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  • 平成15年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第6 奄美群島振興開発基金|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

延滞貸付金に係る保証債務の管理に関する事務を適切に行うよう改善させたもの


延滞貸付金に係る保証債務の管理に関する事務を適切に行うよう改善させたもの

科目 保証債務
部局等の名称 奄美群島振興開発基金(平成16年10月1日以降は独立行政法人奄美群島振興開発基金)本部
保証の根拠 奄美群島振興開発特別措置法(昭和29年法律第189号)
保証の概要 奄美群島振興開発計画に基づき事業を行う事業者等が金融機関から貸付け等を受けるに当たり当該債務を保証するもの
延滞貸付金に係る保証債務の管理が適切でなかったもの及びその代位弁済額 保証先数 18先
保証件数 28件
代位弁済額  6億7825万余円
上記の代位弁済額のうち未収利息に係る額   9281万余円
上記の未収利息に係る代位弁済額と延滞後180日で期限の利益を喪失させたとした場合との開差額   7841万円

1 保証業務の概要

(保証の概要)

 奄美群島振興開発基金(以下「基金」という。)では、奄美群島振興開発特別措置法(昭和29年法律第189号)に基づき、奄美群島(鹿児島県名瀬市及び大島郡の区域)における産業の振興開発を促進するため保証業務及び融資業務を行っている。
 このうち保証業務は、同法に基づき策定された奄美群島振興開発計画に基づく事業を行う中小規模の事業者その他の者又は奄美群島に住所若しくは居所を有する者(以下「事業者等」という。)が金融機関から資金の貸付け等を受ける場合において、当該事業者等の金融機関に対する債務の保証等を行うものである(以下、基金が債務を保証した貸付金等を「貸付金」という。)。

(保証業務における事務手続)

 基金の保証業務における主な事務手続は次のとおりである。

(1)保証契約の締結

 基金は、事業者等が金融機関から上記の貸付け等を受けるに当たり当該事業者等から保証の申込みを受けたときは、事業の将来性、事業者等の弁済能力等について信用調査を行い、適当と認めたときは、金融機関に対し信用保証書を交付し、その債務を保証する旨の保証契約を締結する。
 保証契約の内容等の詳細については、基金の業務方法書、各種の業務規程及び金融機関との間で取り交わされる約定書(以下「約定書」という。)の定めるところによるとされている。

(2)保証債務の管理に関する事務

 約定書によると、金融機関は常に被保証債権の保全に必要な注意をなし、債務の履行を困難とする事実を予見し又は認知したときは、遅滞なく当該事実を基金に通知しかつ適当な措置を講ずるものとされている。
 この基金に対する通知は、基金において定めた事故報告書の提出をもって行うこととされている。そして、基金の保証に関する事務手続について定めた「保証の手引」(昭和55年4月制定。以下「保証の手引」という。)によると、金融機関において事故報告書を提出しかつ適切な措置を講ずべき場合として次のような事由が例示されている。
〔1〕 債務者の振出等に係る手形が不渡りとなったとき
〔2〕 債務者が死亡又は行方不明となったとき
〔3〕 債務者が事業を休業又は廃業し若しくは法人が解散したとき
〔4〕 債務者が自然災害、交通事故等により罹災したとき
〔5〕 債務者が他の債権者から法的措置を受けたとき
 そして、基金の保証業務債権管理事務マニュアル(以下「債権管理マニュアル」という。)によると、基金は、金融機関から事故報告書の提出を受けたときは、債務者等の弁済能力等の実態について詳細に把握した上、金融機関と事後の対応について協議するなどして、整理方針を確立することとされている。

(3)期限の利益の喪失と代位弁済

 保証の手引によると、金融機関は、債務者等が弁済能力を失ったため、貸付金に係る債務の最終履行期限前に期限の利益(注) を喪失させることとしてもやむを得ないと認めたときは、基金に対し期限の利益の喪失に関する協議書を提出してその承諾を得た上、債務者等の期限の利益を喪失させるものとされている。
 そして、債務者等が最終履行期限(期限の利益を喪失した場合にはその日)から90日を経てなおその債務の全部又は一部を履行しなかったときは、基金は、金融機関の請求に基づき、保証債務の履行として債務者等に代わり債務を弁済することとされており(以下、この弁済を「代位弁済」という。)、また、その代位弁済の範囲は次の額の合計額とされている。
〔1〕 貸付金元金の未返済額
〔2〕 最終履行期限(債務者等が期限の利益を喪失した場合にはその日)までの間に生じた金融機関の未収利息の額
〔3〕 最終履行期限(債務者等が期限の利益を喪失した場合にはその日)から代位弁済を受けた日までの間における金融機関に対する延滞利息の額(ただし、120日を超えない期間に係る額に限る)
 基金において代位弁済を行ったときは、債務者等に対する求償権を取得し、これにより代位弁済額の回収に努めることとなる。

