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補助金


(299) 畜産環境総合整備事業の実施に当たり、設計が適切でなかったため、発酵施設の所要の安全度が確保されていない状態になっているもの

会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産本省 (項)沖縄開発事業費
部局等の名称
沖縄総合事務局
補助の根拠
予算補助
補助事業者
沖縄県
間接補助事業者
(事業主体)
財団法人沖縄県農業開発公社
補助事業
畜産環境総合整備
補助事業の概要
堆肥化施設を整備するため平成13、14両年度に混合施設、乾燥施設、発酵施設の建築等を実施するもの
事業費
279,594,000円
 
上記に対する国庫補助金交付額
167,756,400円
 
不当と認める事業費
103,867,509円
 
不当と認める国庫補助金交付額
62,320,505円
 

1 補助事業の概要

 この補助事業は、財団法人沖縄県農業開発公社(以下「公社」という。)が、畜産環境総合整備事業の一環として、沖縄市倉敷地内において、家畜排せつ物を処理し堆肥を製造する堆肥化施設を整備するため、平成13、14両年度に、混合施設、乾燥施設、発酵施設各1棟の建築及び発酵攪拌機、変電配電設備の設置を工事費279,594,000円(国庫補助金167,756,400円)で実施したものである。
 このうち、発酵施設は、建築面積2,250.3m 、延床面積3,915.6m の2階建構造で、基礎は杭構造、1階部分は鉄筋コンクリート造のピロティ(注1) 等、2階部分は鉄骨造となっており、2階部分に発酵槽及び発酵攪拌機が設けられている(参考図参照)
 そして、設計図面等によれば、発酵施設の2階部分の床、床上に設置された発酵槽、発酵槽内部の家畜排せつ物、発酵攪拌機、鉄骨建屋等の荷重は、発酵施設の1階部分ピロティの梁及び柱並びに基礎杭により支持する構造としている。
 これらの部材の区分ごとの寸法、本数は次表のとおりである。

表 部材の区分ごとの寸法、本数
部材の区分
寸法
本数
1階部分ピロティ
建物の短辺方向の梁
大梁
長さ12m又は12.14m、高さ60cm、幅45cm
21
計91本
小梁
長さ12m又は12.14m、高さ60cm、幅35cm
42
建物の長辺方向の梁
長さ6.5m、高さ60cm、幅40cm又は45cm
28
高さ3.25m、幅50cm×50cm
28本
基礎
基礎杭
直径35cm、長さ10m〜15m
51本

 そして、構造計算書において、次のような設計条件を設定するなどして計算を行った結果、本件発酵施設は構造計算上安全であるとし、これにより施工することとしていた。

(1)家畜排せつ物による積載荷重について

 建築基準法施行令(昭和25年政令第338号。以下「施行令」という。)では、建築物に作用する荷重及び外力としては、床の自重のように建築物の供用期間を通じてその作用が一定である固定荷重、その作用が一定ではなく変動する可能性がある積載荷重等を採用しなければならないこととなっている。そこで、本件については、発酵槽内部の家畜排せつ物による荷重を、2階部分の床を通じて1階部分ピロティの梁及び柱並びに基礎杭に作用する積載荷重とする。そして、家畜排せつ物の積上げ高さを1.5mとした場合に2階部分の床1m 当たりに作用する積載荷重は、1,000kg/m と計算されるが、家畜排せつ物の処理に伴い、積上げ高さが1.5mより低くなる可能性もあることを考慮し、常時(注2) の積載荷重は500kg/m 、地震時(注2) の積載荷重は300kg/m とする。

(2)使用する主鉄筋の種類について

 1階部分ピロティの柱及び梁に使用する主鉄筋(径22mm又は19mm)の種類については、すべて異形棒鋼のSD345とする。

2 検査の結果

 本件工事について、設計図面、構造計算書等及び施設の現況を検査したところ、発酵施設の設計が次のとおり適切でなかった。

(1)家畜排せつ物による積載荷重について

 積載荷重について、施行令では、建築物の各部の積載荷重は、当該建築物の実況に応じて計算しなければならないこととなっている。そして、本件発酵施設は、24時間連続稼働で使用されるものであり、発酵槽の搬入側の端部に搬入され1.5mの高さに積み上げられた家畜排せつ物が、発酵攪拌機により攪拌されながら徐々に搬出側の端部に移動する間に発酵して堆肥となり、搬出側の端部で発酵槽から落下する仕組みとなっている。このため、発酵施設においては、積上げ高さ1.5mの家畜排せつ物が発酵槽全面にわたって存在する状態が常に継続することとなる。
 したがって、常時及び地震時の積載荷重は、本件設計の500kg/m 、300kg/m ではなく、いずれも1,000kg/m となる。

(2)使用する主鉄筋の種類について

 1階部分ピロティの柱及び梁の主鉄筋の種類については、構造計算書においては異形棒鋼のSD345を使用することとして計算していたが、設計図面等においては、誤ってSD345よりも強度の小さいSD295Aとしており、施工もこの設計図面等によってSD295Aを使用していた。
 そこで、本件発酵施設について、家畜排せつ物による積載荷重を常時及び地震時のいずれも1,000kg/m 、主鉄筋の種類は実際に使用されているSD295Aとして、改めて構造計算を行うと、次のとおり、発酵施設の梁及び柱に発生する曲げモーメント並びに基礎杭に作用する鉛直力が構造計算上安全な範囲を大幅に超えている。
〔1〕 1階部分ピロティの梁91本のうち84本(92%)、また柱28本のうち18本(64%)において、発生する曲げモーメント(注3) が許容曲げモーメント(注3) を超えており、最大のもので許容曲げモーメントの4.36倍(許容曲げモーメント149.5kN・mに対して652.0kN・m)になっている。
〔2〕 基礎杭は51本のうち44本(86%)において、作用する鉛直力(注4) が許容鉛直支持力(注4) を超えており、最大のもので許容鉛直支持力の2.12倍(許容鉛直支持力480.0kNに対して1,016.8kN)になっている。
 現に、18年2月の会計実地検査時点において、発酵施設の1階部分ピロティの梁及び柱には多数のき裂が生じており、短辺方向の梁(大梁)に最大5.05cmのたわみが生じていたり、2階部分の床にも多数のき裂が生じていて家畜排せつ物が床下ににじみ出ていたりしている状況であった。
 このような事態が生じていたのは、公社において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったこと及び公社に対する沖縄県の指導及び監督が十分でなかったことによると認められる。
 したがって、本件発酵施設(工事費相当額103,867,509円)は設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金相当額62,320,505円が不当と認められる。

(注1)
 ピロティ 壁によって囲われず、独立柱が並ぶ吹放ちの空間をいう。
(注2)
 常時・地震時 「常時」とは、建築物に作用する荷重及び外力について想定する状態のうち通常の状態をいい、固定荷重及び積載荷重を考慮する。また、「地震時」とは、地震時の状態をいい、固定荷重及び積載荷重に加え、地震力を考慮する。
(注3)
 曲げモーメント・許容曲げモーメント 「曲げモーメント」とは、外力が材に作用し、これを曲げようと材に生ずる力をいう。その数値が設計上許される上限を「許容曲げモーメント」という。
(注4)
 鉛直力・許容鉛直支持力 「鉛直力」とは、構造物の自重等が基礎杭に対し鉛直方向に働く力をいう。その数値が設計上許される上限を「許容鉛直支持力」という。

(参考図)

発酵施設(断面図)

発酵施設(断面図)

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