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  • 第3節 特に掲記を要すると認めた事項

賃貸住宅建替事業において、事業着手後長期化していたり、事業着手までに長期間を要したりしている事態について


第5 賃貸住宅建替事業において、事業着手後長期化していたり、事業着手までに長期間を要したりしている事態について

検査対象 独立行政法人都市再生機構
科目 事業資産
部局等の名称 独立行政法人都市再生機構本社
賃貸住宅建替事業の概要 居住水準の向上と敷地の有効高度利用を図るため、既存の賃貸住宅を除却し新たに住宅を建設する事業
建替事業実施団地17地区における平成16年度末建設仮勘定の額
265億3581万円
 うち機構発足時以降16年度末までの9箇月間に発生した間接経費等
 9億3476万円
建替調査団地13地区の補充停止を開始している住宅における平成16年度末固定資産の額
119億0879万円
上記に係る機構発足時以降平成16年度末までの9箇月間に発生した補充停止による保守、管理等に要した費用
8572万円

1 事業の概要

(建替事業の概要)

 独立行政法人都市再生機構(以下「機構」という。)では、独立行政法人都市再生機構法(平成15年法律第100号。以下「機構法」という。)等に基づき、昭和30年代から大都市地域その他の都市地域において健康で文化的な生活を営むに足りる良好な居住性能及び居住環境を有する賃貸住宅等を供給している(平成16年度末現在管理戸数約77万戸)。
 そして、昭和61年度から、居住水準の向上と敷地の有効高度利用を図るため、30年代に管理開始した約16万戸を対象として、既存の賃貸住宅を除却し新たに住宅を建設する建替事業を実施しており、平成16年度末現在、建替事業が完了した団地(以下「建替事業完了団地」という。)は106地区、建替事業に着手している団地(以下「建替事業実施団地」という。)は99地区、建替事業に着手するための住宅需要等の調査検討(以下「建替調査」という。)を行っている団地(以下「建替調査団地」という。)は25地区となっている。
 機構法等によると、建替事業を実施しようとするときは、当該賃貸住宅の建替えにより除却する賃貸住宅の居住者の協力が得られるよう努めなければならず、また、建替事業の計画について、あらかじめ、関係地方公共団体の意見を聴かなければならないこととなっている。

(建替事業の実施手順等)

 機構では、建替事業を次の手順で実施することとしている(図1参照)

図1 建替事業の流れ

図1建替事業の流れ

〔1〕 建替調査団地として選定した団地については、建替調査を行い、建替事業の着手予定時期を決定した上で、事業に必要な空家住宅の確保のため、「ストック改善事業等に係る空家住宅の補充停止の取扱いについて」(平成元年81—107理事通知)に基づき、建替事業に着手するまでのおよそ3年前を目途に空家住宅への補充の停止を行う。このようにして行う空家住宅の確保は、建替事業に伴い、除却する先工区の住宅を空家状態にするため、先工区の当該住宅の明渡しをする者(以下「従前居住者」という。)の仮移転先を確保するために行うものである。

〔2〕 補充停止を開始してから事業着手までの間に建替調査団地については、機構居住環境整備事業計画規程(以下「事業計画規程」という。)等に基づき、整備の方針、土地利用等の方針等を定めた個別プロジェクト基本方針(以下「個別基本方針」という。)を作成することとされている。
 そして、事業計画規程によると、個別基本方針等が当該地区及びその周辺の立地状況、市街地整備の課題等の変化に対応できなくなった場合には、速やかに当該変化に適合するよう変更しなければならないこととされている。なお、機構では、これらの個別基本方針に基づき、毎事業年度、賃貸住宅等の建設に関する年度事業実施計画や賃貸住宅等の供給に関する年度供給計画を定め、これらに基づき各事業を実施している。

〔3〕 建替事業に着手した後に、建替住宅の従前居住者に対して、建替後の住宅への入居(以下「戻り入居」という。)の希望の有無や、戻り入居する住宅の間取りや居住面積等に関する要望についての住宅希望調査を実施し、これを勘案して、戻り入居者用賃貸住宅の建設戸数を決定する。

(建替事業等の長期化の影響)

 建替事業については、事業期間が長期化した場合、建設期間中の間接経費及び支払利息が増加して管理開始後の賃貸住宅の減価償却費等の費用を増加させることになる。また、建替調査については、その対象となった団地の補充停止の期間が長期化した場合、空家状態が長期化するため家賃収入が減少するとともに、補充停止期間中の賃貸住宅の保守、管理等の費用を増加させることになる。したがって、建替事業及び建替調査の実施に当たっては、より効率的な施行を図ることとともに補充停止した住宅を有効に活用することが肝要となっている。

(住宅建設事業の変遷等)

