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  • 平成15年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況|
  • 第2 株式会社りそな銀行及び株式会社足利銀行に対する金融危機対応措置の実施について|
  • 3 検査の状況|
  • (1)りそな銀行について

ア りそな銀行に対する1号措置の実施


ア りそな銀行に対する1号措置の実施

(ア)りそな銀行の15年3月期末決算の状況

 りそな銀行(注10) は、15年3月期末決算において、業務純益402億余円に対して、不良債権処理損失額1460億余円、株式等関係損益△2010億余円、繰延税金資産の取崩しを含む法人税等調整額2688億余円などを計上し、その結果当期損失は5830億余円(単体ベース)、自己資本比率は2.27%(単体ベース)と国内基準行の健全性の基準を下回る過少資本となった。また、持株会社である株式会社りそなホールディングス(以下「りそなHD」という。)についても、結果として自己資本比率が3.78%(連結ベース)となった。そして、りそなHD及びりそな銀行は、15年5月17日に、上記の決算について金融庁に報告した。

 大和銀行は、平成13年12月に株式会社近畿大阪銀行及び株式会社奈良銀行とともに、持株会社である株式会社大和銀ホールディングスを設立した。これに伴い、大和銀行等は、同会社が全株式を保有する子会社となった。また、あさひ銀行も、14年3月に同会社が全株式を保有する子会社となった。その後、同会社は、14年10月にりそなHDに名称を変更し、子会社の銀行についても、15年3月に大和銀行及びあさひ銀行を分割・合併し、りそな銀行及び株式会社埼玉りそな銀行(あさひ銀行の埼玉県内の営業拠点を承継。)に再編した。

(イ)りそな銀行に対する1号措置の実施状況

(1号措置の実施)

 りそなHD及びりそな銀行の15年3月期末決算に係る報告を踏まえて、内閣総理大臣は、金融危機対応会議の議を経て、5月17日、同銀行に対して1号措置を講ずる必要がある旨の認定を行った。金融危機対応会議の答申等によると、同銀行に対して金融危機対応措置を講ずる必要があると判断する根拠として、会議開催時点において同銀行の預金流出や市場性資金の調達困難といった事実が認められる状況にはないが、〔1〕 同銀行が我が国第6位の資産規模を有する銀行であること、〔2〕 同銀行は中小企業者及び個人向けの融資の比率が高いこと、〔3〕 同銀行を含むりそなHD傘下の銀行が大阪府、埼玉県等に厚い顧客基盤を抱えていることなどを挙げている。
 この認定を受け、りそな銀行では、5月30日に、金融庁に対してりそなHDと連名で経営健全化計画を提出するとともに、預金保険機構に対して1号措置の実施に係る申込みを行った。この申込みにおいて、同銀行では、1号措置の実施による株式等の引受け等の規模について、金融危機対応会議の答申において「預金者、取引先、市場の不安を払拭する観点から、10%を上回る自己資本比率の確保が必要」との意見が付されたことを踏まえ、自己資本比率(連結ベース)が12%程度となるよう、1兆9600億円とした。
 預金保険機構は、同日、りそな銀行と連名で、金融庁に対して、1号措置の実施についての決定を求め、金融庁は、6月10日に、繰越欠損の補てんに充てるための資本の減少を条件として、同銀行に対する1号措置の実施を決定した。
 預金保険機構では、7月1日に、りそな銀行の発行する普通株式2964億余円、議決権付優先株式1兆6635億余円、計1兆9600億余円の引受けを行った。その後、当該普通株式等についてりそな銀行とりそなHDは株式交換を行い、同機構は、りそなHDの発行する普通株式等1兆9600億余円を保有することとなり、その結果、同機構はりそなHDの3分の2を上回る議決権を有することになった。

(1号措置実施の要件)

 りそなHD及びりそな銀行が提出した経営健全化計画によると、預金保険機構が取得する株式等の処分の見込み及び経営の合理化等のための方策については以下のとおりとなっていた。なお、外部からの人材登用等により経営陣を刷新することから、ビジネス・モデル等については新経営陣の下で改めて策定し、経営健全化計画の見直しも行う旨も記載されていた。
 金融庁ではこれら経営健全化計画の内容等を審査した結果、1号措置実施の要件に該当すると判断した。

〔1〕 預金保険機構が取得する株式等の処分の見込み

 りそなHDでは、当該普通株式等の売却による処分が容易になるよう早急に収益改善を果たし、企業価値を向上させる。また、収益力の強化を図り剰余金の蓄積に努め、金融機能早期健全化法に基づく優先株式8680億円(注11) の消却を実施するなどしながら、当該普通株式等1兆9600億余円に見合う剰余金を15年程度で確保できる。

金融機能早期健全化法に基づく優先株式8680億円  大和銀行(4080億円)、あさひ銀行(4000億円)(表1参照) 及び株式会社近畿大阪銀行(600億円)に対して実施された資本増強措置に基づいて株式会社整理回収機構が引き受けた優先株式で、それぞれ株式移転又は株式交換によりりそなHDの優先株式となっている。

〔2〕 経営の合理化等のための方策の実行の見込み

(a)経営の合理化のための方策

 信用リスク管理の厳格化及び保有株式の更なる売却などにより資産の健全化を、また、従業員の年収水準引下げなどによる人件費の削減及び子会社・関連会社の抜本的な統合・整理の実施などにより収益構造・業務運営の健全化を図るなどする。

(b)経営責任の明確化のための方策

 りそなHD及びりそな銀行では、取締役の半数以上を社外取締役とするなど外部からの人材登用等により経営陣を大幅に刷新するとともに、経営に対する監視・監督機能強化等を図るために委員会等設置会社(注12) に移行する。
 経営陣の刷新に際し、りそなHD及びりそな銀行の代表者には退任慰労金の支払は行わず、退任する取締役も退任慰労金を返上する。また、役員報酬についても4割程度の削減を実施する。

