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  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況

第6 介護保険制度の実施状況についてて


第6 介護保険制度の実施状況について

検査対象 厚生労働省、24都道府県、351市町村等
制度の根拠 介護保険法(平成9年法律第123号)
制度の概要 保険料と、国、都道府県及び市町村が負担する公費を財源として、加齢に伴い要介護状態等となった被保険者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスの給付を行うもの
制度の実施に当たり交付された国の負担額 1兆1883億円(平成12年度)
1兆4104億円(平成13年度)
1兆4873億円(平成14年度)

1 制度の概要

(介護保険制度の概要)

 介護保険制度は、高齢者の介護を社会全体で支える新たな仕組みとして介護保険法(平成9年法律第123号。以下「法」という。)に基づき平成12年4月より実施された。介護保険制度施行前の行政による高齢者に対するサービスは、医療に係る老人保健制度と主に介護に係る老人福祉制度という二つの異なる制度により提供されてきたが、高齢者の立場に立った総合的・効率的なサービスとなっていなかったこと、一般会計を財源としていることから費用の確保に困難が伴っていたことなど様々な問題が指摘されていた。介護保険制度は、これらの問題を踏まえ、保健、医療、福祉等各種制度の再構築を図り、〔1〕自立した生活を送ることができるよう高齢者自らが選択する保健、医療、福祉の各分野にわたる保健医療サービス及び福祉サービス(以下、これらを併せて「介護サービス」という。)の提供、〔2〕給付と負担の明確化による介護費用の安定的確保を基本理念とする社会保険制度として創設されたものである。

(介護保険制度の目的)

 介護保険制度は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により、常時、介護を要すると見込まれる状態(以下「要介護状態」という。)又は要介護状態となるおそれがある状態(以下「要支援状態」という。)になった者に対して、それらの者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な介護サービスに係る給付を行い、国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的としている。
 この目的を達成するため、法には、国民、国、都道府県及び保険者である市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)のそれぞれが果たすべき責務が規定されている。

(国庫負担金等)

 国は、市町村における介護保険制度の運営が健全かつ円滑に行われるよう、介護サービスを提供する体制の確保に関する施策その他必要な各般の措置を講じることとされ、財政上の措置として、保険給付に要する費用に対する一部負担、都道府県が設置する基金に対する一部負担等がある。これらについての12年度から14年度までの各年度の交付状況は、表1のとおりとなっていて、3年間の合計額は4兆0861億円に上っている。

表1 各年度別国庫負担金等交付状況

(単位:千円)

国庫負担金等 12年度 13年度 14年度
介護給付費負担金
介護給付費財政調整交付金
介護保険事務費交付金
財政安定化基金負担金
介護納付金負担金
介護納付金補助金
介護納付金財政調整交付金
介護納付金厚生保険特別会計繰入
701,988,207
159,939,975
23,793,213
22,141,990
155,960,697
20,958,512
38,990,175
64,621,818
841,128,128
202,593,934
28,180,336
23,074,506
177,424,412
22,278,599
44,356,103
71,407,781
903,976,638
225,687,526
29,105,513
22,606,975
176,405,267
20,045,256
44,101,317
65,374,709
2,447,092,973
588,221,435
81,079,064
67,823,473
509,790,377
63,282,367
127,447,595
201,404,308
1,188,394,588 1,410,443,801 1,487,303,203 4,086,141,593

(介護保険制度の仕組み)

ア 保険者と被保険者

 介護保険の保険者は、高齢者を取り巻く地域性を前提としたきめ細かい介護サービスの提供を実現するなどの目的から、市町村とされている。
 また、被保険者は、当該市町村の区域内に住所を有する65歳以上の者(以下「第1号被保険者」という。)及び当該市町村の区域内に住所を有する40歳以上65歳未満の医療保険加入者(以下「第2号被保険者」という。)とされている。

イ 要介護状態及び要支援状態に関する認定

 被保険者は、介護保険による保険給付を受けるために、要介護状態にあること及びその該当する要介護状態区分(要介護度1から5までの5区分とされ、要介護度1から5に進むにつれ、介護の必要の程度が高くなる。)又は要支援状態にあることについて、市町村による認定(以下「要介護認定等」という。)を受けることが必要とされている。
 要介護認定等を受けた被保険者数は、表2のとおり、12年4月末の218万人に比べ16年3月末には384万人と75.9%の増加となっている。

表2 要介護認定等の状況

(単位:人)

区分 12年4月末 16年3月末  
対12年4月末比
第1号被保険者数 21,654,769 24,493,459 113.1%
要介護認定等を受けた者の数 2,181,621 3,838,510 175.9%
 出典:介護保険事業状況報告

 この要介護認定等の事務に要する費用の一部に充てるために、国は、市町村に対し、介護保険事務費交付金を交付してきた(なお、16年度からは一般財源化されている。)。

ウ 保険給付

 要介護状態又は要支援状態にあることについて市町村の認定を受けた被保険者(以下、それぞれの者を「要介護者」及び「要支援者」という。)は、介護支援専門員に依頼するなどして介護サービス計画(以下「ケアプラン」という。)を作成し、保険給付を受けることとなる。この保険給付としては、自宅に居住しながら利用する居宅サービス、入所して利用する施設サービスなどがある。

〔1〕 居宅サービス 要介護者又は要支援者は、一定の支給限度基準額(利用者負担分を含む。)の範囲内で、居宅サービス事業者が提供する訪問介護、訪問リハビリテーション、通所介護、通所リハビリテーション又は福祉用具貸与等の各種介護サービスを組み合わせて利用することができる。

〔2〕 施設サービス 要介護者は、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設又は介護療養型医療施設に入所(入院)して、必要な保険給付を受けることができる。

エ 介護報酬

 居宅サービス等の保険給付に対する報酬(以下「介護報酬」という。)のうちの1割については、介護サービスを利用する者と利用しない者との負担の公平を図ったり、利用する者のコスト意識を喚起したりするために、原則として、被保険者が負担することとされている。
 そして、残りの9割(以下「介護給付費」という。)については、被保険者の利便性を図るなどの観点から、介護サービス事業者が被保険者に代わり市町村に請求し、支払を受ける代理受領の方法によることができることになっている。
 介護給付費は、表3のとおり、12年度計3兆2291億円に比べ14年度計4兆6260億円と43.3%の増加となっており、年々、事業規模が拡大している。

