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補助金


(254)道路改築事業の実施に当たり、設計が適切でなかったため、ボックスカルバート等の所要の安全度が確保されていない状態になっているもの

会計名及び科目 道路整備特別会計 (項)道路事業費
部局等の名称 静岡県
補助の根拠 道路法(昭和27年法律第180号)
補助事業者
(事業主体)
静岡県
補助事業 県道村櫛三方原線道路改築
補助事業の概要 道路を新設するため、平成12、13両年度に、ボックスカルバート等を施工するもの
事業費 87,437,000円
上記に対する国庫補助金交付額 43,718,500円
不当と認める事業費 27,896,000円
不当と認める国庫補助金交付額 13,948,000円

1 補助事業の概要

 この補助事業は、静岡県が、県道村櫛三方原線の道路改築事業の一環として、浜松市古人見町地内において、道路を新設するため、平成12、13両年度にボックスカルバート(以下「カルバート」という。)の築造、盛土等を工事費87,437,000円(国庫補助金43,718,500円)で実施したものである。
 このうち、カルバートは、県道の盛土により遮断される既存の排水路の機能を維持するため、この排水路が道路下(最大土被り厚5.38m)を横断する延長56.6mにわたって築造するもので、高さ1.92m、幅2.32m(内空断面の高さ1.5m、幅1.9m)の鉄筋コンクリート構造となっている(参考図参照)
 そして、カルバートについては、次のように設計し、これにより施工していた。

(1) 基礎杭及び基礎コンクリートの設計について

 カルバートの基礎形式については、現地の土質調査の結果等から杭基礎とし、基礎杭及び基礎コンクリートの設計を次のように行っている。
(ア) 基礎杭について、「道路橋示方書・同解説」(社団法人日本道路協会編)に基づき、現地が軟弱地盤上の盛土箇所で圧密沈下が生じるおそれがあることから、杭の周面上向きに周面摩擦力(注1) が働く場合に加えて、杭の周面下向きに負の周面摩擦力(注1) が働く場合についても安全となるように設計する。
(イ) カルバート上部の盛土等によりカルバートに作用する鉛直土圧について、「道路土工カルバート工指針」(社団法人日本道路協会編。以下「カルバート工指針」という。)に基づいて算出する。その際、鉛直土圧係数(注2) を1.0として最大土被り厚から計算する。
 上記(ア)、(イ)により検討した結果、基礎杭として、外径350mm、長さ16m(上杭6m、下杭10mの継杭)のPHC杭(A種)(注3) を2列に計52本打設すれば、杭1本当たりの軸方向押込み力(常時)(注4) が杭1本当たりの軸方向許容押込み支持力(常時)を下回り、かつ、負の周面摩擦力を考慮した杭1本当たりの軸方向押込み力(常時)が負の周面摩擦力を考慮した杭1本当たりの許容支持力(常時)を下回るなどのことから、本件基礎杭は安定計算上安全であるとしている(参考図参照) 。そして、上流側の基礎杭25本については、下杭の打設中に支持層に達したことから、下杭のみを打設する設計に変更している。
 また、杭頭部が埋め込まれる基礎コンクリートについては、厚さ30cmの鉄筋コンクリートとすれば、これに作用する押抜きせん断応力度(注5) (常時)が許容押抜きせん断応力度(注5) (常時)を下回るなどのことから、本件基礎コンクリートは応力計算上安全であるとしている。

(2) カルバート本体の設計について

 カルバート本体については、請負業者がカルバート製作業者(以下「製作業者」という。)から購入した鉄筋コンクリート構造の工場製品(長さ1.3m〜2.0m、29個)を使用することとして同県へ材料使用承諾願等を提出し、承諾を得て施工している。
 カルバート本体の設計は請負業者から受注した製作業者が行い、鉛直土圧係数を1.0として最大土被り厚からカルバートに作用する鉛直土圧を計算するなどして、頂版のコンクリートの厚さを21cmとし、頂版の下面側の主鉄筋については、径16mmの鉄筋を13.7cm間隔で配置することとしている。そして、このように設計すれば、頂版のコンクリートに生ずるせん断応力度(注6) (常時)が許容せん断応力度(注6) (常時)を、頂版の下面側の主鉄筋に生ずる引張応力度(注7) (常時)が許容引張応力度(注7) (常時)をそれぞれ下回ることから、応力計算上安全であるとしている。

