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  • 平成16年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第2 裁判所|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

常勤医師の研修等に係る勤務時間の管理を適切に行うことにより家庭裁判所における給与の支払を適正に行うよう改善させたもの


常勤医師の研修等に係る勤務時間の管理を適切に行うことにより家庭裁判所における給与の支払を適正に行うよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)裁判所 (項)下級裁判所
部局等の名称 東京家庭裁判所ほか24家庭裁判所
常勤医師の研修の概要 勤務時間中に外部の施設等で診療行為等に携わらせることにより、精神医学や臨床医学などの医学知識や医療技術等を維持向上させるもの
常勤医師に対して支出した給与の合計額 16億9045万余円 (平成12年度〜16年度)
上記に係る常勤医師の人数 57人  
兼業により割かれた勤務時間等に対する給与相当額 1835万円 (平成12年度〜16年度)
上記に係る常勤医師の人数 16人  

1 常勤医師の勤務の概要

(家庭裁判所における常勤医師の研修の概要)

 家庭裁判所では、家事審判法(昭和22年法律第152号)で定める家庭に関する事件の審判及び調停等、少年法(昭和23年法律第168号)で定める少年の保護事件の審判等を行っており、全国に50家庭裁判所が設置されている。そして、家庭裁判所には、上記の審判、調停等の際、医学的な診断や家庭裁判所調査官の調査に対する協力等を行うため、家庭裁判所特有の専門職員として裁判所技官である常勤医師及び非常勤医師が配置されている。
 このうち常勤医師については、最高裁判所では、従前から無報酬である場合に限り、本来の職務に支障を来さない範囲内で勤務時間中に医療機関や大学等の裁判所外の施設又は自宅等において診療行為等に携わらせることにより、精神医学や臨床医学などの医学知識や医療技術等を維持向上させるための研修を行わせるものとしている(以下、このような研修を「外部研修」という。)。そして、この外部研修については、裁判所職員に関する臨時措置規則(昭和27年最高裁判所規則第1号)により準用される人事院規則10—3(職員の研修)において、執務を離れての研修の実施に関して必要な基準を最高裁判所が定めて行うべきものとされている。

(常勤医師の給与)

 上記の常勤医師には、裁判所職員臨時措置法(昭和26年法律第299号)等に基づき、国家公務員法(昭和22年法律第120号)、一般職の職員の給与に関する法律(昭和25年法律第95号。以下「給与法」という。)等の法令が準用されることとなっている。その勤務時間は、休憩時間を除き、1日当たり8時間で1週間に40時間であり、各家庭裁判所において勤務時間の管理等が行われ、これにより所定の給与が支払われることとなっている。
 また、給与法では、国家公務員である職員が正規の勤務時間に勤務しないときは、休日である場合その他その勤務しないことにつき特に承認があった場合を除き、給与を減額して支給することとされている。

(兼業の許可の手続)

 国家公務員法により、国家公務員である職員の兼業は制限されており、報酬を得て職務以外の事業や事務に従事する場合には所属庁の長の許可を受けなければならないこととされている。
 最高裁判所では、兼業の許可の手続について、「裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員の兼業の許可等について」(平成4年人能A第17号。以下「兼業に関する通達」という。)を定めている。これによれば、兼業の許可を受けようとする職員は、兼業許可申請書を所属庁の長に提出することとされ、また、最高裁判所の許可を必要とする場合は、各裁判所を監督する高等裁判所を通じて兼業の許可を受けることとされている。そして、特に無許可兼業の禁止については、各裁判所を監督する高等裁判所を通じて一定の指導を行っている。
 また、兼業の許可が与えられたときは、人事院規則14—8(営利企業の役員等との兼業)の規定の準用により、兼業のために割いた勤務時間は給与が減額されることとなっている。

2 検査の結果

(検査の着眼点及び対象)

