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  • 平成16年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 文部科学省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

国宝重要文化財等保存整備費補助金の交付を受けて実施した発掘調査事業により発掘された埋蔵文化財の保存に係る取扱いを適切に行うとともに、当該補助事業を適正に執行するよう改善させたもの


(2)国宝重要文化財等保存整備費補助金の交付を受けて実施した発掘調査事業により発掘された埋蔵文化財の保存に係る取扱いを適切に行うとともに、当該補助事業を適正に執行するよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計  (組織)文化庁  (項)文化財保存事業費
部局等の名称
文化庁
補助の根拠
文化財保護法(昭和25年法律第214号)
補助事業の概要
埋蔵文化財の発掘調査を行う事業主体に対してその経費の一部を補助するもの
検査の対象とした事業主体
都、道、府2、県18、市278、特別区15、町370、村51、事務組合1、計737事業主体
埋蔵文化財の保存に係る取扱いが適切に行われていなかった事業主体数及び補助事業が適正に執行されていなかった事業主体数 (1) 埋蔵文化財の保存に係る取扱いが適切に行われていなかったもの
624事業主体(平成元年度〜15年度)
(2) 補助事業が適正に執行されていなかったもの
46事業主体(平成元年度〜16年度)
上記に係る発掘調査の事業費 (1)
282億1200万円
(2)
5899万円
上記に対する国庫補助金 (1)
143億4222万円
(2)
3252万円

1 制度の概要

(埋蔵文化財の発掘調査)

 文化庁は、文化財保護法(昭和25年法律第214号。以下「法」という。)に基づき、文化財を保存し、かつ、その活用を図り、もって国民の文化的向上に資することなどを目的として諸施策を講じている。
 そして、この文化財の中には土地に埋蔵されている文化財(以下「埋蔵文化財」という。)がある。埋蔵文化財は、貝づか、古墳、住居跡等の遺跡及びこれら遺跡から発見される土器、石器、陶磁器等であるとされている。
 埋蔵文化財は発掘調査により初めてその有無及び価値が判明するものであり、地方公共団体は、埋蔵文化財について調査する必要があると認めるときは、埋蔵文化財を包蔵すると認められる土地の発掘調査を行うことができるとされている。発掘調査には、試掘調査、確認調査及び本発掘調査がある。このうち、試掘調査は埋蔵文化財の有無を確認するために行う部分的な発掘調査であり、確認調査は埋蔵文化財を包蔵する土地の範囲、内容等を把握するために行う部分的な発掘調査である。そして、本発掘調査は、現状のまま保存することができなくなった埋蔵文化財についてその記録を作成するために行う発掘調査であり、本発掘調査を行う場合は試掘調査又は確認調査により遺跡の内容等を十分に把握した上で行う必要があるとされている。

(国庫補助金の概要)

 文化庁は、法の規定及び「埋蔵文化財緊急調査費国庫補助要項」(昭和54年文化庁長官裁定)等に基づき、埋蔵文化財の実態を把握し適切な保存を行うことを目的として、発掘調査を行う地方公共団体(以下「事業主体」という。)に対して、これに要する経費の一部として国宝重要文化財等保存整備費補助金(以下「国庫補助金」という。)を交付している。
 国庫補助金の補助対象経費は、発掘調査の各作業のうち、〔1〕現地における発掘調査作業に要する経費、〔2〕土器、石器、陶磁器等の出土品の洗浄、復元等の整理作業に要する経費、〔3〕発掘調査の成果を記録した発掘調査報告書(発掘調査報告書に先立って作成される概要報告書を含む。以下同じ。)の作成に要する経費等とされている。
 また、補助事業の対象となる発掘調査の範囲は、発掘調査のうち試掘調査又は確認調査とされている。一方、本発掘調査については、原則として埋蔵文化財の現状保存を不可能とした原因者がその経費を負担することとされているが、個人住宅の建設等その原因者に経費負担を求めることが困難な場合には補助事業の対象とするとされている。
 そして、上記の補助事業に係る平成元年度から16年度までの予算額は総額469億1243万余円となっている。

(埋蔵文化財の保存に係る取扱い)

 発掘調査で発見された出土品については、法及び遺失物法(明治32年法律第87号)において、これを発見した地方公共団体が警察署長に当該出土品又は発見届を提出し、警察署長は出土品が文化財と認められるときは直ちにこれを都道府県等の教育委員会に提出しなければならないなどとされている。都道府県等の教育委員会は、これが文化財であるかどうかを鑑査し、歴史上又は学術上価値の高いものなどである場合、当該出土品は文化財であると認定されることとなる。
 また、文化庁は、地方公共団体に対し、埋蔵文化財の保存に係る取扱いを適切に行って出土品の公開・展示等の活用に向けた取組を行うよう、次のような指導助言を行っている。