 機構が実施する住宅建設事業については、政府の特殊法人等整理合理化に関する方針に伴い、次のように9年から13年の間に大きく変遷し、その範囲が縮小している。
 すなわち、9年6月の閣議決定により、分譲住宅業務からは、適切な経過措置を講じた上で撤退することとなり、11年9月に住宅・都市整備公団は廃止され、同年10月に機構の前身である都市基盤整備公団が設立されることとなった。また、13年12月の閣議決定により、都市基盤整備公団における住宅建設事業については、自ら土地を取得して行う賃貸住宅の新規建設は行わないこととされ、公団を廃止した上で地域振興整備公団の地方都市開発整備部門と統合して、都市再生に民間を誘導するための事業施行権限を有する法人として16年7月に機構が設立された。

2 検査の結果

(検査の背景、着眼点及び対象)

 機構では、上記のとおり、分譲住宅事業及び、新規土地取得を伴う賃貸住宅の新規建設を行わないこととされたことにより、新規の賃貸住宅を建設する予定であった土地においては、建替えやその他やむを得ないもの以外の賃貸住宅建設を行わないこととされるなど、事業の絞り込みが行われているとともに、その事業の実施に当たっては、前記のとおり効率的実施が求められているところである。こうしたことから、建替事業及び建替調査の実施に当たっても、より一層効率的な施行を図ることが求められている。
 そこで、これまでに建替が完了した106地区の事業の実施状況について検査するとともに、建替事業実施団地のうち、当初の個別基本方針で完了予定時期を16年度以前としていた37地区については、個別基本方針等に沿って事業が進ちょくしているか、建替調査団地25地区については、空家住宅の補充停止以降予定どおり建替事業に着手しているかなどに着眼して検査した。

(検査の結果)

(1)建替事業実施団地の状況について

 建替事業完了団地106地区の事業開始から完了までに要した事業期間は、表1のとおり、2年度から6年度までに完了した16地区は平均で4年2箇月、7年度から11年度までに完了した36地区は平均で6年8箇月、12年度から16年度までに完了した54地区は平均で9年4箇月となっていて、近年事業期間は、より長期化する傾向にある。

表1 建替事業完了団地の事業期間
区分
平均事業期間
2年度〜6年度の完了団地16地区
4年2箇月
7年度〜11年度の完了団地36地区
6年8箇月
12年度〜16年度の完了団地54地区
9年4箇月

 16年度末現在、建替事業実施団地のうち当初の個別基本方針で完了予定時期を16年度以前としているものは前記のとおり37地区ある。これらの当初の個別基本方針における事業期間は、図2のとおり、4箇年から9年6箇月、平均で7箇年としているが、16年度末における事業予定期間は4年9箇月から19年1箇月、平均で11年6箇月となっており、建替事業完了団地の事業期間に比べより長期化の傾向にあり、当初の個別基本方針における事業期間と比べると、平均で1.64倍程度長期化する見込みとなっている。

図2 建替事業実施団地の長期化の状況

図2建替事業実施団地の長期化の状況

 そこで、上記37地区のうち、当初の個別基本方針における事業期間に対する16年度末における事業予定期間が平均(1.64倍)以上に長期化する見込みとなっている17地区(注1) について長期化の要因別にみると、次のとおりである(ア及びイには事態が重複しているものがある。)。

ア 住宅建設事業の変遷による土地利用計画等の変更に伴い、地方公共団体、団地居住者等との調整に時間を要している地区

(13地区)

 13地区においては、当初の各個別基本方針では、建替住宅を中高層化することにより、賃貸住宅等の用に供しない土地(以下「保有地」という。)が生じることから、これに分譲住宅及び新規賃貸住宅を建設する計画としていた。しかし、9年には分譲住宅事業、13年には賃貸住宅の新規建設を行わないこととされたことにより、これら分譲住宅及び新規賃貸住宅の建設を行う予定であった土地においても、やむを得ないものを除き、原則として、地方公共団体、団地居住者等と調整するなどした上で譲渡等することになった。このため、これらに応じた個別基本方針の変更及び地方公共団体等との調整、保有地の譲渡等に相当程度の期間を要している。
 また、各個別基本方針の変更内容のうち住宅の建設戸数についてみると図3のとおり、賃貸住宅については新規賃貸住宅を建設しないこととしたことから2割程度減少し、分譲住宅については、9年以前に既に建設していたものなどを含めても8割程度減少させている。このため、当初の個別基本方針では計画していなかった保有地が約21ha生じており、これらの保有地は公共利用を優先して譲渡等することとしている。そして、16年度末現在、このうち約9haを社会福祉施設や公営住宅等の敷地として譲渡等しており、残りの約12haを20年3月までに譲渡等する予定となっている。

