 これらは、国庫補助事業と単独事業とが連携し、一体として整備することにより、その機能を有効に発揮できるが、国庫補助事業により外郭施設等は完成しているものの、県等の財政措置が執られなかったことなどから単独事業による係留施設が整備されていなかったり、この施設の利用に係る条例の制定が遅れたりしていて、事業基本計画に沿った施設の利用ができない状態となっていたものである。

<事例>

 A県では、平成3年度から7年度までの間に、B町C漁港において、利用調整施設(防波堤160m、泊地12,700m 等)の整備を補助対象事業費420,000千円(国庫補助金280,000千円)で実施している。そして、事業基本計画によれば、県が不特定多数の者の一時的な利用に供するために国庫補助事業により整備する桟橋17隻分、また、町が単独事業により整備する外来船用の陸上保管施設90隻分、地元船用の桟橋及び陸上保管施設41隻分、計148隻分を整備することとしていた。
 しかし、県が整備した17隻分の桟橋は7年度に供用が開始され、町が整備することとしていた桟橋及び陸上保管施設131隻分のうち10隻分は10年度に整備されたものの、町単独事業に係る財政措置が執られなかったことなどにより121隻分はいまだ整備されていなかった。また、この10年度に整備を終えていた10隻分の施設も町の条例制定の遅れにより、15年4月の会計実地検査時点においていまだに供用開始されていない状況となっていた。

(2) 利用隻数が事業基本計画を大幅に下回っていて、国庫補助事業による施設整備事業の事業効果が十分に発現していないと認められるもの
3県 3事業主体 3漁港
補助対象事業費 26億9064万余円
国庫補助金 13億5523万円

 これらは、事前の調査や遊漁船等を利用調整施設へ誘導するための取組が十分でなかったなどのため、利用隻数が事業基本計画を大幅に下回る結果となっていたものである。

<事例>

 D県では、昭和63年度から平成9年度までの間に、E町F漁港において、利用調整施設(防波堤342m、護岸195m等)の整備を補助対象事業費2,008,900千円(国庫補助金1,004,450千円)で実施している。そして、事業基本計画によれば、事前の遊漁船等の隻数の調査等から、当該利用調整施設を拠点として利用する遊漁船等の収容隻数を205隻と決定し、施設整備を行うこととしていた。
 しかし、遊漁船等の所有者に対する事前の調査や周辺に存在する遊漁船等を本件施設へ誘導するための取組が十分でなかったことなどにより、14年度の収容隻数は75隻にとどまっていて、国庫補助事業による施設整備事業の事業効果が十分発現していない状況となっていた。
 上記のように、調整事業により整備した利用調整施設が、都道府県等の単独事業の遅れや、事前の調査等が十分でなかったことなどにより、事業基本計画に沿った利用がなされていないなどの事態は、多額の国庫補助金を投入して実施した事業の効果が十分発現しておらず、改善を図る要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、主として次のようなことによると認められた。

ア 都道府県等において

(ア) 事業基本計画策定の際、利用調整施設の利用について遊漁船等の所有者の意向等の調査を行っておらず、利用の見込みを十分検証しないまま施設規模を決定していたこと
(イ) 当該漁港周辺に存在する遊漁船等を利用調整施設へ誘導するための取組等が十分でなかったこと
(ウ) 事業の進ちょくに併せて単独事業の予算措置が講じられていなかったり、施設の利用に係る条例の制定が行われていなかったりしていて、事業効果を早期に発現させるための措置が講じられていなかったこと

イ 水産庁において

(ア) 都道府県等から提出された事業基本計画の承認に当たり、収容すべき遊漁船等所有者の意向等の調査、それを踏まえた施設規模の決定方法や都道府県等の資金計画等の審査が十分でなかったこと
(イ) 国庫補助事業終了後、都道府県等の単独事業の進ちょく状況、施設の利用状況について把握していなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、水産庁では、15年10月、事業効果が早期に発現されるよう次のような処置を講じた。
(1) 事業基本計画の承認に当たって、その審査を行うためのチェックリストを整備し、施設規模や単独事業に係る資金計画等について十分な審査を行える体制を整備した。
(2) 国庫補助事業が終了した施設については、終了後5年間(10年度以前に終了した施設については直近の過去5年間分)、都道府県等に対し単独事業の進ちょく状況、供用開始後の施設の利用状況等について報告を求め、供用開始後3年経過しても利用が低位にある施設については、改善計画を策定させ、必要な技術的助言・指導を行うこととした。
(3) 各都道府県に対して通知を発し、遊漁船等所有者の施設利用の見込みを十分に検証するなどして事業基本計画の策定を適切に行うとともに、計画段階から遊漁船等を利用調整施設へ誘導するための取組等を十分行うよう指導した。

(注1) 北海道ほか7県 北海道、岩手、富山、広島、山口、熊本、鹿児島、沖縄各県
(注2) 岩手県ほか4県 岩手、広島、熊本、鹿児島、沖縄各県