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  • 平成14年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 国土交通省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

自動車整備近代化資金について、事業計画の達成状況を適切に把握することなどにより、資金の目的のために有効に活用するよう改善させたもの


(1)自動車整備近代化資金について、事業計画の達成状況を適切に把握することなどにより、資金の目的のために有効に活用するよう改善させたもの

会計名及び科目 自動車検査登録特別会計 (項)業務取扱費
部局等の名称 国土交通本省(平成13年1月5日以前は運輸本省)
補助の根拠 予算補助
補助事業者
(事業主体)
日本自動車整備商工組合連合会
補助金 指定自動車整備促進対策費補助金
補助金の概要 自動車整備近代化資金による貸付けに係る債務保証及び利子補給を行うため、日本自動車整備商工組合連合会に対して、その造成額の一部を補助するもの
自動車整備近代化資金による貸付けに係る債務保証及び利子補給 債務保証 1779億3809万余円 (昭和58年度〜平成14年度)
利子補給 96億6125万余円 (昭和58年度〜平成14年度)
自動車整備近代化資金の造成のために交付された国庫補助金の合計   77億3000万円 (昭和58年度〜平成14年度)
有効に活用されていない貸付けに係る債務保証(代位弁済)及び利子補給 債務保証 126億5740万円 (平成元年度〜14年度)
(代位弁済 3億0968万余円)  
利子補給 6億3179万余円 (平成元年度〜14年度)
上記に対する国庫補助金相当額   4億7074万円  

1 補助金の概要

(指定自動車整備促進対策費補助金の概要)

 国土交通省(平成13年1月5日以前は運輸省)では、指定自動車整備促進対策費補助金交付要綱(昭和58年自整第230号。以下「交付要綱」という。)に基づき、自動車の検査の一部について地方運輸局長が指定した自動車分解整備事業者が国に代わって検査を行う割合(以下「指定整備率」という。)の維持・向上を図り、もって検査業務の合理化に寄与することを目的として、日本自動車整備商工組合連合会(以下「整商連」という。)に対し、指定自動車整備促進対策費補助金を交付している。
 この補助金は、自動車整備の近代化のための貸付けに係る債務保証及び利子補給を行うために、整商連が造成している自動車整備近代化資金(以下「近代化資金」という。)に対し、その造成額の2分の1を交付しているものであり、第1次(昭和58、59両年度)、第2次(平成6〜9年度)、第3次(平成12〜14年度)で計77億3000万円が交付されている。
 整商連では、上記補助金に各都府県の自動車整備商工組合(北海道は各地区の自動車整備協同組合。以下、これらを「商工組合等」という。)が、組合員である自動車分解整備事業者(以下「整備事業者」という。)から募集し、取りまとめた出えん金(補助金と同額の計77億3000万円)を合わせて近代化資金を造成している。

(近代化資金制度の概要)

 整商連では、自動車整備近代化資金業務方法書(昭和58年自整第242号。以下「業務方法書」という。)に基づき、下図のとおり、造成した資金を商工組合中央金庫(以下「商工中金」という。)に預託している。商工中金では、預託された資金の10倍までの額を整備事業者に対する貸付けに必要な資金として商工組合等に貸し付け、商工組合等では、これを、「自動車整備近代化資金に基づく転貸融資事業等実施要領」(以下「実施要領」という。)に基づき、自動車整備の近代化のための設備資金(貸付期間7年以内、据置期間1年以内)及び運転資金(貸付期間3年以内、据置期間4箇月以内)として貸し付けている。

近代化資金の概要図

近代化資金の概要図

 整商連では、商工組合等が行った商工中金からの借入れに対して、審査のうえ債務保証を行い、返済が滞った整備事業者への貸付けについて商工中金へ代位弁済を行うほか、整備事業者への設備資金の貸付けについて利子補給(年2%以内)を実施している。
 また、業務方法書によると、整商連は、預託金の運用益を保証債務の弁済及び利子補給等に充当し、不足する金額については資金を取り崩して充当することとされており、事業の終了時とされている平成29年度末に残余財産がある場合には、助成割合に応じて国等にこれを返納することとされている。
 そして、交付要綱によると、整商連は、債務保証事業等の状況報告を、毎年度、国土交通大臣(平成13年1月5日以前は運輸大臣)に提出することとされている。

(債務保証及び利子補給)

 商工組合等による整備事業者への貸付件数及び貸付金額は、昭和58年度から平成14年度までの間において、設備資金11,421件、1533億2809万余円、運転資金4,954件、246億0999万余円、計16,375件、1779億3809万余円となっている。そして、商工組合等は、14年度までに、貸付金額と同額の1779億3809万余円を商工中金から借り入れている。
 整商連では、上記の借入金額の全額について債務保証を行っており、14年度末現在で、返済が滞った整備事業者の債務30億6177万余円を商工中金へ代位弁済し、このうち12億3077万余円を整備事業者等から回収している。また、整商連は、上記の設備資金1533億2809万余円について、96億6125万余円の利子補給を行っている。そして、これらの代位弁済及び利子補給等が行われたことにより、近代化資金の資金残高は、14年度末現在で59億4800万円(国庫補助金相当額29億7400万円)となっている。

