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  • 平成17年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

ほ場整備事業等により整備された農地が良好な状態で維持・保全され、その有効利用が図られるよう改善させたもの


(3)ほ場整備事業等により整備された農地が良好な状態で維持・保全され、その有効利用が図られるよう改善させたもの

会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産本省
 
(項)農業生産基盤整備事業費
(項)農村整備事業費
(項)沖縄開発事業費
部局等の名称
農林水産本省、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各農政局、沖縄総合事務局(平成13年1月5日以前は総理府沖縄開発庁沖縄総合事務局)
補助の根拠
土地改良法(昭和24年法律第195号)
補助事業者
(事業主体)
秋田県ほか22府県
補助事業
ほ場整備、土地改良総合整備、干拓地等農地整備、高生産性大区画ほ場整備、担い手育成基盤整備
補助事業の概要
農業生産性の向上を図るなどのため、狭小な農地を区画整理するなどしてほ場条件が備わった農地を整備するなどのもの
良好な状態で維持・保全されていない優良農地
遊休農地
1,384区画
(1,431,548m2 )
違反転用農地
283区画
 (306,661m2 )
上記の優良農地の整備に係る事業費相当額
27億9971万余円
(平成7年度〜16年度)
上記に対する国庫補助金相当額
12億9161万円
 
 

1 ほ場整備事業等の概要等

(1)ほ場整備事業等の概要

 農林水産省では、都道府県が、ほ場条件が備わった農地を整備するため、ほ場整備、土地改良総合整備、干拓地等農地整備、高生産性大区画ほ場整備、担い手育成基盤整備の各事業(以下、これらを併せて「ほ場整備事業等」という。)を実施する場合に、それらの事業に要する費用の一部について補助を行っている。
 ほ場整備事業等は、狭小な農地を区画整理するなどし、農業用用排水施設、農業用道路等のほ場条件が備わった農地(以下「優良農地」という。)の整備を目的とするものであるが、平成5年度以降は、農地を集団化し、これを担い手に集積することにより効率的かつ安定的な経営体による農業構造を確立することなどもその目的として追加されている。
 そして、ほ場整備事業等は、農地、採草放牧地等として利用すべき土地の区域である農用地区域において実施されており、この農用地区域は、農業振興地域の整備に関する法律(昭和44年法律第58号。以下「農振法」という。)に基づき、市町村が策定する農業振興地域整備計画において定められている。

(2)農地の維持・保全と有効利用

 地方公共団体は、農振法において、農用地区域内にある土地について農業上の利用が確保されるように努めなければならないとされており、また、農振法に基づき農林水産大臣が定めた「農用地等の確保等に関する基本指針」(平成11年度制定)等においても、整備された優良な農地を良好な状態で維持・保全し、かつその有効利用を図ることが重要であるとされている。このため、地方公共団体は、農地の現状を把握し、その利用に関する農家への適切な指導に努めることが肝要となる。

(3)農地の遊休化防止策

 都道府県知事は、ほ場整備事業等の実施に当たり、事業の目的等を記載した事業計画を作成することとなっており、また、ほ場整備事業等のうち農地を担い手に集積することも目的としている事業の場合には、農地の担い手への集積の見通しや農地の流動化計画などを内容とした農用地利用集積促進土地改良整備計画(以下「集積促進整備計画」という。)を作成することとされている。この集積促進整備計画は、担い手の経営規模を拡大するための対象農地を明らかにするものであり、同計画により集積された農地は担い手により営農されることから、農地の遊休化を防止する側面を有している。

