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  • 平成15年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 第5 日本育英会|
  • 平成14年度決算検査報告掲記の意見を表示し又は処置を要求した事項に対する処置状況

育英奨学事業における延滞債権の評価及び回収施策の策定について


育英奨学事業における延滞債権の評価及び回収施策の策定について

 

1 本院が表示した改善の意見

(検査結果の概要)

 日本育英会(以下「育英会」という。)は、優れた学生及び生徒であって経済的理由により修学に困難があるものに対し、学資の貸与(以下、貸与する学資を「奨学金」という。)等を行う育英奨学事業を実施している。
 奨学金には、無利子の第一種奨学金と有利子の第二種奨学金とがあり、これらの奨学金の貸与を受けていた者は、卒業等により貸与が終了した後、割賦払により奨学金を育英会に返還するとされている。この返還状況をみると、返還金の滞納は件数、金額とも増加しており、平成13年度末現在の延滞債権額は1562億円に達している。
 育英会は割賦金の返還を滞納している要返還者に対しては、返還を督促し、督促を重ねても要返還者が割賦金を返還しないときなどは、当該要返還者の連帯保証人等に対して督促等を行うものとするとされている。
 育英会の業務は16年4月に新たに設置が予定されている独立行政法人日本学生支援機構(以下「機構」という。)に移行されることとなっており、その際、資産・負債の承継については時価評価とし、仮に欠損金が生じていても安易な国費投入を認めない一方で、欠損金の具体的な処理方策の策定とその着実な実行が求められている。
 そこで、延滞債権の今後の回収見通し、会計処理、回収及び滞納防止のための措置について検査したところ、次のような事態となっていた。

(1)延滞債権の回収見通し及び会計処理

 13年度末現在の延滞債権について予測される回収不能額を試算したところ、回収不能予測額は444億余円と見込まれ、これ以外にも在学中で返還が開始されていない債権など今後回収を必要とする債権が存在していることを考慮すると、貸付金債権全体に係る回収不能予測額はこれを大幅に超える水準に達するものと認められる。
 一方、13年度末の貸借対照表には、貸倒引当金が第二種奨学金の期末残高の1000分の3の額に相当する25億余円しか計上されていない。したがって、機構移行に当たり承継資産の時価評価が予定されていることから、その際予想される債務超過に対する対応策の策定は、必要かつ緊急な課題となっていると認められる。

(2)延滞債権の回収及び滞納防止のための措置

 育英会では、割賦金を滞納している要返還者の資産状況、経済状態を確実に把握できる体制にはないため、資力を見極めて効果的に法的措置を行使することができない状況にあった。また、連帯保証人に対する請求についてみても、割賦金の返還が連帯保証人から行われていても、その後の請求は再び要返還者本人のみにしか行っていないなど、連帯保証人制度が有効に機能しているとは認められなかった。
 一方、滞納している割賦金には延滞金が賦課されるが、返還金は、延滞金等から順に充当されていくため、返還金が少額で元金充当に追いつかない事例も見受けられ、少額ながらも返還を継続している要返還者への対応策も検討の要があると認められた。
 このような事態が生じているのは、一部の要返還者において返還を怠っていたのに加えて、育英会において、次のことによると認められる。

(ア)延滞債権の会計処理について

 現行の会計規程は債権の状況に即した貸倒引当金を計上することは求めていないため、延滞債権の実態に対応した会計処理がなされていなかったこと

(イ)回収施策と返還条件について

 要返還者の就労先、連帯保証人の収入等の現状などを把握する体制が十分でなかったり、連帯保証人等に対して、適時、的確な督促、請求を実施していなかったりしていたこと及び少額ずつしか返還できない要返還者に対して返還意欲を継続させるよう弾力的に対応できる制度が整備されていなかったこと

(検査結果により表示した改善の意見)

 機構への移行に伴い、適切な資産の引継ぎと新たな不良債権の発生を抑制するため、次のとおり、育英会の理事長に対し15年11月に、会計検査院法第36条の規定により改善の意見を表示した。

(ア)欠損金の処理について

 機構移行に際し、回収可能性の視点から現在の延滞債権について再評価を行い、その結果生じた回収不能見込額については、貸倒引当金の積み増しと貸倒損失計上の適切な基準を設定し、それに伴って生ずる欠損金については処理計画の具体化を検討すること

(イ)今後の回収施策と返還条件について

〔1〕 回収業務をより効率的に遂行できるようにするため、返還誓約書提出等の機会を利用して、連帯保証人等の収入・資産の現状をも把握できるような方策を検討し、機構へ引き継ぐこと
〔2〕 今後、親の収入基準が緩和されている第二種奨学金の返還が急増し、これまでよりも連帯保証人に支払能力を期待できることも考えられるため、連帯保証人に対しても返還意識のかん養に努めるとともに督促・請求を滞納初期の段階から強化する方向で回収業務の在り方を検討し、機構へ引き継ぐこと
〔3〕 返還期間の延長など少額ずつしか返還できない要返還者に対する弾力的な対応策について検討し、機構へ引き継ぐこと

2 当局が講じた改善の処置

 育英会からその権利及び義務を承継した機構では、本院指摘の趣旨に沿い、次の処置を講じた。

(ア)欠損金の処理について

 機構の設立に当たっては、独立行政法人会計基準に基づき第一種奨学金について貸倒引当金を新規に計上し、第二種奨学金については、貸倒引当金の積み増しをすることとした。その結果、機構の設立の日に育英会から引き継ぐ資産について時価評価により生ずる欠損金相当額のうち、第一種奨学金については政府貸付金の償還免除を受けることとし、第二種奨学金については政府の保証があるものとして、未収財源措置予定額を資産計上する処置が予定されている。

(イ)今後の回収施策と返還条件について

〔1〕 16年4月1日以降の貸与終了者から、返還誓約書等の提出の際に連帯保証人の収入、勤務先等を把握するようにした。
〔2〕 16年4月から滞納発生後3箇月目の段階で連帯保証人に対し電話による督促を行うとともに督励状を送付するなど滞納初期の段階から督促・請求を強化することとした。
〔3〕 少額ずつしか返還できない要返還者のうち、新たな返還計画が整った者については、延滞金の減免等を行うこととした。