ページトップ
  • 平成16年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第10 経済産業省|
  • 不当事項|
  • 補助金(213)—(229)

原子力災害対策施設整備事業の実施に当たり、設計及び施工が著しく適切でなかったため、無停電電源装置等の地震時の機能の維持が確保されていない状態になっているもの


(226)原子力災害対策施設整備事業の実施に当たり、設計及び施工が著しく適切でなかったため、無停電電源装置等の地震時の機能の維持が確保されていない状態になっているもの

会計名及び科目 一般会計 (組織) 原子力安全・保安院
    (項)原子力安全等対策費
部局等の名称 原子力安全・保安院(平成13年1月5日以前は資源エネルギー庁)
交付の根拠 予算補助
補助事業者
(事業主体)
佐賀県
交付対象事業 佐賀県オフサイトセンターの電気設備及び機械設備の整備
事業の概要 佐賀県オフサイトセンターの新築に当たり、平成12、13両年度に同センターに電気設備及び機械設備を設置するもの
事業費 298,725,000円
上記に対する交付金交付額 298,725,000円
不当と認める事業費 48,159,099円
不当と認める交付金交付額 48,159,099円

1 事業の概要

 この事業は、佐賀県が原子力災害対策施設整備費交付金の交付を受け、平成12、13両年度に、原子力緊急事態において国、地方公共団体等が一体となった応急対策を実施するための共同の対策本部を設置する場所となる緊急事態応急対策拠点施設(以下「オフサイトセンター」という。)内に電気設備及び機械設備の設置工事を事業費298,725,000円(全額交付金)で実施したものである。
 電気設備のうち、無停電電源装置(重量5t、定格出力75kVA、工事費相当額41,123,041円、以下「UPS」という。)は、商用電源の停電時などに自家発電設備から電気が供給されるまでの間などに、オフサイトセンターの各種システム等に瞬断(瞬間的な電圧の低下)することなく電気を供給するためのもので、分電盤(重量642kg、工事費相当額5,297,480円)とともに、フリーアクセスフロア(電力用配線等の収納を容易にするために床コンクリートの上にパネルを組み合わせる構造の床)のシステム機器室に設置されている。
 そして、UPS及び分電盤の設置に当たっては、床コンクリートの上に架台を置き、床コンクリートと架台をそれぞれアンカーボルト24本(径16mm、埋込長さ125mm)、8本(径10mm、埋込長さ40mm)で固定し、その架台の上に据え付けることとしていた。また、分電盤は壁面から60㎝離れた位置に配置することとしていて、前後への転倒を防止するために同盤の頂部と壁とをつなぎ材としてアンカーボルト(径10mm、埋込長さ40mm、以下「つなぎボルト」という。)で固定することとしていた。
 また、機械設備のうち、受水槽付き加圧ポンプ(重量2.4t、工事費相当額1,738,578円)は、放射性物質の除染等に使用する上水の供給に必要な機器で、設置に当たっては、床コンクリートに直接アンカーボルト4本(径12mm、埋込長さ90mm)で固定することとしていた。
 そして、これら設備の地震時の安全性については、「建築設備耐震設計・施工指針」(財団法人日本建築センター編、以下「指針」という。)に基づきアンカーボルトに作用する引抜力(注1) 等を検討した結果、アンカーボルトに作用する引抜力が許容引抜力(注1)を下回っていることから、安全であるとしていた。

2 検査の結果

 検査したところ、UPS等の設計及び施工が次のとおり適切でなかった。

(1)設計について

ア UPSの設置について、同県では、地震時にアンカーボルトに作用する引抜力の検討に当たり、架台の重量等を考慮した計算をしていなかった。そこで改めて引抜力を算定したところ1,221kgf/本となり、許容引抜力1,200kgf/本を上回っていて、応力計算上安全な範囲を超えている。
イ 分電盤頂部のつなぎボルトについて、同県では、指針に示す圧縮応力(注2) の検討をしていなかった。そこで圧縮応力等を算定したところ、地震時につなぎボルトに生じる圧縮応力は111kgf/本となり、許容圧縮応力(注2) 35kgf/本を大幅に上回っていて、応力計算上安全な範囲を超えている。
ウ 受水槽付き加圧ポンプの設置に当たり、同県では、指針に示す引抜力等の検討をしていなかった。そこで引抜力等を算定したところ、地震時にアンカーボルトに作用する引抜力は1,430kgf/本となり、許容引抜力1,119kgf/本を大幅に上回っていて、応力計算上安全な範囲を超えている。

(2)施工について

ア UPSの施工に当たって、施工業者は、UPSを据え付けるための架台について、フリーアクセスフロアの設計高さよりも低いものを製作し、これにUPSを設置していた。そして、架台の頂部をフリーアクセスフロアに合わせたため、床コンクリートと架台の底面との間に空隙が生じたことからモルタルを充てんするなどして所定の高さを確保していた。このため、指針で定められているアンカーボルトの床コンクリートへの埋込長さが不足することとなるなど施工が著しく粗雑となっていた(参考図1参照)
イ 分電盤の施工に当たって、施工業者は、分電盤を据え付けるための架台について、フリーアクセスフロアの設計高さよりも低いものを製作し、これに分電盤を設置していた。そして、架台の頂部をフリーアクセスフロアに合わせたため、床コンクリートと架台の底面との間に空隙が生じていたにもかかわらず、架台が床コンクリートから浮いた状態のままアンカーボルトで固定していて施工が著しく粗雑となっていた(参考図2参照)

 上記のように、本件UPS等は、設計及び施工が著しく適切でなかった。このため、地震時に移動・転倒し、UPS又は分電盤が破損を起こしたり、接続しているケーブルが断線したりした場合には、これらとケーブルにより接続されているオフサイトセンターの各種システム等に電気が供給されないこととなり、また、受水槽付き加圧ポンプに接続している配管が破断した場合には、放射性物質の除染等に使用する上水の供給が受けられないこととなる。
 このような事態が生じていたのは、同県において、設計に当たり設備の固定方法についての安全性の検討が十分でなかったこと、施工が設計と著しく相違していたのにこれに対する監督及び検査が適切でなかったことなどによると認められる。
 したがって、本件UPS、分電盤及び受水槽付き加圧ポンプは、設計及び施工が著しく適切でなかったため、地震時の機能の維持が確保されておらず、これらに係る交付金相当額48,159,099円が不当と認められる。

(注1) 引抜力・許容引抜力 「引抜力」とは、機器に地震力が作用する場合に、ボルトを引き抜こうとする力が作用するが、このときのボルト1本当たりに作用する力をいう。その数値が設計上許される上限を「許容引抜力」という。
(注2) 圧縮応力・許容圧縮応力 「圧縮応力」とは、材に外から圧縮力がかかったとき、そのために材の内部に生ずる力のボルト1本当たりの大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容圧縮応力」という。

(参考図1)

(参考図1)

(参考図2)

(参考図2)