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  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

家畜改良体制整備事業の実施に当たり、事業を取り巻く状況の変化に対応するようデータバンクを再構築することとし、基金の運営形態を適切なものに改善させたもの


(1)家畜改良体制整備事業の実施に当たり、事業を取り巻く状況の変化に対応するようデータバンクを再構築することとし、基金の運営形態を適切なものに改善させたもの

科目 (畜産助成勘定)(項)畜産助成事業費
部局等の名称 農畜産業振興事業団(平成15年10月1日以降は独立行政法人農畜産業振興機構)本部
補助の根拠 農畜産業振興事業団法(平成8年法律第53号)(平成8年9月30日以前は「畜産物の価格安定等に関する法律」(昭和36年法律第183号))
事業主体 社団法人家畜改良事業団
助成事業 家畜改良体制整備
事業の概要 家畜改良体制整備基金を社団法人家畜改良事業団に造成し、家畜改良データバンクの構築・運営等を行うもの
家畜改良体制整備基金の残高 14億0571万余円 (平成14年度末)
運営形態の見直しにより所要額を超えて保有していた基金の額  8億0534万円  

1 事業の概要

(家畜改良体制整備事業の慨要)

 農畜産業振興事業団(以下「事業団」という。)では、家畜改良関係団体の連携強化により、家畜登録、能力検定等の一体的な運用を図り、家畜改良増殖の推進に資することを目的として、家畜改良体制整備事業助成実施要綱(昭和63年62畜団第1612号。以下「実施要綱」という。)に基づき、社団法人家畜改良事業団(以下「改良事業団」という。)に家畜改良体制整備事業を実施させている。
 家畜改良体制整備事業は、海外からの畜産物輸入の自由化を控え、良質かつ低コストの畜産物供給及び畜産経営の体質強化を図るという緊急課題に対処するため、昭和63年度から実施されており、その内容は、以下のとおり、家畜改良体制を整備する事業(以下「体制整備事業」という。)及び家畜改良データバンクを構築・運営する事業(以下「データバンク事業」という。)とに分かれている。

(1)体制整備事業

 改良事業団及び家畜改良関係団体において、血統登録等の家畜改良関係業務の連携強化及びデータバンクの構築・運営方法等の検討を行うとともに、データバンクに接続される端末の設置等を行う。
 体制整備事業は、端末の設置等を主な内容とする事業であり、比較的短期間に実施する必要があることから、平成8年度までの9年間で実施するものである。

(2)データバンク事業

 家畜の改良増殖は、幾世代にもわたる正確な遺伝能力の把握による選抜と適正な交配を繰り返すことで可能となることから、改良事業団と家畜改良関係団体においてそれぞれ収集した遺伝能力や血統の情報は将来にわたり一体的に維持・運営していく必要がある。このため、体制整備事業で設置された端末を通信回線により結合し、家畜改良及び家畜生産技術等に関連する情報を提供・利用するデータバンクを構築し、これを長期的、安定的に運営するものである。

(家畜改良体制整備基金の慨要)

 事業団では、上記の両事業に要する経費に充てるため、昭和62年度に改良事業団に補助金を交付して家畜改良体制整備基金を造成させている。この基金は、体制整備事業を実施するための基金(以下「体制整備基金」という。)とデータバンク事業を実施するための基金(以下「データバンク基金」という。)とに区分されており、事業団では、改良事業団に対して体制整備基金分として6億8000万円、データバンク基金分として14億7000万円、計21億5000万円の補助金を交付している。
 体制整備基金は、体制整備事業を短期間に実施するのに必要な経費に充てるため基金を取り崩して支出する、いわゆる「取崩し型」を採っている。一方、データバンク基金は、長い年月にわたり家畜改良の情報をデータバンクに蓄積し、運営していくため、長期的に安定した事業を実施する必要があることから、基金を運用元本としてその運用益をデータバンク事業に要する経費に充てる、いわゆる「運用型」を採っている。ただし、データバンクの構築のために必要な初度の経費に充てる場合は、データバンク基金を取り崩して支出することができることとなっている。
 なお、改良事業団は、体制整備事業が平成8年度に終了したことに伴い、同年度に体制整備基金の残高の全額1億4760万余円をデータバンク基金に繰り入れている。そして、9、10両年度にデータバンクの構築のための初度経費として基金元本を1億6044万余円取り崩しているが、10年度末以降、元本残高は13億7658万余円で推移してきている。

(畜産を取り巻く新たな状況)