(4)農地の違反転用に対する取扱い

 農地法(昭和27年法律第229号)においては、都道府県知事は、農用地区域内の農地を農地以外のものに転用することは、原則として許可できないとされ、また、農振法においても、農用地区域内において宅地造成等の開発行為を行う者は都道府県知事の許可を受けなければならないとされている。そして、農地法等の規定に違反して、農地が転用されたり、開発行為が行われたりした場合(以下、これらを「違反転用」という。)には、都道府県知事は、農業委員会からの報告に基づき、違反転用者に対し、工事その他の行為の停止や原状回復その他違反を是正するための必要な措置を命じたり、市町村からの報告に基づき、開発行為を行う者に対し、その開発行為の中止や復旧に必要な行為を命じたりすることができるなどとされている。
 そして、農業委員会及び市町村は、違反転用の事態を知ったときは、速やかに事情を調査し、その結果を都道府県知事に遅滞なく報告することとされており、都道府県知事は、この報告に基づき、工事の停止、原状回復等を求める勧告を行い、事態がなお是正されない場合には、上記の命令を行うこととされている。
 また、優良農地を転用する場合には、「土地改良事業の受益地の転用に伴う補助金の返還措置について」(昭和44年44農地A第826号。以下「返還措置通知」という。)等により、その転用(公用、公共用等を除く。)がほ場整備事業等の工事完了後8年を経過しない場合で、転用地の面積が10a以上であるときは、都道府県は、当該転用地に係る国庫補助金の返還措置を執ることとされている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 ほ場整備事業等は、長年にわたり多額の国費を投下して実施されてきた事業である。そして、優良農地が良好な状態で維持・保全されることにより、食料の安定供給の確保、農業の多面的機能の発揮、農業の持続的な発展等に資することとなるものである。
 しかし、近年、農村地域における過疎化、高齢化、無秩序な混住化等により、耕作放棄による農地の遊休化や農地面積の減少が進んでおり、耕作されている農地についても良好な状態での維持・保全に支障が生ずる状況となっている。
 そこで、北海道ほか23府県(注1) において、7年度から16年度までの間にほ場整備事業等が完了した、349市町村の1,000地区に所在する優良農地523,822区画(面積計103,122ha、事業費計1兆6317億7400万余円、国庫補助金計7770億8201万余円)を対象に、合規性、有効性等の観点から、優良農地が良好な状態で維持・保全され、有効に利用されているかなどに着眼して、事業計画書等により、また、現地の状況を確認するなどして検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、秋田県ほか22府県(注2) において、135市町村の244地区(197,376区画310,333,261m )に所在する優良農地1,667区画1,738,209m (事業費相当額計27億9971万余円、国庫補助金相当額計12億9161万余円)が、耕作されず遊休していたり、違反転用されていたりしていて、良好な状態で維持・保全されておらず、適切とは認められない事態が次のとおり見受けられた。

(1)優良農地が遊休しているもの

 秋田県ほか19府県(注3) において、耕作されず遊休している優良農地(以下「遊休農地」という。)が、103市町村の189地区(154,641区画238,489,912m )で1,384区画1,431,548m (事業費相当額23億0365万余円、国庫補助金相当額10億6403万余円)見受けられた。そして、当該府県及び市町村における遊休農地の実態の把握や農家に対する指導等の状況は、次のとおりとなっていた。

ア 遊休農地の実態把握と農家に対する指導の状況

 上記の1,384区画のうち、府県及び市町村において遊休農地の実態を把握していたのは、17府県68市町村の820区画(59%)にすぎなかった。
 そして、この820区画に係る遊休農地の所有農家に対する市町村の指導状況についてみると、〔1〕営農拡大の意向のある農家に対し農地の貸与を行う利用権設定のあっせんを行っているものが211区画(26%)、〔2〕耕作要請を行っているものが508区画(62%)、〔3〕指導を全く行っていないものが101区画(12%)となっていた。また、〔2〕の耕作要請を行っている508区画の中には、後継者不足等により営農を継続することが困難な農家に対して耕作要請を行っているものが329区画あり、指導の効果が十分に上がることが期待できない状況となっていた。