 家庭裁判所では、常勤医師に対し、外部研修を恒常的に行わせていたり、一部の常勤医師に兼業の許可を与えたりしていることから、常勤医師の外部研修に係る勤務の実態を、平成16年度に東京家庭裁判所ほか23家庭裁判所(注1) に在籍した常勤医師33人(給与支給総額3億2202万余円)について検査した。また、兼業については、給与の支払の事実が確認できる12年度から16年度までの間に東京家庭裁判所ほか24家庭裁判所(注2) において勤務していた常勤医師57人(上記の33人を含む。給与支給総額16億9045万余円)を対象として、兼業の許可が関係法令に照らし適切なものになっているか、特に勤務時間を把握し、給与の減額措置が適切に行われているかなどを職員別給与簿及び兼業台帳等を基に検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。
 最高裁判所では、常勤医師の外部研修について、前記の必要な基準等を定めないまま、各家庭裁判所の判断の下に週1.5日程度行わせていた。
 また、前記の24家庭裁判所における33人の常勤医師の外部研修に係る勤務の実態についてみると、うち4人は外部研修を行っていないとしており、それ以外の29人については、13人が勤務官署を離れて医療機関等の他の施設で、6人が自宅等で、10人が医療機関等の他の施設及び自宅等で、それぞれ外部研修を行ったとしていたが、その研修先や研修内容等の把握を十分行っていない状況であった。そして、そのような管理状況にもかかわらず、外部研修を行わせたとする日のすべてを、当該常勤医師が勤務官署に登庁して所定の勤務時間のすべてを勤務したものとして取り扱い、関係書類を整理するなどしていた。
 さらに、前記の25家庭裁判所における57人の常勤医師に係る兼業の許可等の状況は、次のとおりとなっていた。
ア 8家庭裁判所の常勤医師11人(12年度から16年度までの給与支給総額3億9132万余円)は外部研修として診療行為等を行っていながら、実際は医療機関等から報酬を得ていた。前記のとおり外部研修は無報酬の場合に限り行われるものであるから、これらの11人は外部研修を行っていたとは認められず、勤務を要すべき時間計4,775時間について勤務を欠いていたもので、給与の減額をしていたとすればその額は1714万余円になると認められた。
イ 4家庭裁判所の常勤医師5人(12年度から16年度までの給与支給総額1億4204万余円)は兼業の許可を受けて研修先から報酬を得ていたが、兼業のために割いた勤務時間をその都度確認することとされていなかったことなどから、その時間計318時間について給与の減額措置が執られていなかった。これについて給与の減額をしていたとすればその額は120万余円になると認められた。
 このように各家庭裁判所では、常勤医師の外部研修に係る勤務の実態の把握が十分ではないため勤務時間の管理が適切に行われておらず、一部の家庭裁判所において、診療行為等について報酬を得ていながら外部研修を行っているとしていたり、給与の支払に当たり必要な減額措置が執られていなかったりしていた事態は適切とは認められず、改善を図る要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、主として、次のようなことなどによると認められた。

ア 最高裁判所において、

(ア)常勤医師に勤務時間中に行わせる外部研修についての基準等や勤務時間の管理の体制を明確に定めていなかったこと
(イ)兼業の許可の手続等を定めた兼業に関する通達では、兼業のために割く勤務時間について、その都度確認を行うことになっていなかったこと

イ 各高等裁判所において、管内各家庭裁判所に対する指導や実態の把握が十分ではなかったこと

ウ 各家庭裁判所において、

(ア)常勤医師に対する外部研修の取扱いに関する指導や管理が十分でなかったこと
(イ)常勤医師に対して、兼業の許可の手続を遵守するよう十分な指導を行っていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、最高裁判所では、各家庭裁判所において、常勤医師16人の勤務を欠いていたなどの時間に対する給与相当額1835万余円の返還の措置を執らせるとともに、17年9月に通達等を発し、常勤医師に外部研修を行わせる際の基準等を明確に定め、これに基づいて勤務時間の管理が適切に行われるよう処置を講じた。また、兼業についても、その実態の把握及び適切な指導が行えるよう同年9月に兼業に関する通達を改正して、実際に兼業のため勤務時間を割く場合にはその都度承認を得ることとするなど、所要の処置を講じた。

(注1) 東京家庭裁判所ほか23家庭裁判所 東京、横浜、さいたま、千葉、静岡、長野、新潟、大阪、京都、神戸、名古屋、津、岐阜、福井、金沢、富山、広島、岡山、福岡、熊本、仙台、福島、札幌、高松各家庭裁判所
(注2) 東京家庭裁判所ほか24家庭裁判所 東京、横浜、さいたま、千葉、静岡、長野、新潟、大阪、京都、神戸、名古屋、津、岐阜、福井、金沢、富山、広島、岡山、福岡、長崎、熊本、仙台、福島、札幌、高松各家庭裁判所