表3 介護給付費の支給額

(単位:百万円)

区分 12年度 13年度   14年度  
対12年度比 対12年度比
居宅サービス 1,095,571 1,592,646 145.4% 1,968,831 179.7%
施設サービス 2,133,567 2,495,801 117.0% 2,657,247 124.5%
3,229,138 4,088,447 126.6% 4,626,078 143.3%
 出典:介護保険事業状況報告(12年度については11箇月分の累計である。)

 また、市町村は、介護サービス事業者から請求される介護給付費に関する審査及び支払の事務を各都道府県に所在する国民健康保険団体連合会に委託している。

オ 介護サービス事業者

 介護サービス事業者は、居宅サービス事業者、居宅介護支援事業者及び介護保険施設の3種となっていて、これらの事業を行おうとする者は、事業を行う事業所ごとに、厚生労働大臣が定める人員基準及び設備・運営基準を満たし、都道府県知事の指定等を受けることが必要とされている。また、都道府県知事は、指定した介護サービス事業者を指導・監督し、人員基準等に関する違反、費用の不正請求など、一定の事由がある場合には介護サービス事業者の指定を取り消すことができるとされている。
 そして、上記3種の介護サービス事業者のうち、居宅サービス事業者及び居宅介護支援事業者に関しては、保険給付の質と量を確保し、利用者本位の効率的な介護サービスの提供を実現するという観点から、営利法人(株式会社等)や特定非営利法人等、できる限り多様な提供主体の参入を目指すこととされている。

カ 費用負担

 介護給付費については、その100分の50を公費で、残りの100分の50を被保険者の保険料で賄うこととなっている(図1参照)

図1 介護保険制度における費用負担の構造(12年度から14年度までの場合)

図1介護保険制度における費用負担の構造(12年度から14年度までの場合)

〔1〕 公費負担割合

 介護給付費に対する公費負担割合の内訳は、国が介護給付費負担金として100分の20及び介護給付費財政調整交付金(以下「財政調整交付金」という。)として100分の5相当額、都道府県及び市町村がそれぞれ100分の12.5、計100分の50となっている。
 このうち国が交付する財政調整交付金は、市町村における介護保険財政の格差調整を行うため、第1号被保険者の年齢階級別の分布状況及び所得の分布状況を考慮して、市町村ごとに交付割合を算定して交付されるものである。

〔2〕 被保険者間の保険料負担割合

 国民の共同連帯の理念に基づき、全国の被保険者が公平に費用を負担するため、第1号被保険者と第2号被保険者の保険料の介護給付費に対する負担割合は、全国におけるそれぞれの被保険者数の比率に基づき、12年度から14年度までの3年間(以下「第1期事業運営期間」という。)は、第1号被保険者の保険料で100分の17、第2号被保険者の保険料で100分の33となっている。
 このうち、第1号被保険者の保険料については、市町村は、中期的に安定した財源確保を図るなどのため、3年間を単位とする事業運営期間ごとに、第1号被保険者の保険料の基準額(月額)を算定し、その上で、第1号被保険者各々の負担能力に応じた負担を求めるため、第1号被保険者本人及びその者の属する世帯の課税状況等により、原則として5つの所得段階別の区分に分け、保険料の基準額を基に算定した各区分ごとに定額の保険料を設定し、賦課・徴収することとされている。
 また、市町村は、条例で定めるところにより、第1号被保険者の保険料を減免できることとなっている。ただし、厚生労働省においては、その場合にあっても、(a)保険料の全額を免除することは、国民皆で支え合う共同連帯の理念という介護保険制度の趣旨にかんがみ適当ではないこと、(b)収入のみに着目して一律に減免を行うことは、正確な負担能力の有無を個々具体的に判断しないまま減免を行うこととなり不公平であること、(c)市町村の一般財源によって保険料減免分の補てんを行うことは、市町村の一般財源からの繰入れを常態化させることにつながるおそれがあり適当ではないこと(以下、これらを併せて「保険料減免に関する3原則」という。)とする助言を行っている。

キ 介護保険事業計画の策定

 市町村は、介護保険制度を円滑に実施するため、国が示す基本指針に即して、3年ごとに、5年を1期とする介護保険事業計画(以下「事業計画」という。)を策定することになっている。
 この事業計画には、当該市町村の区域における被保険者、要介護者等の人数等を勘案して、保険料収入額、各年度の介護サービスの種類ごとの量の見込み、当該見込量の確保のための方策、介護給付費の額等を定めることとされている。

ク 介護保険財政に対する支援体制

 都道府県は、管内の市町村が通常の努力を行ってもなお生じる介護保険財政の財源不足に対処し、当該市町村が、市町村の法定負担割合を超えて一般財源から繰入れを行わなくてもよいよう、資金の交付又は貸付けを行うために財政安定化基金を設置している。
 第1期事業運営期間においては、管内市町村における3年間の介護給付費の推計額の総額の1000分の5に相当する額を基準として財政安定化基金を造成することとされ、国、都道府県及び市町村がそれぞれ3分の1ずつを拠出している。
 この財政安定化基金からの交付は、第1号被保険者から徴収する保険料の収納率が悪化し、保険料収入に不足を生じた場合に、不足額の2分の1に相当する額を各事業運営期間の最終年度に交付するものである。
 また、財政安定化基金からの貸付けは、事業計画に基づく推計を上回る介護給付費の増加などにより、介護保険財政に不足が生じた場合に、必要な資金を貸し付けるものである。貸付けを受けた市町村は、次の事業運営期間の3年間で、都道府県へ償還することになっており、償還に要する費用は、次の事業運営期間における第1号被保険者の保険料の一部として算定され、徴収される。
 なお、介護保険制度が12年度から新たに開始されたものであることにかんがみ、第1期事業運営期間中に財政安定化基金から多額の貸付けを受けざるを得ず、そのため、次の事業運営期間(15年度から17年度まで。以下「第2期事業運営期間」という。)で借入金の全額を償還しようとすると、第1号被保険者の保険料の額が著しく高額になってしまう市町村については、そのような高騰を抑制するため、償還期間を最長9年間に延長することができるとの特別の措置が執られた。

(介護保険制度の見直し)

