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  • 第14 日本学術振興会|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

科学研究費補助事業の実施に当たり、研究代表者が資格要件を満たさなくなった場合等において、補助金の交付内定の辞退等の手続を適切に行うよう改善させたもの


科学研究費補助事業の実施に当たり、研究代表者が資格要件を満たさなくなった場合等において、補助金の交付内定の辞退等の手続を適切に行うよう改善させたもの

科目 (項)科学研究費補助事業費
部局等の名称 日本学術振興会(平成15年10月1日以降は独立行政法人日本学術振興会)
補助の根拠 日本学術振興会法(昭和42年法律第123号)
補助事業の概要 大学等の研究者又は研究者グループが計画する基礎的研究を補助するもの
研究代表者が資格要件を満たさなくなった場合等に係る研究課題数 123件(研究機関 北海道教育大学ほか25大学等)
上記に対する国庫補助金交付額 1億7577万円(平成11年度〜14年度)

1 事業の概要

(科学研究費補助金の概要)

 日本学術振興会(以下「振興会」という。)では、我が国の学術を振興するため、人文・社会科学から自然科学まであらゆる分野における優れた独創的・先駆的な学術研究を格段に発展させることを目的として、科学研究費補助事業を実施している。この事業は、研究機関の研究者又は研究者グループが計画する基礎的研究について、その研究課題を公募し、その中から、学術研究の動向に即して、特に重要なものを取り上げて研究費を助成するために科学研究費補助金(以下「科研費」という。)を交付するもので、平成14年度には、809億余円支出されている。

(科研費の交付及び実績報告)

 科研費の交付を受けようとする研究者は、科学研究費補助金取扱規程(昭和40年文部省告示第110号。以下「取扱規程」という。)、「科学研究費補助金(科学研究費)の取扱いについて」(平成14年文科振第135号文部科学省研究振興局長通知。以下「局長通知」という。)等により、研究課題名、研究目的・内容、研究期間、研究経費の算出内訳等を明らかにした研究計画を振興会に計画初年度の前年の11月下旬に提出することとされている。そして、採択された計画に対しては、振興会は交付予定額を決定し、4月中旬に研究者に交付内定の通知を行っている。この通知を受けた研究者は、交付予定額による当該研究計画の遂行可能性を判断の上、科研費の交付申請書を所属研究機関を経由して提出し、これを受けて振興会では、交付決定を行い科研費を交付することとなっている。そして、研究者は、年度末までに科研費の使用額を確定した上、実績報告書を作成して提出することとされている。

(研究代表者の資格要件及び役割)

 科研費による研究は、研究機関の研究者が研究代表者となって行われるものであり、取扱規程等では、この研究機関を大学や大学共同利用機関等に限定している。そして、振興会が毎年定める科研費公募要領では、研究代表者は、この研究機関の常勤の研究者であること(以下「資格要件」という。)とされている。
 研究代表者は、研究計画の遂行に関してすべての責任を持つ研究者であり、局長通知においては、研究期間中は研究費の支出状況を常に把握し、その効率的な支出に努めなければならないものとされている。また、一人で行う研究計画の場合には、当該研究者が研究代表者となる。
(研究代表者が所属研究機関から異動するなどの場合の取扱い)
 局長通知では、研究の適切な遂行を図るため、研究代表者が次のア又はイに該当する場合には、科研費の交付決定前においては交付内定の辞退届等を、交付決定後においては研究廃止承認申請書等を、振興会に提出することとなっている。
ア 所属研究機関から異動することとなり、その異動先が研究機関でない場合
イ 当該研究計画の遂行のための外国出張を除き、在外研究員等で外国出張のため6箇月を超えて長期間所属研究機関を離れるなど科研費による研究の遂行ができなくなる場合

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 近年、我が国においては、科学技術創造立国の実現へ向け、競争的な研究開発環境を醸成し研究の活性化を図るため、政府の研究開発投資の拡充及び重点化が図られてきたことなどから、厳しい財政状況下にもかかわらず文部科学省の執行分と合わせた科研費全体の予算額は11年度以降毎年、対前年度比8%から12%と大きく伸びている。一方、応募の状況を見ると、14年度においては、科研費全体に係る新規応募の研究課題数85,217件に対し、採択された研究課題数は20,997件(採択率24.6%)で科研費に対する需要は高いものとなっており、その事業については、効果的、効率的執行ばかりでなく、公正な執行が求められている。
 そこで、研究代表者が研究遂行に当たって、資格要件を満たさなくなったり長期間所属研究機関を離れたりなどした場合の所要の手続は適切に行われているかに着眼して検査した。

(検査の対象)

 北海道大学ほか77大学等(注1) において、11年度から14年度までに振興会より科研費の交付内定を受け、研究期間内に研究機関から異動したり、長期間離れていたりなどしていた研究代表者に係る研究課題772件を対象として検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