図3 土地利用計画等の変更に伴う事業の計画

図3土地利用計画等の変更に伴う事業の計画

イ 建替事業に反対する一部の居住者の明け渡し拒否に係る訴訟等の解決に時間を要している地区

(6地区)

 機構では、居住者との間に借地借家法(平成3年法律第90号)に基づく賃貸借契約(以下「普通借家契約」という。)を締結している。そして、5地区においては、それぞれ一部の居住者が、建替事業に反対し、機構の普通借家契約の更新拒絶に対し正当な事由がないとして、賃貸住宅の明け渡しに応じなかったため、機構ではこれら居住者を被告とする訴訟を起こし解決を図った。しかし、訴訟による解決までに多くの時間を費やすことにより、これらの各居住者が賃借している住居棟等については個別基本方針の予定どおりに工事に着手できないなどのため事業実施に相当の期間を要している。また、1地区においては、訴訟には至らないが、建替事業に反対する居住者との調整に相当の期間を要している。
 上記17地区における団地の16年度末現在の建設仮勘定の合計額は、265億3581万余円となっている。このうち機構発足の16年7月1日から16年度末までの9箇月間に発生した間接経費及び支払利息は合計額で9億3476万余円となっている。今後、建替事業の長期化は、間接経費等の増加につながり、賃貸住宅管理開始後にはこれらに係る減価償却費等を増加させることとなる。

(2)建替調査団地について

 前記のとおり、建替調査団地として選定された団地については、建替調査の結果、当該建替事業に伴い必要となる空家住宅を確保するため、建替事業の着手予定時期のおよそ3年前を目途に当該団地の空家住宅の補充停止を行うことができるものとされている。そして、通常は、居住者に対しておおむね5年以内に事業着手する旨の説明を行い、補充停止を開始している。
 建替調査団地として選定されている25地区のうち、16年度末現在、補充停止を開始しているのは20地区であり、その補充停止予定期間についてみると、図4のとおり、最長の地区で15年4箇月から20年4箇月となっており、平均で8年4箇月から10年7箇月となっていて、通常の補充停止期間の5年間を大幅に上回っている状況である。そして、上記20地区のうち補充停止の期間が5年を超えている地区は全体の6割を超える13地区(注2) に上っており、その補充停止予定期間についてみると、平均で10年5箇月から13年10箇月となっている。

図4 建替調査団地のうち補充停止を開始している20地区の長期化の状況

図4建替調査団地のうち補充停止を開始している20地区の長期化の状況

 これらの13地区を補充停止予定期間の長期化の要因別にみると次のとおりである。

ア 当該地域の賃貸住宅需要の低迷から個別基本方針の検討に時間を要している地区

(6地区)

 6地区については、それぞれ3年から11年までの間に補充停止を開始しており、現在の補充停止の予定期間は平均で10年3箇月から12年9箇月となっている。そして、補充停止開始時は、住居棟については中高層化を図って保有地を確保するなどして居住水準の向上及び良好な居住環境を整備し、従前入居者の戻り入居者用賃貸住宅の供給を行うとともに、保有地を活用して分譲住宅及び新規賃貸住宅の供給を行うこととしていた。
 そして、補充停止の開始以降、個別基本方針の作成に向けて検討を重ねていたところ、特殊法人等整理合理化に伴う機構の事業の範囲の縮小により分譲住宅及び新規賃貸住宅の供給は計画できなくなり、13年以降、戻り入居者用の賃貸住宅の供給のみを行うこととして個別基本方針の作成に向け検討を行ってきた。しかし、近年、当該地域の賃貸住宅の需要は低迷しており、事業費に見合う家賃収入は期待できないことから、個別基本方針の決定ができない状況にある。
 また、6地区のうち、〔1〕3地区については同一地域に所在していて、このうち2地区については他の1地区より事業着手予定時期が早期になるものと見込まれており、〔2〕1地区については、事業着手予定時期が早期になると見込まれている建替調査団地が同一地域に1地区所在している。そして、これらについてはそれぞれの地区を一体的に捉え、建替事業により建設する団地を一方の地区に可能な限り集約することが有効な対策と考えられるが、現時点ではこのような観点からの検討が十分になされていない状況にある(図5参照)

図5 検討概念図(上記〔2〕の場合)

図5検討概念図(上記〔2〕の場合)

イ 建替事業と関連する事業との整合性を確保するなどのため、関係者との協議に時間を要している地区

(7地区)