 これまで述べてきたような仕組みが採られている介護保険制度については、法附則の規定に基づき、介護サービスを提供する体制の状況、介護給付費の状況等を勘案し、また、障害者の福祉に係る施策等との整合性及び市町村が行う介護保険事業の円滑な実施に配意し、被保険者の範囲、保険給付の内容及び水準並びに保険料等の負担の在り方を含めその全般に関して、法施行後5年を目途として検討を加え、必要な見直し等の措置を講じることとされている。
 この規定を受け、第1期事業運営期間における施行状況を踏まえ、介護保険制度に関する各種課題及びその対応方策等について議論を行うため、15年5月、社会保障審議会に介護保険部会が設置され、審議の後、本年7月に取りまとめがなされた。
 厚生労働省においては、この介護保険部会の取りまとめ等を踏まえ、17年の通常国会への改正法案提出に向け、準備を進めているところである。

(介護予防に関する施策)

 介護保険制度を健全かつ安定的に運営する一方で、様々な状態にある高齢者が、心身共に健康を維持し、社会の一員として生きがいを持って生活を続けていくためには、地域における総合的な介護予防や生活支援等の福祉・保健サービス施策の推進が重要である。また、健康で、介護を必要としない高齢者を増加させることは、介護給付費の抑制につながることにもなる。
 そのためには、市町村における保健医療分野と福祉分野とが連携して取り組むことと併せ、市町村内の様々な機関・団体等が相談窓口となり、これらの窓口を通じて高齢者の実態を把握して福祉・保健サービスの利用に結び付けていく体制の整備が必要である。
 現在、全国の市町村で整備が進められている在宅介護支援センターは、在宅の高齢者等に対し、在宅介護や介護予防、生活支援、保健、福祉に関する総合的な相談に応じ、それらの者のニーズに対応した各種福祉・保健サービスの総合的な利用を図るための機関であり、市町村が、自ら又は社会福祉法人等に委託して、運営している。

2 検査の背景、着眼点及び対象

(検査の背景)

 国は、介護保険制度の円滑な運営を図るため、前記のとおり、毎年度多額の負担金等を交付しているところであり、また、国民の介護問題に関する不安もあり、12年4月に開始された介護保険制度の実施状況について、国民の期待と関心が高くなっている。
 本院では、介護保険制度の施行開始に伴い、市町村における介護保険制度の運営に対して交付された各種の国庫負担金、交付金等について検査を実施し、その結果、財政調整交付金の算定誤り、介護保険事務費交付金の算定誤り、介護給付費の支払不適切などについて指摘してきた。
 本年は、第1期事業運営期間が終了したこと、その間に多額の国庫負担金等が交付されたこと、法が定める5年ごとの介護保険制度全般にわたる第1回目の見直しの時期を迎えていることなどから、全国の市町村の第1期事業運営期間における介護保険制度の実施状況等について検査を行うこととした。

(検査の着眼点)

 検査に当たっては、市町村においては、被保険者の状況、介護保険の財政運営状況、介護予防に係る施策の現状等、また、都道府県においては、財政安定化基金の管理状況、介護サービス事業者の実態、介護サービス事業者に対する指導等の状況等、介護保険制度の実施状況について着眼するとともに、介護保険制度の見直しに当たり、制度が適切かつ円滑に実施されることとなるよう、介護保険財政の健全な運営、介護サービス事業者の参入の促進、介護予防の充実などの点について注目して検査した。

(検査の対象)

 24都道府県(注) 及びそれらの管内の計351市町村等において、第1期事業運営期間における介護保険事業の実施状況等について検査した。また、併せて、市町村及び都道府県に、第1期事業運営期間における実施状況に関する評価及び介護保険制度や介護予防に関する制度についての意見を聴取した。

24都道府県  東京都、北海道、大阪府、青森、栃木、千葉、神奈川、石川、福井、静岡、愛知、滋賀、兵庫、和歌山、島根、岡山、山口、徳島、高知、福岡、長崎、宮崎、鹿児島、沖縄各県

3 検査の状況

(1)介護保険制度の実施状況

ア 介護保険制度の実施に当たり交付された国庫負担金等

 検査の対象とした351市町村等に対して、第1期事業運営期間中に、国から交付された各種の負担金、交付金は表4のとおりとなっている。
 介護給付費の100分の20を交付する介護給付費負担金及び100分の5相当額を交付する財政調整交付金は、12年度に比較して14年度で、それぞれ45.0%増加、41.1%増加となっており、介護保険財政の規模の拡大がみられる。

表4 都道府県別国庫負担金等交付額(検査実施市町村分)

(単位:百万円)

都道府県 検査実施市町村数 介護給付費負担金 介護給付費財政調整交付金 介護保険事務費交付金
12年度 13年度 14年度 12年度 13年度 14年度 12年度 13年度 14年度
北海道 17 16,987 20,869 23,003 60,861 3,810 4,844 5,394 14,049 588 624 621 1,834
青森県 20 4,958 6,360 7,022 18,341 1,216 1,551 1,714 4,482 178 203 202 584
栃木県 19 4,999 6,225 7,031 18,256 1,153 1,500 1,680 4,334 198 246 241 685
千葉県 13 7,430 9,991 11,605 29,027 998 1,350 1,385 3,734 273 329 372 975
東京都 21 24,586 32,564 38,238 95,390 4,569 6,262 6,931 17,763 885 1,067 1,162 3,115
神奈川県 14 22,481 30,322 35,726 88,530 2,869 3,935 4,429 11,234 1,012 1,038 1,203 3,254
石川県 6 1,502 1,841 2,095 5,440 413 498 557 1,469 46 49 51 148
福井県 16 5,395 6,512 7,077 18,984 1,414 1,718 1,881 5,014 160 186 172 519
静岡県 24 8,913 11,740 13,817 34,470 1,723 2,351 2,787 6,862 337 411 438 1,187
愛知県 13 13,194 17,215 19,764 50,175 2,320 3,076 3,443 8,840 592 667 643 1,902
滋賀県 8 1,476 1,941 2,297 5,716 348 458 534 1,341 52 68 69 190
大阪府 23 32,168 42,492 50,106 124,767 6,602 8,718 9,863 25,185 1,411 1,703 1,779 4,894
兵庫県 9 3,580 4,652 5,289 13,521 655 901 993 2,551 139 143 152 436
和歌山県 17 5,036 6,337 7,360 18,734 1,399 1,770 2,030 5,200 208 246 255 710
島根県 8 3,605 4,459 4,858 12,922 1,175 1,450 1,595 4,220 118 155 137 411
岡山県 12 9,090 11,277 12,610 32,979 2,401 2,923 3,218 8,543 296 431 424 1,152
山口県 18 8,883 10,706 11,742 31,332 2,427 2,934 3,165 8,527 289 308 315 913
徳島県 14 4,709 5,810 6,571 17,091 1,305 1,631 1,863 4,800 152 173 186 512
高知県 21 5,771 6,806 7,265 19,842 1,920 2,307 2,447 6,676 156 183 185 525
福岡県 15 26,751 32,768 36,502 96,022 7,383 9,094 9,964 26,443 826 998 1,137 2,962
長崎県 13 7,896 9,770 10,354 28,021 2,391 2,963 3,238 8,593 327 371 404 1,104
宮崎県 11 5,523 6,592 7,310 19,425 1,651 1,971 2,168 5,791 199 193 201 595
鹿児島県 15 6,226 7,487 8,178 21,892 2,089 2,511 2,722 7,322 211 227 239 678
沖縄県 4 3,638 4,369 4,672 12,679 1,023 1,171 1,169 3,363 101 126 130 358
351 234,808 299,117 340,504 874,430 53,266 67,896 75,183 196,347 8,765 10,158 10,729 29,653