(指定整備事業者)

 自動車分解整備事業を行うために一定の基準に達していることを地方運輸局長が認証した整備事業者(以下「認証事業者」という。)のうち、一定の検査設備を有していることなどにより地方運輸局長が指定した整備事業者(以下「指定整備事業者」という。)については、国と同等の検査設備を有していることなどから、分解整備を行った自動車について国に代わる検査(以下「車検整備」という。)を行うことができることとされている。

(貸付対象者)

 整商連では、業務方法書において、商工組合等の貸付けの対象となる整備事業者は、指定整備率の維持・向上に寄与する者としており、商工組合等の貸付けの対象となる整備事業者は、実施要領によると、本件資金のために商工組合等に出えんしている者であり、さらに、以下の(ア)又は(イ)の要件を満たす者に限るとされている。
(ア) 次のいずれかに該当する者
〔1〕 指定整備事業者
〔2〕 指定整備事業者である協業組合等の組合員の資格を有する認証事業者
〔3〕 指定整備事業者と車検整備について業務提携を行っており、業務提携による車検整備の発注実績を有する認証事業者
(イ) 次のいずれかの事業計画を借入申込日から5年以内に実現しうると認められる者
〔1〕 自らが指定整備事業者となる事業計画
〔2〕 指定整備事業者である協業組合等の設立等の企業集約化に参加する事業計画
〔3〕 他の指定整備事業者と車検整備について業務提携を行う事業計画(当該業務提携により車検整備の発注が見込まれるものに限る。)
 そして、借入者が(イ)の〔1〕から〔3〕の事業計画を達成した場合は、〔1〕及び〔2〕については指定整備事業者の指定書等を、〔3〕については業務提携契約書、提携先の指定整備事業者の指定書及び車検整備の発注実績を証する書類を、遅滞なく商工組合等に提出することとされている。一方、借入者が事業計画を達成できなかった場合は、整商連がやむを得ないと認めた場合等を除き貸付金残高の一括償還等の措置を執ることとされている。

(商工組合等の貸付け)

 商工組合等が近代化資金を貸し付ける場合は、借入申込者に、実施要領等を遵守する旨の誓約書のほか、上記(ア)の〔1〕から〔3〕の要件に該当する者であることを証する書類、又は、上記(イ)の〔1〕から〔3〕の事業計画書をそれぞれ添付させて、その内容を審査のうえ妥当と認めた者について貸付けを行っている。また、貸付対象者ごとの貸付限度額は、それぞれの整備事業者が商工組合等に出えんした金額の20倍又は所定の額のうち、いずれか低い額とされており、1件ごとの貸付金額が貸付限度額以下であれば、その限度額に達するまで貸付けができることとされている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 国土交通省では、従来より、国の限られた検査設備では増加する自動車台数に対応する検査を実施することが困難なため、国の行う検査の一部を指定整備事業者に代行させることとしている。そして、近代化資金は、商工組合等を通じて整備事業者へ貸付けを行うことにより、指定整備事業者の育成等を行い、もって指定整備率の維持・向上を図ることを目的として設置されている。このため、本件資金による貸付けが適切なものとなっており、指定整備率の維持・向上という事業目的のために有効に活用されているかといった点に着眼して検査を実施した。

(検査の対象)

 東京都自動車整備商工組合ほか30商工組合(注1) における元年度から14年度までの貸付け(この貸付金額と同額が整商連の債務保証となる。)を対象として検査を実施した。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。
(1) 貸付前に指定整備事業者と車検整備について業務提携を行っている認証事業者に対する貸付けで、業務提携による車検整備の発注実績を徴していないもの
 元年度から14年度までに行った「貸付前に指定整備事業者と業務提携を行っていて、業務提携による車検整備の発注実績を有する認証事業者」に対する貸付けは、京都府自動車整備商工組合ほか24商工組合(注2) において、404件、貸付金額26億2962万余円(これらの貸付けに係る利子補給214件、1億1136万余円)となっていた。そして、京都府自動車整備商工組合ほか23商工組合(注3) において、借入者から当該業務提携による契約書だけを提出させていて指定整備事業者との業務提携による車検整備の発注実績に関する書類を徴していないため、当該借入者が「業務提携による車検整備の発注実績を有すること」という貸付けの要件を満たしているのかが不明なままとなっていたものが、次のとおり見受けられた。また、これらのうちには、業務提携契約日が貸付日の直前であるなど、車検整備の発注実績を提出するのが事実上難しいと思われるものも見受けられた。