ア 出土品の整理作業については、出土品の形状、歴史的価値等を把握したり、その活用の必要の有無を区分したりするため、発掘調査作業終了後、早期に洗浄を行うなどすること、また、出土品の名称、数量、出土遺跡、保管場所等に関する記録(以下、これらを記録した台帳を「管理台帳」という。)を作成すること

イ 発掘調査報告書の作成については、発掘調査のうち特に、本発掘調査、重要遺跡の確認調査、学術目的で行う確認調査等は、その内容を後世に残すために同報告書を作成する必要があること、また、発掘調査作業終了後は、その成果を国民が共有し活用できるように同報告書の早期作成とその配付に努めること

(発掘調査の体制等)

 全国の発掘調査に係る費用は、元年度に約720億円であったものが、9年度には約1320億円とピークに達した後、15年度は約960億円と大きく減少している。一方、発掘調査に携わる地方公共団体等の専門職員数は、元年度に約4,000名であったものが、9年度には約6,480名、15年度は約7,070名と増加しており、発掘調査体制の充実が図られている。
 このように近年、発掘調査費用の減少に比べて発掘調査に携わる専門職員数が増加している状況は、地方公共団体におけるこれまでの発掘調査作業を中心とする体制から埋蔵文化財の適切な保存及び活用を図る体制へ移行する機会であるとされている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 近年における上記のような状況は、これまでの発掘調査作業を中心とする体制から埋蔵文化財の適切な保存及び活用を図る体制へ移行する機会であるとされていることから、毎年度国庫補助金の交付を受けて実施している発掘調査事業について、事業主体において、補助事業により発掘された埋蔵文化財の保存に係る取扱いが適切に行われその活用に向けた取組がなされているか、また、発掘調査に係る補助事業が適正に執行されているかに着眼して検査した。

(検査の対象)

 北海道ほか21都府県(注1) 737事業主体において、元年度から16年度までに国庫補助金の交付を受けて実施した発掘調査事業(補助対象事業費412億7933万余円、国庫補助金208億3634万余円)を対象として検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、事業主体が発掘した埋蔵文化財の全部又は一部についてその保存に係る取扱いが適切に行われていなかった事態が、北海道ほか21都府県624事業主体(補助対象事業費282億1200万余円、国庫補助金143億4222万余円)で、また、補助事業が適正に執行されていなかった事態が、埼玉県ほか13府県(注2) 46事業主体(補助対象事業費5899万余円、国庫補助金3252万余円)で、それぞれ見受けられた。
 これらを態様別に示すと次のとおりである((1)、(2)の態様には事態が重複しているものがある。)。

(1)埋蔵文化財の保存に係る取扱いが適切に行われていなかったもの

22都道府県
624事業主体 
補助対象事業費
282億1200万余円
国庫補助金
143億4222万余円

 これらは、出土品について文化財の認定を受けていなかったり、整理作業が行われていなかったり、発掘調査報告書が発掘調査作業終了後速やかに作成されていなかったりなどしていて、埋蔵文化財の保存に係る取扱いが適切に行われていないものであり、ひいては埋蔵文化財の活用が図られなくなるおそれがあるものである。

ア 出土品に係る文化財の認定を受けていないままとなっていたもの

22都道府県 450事業主体

  これらは、事業主体が、発掘調査事業において出土品を発見したにもかかわらず、長期間にわたりその発見届を警察署長に提出していなかったことなどから、出土品が文化財の認定を受けていないままとなっていたものである。

イ 出土品について整理作業が行われていなかったもの

21都道府県 462事業主体

  これらは、発掘調査事業において発見された出土品について、長期間にわたり、その整理作業のうち、洗浄すら行われていなかったもの又は管理台帳が作成されていなかったものなどである。このうち特に18事業主体では、管理台帳が作成されていなかったなどのため、会計実地検査時において出土品の検索が不可能であった。