イ 被保険者の状況

〔1〕 高齢化の状況

 検査を実施した市町村における高齢化の状況を、介護保険制度開始直前の11年度末と14年度末の高齢化率で比較すると、図2のとおり、15.8%から17.5%に1.7ポイント上昇している。

図2 検査実施市町村における高齢化の状況

図2検査実施市町村における高齢化の状況

〔2〕 第1号被保険者数の状況

 第1号被保険者数は、介護保険制度開始直前の11年度末と14年度末を比較すると、表5のとおり、749万人から847万人へと13.1%増加している。
 これを、65歳以上75歳未満の前期高齢者数と75歳以上の後期高齢者数とに分けてみると、介護保険制度開始後の12年度末に対し14年度末で、前期高齢者数が5.6%増加、後期高齢者数が14.8%増加と、介護サービスを必要とする度合の高い後期高齢者数の伸びが著しいものとなっている。

表5 第1号被保険者数の推移

(単位:人)

区分 11年度末 12年度末 13年度末   14年度末    
対12年度比 対11年度比 対12年度比
第1号被保険者数 7,490,558 7,758,395 8,162,935 105.2% 8,471,796 113.1% 109.2%
  前期高齢者数

4,724,233 4,849,969 102.7% 4,987,677 105.6%
  後期高齢者数 3,034,162 3,312,966 109.2% 3,484,119 114.8%

〔3〕 要介護等の認定の状況

 被保険者のうち要介護等の認定を受けた者について、12年度末と14年度末とを比較すると、表6のとおり、89万人から123万人へと37.9%増加している。これを前期高齢者と後期高齢者に分けてみると、前期高齢者が17万人から24万人の41.0%増加、後期高齢者が72万人から99万人の37.1%増加となっていて、前期高齢者の伸びの方がやや高くなっている。
 また、要介護度別にみると、要支援及び要介護度1の認定者数の伸びが、それぞれ65.0%、54.2%となっているのに対し、要介護度4及び要介護度5の認定者数の伸びは、それぞれ16.4%、22.5%となっていて、要介護度の低い認定者数の伸びが大きくなっている。
 そして、要介護度の低い認定者数の伸びは前期高齢者の方が高く、要介護度の高い認定者数の伸びは後期高齢者の方が高くなっている。

表6 要介護等の認定者数の状況

(単位:人)

要介護等の認定者数 12年度 13年度   14年度  
対12年度比 対12年度比
要支援 前期高齢者 23,274 31,464 135.2% 42,571 182.9%
後期高齢者 94,755 119,316 125.9% 152,207 160.6%
118,029 150,780 127.7% 194,778 165.0%
要介護1 前期高齢者 48,578 63,712 131.2% 77,569 159.7%
後期高齢者 204,634 264,262 129.1% 312,980 152.9%
253,212 327,974 129.5% 390,549 154.2%
要介護2 前期高齢者 33,813 40,035 118.4% 44,974 133.0%
後期高齢者 132,174 157,978 119.5% 172,928 130.8%
165,987 198,013 119.3% 217,902 131.3%
要介護3 前期高齢者 22,301 24,875 111.5% 26,688 119.7%
後期高齢者 98,687 111,222 112.7% 121,214 122.8%
120,988 136,097 112.5% 147,902 122.2%
要介護4 前期高齢者 20,643 22,306 108.1% 23,582 114.2%
後期高齢者 102,436 112,097 109.4% 119,622 116.8%
123,079 134,403 109.2% 143,204 116.4%
要介護5 前期高齢者 21,416 23,381 109.2% 24,329 113.6%
後期高齢者 90,272 104,062 115.3% 112,515 124.6%
111,688 127,443 114.1% 136,844 122.5%
前期高齢者 170,025 205,773 121.0% 239,713 141.0%
後期高齢者 722,958 868,937 120.2% 991,466 137.1%
892,983 1,074,710 120.4% 1,231,179 137.9%
第1号被保険者に占める認定者の割合 前期高齢者 2.2% 2.5% 2.8%
後期高齢者 9.3% 10.6% 11.7%
11.5% 13.2% 14.5%

ウ 第1号被保険者の保険料の状況

〔1〕 保険料の設定状況

 市町村における、第1期事業運営期間における第1号被保険者の保険料の基準額の設定状況及び分布状況は、表7及び図3のとおりとなっており、全国の市町村における保険料の基準額の平均2,911円と比較した場合、これを下回る保険料として設定したのは147市町村(41.9%)、これを上回る保険料として設定したのは203市町村(57.8%)となっていた。このうち、最も低額な保険料の基準額は1,988円、最も高額な保険料の基準額は4,000円であった。
 また、原則として5段階とされている保険料の区分を6段階にして、低所得者の保険料を更に軽減している市町村が2市町あった。なお、第2期事業運営期間における保険料についてみると、5段階としているものが39市町村に増加し、新たに、10町村において、5段階のまま低所得者に係る区分の保険料を軽減している。