ア 研究代表者としての資格要件を満たさなくなったのに所要の手続を執っていないもの

東京女子医科大学ほか5大学(注2) で75件 科研費計1億0553万余円

 これらは、研究代表者が、所属する研究機関である大学から、取扱規程に定める研究機関ではない民間病院等に出向していて、研究機関の常勤の研究者であるという資格要件を満たしていないものである。これらの中には、全研究期間にわたって出向していたものも見受けられた。

<事例1>

 A大学所属の研究代表者Bは、平成11年4月に科研費の交付内定を受けていた。しかし、内定前に研究機関ではない民間病院に出向することが決まり、同年6月から、同病院において医師として診療業務に従事していた。出向期間中の給与は同大学からは支給されておらず、研究機関に所属する常勤の研究者であることとする資格要件を満たさなくなっていたが、交付内定の辞退の手続を行わないまま11年度に140万円の科研費の交付を受けていた。

イ 研究代表者が外国留学等により長期間、所属の研究機関から離れているのに所要の手続を執っていないもの

北海道教育大学ほか23大学等(注3) で48件 科研費計7024万余円

 これらは、研究代表者が交付決定前又は交付決定後に、科研費の研究課題の遂行と異なる研究目的をもった文部科学省の在外研究員に決定されて外国出張したり、外国留学したりなどしていたもので、1年の補助事業期間のうち6箇月を超えて所属研究機関を離れていたにもかかわらず、所要の手続を行っていなかったものである。これらの中には、出張等の期間中に、大学院生等に研究の相当部分や、研究用物品の購入の事務を行わせていたりしたものが見受けられた。

<事例2>

 C大学所属の研究代表者Dは、平成14年4月に科研費の交付内定を受けていた。しかし、内定前に文部科学省の在外研究員に決定されていて、同年7月から翌年5月まで、外国の大学へ出張することが明らかであったのに、交付内定の辞退の手続を行わないまま、14年度に130万円の科研費の交付を受けていた。そして、同研究代表者は研究期間中は同大学に不在であったため、研究活動の大部分を大学院生に行わせていたり、同研究代表者名義により、研究用物品の購入事務を行わせていた。
 上記のア及びイの事態(科研費計123件、1億7577万余円)については、いずれも研究実績報告書が提出されてはいるものの、研究代表者が、資格要件を満たさなくなったり、外国留学等で長期間所属研究機関を離れたりしているのに、取扱規程や局長通知に定める所要の手続を行わなかったことは、効果的、効率的執行ばかりでなく、公正な執行が求められている科研費の事業として適切とは認められない。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、主として、次のようなことによると認められた。
(ア) 研究代表者及びその所属研究機関において、科研費の研究代表者が資格要件を満たさなくなった場合等における交付内定の辞退等の手続についての認識が十分でなかったこと
(イ) 振興会において、所要の手続について周知徹底が十分でなかったこと
(ウ) 研究代表者の所属研究機関において、出向、外国留学等の担当部局と本件補助事業の担当部局との間で、十分な連絡調整を行わないまま交付申請の手続を行っていたこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、15年10月に振興会の業務を承継した独立行政法人日本学術振興会では、同年10月に科研費の交付の対象となるすべての研究機関に対して通知を発するとともに、説明会等を開催するなどして、次のような改善のための処置を講じた。
(ア) 研究代表者及びその研究機関に対し、研究代表者が資格要件を満たさなくなった場合等における所要の手続を適切に行うよう注意喚起及び周知徹底を行った。
(イ) 研究代表者の所属研究機関に対し、出向、外国留学等の担当部局と本件補助事業の担当部局との間で、十分に連絡調整するよう周知徹底した。

(注1)  北海道大学ほか77大学等 北海道、北海道教育、室蘭工業、小樽商科、旭川医科、弘前、東北、宮城教育、秋田、山形、福島、茨城、筑波、宇都宮、群馬、埼玉、千葉、東京、東京医科歯科、東京学芸、東京農工、東京工業、東京商船、お茶の水女子、電気通信、一橋、新潟、長岡技術科学、金沢、福井、福井医科、山梨、信州、岐阜、名古屋、名古屋工業、豊橋技術科学、三重、京都、京都工芸繊維、大阪、神戸、奈良女子、島根、島根医科、岡山、広島、山口、徳島、愛媛、高知、九州、九州芸術工科、長崎、熊本、大分、宮崎医科、鹿児島、琉球、北陸先端科学技術大学院、奈良先端科学技術大学院、東京女子医科、東海、東京理科、慶應義塾、北里、日本、関西、近畿、川崎医科、兵庫医科各大学、国際日本文化研究センター、国立天文台、核融合科学研究所、岡崎国立共同研究機構、高エネルギー加速器研究機構、国立情報学研究所、国立歴史民俗博物館
(注2)  東京女子医科大学ほか5大学 東京女子医科、慶應義塾、北里、日本、近畿、兵庫医科各大学
(注3)  北海道教育大学ほか23大学等 北海道教育、東北、山形、福島、筑波、千葉、東京、東京医科歯科、東京商船、山梨、岐阜、名古屋、京都、大阪、神戸、山口、愛媛、九州、熊本、東京女子医科、慶應義塾、近畿、兵庫医科各大学、国立天文台