ウ 発掘調査報告書が発掘調査作業終了後速やかに作成されていなかったり、発掘調査報告書を作成したのに配付していなかったりなどしていたもの

22都道府県 295事業主体

   これらは、205事業主体において下表のとおり発掘調査事業のうち発掘調査報告書の作成が必要とされている本発掘調査、重要遺跡の確認調査、学術目的で行う確認調査等で発掘調査作業終了後速やかに発掘調査報告書を作成していなかったものであり、また、81事業主体において発掘調査事業で作成した発掘調査報告書を1年以上配付していなかったものなどであり、この中には10年以上配付していなかったものも見受けられた。


表 発掘調査報告書が作成されていなかった期間
発掘調査報告書の未作成期間
14

16
13

14
12

13
11

12
10

11
9

10
8

9
7

8
6

7
5

6
4

5
3年以上
4年未満
事業主体数
46
8
9
11
14
12
10
15
13
24
22
21
205
(注)
 「事業主体数」欄は、当該事業主体において、発掘調査報告書を作成していないものが複数ある場合があるが、この場合は最長のもので記載した。

(2)補助事業が適正に執行されていなかったもの

14府県
46事業主体 
補助対象事業費
5899万余円
国庫補助金
3252万余円

ア 実績報告書で作成したとしていた発掘調査報告書が実際には作成されていなかったり、補助事業年度内に作成が完了していなかったりしていたもの

11府県 33事業主体

 これらは、事業主体において、実際には作成していなかった発掘調査報告書を印刷・製本したとしてこれに要する経費を実績報告書に計上し、これに係る国庫補助金が過大に交付されていたり、発掘調査報告書の作成が補助事業年度内には完了していなかったのに実績報告書では年度内に完了したとしていたりしていたものである。

イ 補助事業の対象にならないものを補助事業の対象としていたもの

7県 13事業主体

  これらは、本発掘調査の原因者にその経費負担を求めることが適切であったのに、これについての事業主体の理解が不足していたり、文化庁における交付決定の際又は都道府県における実績報告書の審査が十分でなかったりしていたため、事業主体において補助事業として実施し、これに係る国庫補助金が過大に交付されていたものなどである。

 このように、事業主体において、埋蔵文化財の保存に係る取扱いが適切に行われておらず、ひいては埋蔵文化財の活用が図られなくなるおそれがあったり、補助事業が適正に執行されていなかったりしている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことによると認められた。

ア 事業主体において、埋蔵文化財の保存に係る取扱い及びその活用に向けた取組についての認識が十分でなかったり、埋蔵文化財の保存・活用に係る具体的な事例等の情報の把握に努めていなかったり、補助事業を適正に執行することについての認識が十分でなかったりしていたこと

イ 都道府県において、事業主体から提出された実績報告書の審査が十分でなかったこと

ウ 文化庁において、埋蔵文化財の保存に係る取扱いを適切に行ってその活用に向けた取組を図るよう事業主体に対し指導助言してはいたものの、事業主体に対する意識の喚起や具体的な事例の紹介等による情報の提供が十分でなかったこと。また、事業主体が補助事業を適正に執行することについての指導助言及び周知徹底が十分でなかったり、都道府県に対し実績報告書の審査を徹底するよう十分指導助言していなかったり、交付決定に際しての審査が十分でなかったりしていたこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、文化庁では、補助事業が適正に執行されていなかったものについて事業主体から国庫補助金を返還させるなどするとともに、事業主体における埋蔵文化財の保存に係る取扱いが適切に行われ、補助事業の適正な執行が図られるよう、次のような処置を講じた。

ア 17年9月に各都道府県に対し次の内容の通知を発するとともに、同庁主催の全国会議等においてその周知徹底を図ることとした。

(ア)事業主体に対し、埋蔵文化財の保存に係る取扱い及びその活用に向けた取組についての意識を喚起させるとともに、十分な情報提供を行うこととし埋蔵文化財の保存・活用に係る具体的な事例集を作成して配付した。
(イ)事業主体に対し、埋蔵文化財の保存・活用を図るための補助事業を積極的に活用し、出土品の整理作業及び出土品の活用を促進するよう指導助言した。
(ウ)事業主体に対し、補助事業を適正に執行するよう指導助言するとともに周知徹底を図り、また、都道府県に対し実績報告書の審査を適切に行うよう指導助言した。

イ 国庫補助金の交付決定に際し補助事業の対象となるかの審査を十分に行うこととした。

北海道ほか21都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、埼玉、千葉、長野、静岡、愛知、滋賀、奈良、岡山、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、宮崎、沖縄各県

埼玉県ほか13府県 大阪府、埼玉、長野、静岡、愛知、滋賀、奈良、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、宮崎、沖縄各県