表7 第1号被保険者の保険料(基準額)の設定状況
区分 第1期事業運営期間 第2期事業運営期間
市町村数 構成比 市町村数 構成比
全国平均より低い保険料の市町村数 147 41.9% 133 37.9%
全国平均より高い保険料の市町村数 203 57.8% 216 61.5%
全国平均第1期2,911円、第2期3,293円と同額の市町村数 1 0.3% 2 0.6%
6段階保険料を設定している市町村数 2 0.6% 39 11.1%
低所得者の保険料を軽減している市町村数 0 0.0% 10 2.8%

図3 第1号被保険者の保険料(基準額)の分布状況

図3第1号被保険者の保険料(基準額)の分布状況

〔2〕 保険料の減免の状況

 低所得者に対して市町村が独自に行っている保険料の減免措置の実施状況は、表8のとおりであった。
 これらのうち、前記のとおり、厚生労働省が適切でないとして助言を行っている保険料減免に関する3原則を遵守していない市町村が、13年度及び14年度に19市町あった。ただし、第2期事業運営期間が始まった15年度には11市町に減少している。

表8 保険料の減免を行っている市町村
区分 13年度 14年度 15年度
保険料減免を行っている市町村数 88 121 188
  うち3原則を遵守していない市町数 19 19 11
 

(注)
全額免除 9 9 6
  収入のみに着目した減免 2 2 2
  一般財源からの繰入による補てんを前提とした減免 10 10 6
減免額
(千円)

163,736 345,054
 態様に重複するものがある。

 

エ 財政安定化基金の状況

〔1〕 財政安定化基金の造成

 第1期事業運営期間における24都道府県の財政安定化基金の造成額及び造成額のうちの国庫負担金の額は、表9のとおりとなっている。

表9 財政安定化基金の造成額

(単位:千円)

都道府県名 財政安定化基金造成額 造成額のうちの国庫負担金の額
北海道 9,994,308 3,324,461
青森県 2,821,146 937,994
栃木県 2,805,835 933,817
千葉県 6,695,856 2,228,942
東京都 17,825,268 5,937,921
神奈川県 10,364,562 3,445,427
石川県 2,309,474 708,793
福井県 1,697,153 562,780
静岡県 5,958,793 1,983,582
愛知県 8,468,231 2,819,624
滋賀県 1,837,754 611,236
大阪府 12,582,687 4,194,229
兵庫県 8,355,969 2,785,323
和歌山県 2,072,940 689,866
島根県 1,879,622 625,611
岡山県 3,874,500 1,290,275
山口県 3,259,010 1,085,647
徳島県 1,937,227 644,663
高知県 1,985,450 660,795
福岡県 8,499,258 2,828,116
長崎県 3,124,916 1,041,638
宮崎県 2,425,387 808,056
鹿児島県 4,113,872 1,369,113
沖縄県 6,301,600 2,100,473
131,190,831 43,618,393

〔2〕 財政安定化基金からの貸付けと交付の状況

 介護保険財政の不足のために行われた財政安定化基金からの貸付け及び交付の状況は、表10のとおりとなっている。全く利用していない県が1県見受けられたが、23都道府県においては造成額の0.1%から88.1%が、また、24都道府県合わせて、貸付額計259億9710万円(造成額の19.8%)、交付額計9億2335万円(造成額の0.7%)、合計269億2045万円(造成額の20.5%)が利用されており、造成額の50%を超える利用が5県でみられた。
 そして、検査の対象とした351市町村のうち、貸付けを受けたのは129市町村(36.8%)、交付を受けたのは34市町村(9.7%)となっていた。

表10 財政安定化基金からの貸付け及び交付の状況

(単位:千円)

都道府県名 貸付額計(a)   交付額(b) 第1期利用
額計 (c)=(a)+(b)
基金造成額に対する利用割合
12年度 13年度 14年度 14年度
北海道 1,828,487 14,415 365,859 1,448,213 314,231 2,142,718 21.4%
青森県 2,103,579 24,264 493,524 1,585,790 26,639 2,130,218 75.5%
栃木県 86,200 13,535 72,665 5,522 91,722 3.3%
千葉県 90,384 7,475 82,909 2,321 92,705 1.4%
東京都 90,933 23,688 52,920 14,325 18,979 109,912 0.6%
神奈川県 13,640 13,640 225 13,865 0.1%
石川県 895,410 62,120 224,810 608,480 7,024 902,434 39.1%
福井県 3,578 3,578 865 4,443 0.3%
静岡県
愛知県 70,696 12,000 58,696 3,081 73,777 0.9%
滋賀県 107,492 3,183 104,309 107,492 5.8%
大阪府 107,072 107,072 71,806 178,878 1.4%
兵庫県 613,600 32,800 153,700 427,100 36,984 650,584 7.8%
和歌山県 527,207 2,000 69,398 455,809 21,521 548,728 26.5%
島根県 47,390 14,000 33,390 47,390 2.5%
岡山県 871,600 65,500 350,400 455,700 4,902 876,502 22.6%
山口県 1,382,140 50,143 289,462 1,042,534 42,750 1,424,890 43.7%
徳島県 1,324,929 6,352 365,309 953,267 16,995 1,341,924 69.3%
高知県 1,594,347 75,325 579,185 939,837 7,711 1,602,058 80.7%
福岡県 5,314,413 1,510,506 3,803,907 81,712 5,396,125 63.5%
長崎県 1,411,574 27,857 528,191 855,525 36,498 1,448,072 46.3%
宮崎県 431,733 20,563 47,605 363,565 4,145 435,878 18.0%
鹿児島県 1,696,857 69,452 535,036 1,092,368 52,751 1,749,608 42.5%
沖縄県 5,383,836 2,724,892 2,658,944 166,686 5,550,522 88.1%
25,997,100 477,664 8,337,809 17,181,626 923,355 26,920,455 20.5%

〔3〕 貸付金の償還

 財政安定化基金から貸付けを受けた市町村は、第2期事業運営期間の3年間に償還することとなっているが、特別の措置による償還期間の延長を行った市町村が、表11のとおり、貸付けを受けた129市町村のうちの57市町村(44.2%)となっている。

表11 償還期間の延長を行った市町村の状況
第1期事業運営期間において貸付けを受けた市町村数 129
  償還期間の延長を行った市町村数 57
    うち6年償還とした市町村数 28
    うち9年償還とした市町村数 29
貸付けを受けた主な理由  
  事業計画よりも給付費が増加した 106
  保険料収納率の低下により保険料収入が少なかった 11
  その他 15