  24商工組合 399件
  貸付金額 25億7962万余円
(上記に係る利子補給 212件 1億0920万余円)

(2) 事業計画の達成状況が適切でないもの
 事業計画による貸付けのうち、14年度末現在で、貸付日から5年を経過している貸付け(同一借入者へ複数の貸付けがある場合には、初回の貸付日から5年を経過している借入者への貸付け)は、前記31商工組合において、1,741件、貸付金額152億4422万余円(これらの貸付けに係る利子補給1,254件、8億3789万余円)となっていた。
(ア) 事業計画の内容が達成されていないもの
 東京都自動車整備商工組合ほか27商工組合(注4) において、借入申込日から5年以内に実現しうるとされている事業計画(同一借入者へ複数の貸付けがある場合には、初回の事業計画)が、貸付日から5年を経過してもいずれも達成されていなかったものが、次のとおり見受けられた。そして、これらのうちには、貸付日から10年を経過しても事業計画が全く達成されていないものが見受けられた。また、当初の事業計画が5年を経過しても未達成であるのに、当該事業者へ再び貸付けを行っているものも見受けられた。

  28商工組合 1,049件
  貸付金額 73億8318万余円
(上記に係る利子補給 674件 3億6655万余円)

(イ) 他の指定整備事業者と業務提携は行っているものの、業務提携による車検整備の発注実績を提出していないもの
 大阪府自動車整備商工組合ほか21商工組合(注5) において、事業計画により「他の指定整備事業者との車検整備についての業務提携」は5年以内に行っているものの、借入者が業務提携による車検整備の発注実績に関する書類を商工組合に提出していないため、車検整備の発注実績の有無が不明となっていたものが、次のとおり見受けられた。

  22商工組合 333件
  貸付金額 26億9459万余円
(上記に係る利子補給 246件 1億5602万余円)

 そして、上記(ア)及び(イ)の貸付けについて、商工組合では、事業計画を達成した場合に提出される書類等の確認をしておらず、また、事業計画が未達成となっている借入者に貸付金残高の一括償還等の措置も全く執られていない状況であった。
 したがって、上記(1)及び(2)の貸付け、計126億5740万円(債務保証同額)及びこれに係る利子補給、計6億3179万余円は、業務提携による車検整備の発注実績が不明であったり、事業計画が達成されていなかったりしていて、近代化資金の事業目的である指定整備率の維持・向上に寄与していないと認められた。

(有効に活用されていない国庫補助金相当額)

 上記の債務保証126億5740万円については代位弁済額5億1821万余円から回収額2億0852万余円を差し引いた3億0968万余円を、利子補給6億3179万余円についてはその全額6億3179万余円を、造成した近代化資金から支出していた。このため、これらの支出額計9億4148万余円に2分の1を乗じた国庫補助金相当額4億7074万余円は、近代化資金の事業目的のために有効に活用されていないと認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
(ア) 整商連において、〔1〕商工組合等が事業計画の達成状況を適宜・適切に把握できる体制としていなかったこと、〔2〕業務提携による車検整備の発注実績に関する確認方法等を具体的に商工組合等に示していなかったこと、〔3〕事業計画の達成状況を十分確認していなかったこと
(イ) 国土交通省において、〔1〕事業計画の達成状況等について整商連及び商工組合等が随時把握できる体制としていなかったこと、〔2〕事業計画の達成状況を十分確認していなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省では、15年10月に整商連に対して通達を発し、商工組合等が事業計画の達成状況を適宜・適切に把握できるよう実施要領等の整備等を行わせるとともに、15年度以降、毎年度、事業計画の達成状況を報告させることとするなどの処置を講じた。

(注1) 東京都自動車整備商工組合ほか30商工組合 東京都、京都、大阪両府、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、福井、山梨、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、沖縄各県の自動車整備商工組合
(注2) 京都府自動車整備商工組合ほか24商工組合 京都、大阪両府、青森、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、奈良、鳥取、島根、岡山、広島、山口各県の自動車整備商工組合
(注3) 京都府自動車整備商工組合ほか23商工組合 京都、大阪両府、青森、宮城、秋田、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、奈良、鳥取、島根、岡山、広島、山口各県の自動車整備商工組合
(注4) 東京都自動車整備商工組合ほか27商工組合 東京都、京都、大阪両府、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、山梨、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、沖縄各県の自動車整備商工組合
(注5) 大阪府自動車整備商工組合ほか21商工組合 大阪府、青森、岩手、宮城、秋田、福島、茨城、栃木、埼玉、千葉、神奈川、山梨、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、和歌山、鳥取、岡山、山口各県の自動車整備商工組合