 7地区については、4年から11年までの間に補充停止を開始しており、現時点の補充停止の予定期間は平均で10年6箇月から14年9箇月となっている。
 このうち、2地区については、賃貸住宅と分譲住宅が並存する団地であるため共有地が存在しており、これに係る土地利用計画等について分譲住宅所有者との協議に時間を要している状況となっている。また、5地区については、敷地内に都市計画道路の予定があり、当該都市計画道路の実施時期等についての地方公共団体との協議に時間を要しているなどの状況となっている。
 上記13地区(管理戸数6,365戸)における固定資産の16年度末現在の貸借対照表計上額の合計額は、379億7569万余円となっているが、このうち補充停止した賃貸住宅1,996戸に対応する額を試算すると119億0879万余円となる。また、機構発足時以降16年度末までの9箇月間に13地区について補充停止による賃貸住宅の保守、管理等に要した費用は、8572万余円となっている。
 今後、補充停止期間の長期化は、補充停止した住宅を増加させ、その家賃収入を減少させるばかりではなく、これらに係る保守、管理費等の費用を増加させることとなる。
 なお、補充停止を行ったもののうち従前居住者の仮移転に支障が生じない住居棟で、一定の内装補修が済んでいる住宅については、賃貸住宅事業の経営改善、団地環境の劣悪化の防止、防犯対策を目的として、16年3月から、試行的に契約期間を原則3箇年に限定した定期借家契約により賃貸を開始しており、16年7月からは、これを本格的に実施している。
 前記13地区の定期借家契約の導入状況をみると、図6のとおり、4地区において計130戸が定期借家契約により賃貸されている。これらは、団地の立地条件、需要動向、改修費用と家賃収入などの収支計画等を勘案した上で賃貸住宅事業の経営改善に資すると判断されるものについて行われており、これらの団地は都市部に位置し最寄の駅から至近距離にあり単身者の応募が多かったり、賃貸期間を限定する契約であることから家賃が普通借家契約に比較して2割程度安価であったりしていることから募集倍率も高倍率となっていた。
 そして、定期借家契約を導入していない団地についての導入の可能性及び既に定期借家契約を導入している団地についての更なる導入の可能性について検討したところ、既に一定の補修が済んでいて定期借家契約の対象となり得ると認められる住宅は1,236戸ある状況であった。

図6 定期借家契約の導入状況

図6定期借家契約の導入状況

3 本院の所見

 機構では、昭和61年度から、既存賃貸住宅の居住水準の向上と敷地の有効高度利用を図るため、建設年度の古いものを対象として建替事業を実施している。そして、バブル経済崩壊後の社会経済情勢等の変化に対応して機構の住宅建設事業も変遷しており、建替事業実施団地及び建替調査団地についても、必要の都度、計画等を変更して対応している。さらに、賃貸住宅資産を有効に活用して賃貸住宅事業の経営改善を図ることなどを目的として、平成16年3月から定期借家契約を導入している。
 しかし、建替事業実施団地の中には事業着手後相当長期化しているものや、建替調査団地の中には空家住宅の補充停止の開始以降、長期間経過しても事業着手に至っていないものがある。そして、事業着手していないものの中には、賃貸住宅需要の低迷から個別基本方針の作成が著しく遅延しているものもある。
 このような状況が継続すると、事業の効果の発現が遅延するばかりではなく、投資額に係る間接経費等の経費負担を年々増加させることとなる。
 こうしたことから、機構において、建替事業の実施に当たっては、地方公共団体等には保有地の公共利用についての協議を速やかに行うようさらに働きかけるとともに、居住者等に対しては、機構の建替事業について理解が得られるようその内容を十分に説明するなどして早期の事業完了に努めることはもとより、次のような方策を講じるなどしてより効率的な実施を図り、もって賃貸住宅事業を改善させることが望まれる。

ア 個別基本方針の作成及び補充停止の開始時期の決定については、当該地区及びその周辺の立地状況に応じて、同一地域に所在する複数の地区を一体的に捉えての計画について検討するとともに、市街地整備の課題等を勘案して整合性が図られるように十分に検討する。

イ 個別基本方針の作成が遅延している地区については、当該地区及びその周辺の立地状況等に応じて、部分的な補充停止の解除を含め、既存の賃貸住宅を活用することについて検討するとともに、上記と同様に同一地域に所在する複数の地区を一体的に捉えての計画についても検討する。

ウ 補充停止をしている区域については、需要動向、収支計画等を勘案した上で可能な限り定期借家契約の導入促進を図る。

(注1) 17地区 西新井、金町、久米川、光ヶ丘、瀬谷、草加、霞ヶ丘I期、虹ヶ丘南、旭ヶ丘I期、旭ヶ丘II期、香里II期、香里III期、別府II期、井尻、友泉、香椎I期、白銀各地区
(注2) 13地区 目白、野方、西ヶ原、花畑、南台、山本、千里山、桃山、仁川、城野、柳、清滝、黄金各地区