〔4〕 市町村の法定負担割合を超える繰入れ

 介護保険財政に生じた不足分について財政安定化基金からの貸付けを受けず、市町村の一般財源からの繰入金で賄うことは、社会保険制度の趣旨を損なうものとなることから、厚生労働省は、市町村の法定負担割合を超えて繰り入れることのないよう助言を行っている。
 しかし、第1期事業運営期間に法定負担割合を超えて繰入れを行った市町村が、表12のとおり、9市町あった(繰入額計10億3858万円)。また、第2期事業運営期間において繰入れを行うこととしている市町村が20市町ある(繰入予定額18億2259万円)。

表12 法定負担割合を超えて繰入れを行った市町
第1期事業運営期間に法定負担割合を超えて繰入れを行った市町
繰入れを行った主な理由 市町数 3年間の繰入額(千円)
保険料の不足分を補うため
第1号被保険者の保険料を軽減するため
5
4
236,541
802,042
9 1,038,584

第2期事業運営期間に法定負担割合を超えて繰入れを行う予定の市町
繰入れを行う主な理由 市町数 3年間の繰入予定額(千円)
財政安定化基金からの貸付金の償還のため
第1号被保険者の保険料を軽減するため
その他
15
4
1
1,205,950
615,121
1,519
20 1,822,591

オ 介護給付費準備基金の状況

 第1期事業運営期間において、市町村の介護保険特別会計に生じた第1号被保険者の保険料の剰余金は介護給付費準備基金として積み立てられており、市町村は、これを取り崩すことにより、第2期事業運営期間における第1号被保険者の保険料を軽減することができることとされている。
 第1期事業運営期間に介護給付費準備基金を造成した市町村数は、表13のとおり、241市町村(68.7%)の756億5077万円となっており、これらのうち、第2期事業運営期間における第1号被保険者の保険料を軽減するために取崩しを行った市町村数は165市町村あった。

表13 介護給付費準備基金の造成及び取崩しの状況
第1期事業運営期間中に同準備基金を造成した市町村数 241
同準備基金の14年度末保有額(千円) 75,650,772
第2期事業運営期間の保険料軽減のために準備基金を取り崩した市町村数 165
  うち一部取崩しを行った市町村数 44
  うち全額取崩しを行った市町村数 121

カ 介護サービスの利用状況

 介護保険制度の基本的な指針によれば、被保険者が要介護状態等になった場合においても、可能な限り、その居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるようにすることを目指すとの考え方から、居宅サービスを重視することとされている。
 検査を実施した市町村における居宅サービスと施設サービスの利用状況について、介護給付費の支払状況をみると、表14及び図4のとおり、居宅サービスに係る介護給付費の額が施設サービスに係る介護給付費の額を下回っているものの、年々、居宅サービスに係る介護給付費の占める割合が増加している。これは、要介護度の低い認定者数の大幅な伸びに伴い、居宅サービスの利用が増大していることや、施設サービスで利用する介護老人福祉施設等の整備は計画的に実施され、急激に増加することはないことなどによるものと考えられる。

表14 居宅サービス及び施設サービスに係る介護給付費の実績

(単位:千円)

区分 12年度 13年度 14年度
居宅サービス 409,409,327 599,926,990 745,918,933
施設サービス 753,887,948 882,505,591 942,240,301
1,163,297,275 1,482,432,582 1,688,159,234

図4 居宅サービスと施設サービスの介護給付費の割合

図4居宅サービスと施設サービスの介護給付費の割合

キ 介護サービス事業者の状況

〔1〕 介護サービス事業者の参入状況

 介護保険により給付される保険給付の質と量を確保し、利用者本位の効率的な介護サービスの提供を実現するという観点から、介護サービスの内容の性格等に応じ、できる限り多様な提供主体の参入を促すこととされているが、介護サービス事業者の法人種類別事業者数は、表15のとおり、年々増加している。
 12年度から15年度にかけて、特定非営利法人が342.8%の増加、株式会社等の営利法人が105.7%の増加、医療法人が32.3%の増加となっており、前記のような多様な提供主体の参入の方針については、これまでのところ順調に推移している。

表15 法人種類別介護サービス事業者数
法人種類 12年度 15年度 対12年度比
居宅サービス事業者 居宅介護支援事業者 介護保険施設 居宅サービス事業者 居宅介護支援事業者 介護保険施設 居宅サービス事業者 居宅介護支援事業者 介護保険施設
社会福祉法人 7,417 2,619 2,179 12,215 9,725 3,182 2,693 15,600 131.1% 121.5% 123.6% 127.7%
社会福祉協議会 2,033 961 2 2,996 2,313 1,128 13 3,454 113.8% 117.4% 650.0% 115.3%
医療法人 13,179 2,692 2,416 18,287 17,779 3,390 3,032 24,201 134.9% 125.9% 125.5% 132.3%
民法法人 898 494 90 1,482 1,141 571 98 1,810 127.1% 115.6% 108.9% 122.1%
営利法人 6,923 2,144 3 9,070 14,785 3,865 4 18,654 213.6% 180.3% 133.3% 205.7%
特定非営利法人 183 86 0 269 913 278 0 1,191 498.9% 323.3% 442.8%
農業協同組合 263 85 9 357 371 145 11 527 141.1% 170.6% 122.2% 147.6%
生活協同組合 481 263 8 752 743 316 11 1,070 154.5% 120.2% 137.5% 142.3%
市町村 2,171 570 314 3,055 2,218 525 342 3,085 102.2% 92.1% 108.9% 101.0%
その他 22,029 107 458 22,594 25,303 219 52 25,574 114.9% 204.7% 11.4% 113.2%
55,577 10,021 5,479 71,077 75,291 13,619 6,256 95,166 135.5% 135.9% 114.2% 133.9%