期限の利益 期限の到来までは債務の履行を請求されないなどの期限の未到来による利益をいう。一般に、金融機関の取引約定書等によると、債務者等に延滞、信用状態の悪化等所定の事由が生じた場合には、当該債務者等は当然に又は金融機関の請求によりその債務に係る期限の利益を喪失するものとされている。

(保証債務の残高等)

 平成15年度末における基金の保証債務残高は1,836件で155億3532万余円、求償権残高は229件で31億4467万余円となっている。そして、保証事業の損益は悪化しており、15年度では1億6917万余円の当期損失を計上していて、累積欠損金も12億2580万余円に増大している。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 近年、景気の低迷、公共工事の受注の減少に伴う建設業の経営不振等を反映して、基金の保証事業における代位弁済額及び求償権残高は高水準で推移している。
 そして、代位弁済額については、これに占める金融機関の未収利息に係る額が多額なものとなっているが、この金融機関の未収利息額は、債務者等が期限の利益を喪失するまでの期間が長期化した場合には多額となり、基金はこれについても代位弁済を行うこととなるものである。
 そこで、基金において、代位弁済は適切に行われているか、保証債務の管理に関する事務は適切に行われているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象)

 14、15両年度に基金が5金融機関に対して行った代位弁済で15年度末に求償権残高があるもののうち、代位弁済額に占める未収利息額が1先当たりで100万円以上、1件当たりで10万円以上となっている18先、28件、代位弁済額計6億7825万余円(うち未収利息に係る代位弁済額計9281万余円)について検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、上記の18先、28件について次のような事態が見受けられた((1)及び(2)の事態には重複しているものがある。)。

(1)延滞が相当期間継続しているのに事故報告書の提出が遅延していたもの

 貸付金に係る債務が延滞した場合については事故報告書の提出理由として明確にされていなかったなどのため、延滞が相当期間継続しているのに事故報告書の提出が遅延していたものが、次のとおり、11先、13件見受けられた。

〔1〕 6箇月以上延滞が継続した後に事故報告書が提出されていたもの((2)に該当するものを除く) 8先、10件
〔2〕 6箇月以上延滞が継続しかつ最終履行期限を経過した後に事故報告書が提出されていたもの 3先、3件

(2)事故報告書の提出後の事務処理に相当期間を要していたもの

 基金において、事故報告書の提出を受けた後の債務者等の弁済能力等の実態把握や金融機関との対応協議が十分に行われていなかったため、延滞が6箇月以上継続していて債務の履行の正常化が困難となっていたものについて期限の利益を喪失させる事務処理に相当期間を要していたものが、次のとおり、14先、21件見受けられた。

〔1〕 事故報告書の提出を受けてから期限の利益を喪失させるまでに1年以上を要していたもの 7先、9件
〔2〕 期限の利益を喪失させるに至らないまま最終履行期限が経過していたもの 10先、12件

 そして、上記の事態では、事故報告書の提出が遅延し又は基金における事務処理に相当期間を要していたため、金融機関に多額の未収利息額が発生し(未収利息発生期間534日〜2,647日、平均1,516日、計9281万余円)、基金では、これについても代位弁済を行う結果となっていた。
 よって、貸付金に係る債務の延滞が一定期間継続した場合には事故報告書の提出を受けることとするとともに、債務者等の弁済能力等の実態を迅速かつ詳細に把握するなどして、保証債務の管理に関する事務を適切に行うよう改善を図る要があると認められた。

(延滞後180日で債務者等の期限の利益を喪失させたとした場合の開差額)

 基金の15年度末の融資業務における自己査定によると、再建の見通しがなく元金又は利息の支払を6箇月(180日)以上延滞しているような債務者については実質破綻先に区分されているが、前記の18先、28件については、いずれも延滞が6箇月以上継続するなどしていたものである。
 そこで、これらについて、金融機関において延滞後180日を経過した時点で債務者等の弁済能力が失われたものとして期限の利益を喪失させ、基金において代位弁済を行ったとした場合における金融機関の未収利息に係る代位弁済額を計算すると計1439万余円となり、前記の未収利息に係る代位弁済額の計9281万余円と比べて約7841万円の開差を生ずることとなる。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことによると認められた。
(ア)保証の手引において、貸付金に係る債務の延滞が一定期間継続した場合については金融機関において事故報告書を提出しかつ適切な措置を講ずべき事由として明記されていなかったこと
(イ)債権管理マニュアルにおいて、事故報告書が提出された場合における事務処理、金融機関との対応協議等の方法、内容等が具体的に定められていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、基金では、16年8月に、保証の手引、債権管理マニュアル等を改正し、貸付金に係る債務が3箇月以上延滞した場合についても事故報告書の提出事由として明記するなどするとともに、事故報告書が提出された場合の事務処理、金融機関との対応協議等の方法、内容等を具体的に定めるなどして、保証債務の管理に関する事務の適正化を図る処置を講じた。