 13年9月に国内で初めて牛海綿状脳症(BSE)の発生が確認されたことから、畜産物の安全性の確保が急務となり、事業団では、13年度に、我が国で飼養されているすべての牛に、重複のない生涯一つの個体識別番号を付与し、個体の生年月日、品種及び性別等を把握する家畜個体識別システムを構築するための事業を改良事業団に実施させている。
 さらに、14年度には、家畜の個体識別に関する情報の収集や家畜市場及びと畜場等における移動情報を効率的に収集するためのシステムの改善を内容とした家畜個体識別システム定着化事業を実施させている。
 この家畜個体識別システムの構築については、13年10月、事業団や改良事業団も構成員となっている家畜個体情報管理システム推進中央会議において定めた基本方針の山で、データバンク事業と連携するなどして家畜改良の精度の向上などを図ることとしているところである。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 近年、景気の低迷等に伴い、市中金利は家畜改良体制整備基金の造成当時と比べて著しい低金利となっていて、データバンク基金の運用益が年々減少している。このため、運用益では事業の安定的な実施が困難となることが予想された。一方、上記のとおり、畜産物の安全性の確保が求められていることなどから、家畜個体識別システムが導入され、データバンク事業との連携が予定されている。このため、家畜の幾世代にもわたる遺伝能力や血統の情報を一体的に維持・運営しているデータバンク事業の重要性はますます高まっている。
 そこで、運用型で多額の資金を保有しているデータバンク基金が適切かつ効率的に活用されているか、また、データバンク事業は適切に実施されているかなどに着眼して検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。
 データバンク基金の運営状況を見ると、次表のとおり、10年度から14年度までの基金の運用益は近年の低金利の影響を受け減少し続けているが、データバンクの運営に係る経費(以下「運営費」という。)は、毎年度生じる固定的な経費から構成されているため、年度ごとに大きな変化がないものとなっていた。

(単位:千円)

区分 10年度 11年度 12年度 13年度 14年度
年度当初基金残高 1,508,409 1,469,903 1,453,557 1,440,760 1,424,280
  うち運用益残高 102,193 93,320 76,973 64,176 47,697
運営費 18,946 20,300 17,033 18,110 18,685
運用益 10,072 3,953 4,236 1,630 117
年度末運用益残高 93,320 76,973 64,176 47,697 29,129
年度末元本残高 1,376,583 1,376,583 1,376,583 1,376,583 1,376,583
年度末基金残高 1,469,903 1,453,557 1,440,760 1,424,280 1,405,712

 そして、14年度当初の運営費に充てる運用益残高は4769万余円であるのに対し、運営費が1868万余円であり、これに同年度の運用益11万余円を加えた同年度末の運用益残高は2912万余円となっていた。この結果、15年度及び16年度の運用益・運営費を14年度と同程度と想定すると、15年度末の運用益残高は1000万円程度になることから、16年度の運営費を賄えなくなることになり、家畜改良増殖の推進のために必要な長期的に安定したデータバンク事業の実施が困難になることが見込まれた。このように・運営費の財源となる運用益残高が減少していく一方で、運用型を前提に改良事業団が多額の資金を有効に活用しないまま、データバンク基金として保有し続けている状況となっていた。
 一方、データバンク事業について、事業団の説明によると、次のように新たな状況が生じており、それに対応した事業の見直しが必要となっていた。
 すなわち、前記の家畜個体識別システムの情報の一部についてはデータバンク事業で登録する情報としても利用できるものであることから、家畜個体識別システムとの連携等を推進していくことにより、データバンク事業の効率的な運営を検討する必要性が生じている状況となっていた。
 したがって、上記のような状況にあることにかんがみ、それに対応したデータバンク事業の在り方を検討するとともに、データバンク基金の運営形態を事業の実施に適合したものに見直し、適切な規模にする要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、前記のとおり、データバンク事業及び基金を取り巻く状況が大きく変化してきているのに、事業団において、データバンク事業の在り方の検討や基金の運営形態の見直し等を適時適切に行わなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、事業団では、15年5月、実施要綱を改正するなどして、次のような処置を講じた。
(1)家畜個体識別システムとの連携等を推進するなどしてデータバンクを再構築することとし、現行の事業の実施期間を19年度までの5年間とすることとした。そして、その間、再構築後のデータバンク事業の運営方法等その在り方について検討することとした。
(2)(1)のデータバンクを再構築するための期間はデータバンク基金を取崩し型で運営することとし、その間の運営費、データバンクの再構築に必要と見込まれる所要額を除いた8億0534万余円を改良事業団から返還させた。さらに、事業実施期間中であってもデータバンク基金の一部について必要がないと認められる場合には追加して返還させることができることとした。