〔2〕 離島等特定地域への参入状況

 離島やへき地など、厚生労働大臣が定める一定の地域(以下「離島等特定地域」という。)においては、介護サービス事業者の参入に困難が見込まれたり、その他の地域に比べ介護サービスの提供に多額の経費を必要とすると考えられることから、その対応策として、介護サービス事業者が受ける介護報酬に、特別地域加算として15%の割増しがなされることとなっている。
 検査を行った都道府県のうち、20道府県管内の1,313市町村における離島等特定地域の指定状況は、全域が離島等特定地域となっている市町村が349市町村、一部が離島等特定地域となっている市町村が203市町村、合計552市町村となっていた。
 この552市町村における介護サービス事業者の参入の状況についてみたところ、居宅介護支援事業者が全く参入していない市町村は13町村(2.4%)、1事業者しか参入していない市町村は149町村(27.0%)、計162町村(29.3%)となっていた。同様に、居宅介護サービス事業者が全く参入していない市町村は3町村(0.5%)、1事業者しか参入していない市町村は10町村(1.8%)、計13町村(2.4%)となっていた。
 このような離島等特定地域においては、被保険者が介護サービスを利用できない、あるいは利用しようとする介護サービスを選択することができない状況にあると考えられる。

〔3〕 介護サービス事業者に対する指導・監査

 介護サービス事業者の数が増加し続けている一方で、一部の介護サービス事業者が、不適正な介護給付費の請求を行ったり、国が定めた運営基準等を遵守しない不適切な介護サービスを提供したりしている状況にある。
 このような状況に対し、介護サービス事業者の指定権者である都道府県では、介護サービス事業者に対し、様々な方法により指導あるいは監査を実施してきており、その結果、表16のとおり、3年間で、介護給付費53億8307万円が返還されている。

表16 都道府県による指導等の結果返還された介護給付費額

(単位:千円)

年度 介護サービスの種類 指導の種類 事業者数 返還額
12年度 居宅サービス 実地指導 98 155,543
監査 6 36,777
書面指導
その他
65 73,738
169 266,059
施設サービス 実地指導 183 496,756
監査 2 9,162
書面指導
その他
2 15,096
187 521,015
356 787,074
13年度 居宅サービス 実地指導 334 477,086
監査 14 121,722
書面指導
その他
29 51,000
377 649,808
施設サービス 実地指導 314 943,782
監査 2 348,500
書面指導
その他
16 65,114
332 1,357,397
709 2,007,205
14年度 居宅サービス 実地指導 352 602,195
監査 23 98,730
書面指導
その他
8 2,058
383 702,984
施設サービス 実地指導 332 909,284
監査 8 947,426
書面指導
その他
6 29,098
346 1,885,809
729 2,588,793
合計 1,794 5,383,074

 厚生労働省では、15年度に、介護サービス事業者に支払う介護給付費の適正化のために介護給付適正化事業を実施しており、その一環として、市町村が介護費用適正化対策のために活用できるよう、市町村の委託を受けて介護給付費の審査支払業務を行っている国民健康保険団体連合会から、利用者や介護サービス事業者の状況に関する各種情報の提供を受けることができることになった。また、市町村が同連合会から提供される資料を活用し、介護給付の適正化に関する取組に必要なコンピュータ整備などの環境整備に関して国庫補助を行っている。

(2)在宅介護支援センターにおけるケアプランの作成状況

 市町村が社会福祉法人等に委託するなどして運営する在宅介護支援センター(以下「支援センター」という。)は、地域の高齢者等の心身や家族の状況の実態を把握して、できる限り要介護状態にならないための適切な介護予防サービス等の利用を促進し、また、各種の保健福祉サービス及び介護保険サービスに関する情報の提供や積極的利用の啓発に係る業務を介護保険制度施行前から行っている。12年4月の介護保険制度の施行に伴い、支援センターの運営の委託を受けている社会福祉法人等の多くが支援センターに居宅介護支援事業所を併設したため、支援センターの職員の多くが双方の業務を兼任している状況になっている。
 今回、介護支援専門員である支援センターの職員が、居宅介護支援事業所の職務を兼務しながらケアプランを作成している状況についてみたところ、918支援センターにおいて、当該職員1人当たりの月平均のケアプラン作成状況は、図5のとおりとなっている。
 全体の平均作成件数は月38.1件となっているものの、介護支援専門員の配置基準として厚生省令で定められている1人当たりの作成件数50件を超える件数となっているものが224支援センター(24.4%)と約4分の1を占める状況にあり、これらの支援センターにおいては職員がケアプランの作成に追われ、支援センター本来の業務である地域の高齢者の実態把握などを十分に行えない状況にあると考えられる。

図5 介護支援専門員1人当たりのケアプラン作成状況

図5介護支援専門員1人当たりのケアプラン作成状況

(3)介護保険制度の実施状況に関する市町村及び都道府県の評価、介護保険制度等に関する市町村の意見

ア 実施状況に関する市町村の評価

 介護保険制度において保険者とされている市町村が第1期事業運営期間に支給した介護給付費の額と事業計画における推計額とを比較したところ、おおむね事業計画どおりの額であったとする市町村数が82(23.4%)、下回ったとする市町村数が137(39.0%)、上回ったとする市町村数が116(33.0%)であった。
 このうち、介護給付費が事業計画を下回った理由については、居宅サービス費が事業計画における推計を下回ったことによるとする市町村数が90と、施設サービス費が事業計画における推計を下回ったことによるとする市町村数の79を上回っていた。これに対し、介護給付費が事業計画を上回った理由については、居宅サービス費が事業計画における推計を上回ったことによるとする市町村数の58と施設サービス費が事業計画における推計を上回ったことによるとする市町村数の58と同数であった。
 また、市町村における介護保険制度の実施状況に関する評価の内容のうち、主なものを掲げると、以下のとおりとなっている。

(ア)介護サービス事業者の利用者掘り起こしによる安易な介護サービス利用が見受けられる。

(イ)被保険者数の伸びに比べ比較的軽度な要介護度の認定者数の伸びが高い。

(ウ)自己負担の割安感や家族の介護負担の軽減につながることから、居宅サービスに比べ多額の費用を要する介護保険施設の利用意向が高い。

(エ)被保険者数が少ないなど介護保険財政の規模の小さい市町村においては、的確な事業計画の策定が困難である。

(オ)高齢者が生きがいを持って社会生活を営むことができるよう、また、介護給付費の増加を抑制するために、高齢者の健康づくりや介護予防に関する事業の推進が必要である。

イ 実施状況に関する都道府県の評価

 管内の市町村における介護保険制度の実施状況に関して、保険者である市町村を指導することとされている都道府県がどのように評価しているかを聴取したところ、その主なものは以下のとおりであった。

