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  • 平成16年度|
  • 第5章 会計事務職員に対する検定

特定の事案に関する検討状況


第4節 特定の事案に関する検討状況

(予算執行職員に対する弁償責任の検定及び懲戒処分の要求)

 会計検査院は、予算執行職員等の責任に関する法律(昭和25年法律第172号。以下「予責法」という。)第4条第1項の規定により、予算執行職員(注) が故意又は重大な過失により法令又は予算に違反して支出等の行為をしたことにより国に損害を与えたと認めるときは、その事実があるかどうかを審理し、弁償責任の有無及び弁償額を検定することとなっている。
 なお、予責法は、予算執行職員ではない者が国に損害を与えた場合には適用されない。
 また、会計検査院は、予責法第6条第1項の規定により、検査又は検定の結果、予算執行職員が故意又は過失により法令又は予算に違反して支出等の行為をしたことにより国に損害を与えたと認めるとき、又は国に損害を与えないが故意又は重大な過失により法令又は予算に違反して支出等の行為をしたと認めるときは、当該職員の任命権者に対し、当該職員の懲戒処分を要求することができることとなっている。

予算執行職員 契約担当官、支出負担行為担当官などの予責法第2条第1項に掲げる職員

(特定の事案に関する検討状況)

 平成15年度決算検査報告に掲記された事案のうち、「国民年金事業に使用する金銭登録機の購入契約が会計法令の趣旨に反し適切でなかったもの(厚生労働省(339社会保険事務局等)・平成15年度決算検査報告)」 及び「届出用紙等印刷システムの提供を受ける役務契約について、その導入の必要性がなく不当と認められるもの(厚生労働省(社会保険庁)・平成15年度決算検査報告)」 について、予責法に定める予算執行職員の弁償責任の検定の要否等について検討した結果を特に示すと次のとおりである。

(1)「国民年金事業に使用する金銭登録機の購入契約が会計法令の趣旨に反し適切でなかったもの」について

 本件は、国民年金事業に使用する金銭登録機の購入に当たり、社会保険庁(本庁)で一括して調達することなく各社会保険事務局等で小口に分割して随意契約により調達するなどしていて、契約の公正性、透明性、競争性、経済性等が確保されておらず、一般競争契約を原則としている会計法令の趣旨に反して適切でないとして指摘したものである。
 その後判明したところによると、本件は、社会保険庁(本庁)の元年金保険課長が特定の業者の機器を購入すべく、元経理課課長補佐に指示し、社会保険事務局や社会保険事務所で金銭登録機を購入するよう画策したものであり(両者はいずれも予算執行職員ではない。)、元年金保険課長の意を受けた元経理課課長補佐は、同課の職員を使って、各都道府県の社会保険事務局に対し、金銭登録機を購入するに当たって、契約方法については手続が比較的簡易な少額の契約をするように指示をし、また、納入業者は1社しかない旨の情報を流していた。そして、この指示を受けた社会保険事務局では、少額の契約となるよう契約の分割を業者に依頼した。社会保険事務所(一部は社会保険事務局)には業者から分割された請求書等が送付されるとともに、社会保険事務局からはこれに合わせた資金の交付があった。これに基づいて、社会保険事務所の予算執行職員である契約担当官(社会保険事務所長)及び契約担当官の補助者(係長等)並びに社会保険事務局の予算執行職員である契約担当官(社会保険事務局長)及び契約担当官の補助者(係長等)は、複数回に分割するなどして金銭登録機の購入手続を行ったものである。
 上記について検討すると、予算執行職員は上級庁の指示により業務を遂行しており、この指示が違法であるとの認識はなかったものと思料され、また、上級庁に指示の内容を確認したとしても、それと異なる見解を得られる可能性は極めて少なかったと思料される。これらを勘案すると、予算執行職員に故意又は重大な過失があったとは認められないことから、予責法第4条第1項の要件に該当しない。
 また、同様に予算執行職員に故意又は重大な過失があったとは認められないことから、予責法第6条第1項の要件に該当しない。
 なお、上記社会保険庁(本庁)の元年金保険課長及びその意を受けて職員を使って社会保険事務局に指示をさせた元経理課課長補佐は、既に懲戒免職となっている。

(2)「届出用紙等印刷システムの提供を受ける役務契約について、その導入の必要性がなく不当と認められるもの」について

 本件は、社会保険業務に関する多種類の届出書等を印刷供給するための印刷システムの提供を受ける役務契約の締結に当たり、その必要性及び代替手段を十分検討しなかったため、印刷システムがほとんど使用されていない状況となっていて、印刷システム導入の必要性がなく不当と認められるとして指摘したものである。
 その後判明したところによると、本件は、社会保険業務を所掌する部門が印刷システム導入の検討・決定を行っており、その決定に基づく調達要求を受けて、予算執行職員である支出負担行為担当官(社会保険庁総務部経理課長)及びその補助者(契約担当の課長補佐等)が役務契約を締結する事務を行ったものである。
 上記について検討すると、予算執行職員が指摘の事態に直接関与しているとは認められない。さらに、契約締結に当たっても法令又は予算に違反した支出等の行為があったとは認められないことから、予責法第4条第1項の要件に該当しない。
 また、同様に予算執行職員が指摘の事態に直接関与していないことから、予責法第6条第1項の要件に該当しない。