(c)株主責任の明確化のための方策

 配当については、多額の公的資金による資本増強を踏まえ、また、内部留保の蓄積による財務基盤の安定化を早期に図る観点から抑制することとし、16年3月期のりそなHDの普通株式については見送ることにする。

委員会等設置会社  平成15年4月施行の商法(明治32年法律第48号)改正に伴い導入された、資本金5億円以上あるいは負債総額200億円以上の大会社などが選択できる企業統治形態。経営監視と業務執行の分離や、社外取締役の活用が特徴で、取締役は、指名委員会・監査委員会・報酬委員会の活動を通じて、主として経営の監督を行い、一方で取締役会で選任される執行役が、取締役から大幅な権限委譲を受けて業務執行を行うという制度。

(資本の減少)

 前記のとおり、金融庁は、1号措置実施の決定に際して、りそな銀行の繰越欠損の補てんに充てるための資本の減少を条件としていた。これを受け、同銀行では、15年6月及び同年8月に表2のとおり、資本準備金、利益準備金の全額を取り崩すとともに、資本金を充当し繰越欠損の補てんを実施した(注13)

この資本の減少は、同銀行の資本の部の中の処理であり、現金等の支出を伴わないいわゆる無償減資と呼ばれるものである。


表2 りそな銀行における繰越欠損の補てん
欠損額 財源
15年3月期未処理損失
5827億余円
資本金減少額
資本準備金取崩額
利益準備金取崩額
3713億余円
1543億余円
570億余円
5827億余円

(ウ)号措置実施後のりそな銀行の状況

(新しい経営健全化計画の策定)

 旧経営陣を刷新し委員会等設置会社へ移行したりそなHD及びりそな銀行は、改めて経営健全化計画を策定し、15年11月、金融庁に提出した。同計画は、集中再生期間と位置づけている17年3月末までの計画とされ、持続的な黒字経営への体質転換のためと位置づけられた施策などが盛り込まれた。
 りそな銀行(単体ベース)における計数目標等の一部を、15年6月の経営健全化計画等と比較すると表3のとおりとなっており、このうち16年3月期における計画値については、不良債権処理損失額を9694億円増やしたことなどから当期利益が1兆4754億円減少し剰余金も同様に減少している。
 また、この計画の中で、公的資金により預金保険機構及び株式会社整理回収機構(11年4月に株式会社整理回収銀行を改組。以下「整理回収機構」という。)が取得した株式等について、利益をもってする消却等に対応するための財源確保の計画については未定とされているが、当該株式等の処分が早期に可能となるよう、企業価値の増大及び剰余金の積増しに努めるとしている。

表3 経営健全化計画の比較
  15年6月経営
健全化計画
15年11月経営
健全化計画
16年3月期末
決算
15年3月期末
決算(参考)
(17年3月期末の目標)
不良債権比率
株式残高
(17年3月期末)
5%台
6,000億円未満
(17年3月期末)
3%台
3,000億円
7.3%
5,183億円
9.9%
11,672億円
<収益動向及び計画等>        
繰延税金資産 16年3月期 3,916億円 337億円 134億円 3,916億円
17年3月期 3,916億円 337億円
剰余金 16年3月期 418億円 △14,343億円 △13,996億円 △5,827億円
17年3月期 1,873億円 1,163億円
経費 16年3月期 2,859億円 2,857億円 2,772億円 1,626億円
17年3月期 2,816億円 2,340億円
不良債権処理損失額 16年3月期 1,079億円 10,773億円 11,127億円 1,460億円
17年3月期 719億円 880億円
当期利益 16年3月期 369億円 △14,385億円 △14,157億円 △5,830億円
17年3月期 1,342億円 1,163億円
自己資本比率 16年3月期 13.3% 6.9% 7.57% 2.27%
17年3月期 13.4% 6.9%
注(1)  不良債権比率は銀行勘定と信託勘定を合算して算出したもの。
注(2)  株式残高は、「その他有価証券」のうち、上場株式等の時価のある株式の計数である。なお、「その他有価証券」については、(注15) 参照。
注(3)  剰余金は、利益剰余金のうち、利益準備金以外のもの。

(16年3月期末決算の状況)

 16年3月期末決算においては、15年11月の経営健全化計画に盛り込まれていた貸出金等への引当ての強化を実施したことなどから、不良債権処理損失額として1兆1127億余円計上することになり当期損失も1兆4157億余円となった。
 17年3月期末決算に3%台にするとしている不良債権(再生法開示債権(注14) ベース)の貸出金等に占める比率については、15年3月期末決算における9.9%から7.3%まで低下した。また、同様に17年3月期末決算において3000億円にするとしていた、「その他有価証券(注15) 」のうち上場株式等の時価のある株式の残高は5183億余円まで減少し、15年3月期末決算の半分以下の水準まで圧縮された。

(注14) 再生法開示債権  金融機能再生法及び同法施行規則に定められている資産の査定基準に基づいて、貸出金のほかに仮払金、未収利息等も含めて、その債務者の財政状態を基礎にして、「正常債権」、「要管理債権」、「危険債権」、「破産更生債権及びこれらに準ずる債権」に分類し、そのうちの「要管理債権」以下の債権の総称を示す。
(注15) その他有価証券  金融資産、金融負債等の金融商品の評価、会計処理方法等を定めた「金融商品に係る会計基準」の適用を受ける有価証券のうち、「売買目的有価証券」、「満期保有目的の債券」、「子会社株式及び関連会社株式」以外に分類される有価証券