(ア)離島等特定地域における介護サービス事業者の参入が遅れており、そのような地域では必要な介護サービスが十分に利用できない。

(イ)介護サービス事業者の資質の向上、介護サービスの内容や介護給付費の適正化、介護サービス事業者に対する指導監査の充実を図ることが必要である。

(ウ)被保険者による介護サービス事業者の選択に資するために、介護サービス事業者に関する情報提供の推進を図ることが重要である。

(エ)介護予防のために高齢者の健康づくりに関する施策を積極的に推進したり、地域で高齢者を支える体制の整備が求められる。

(オ)高齢者の健康づくりや介護予防に関する事業の実施が重要になっている。

ウ 介護保険制度等に関する市町村の意見

 市町村における介護保険制度及び介護予防に係る各種施策等に関する意見等についても調査した。
 市町村の意見等のうち主なものの内容を挙げると、以下のとおりとなっていた。

(ア)低所得の第1号被保険者の保険料については、更なる軽減策を国において実施してほしい。

(イ)介護給付費負担金の負担割合を100分の25とし、市町村における介護保険財政の調整に当たっては、現行の財政調整交付金の制度とは別の方策を検討してほしい。

(ウ)介護給付費の適正化を推進することが急務である。

(エ)介護給付費の適正化や介護サービスの質の確保の観点から、市町村に介護サービス事業者に対する指導監査権限を付与してほしい。

(オ)居宅サービスに係る自己負担に比べ施設サービスに係る自己負担に割安感があることから、それぞれの介護サービスにおける利用者負担の公平化を図り、施設サービスの利用希望を居宅サービス利用へ誘導するよう検討してほしい。

(カ)介護サービスを利用している被保険者と利用していない被保険者との間に不公平感があることから、その緩和策が求められている。

(キ)被保険者が少ないなど小規模な市町村においては、介護保険財政の安定化を図ることが困難であるので、現行の市町村単位の保険者制度を見直してほしい。

(ク)支援センターの活動の充実、機能の強化を図ることが重要である。

4 本院の所見

 上記のような第1期事業運営期間における介護保険制度の実施状況等を踏まえ、今後、国民の理解を得た上で介護保険制度を適切、円滑に運営していくために、厚生労働省においては、市町村を指導することとされている都道府県に対する助言等に関し、以下の点に留意していくことが望まれる。

(1)介護保険財政の健全な運営

 検査を行った351市町村のうちのほとんどの市町村においては、国民の共同連帯、被保険者の公平な費用負担という介護保険制度の基本理念を理解し、保険料減免に関する3原則を遵守していた。しかし、少数ではあるものの、遵守していない市町も見受けられることから、低所得者に係る保険料の減免については適正な実施が行われるよう、今後も引き続き指導が求められる。
 また、市町村の介護保険財政に不足が生じた場合の支援策として設けられている財政安定化基金については、多くの都道府県において貸付け等の実績があることから、この仕組みの効果は発現しているものと考えられるものの、財政安定化基金への償還に要する費用の財源は第1号被保険者の保険料に求めることになることから、事業計画の策定に当たっては、保険料収入額、介護給付費の額等について的確な推計を行うよう助言が求められる。
 なお、財源不足に対して、財政安定化基金からの貸付けを受けず、一般財源から繰入れを行っている市町村も散見され、引き続き適正な制度運営についての指導が求められる。

(2)介護サービス事業者の参入促進

 被保険者自らの選択による利用という介護保険制度の基本理念に照らし、また、今後も介護サービスの利用の増加が見込まれることから、引き続き介護サービス事業者の参入を図り、多様な介護サービスの提供を図ることが必要である。特に、離島等特定地域など、介護サービス事業者の参入の進んでいない地域においては、一層の促進策が望まれる。
 また、都道府県の評価にあるように、介護サービスの質を確保するために、被保険者による介護サービス事業者の選択に資するための各種の情報提供ができるような環境を整備することが必要である。

(3)介護給付費の適正化

 介護サービスの利用は、今後も、高齢化の進展に伴い、増大の一途をたどり、介護保険制度の運営に対して交付される国庫負担金、交付金等も引き続き増加することが見込まれる。
 また、市町村や都道府県から、介護サービス事業者の資質の向上や介護サービス事業者に対する指導等に関する意見、また、介護サービス事業者による介護サービスの掘り起こしなどに関する懸念が寄せられている。
 これまでも都道府県において行われている介護サービス事業者に対する介護給付費の点検業務の強化や介護サービス事業者に対する指導等を的確に実施し、不適正な介護給付費の請求や不適切な介護サービスの提供を防ぎ、介護給付費の適正化を図ることは、公費を含む介護費用の軽減につなげる上で重要である。このことは、介護保険制度に対する国民の信頼の確保にも寄与するものであり、今後も、都道府県、市町村における介護給付費の適正化に関する取組を積極的に支援することが求められる。

(4)介護予防の充実

 介護保険制度による介護サービスの利用の増加、財政の拡大の見込みに対し、介護給付費の伸びを抑え、公費や高齢者が負担する保険料の額を抑制するためには、高齢者が自立した生活を営めるよう、介護予防に関する事業の推進が重要である。
 検査の状況で示したとおり、約4分の1の支援センターの職員が1人当たりのケアプラン作成の標準とされる50件以上を作成している状況にあることから、支援センターの本来業務に十分に従事できるような体制づくりに対する配慮が払われることが望まれる。
 また、市町村や都道府県より、介護予防の充実に関する意見が多く寄せられたことから、支援センターで行われている介護予防等に関する事業以外にも、介護予防や生活支援に有効と考えられる各種の事業の推進を図るよう配意されることが望まれる。

(5)制度の適切な見直し

 現在厚生労働省において行われている介護保険制度全般にわたる見直しに当たっては、法附則に基づく各般の状況等のほか、第1期事業運営期間における実施状況や都道府県及び市町村の評価、介護保険制度等に関する市町村の意見を踏まえ、国民の理解が得られるよう、十分な検討を行うことが望まれる。
 本院としては、本格的な高齢化社会を迎え国民の介護保険制度に関する関心が高まっていることや、市町村や都道府県に多額の国庫負担金等が交付されており、今後更に増加することが見込まれることなどから、介護保険制度等の適切かつ円滑な実施について、引き続き注視していくこととする。