イ 農家の営農に関する意向の把握の状況

 優良農地は、いったん遊休農地になると荒廃が進み、農地として再利用するためには改めて多大な費用が必要となるとともに、借り手を探すことが困難となる。このため、市町村において、農家の営農に関する意向を調査することにより遊休化のおそれのある優良農地を事前に把握し、当該農地を貸し出す意向がある場合には営農拡大の意向のある農家への貸与のため利用権設定のあっせんを行うなど、遊休農地の発生防止のための対策を講ずることなどが重要となる。
 そこで、本院において、遊休農地が発生している103市町村の189地区のうち25市町の26地区を抽出して、優良農地の貸借に関する農家の意向を調査したところ、次のような結果となっていた。
〔1〕 19地区において、現在遊休農地を発生させている農家のほとんどが遊休農地を貸与する意思を有している一方で、このうちの15地区においては営農拡大のために優良農地を必要としている農家(1地区当たり平均2.9戸)が見受けられた。
〔2〕 16地区において、現在営農していても、今後、高齢化等により離農する可能性のある農家(1地区当たり平均7.6戸)が見受けられる一方で、このうちの12地区においては、今後の営農拡大のために優良農地を必要としている農家(1地区当たり平均1.9戸)が見受けられた。
 上記のことから、農家の営農に関する意向を把握し、その結果に基づき利用権設定のあっせんを行うことは、遊休農地の解消や発生防止に有効であると思料されたが、103市町村において農家の営農に関する意向調査を実施しているのは27市町(26%)にとどまっていた。

ウ 優良農地の遊休化防止策

 前記のとおり、集積促進整備計画は、担い手の経営規模拡大の対象とされている優良農地について、将来的に担い手により営農されることを明らかとしていることから、当該優良農地の遊休化を防止する側面を有している。しかし、担い手の経営規模拡大の対象となっていない優良農地については、同計画はそのような側面を有していない。
 このため、遊休農地は、主として、担い手の経営規模の拡大の対象となっていない優良農地において見受けられる状況となっていた。

(2)優良農地が違反転用されているもの

 福島県ほか19府県(注4) において、87市町村の114地区(97,793区画157,349,230m )に所在する優良農地283区画306,661m (事業費相当額4億9605万余円、国庫補助金相当額2億2757万余円)が違反転用され、資材置場、駐車場等となっている事態が見受けられた。そして、当該府県及び市町村における違反転用された優良農地(以下「違反転用農地」という。)の実態把握等の状況は、次のとおりとなっていた。

ア 違反転用農地の実態把握の状況

 上記の283区画のうち、府県及び市町村において違反転用農地の実態を把握していたのは、16府県53市町村の139区画(49%)にすぎず、違反転用農地の実態把握が十分ではなかった。

イ 違反転用農地に対する処理の状況

 農地の違反転用に対する取扱いについては前記のとおり農地法等に定められているが、府県及び市町村がその実態を把握していた違反転用農地139区画について、府県、市町村及び農業委員会が行った処理の状況をみると、次のようになっていた。
 すなわち、市町村及び農業委員会が府県に違反転用事案に係る報告書を提出していたものは33区画(24%)にすぎないことなどから、府県においては違反転用農地の実態を十分把握しておらず、このため工事の停止、原状回復等を求める勧告を行っていたのは19区画(14%)にとどまっていて、命令まで行っていたものはなかった。そして、違反転用農地は、時間の経過とともに原状回復が困難となることから、速やかに所要の処理を行う必要があるが、府県及び市町村が違反転用農地139区画を把握してから会計実地検査時までに経過した年数を調査したところ、平均約4年となっており、違反転用農地に対する速やかな処理が行われているとは認められない状況となっていた。
 また、前記の返還措置通知には農地が違反転用された場合の取扱いが明確にされていないことから、上記の283区画について、府県において国庫補助金の返還措置を含めた処理を行っているものは見受けられなかった。
 したがって、違反転用農地については、農地法等に基づき迅速かつ適切な処理を十分に行うとともに、原状回復が困難と判断されるものについては、国庫補助金を返還させるなどの措置を執る必要があると認められた。
 上記のように、優良農地について、府県及び市町村がその利用状況や農家の営農に関する意向を的確に把握し、良好な状態で維持・保全するための必要な措置を十分に講じていないことなどから、優良農地が遊休していたり、違反転用されていたりしていて、その結果、優良農地が有効に利用されていない事態は適切とは認められず、改善を図る必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、府県及び市町村において、優良農地の現状把握が十分に行われていなかったことのほか、次のようなことによると認められた。

