ページトップ
  • 平成18年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第10 厚生労働省|
  • 不当事項|
  • 医療費

労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が適正でなかったもの


(79) 労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が適正でなかったもの

会計名及び科目
労働保険特別会計(労災勘定)
(項)保険給付費
部局等
厚生労働本省(支出庁)
11労働局(審査庁)
支払の相手方
133医療機関
不適正な支払となっていた労災診療費
手術料、入院料等
不適正支払額
26,984,808円(平成17、18両年度)

1 保険給付の概要

(1) 労働者災害補償保険

 労働者災害補償保険は、労働者の業務上の事由又は通勤による負傷、疾病等に対し療養の給付等の保険給付を行うほか、労働福祉事業(平成19年4月以降は社会復帰促進等事業)を行う保険である。

(2) 療養の給付に要する診療費の支払

 療養の給付は、保険給付の一環として、負傷又は発病した労働者(以下「傷病労働者」という。)の請求に基づき、都道府県労働局長の指定する病院若しくは診療所又は労働福祉事業で設置された病院において、診察、処置、手術等(以下「診療」という。)を行うものである。そして、診療を行ったこれらの医療機関は、都道府県労働局に対して診療に要した費用(以下「労災診療費」という。)を請求することとなっており、都道府県労働局で請求の内容を審査し、その結果に基づき、厚生労働本省において労災診療費を支払うこととなっている。
 労災診療費は、「労災診療費算定基準について」(昭和51年基発第72号労働省労働基準局長通達。以下「算定基準」という。)に基づき算定することとなっている。この算定基準によると、労災診療費は、労災診療の特殊性などを考慮して、〔1〕健康保険法(大正11年法律第70号)に基づく診療報酬点数表の点数(以下「健保点数」という。)に12円(法人税等が非課税となっている公立病院等については11円50銭)を乗じて算定すること、〔2〕初診料、再診料等特定の診療項目については、健保点数とは異なる点数又は金額を別に定め、これにより算定することとなっている。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

 本院は、全国47労働局のうち、12労働局において会計実地検査を行い、合規性等の観点から、各労働局の審査に係る17年度又は18年度の労災診療費の支払が算定基準に基づき適正になされているかなどに着眼して、診療費請求内訳書等の書類により検査した。そして、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求め、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。

(2) 不適正支払の事態

 検査したところ、11労働局の審査に係る労災診療費のうち、手術料、入院料、指導管理料、注射料、麻酔料等が適正に支払われていなかったものが133医療機関について26,984,808円あり、不当と認められる。
 これらの事態について、その主なものを示すと次のとおりである。

ア 手術料に関するもの

 手術料は、創傷処理、植皮術等の区分ごとの所定点数により算定することとなっている。また、手術において特定保険医療材料(注) を使用した場合は、厚生労働大臣が定めた材料単価(以下「基準単価」という。)を基に算定した特定保険医療材料の価格を10円で除した点数を当該手術の所定点数に合算した点数により手術料を算定することとなっている。
 しかし、前記11労働局管内の98医療機関では、手術料について、本来算定すべき区分の所定点数によらず、異なる区分のより高い所定点数により算定したり、手術で使用した特定保険医療材料の基準単価や数量を誤り、過大に算定された特定保険医療材料の点数により算定したりするなどしていた。このため、手術料141件、20,733,116円が適正に支払われていなかった。
 上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

 A病院では、被災労働者Bの手術に使用した特定保険医療材料である固定用金属ピン4本については、基準単価を535,000円とし、その合計額2,140,000円を10円で除した214,000点に11円50銭を乗じた2,461,000円を手術料の一部として算定していた。そして、C労働局では、審査の上、これらに基づき手術料を5,484,833円とし、厚生労働本省では、当該額を支払っていた。しかし、固定用金属ピンの基準単価は、正しくは53,500円であり、このため手術料が2,214,900円過大となっていた。

 特定保険医療材料  厚生労働大臣が手術等の所定点数に合算してその費用を算定することができると定めている特定の保険医療材料


イ 入院料に関するもの

 入院料のうち特定入院料は、救命救急入院料、回復期リハビリテーション病棟入院料等の区分ごとに算定できる要件を満たす場合に、当該区分の所定点数により算定することとなっている。また、入院室料加算は、傷病労働者が医師又は看護師の常時監視を要する症状であるなどの要件に該当し、医療機関で個室から4人部屋までの病室に収容された場合、個室、2人部屋等の別に算定基準に定められた金額を限度として算定できることとなっている。
 しかし、10労働局管内の35医療機関では、算定できる要件を満たしていないのに特定入院料を算定したり、算定基準に定められた金額を超えて入院室料加算を算定したりするなどしていた。このため、入院料107件、4,595,634円が適正に支払われていなかった。

 このような事態が生じていたのは、医療機関が労災診療費を誤って算定し請求していたのに、前記の11労働局において、これに対する審査が十分でないまま支払額を決定していたことによると認められる。
 上記の適正に支払われていなかった労災診療費の額を都道府県労働局ごとに示すと、次のとおりである。

労働局名
医療機関数
不適正支払件数
不適正支払額
 
 
千円
北海道
15
32
3,150
宮城
11
22
1,216
栃木
10
19
1,962
東京
25
54
4,456
神奈川
14
37
1,856
新潟
10
23
3,046
富山
9
13
2,137
静岡
20
74
2,470
高知
3
4
2,665
熊本
10
24
2,972
鹿児島
6
10
1,048
133
312
26,984