2 検査の結果

 検査したところ、本件基礎杭、基礎コンクリート及びカルバート本体の設計が、次のとおり適切でなかった。

(1) 基礎杭及び基礎コンクリートの設計について

 カルバート工指針によれば、杭基礎で、土被り厚をカルバートの幅で除した値が1.0以上となる場合には鉛直土圧係数を1.0から割り増しして鉛直土圧を計算することとされている。そして、正しい鉛直土圧係数を計算すると、本件カルバートの最大土被り厚5.38mをカルバートの幅2.32mで除した値は2.31となることから、カルバート工指針により鉛直土圧係数は1.35となり、鉛直土圧が過小に計算されていた。
 そこで、正しい鉛直土圧係数1.35により鉛直土圧を求めるなどして、杭1本当たりの軸方向押込み力(常時)、杭1本当たりの軸方向許容押込み支持力(常時)等を計算すると、次のとおり、基礎杭は安定計算上、基礎コンクリートは応力計算上安全な範囲を超えている。
(ア) 設計変更していない基礎杭について、負の周面摩擦力を考慮した杭1本当たりの軸方向押込み力(常時)が448.1kNとなり、負の周面摩擦力を考慮した杭1本当たりの許容支持力(常時)325.0kNを大幅に上回っている。
(イ) 設計変更した基礎杭について、杭1本当たりの軸方向押込み力(常時)が473.8kNとなり、杭1本当たりの軸方向許容押込み支持力(常時)430.5kNを上回っている。
(ウ) 基礎コンクリートに作用する押抜きせん断応力度(常時)が1.01N/mm となり、許容押抜きせん断応力度(常時)0.85N/mm を上回っている。
 このような事態が生じていたのは、同県において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。

(2) カルバート本体の設計について

 前記(1)と同様、鉛直土圧係数を1.35とすべきであるのに、誤って1.0としていたため、鉛直土圧が過小に計算されていた。
 そこで、正しい鉛直土圧係数1.35により鉛直土圧を求めるなどしてカルバート本体頂版のコンクリート及び下面側の主鉄筋について計算すると、次のとおり、応力計算上安全な範囲を超えている。
(ア) 頂版のコンクリートに生ずるせん断応力度(常時)が0.62N/mm となり、許容せん断応力度(常時)0.55N/mm を上回っている。
(イ) 頂版の下面側の主鉄筋に生ずる引張応力度(常時)が183.2N/mm となり、許容引張応力度(常時)160N/mm を上回っている。
 また、カルバート本体頂版の下面側には、多数のき裂が生じている状況であった。
 このような事態が生じていたのは、同県において、カルバート本体の設計に誤りがあったのに、請負業者から提出された材料使用承諾願を承諾するなど、審査が適切でなかったことなどによると認められる。
 したがって、本件カルバートは、設計が適切でなかったため、土被り厚が小さいことなどから安定計算上又は応力計算上安全となる部分を除いた、基礎杭34本、基礎コンクリート延長49.0m、及びその上部のカルバート本体延長50.0mと盛土等(これらの工事費相当額27,896,000円)は、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金相当額13,948,000円が不当と認められる。

(注1) 周面摩擦力・負の周面摩擦力 「周面摩擦力」とは、杭の周面と地盤とが接する摩擦によって鉛直荷重に抵抗する力をいう。杭周辺が沈下する場合、杭には下向きの摩擦力が作用する。これを「負の周面摩擦力」という。
(注2) 鉛直土圧係数 カルバートを設計する際に、その上にある盛土の重量を算定するのに用いる係数。カルバート上の盛土とカルバート周辺の盛土には相対変位が生じることから、カルバート上部の盛土に作用する下向きのせん断力を考慮して求められる。
(注3) PHC杭(A種) 引張強度を高めるため、あらかじめ緊張したPC鋼材を配置することにより、コンクリートに圧縮応力を与え引張応力を打ち消すように設計されたコンクリート杭をいい、うちA種は圧縮応力度が最も低いものである。
(注4) 常時 地震時などに対応する表現で、土圧など常に作用している荷重及び輪荷重など作用頻度が比較的高い荷重を考慮する場合をいう。
(注5) 押抜きせん断応力度・許容押抜きせん断応力度 「押抜きせん断応力度」とは、平板状のコンクリートに円すい状又は角すい状にコンクリートを押し抜こうとする力がかかったとき、材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容押抜きせん断応力度」という。
(注6) せん断応力度・許容せん断応力度 「せん断応力度」とは、外力が材に作用し、これを切断しようとする力がかかったとき、そのために材の内部に生じる力の単位面積当たりの大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容せん断応力度」という。
(注7) 引張応力度・許容引張応力度 「引張応力度」とは、材に外から引張力がかかったとき、そのために材の内部に生じる力の単位面積当たりの大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容引張応力度」という。

(参考図)

(参考図)

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