(1)遊休農地について

ア 市町村において、遊休農地を解消及び防止するための農家の営農に関する意向の把握が十分に行われていなかったこと
イ 農林水産省において、都道府県が作成する集積促進整備計画に、担い手の経営規模拡大の対象とならない優良農地についても遊休化防止策を明らかにさせることとしていなかったこと

(2)違反転用農地について

ア 市町村及び農業委員会において、把握した違反転用事案に係る府県への報告が適切に行われていなかったこと
イ 府県において、違反転用農地に対する迅速かつ適切な処理が十分に行われていなかったこと
ウ 農林水産省において、違反転用があった場合の国庫補助金の返還手続を明確にしていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、18年9月に各地方農政局等に対して通知を発し、府県において前記の遊休農地及び違反転用農地の是正処理を図り、その結果を地方農政局等に報告させるとともに、都道府県及び市町村に対し、ほ場整備事業等の趣旨を一層周知徹底し、優良農地が良好な状態で維持・保全され、その有効利用が図られるよう、次のような処置を講じた。

(1)遊休農地について

ア 都道府県及び市町村に対し、関係機関と連携しながら優良農地の現状について情報の共有化を図り、利用状況の的確な把握を徹底させることとした。
イ 市町村に対し、農家の営農に関する意向を把握するなどして遊休農地の解消、発生防止を図るよう、遊休農地対策を的確に講じさせることとした。
ウ 都道府県に対し、集積促進整備計画の様式を改正して、担い手の経営規模拡大の対象とならない優良農地についても、遊休化防止策としてその保全に向けた取組方法を記載させることとした。

(2)違反転用農地について

ア 都道府県及び市町村に対し、関係機関と連携しながら優良農地の現状について情報の共有化を図り、利用状況の的確な把握を徹底させることとした。
イ 都道府県に対し、市町村及び農業委員会が違反転用の事実を把握した場合の都道府県への報告を徹底させることとした。
ウ 都道府県に対し、違反転用農地を優良農地に原状回復させるために迅速かつ適切な処理の確保を図るよう、違反転用対策を的確に講じさせるとともに、違反転用があった場合の国庫補助金の返還手続を明示し、違反転用者に原状回復の意思が認められないと判断される場合には、ほ場整備事業等に係る国庫補助金の返還措置を講じさせることとした。

 北海道ほか23府県 北海道、京都府、秋田、山形、福島、茨城、富山、山梨、長野、静岡、三重、兵庫、奈良、鳥取、島根、広島、山口、香川、愛媛、福岡、佐賀、大分、宮崎、沖縄各県
 秋田県ほか22府県 京都府、秋田、山形、福島、茨城、富山、山梨、長野、静岡、三重、兵庫、奈良、鳥取、島根、広島、山口、香川、愛媛、福岡、佐賀、大分、宮崎、沖縄各県
 秋田県ほか19府県 京都府、秋田、山形、福島、茨城、山梨、長野、静岡、三重、兵庫、奈良、鳥取、島根、広島、山口、福岡、佐賀、大分、宮崎、沖縄各県
 福島県ほか19府県 京都府、福島、茨城、富山、山梨、長野、静岡、三重、兵庫、奈良、鳥取、島根、山口、香川、愛媛、福岡、佐賀、大分、宮崎、沖縄各県