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  • 平成18年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

農道整備事業及び区画整理事業において、投資効率の適切な算定及び事業効果の十分な発現に資するため、その適切な算定、事業計画の達成状況の把握及び適切な指導等に対する認識の周知徹底が図られるよう改善させたもの


(4) 農道整備事業及び区画整理事業において、投資効率の適切な算定及び事業効果の十分な発現に資するため、その適切な算定、事業計画の達成状況の把握及び適切な指導等に対する認識の周知徹底が図られるよう改善させたもの

会計名及び科目
一般会計
(組織)農林水産本省
(項)農業生産基盤整備事業費等
部局等
農林水産本省、7農政局
補助の根拠
土地改良法(昭和24年法律第195号)
補助事業者
(事業主体)
(1)
(2)
12道県
19道県
補助事業
(1)
広域営農団地農道整備、農林漁業用揮発油税財源身替農道整備
(2)
ほ場整備、土地改良総合整備、干拓地等農地整備、高生産性大区画ほ場整備、担い手育成基盤整備、経営体育成基盤整備
補助事業の概要
(1)
農業の近代化及び農業生産物の流通の合理化を図ることなどを目的として、農業用道路の新設等を行うもの
(2)
農業生産性の向上等を図るなど農業構造の改善に資することを目的として、ほ場の大区画化等を行うもの
投資効率の算定が適切でないなどの補助事業が実施されていた地区
(1)
(2)
25地区
155地区
 
上記に係る事業費
(1)
(2)
732億円
2622億円
(昭和54年度〜平成18年度)
(昭和47年度〜平成18年度)
上記に対する国庫補助金交付額
(1)
(2)
381億円
1286億円
 

1 投資効率の算定の概要

(1) 農道整備事業及び区画整理事業の概要

 農林水産省では、都道府県が、土地改良法(昭和24年法律第195号)に基づき、農業の近代化及び農業生産物の流通の合理化を図ることなどを目的として農業用道路の新設等を行う事業を実施する場合、また、農業生産性の向上等を図るなど農業構造の改善に資することを目的としてほ場の大区画化等を行う事業を実施する場合に、それらの事業に要する費用の一部について補助を行っている。
 上記の農業用道路の新設等を行う事業のうち主なものには、広域営農団地農道整備事業及び農林漁業用揮発油税財源身替農道整備事業(以下、これらの事業を「農道整備事業」という。)があり、また、上記のほ場の大区画化等を行う事業のうち主なものには、ほ場整備事業、経営体育成基盤整備事業等(以下、これらの事業を「区画整理事業」という。)がある。
 農道整備事業及び区画整理事業の各実施要綱によると、都道府県が事業を実施しようとするときは、事業採択申請書、事業計画概要書等を、農道整備事業の場合は地方農政局長等に、また、区画整理事業の場合は地方農政局長等を経由して農林水産大臣に提出することとされている。そして、事業採択申請書等の提出を受けた地方農政局長等又は農林水産大臣は、事業の経済効果に関する事項等の審査を行い、補助事業として採択するか否かの決定を行っている。

(2) 土地改良事業の経済効果の測定

 土地改良事業は、土地改良法施行令(昭和24年政令第295号)において、当該土地改良事業の必要性、技術的可能性等と併せて、当該土地改良事業のすべての効用がそのすべての費用を償うこと、すなわち経済効果が見込まれることが、土地改良事業の施行に関する基本的な要件として定められている。そして、補助事業として採択する場合には、当該事業の必要性や経済効果の度合いなどを総合的に判断して、事業採択の優先順位を定めている。
 そこで、農林水産省では、「土地改良事業における経済効果の測定方法について」(昭和60年60構改C第688号構造改善局長通達)等(以下「算定通知」という。)を発し、経済効果の測定は、これに基づき、次の算式により投資効率を算定して行うこととされている。

農道整備事業及び区画整理事業において、投資効率の適切な算定及び事業効果の十分な発現に資するため、その適切な算定、事業計画の達成状況の把握及び適切な指導等に対する認識の周知徹底が図られるよう改善させたものの図1

 この投資効率は、1.0以上であれば当該事業は経済効果の要件を満足することとなり、その数値が高いほど当該事業の同種事業内における経済的優位性を示すこととなる。
投資効率を算定するための妥当投資額は、算定通知で定められている効果項目ごとの年効果額を合算した年総効果額に基づき、次の算式により算定することとされている。

農道整備事業及び区画整理事業において、投資効率の適切な算定及び事業効果の十分な発現に資するため、その適切な算定、事業計画の達成状況の把握及び適切な指導等に対する認識の周知徹底が図られるよう改善させたものの図2

 この年総効果額は、算定通知に基づき、〔1〕農作物の集出荷に係る走行距離の短縮等に基づく走行経費節減効果、〔2〕作物の作付面積の増減等に基づく作物生産効果、〔3〕ほ場の大区画化等による営農労力の軽減等に基づく営農経費節減効果等の各種の効果項目ごとの年効果額を合算することとされている。

 還元率  効果発生期間に得られる効果額を現在価値に割り引くための係数
 建設利息率  一部効用が発生するまでの期間の投下資本に対する利子相当分を割り引くための係数
 廃用損失額  事業により既存の水利施設等が廃止されることに伴う残余価値で、廃用されることになる施設の損失額

 この投資効率の算定は、都道府県知事が土地改良事業計画(以下「事業計画」という。)を定めるときに行うこととされている。そして、投資効率が1.0以上であるものについて事業計画を定め、農林水産大臣又は地方農政局長等に対して補助事業採択の申請を行うこととなる。また、当該事業計画を変更するときは、投資効率の再算定を行い地方農政局長等に変更内容を再算定した投資効率を含めて報告することになっている。

(3) 農道整備事業における投資効率の算定

 農道整備事業における主な年効果額は、営農に係る走行経費節減効果額であり、事業実施前後の農産物の生産及び流通に係る輸送経費を求め、その差額を節減効果額として算定することとされている。そして、その算定に当たっては、輸送距離は、農業用施設の配置、機能、周辺の道路状況等を十分に勘案して最も経済的な走行経路から算定することとされている。

(4) 区画整理事業における投資効率の算定

 区画整理事業における主な年効果額は、作物生産効果額、営農経費節減効果額である。
このうち作物生産効果額は、事業実施前後の作物別作付面積や単位面積当たりの収量による作物生産の増減量に生産物単価を乗じて粗収益の増減額を算出し、更に作物ごとの純益率を乗じて得た純益に基づくなどして算定することとされている。また、事業実施後の作物別作付面積については、当該地区における受益農家の意向等を踏まえ事業計画の一部として作成した営農計画等に基づいて算定することとされている。そして、この営農計画等は、地域の実情を踏まえた実効性の高いものとなるよう留意することとされている。
 営農経費節減効果額は、作物ごとに事業実施前後のそれぞれの営農技術体系に基づいた労働費、農業機械経費等を合算して営農経費を求め、その差額を節減効果額として算定することとされている。

(5) 土地改良事業の経済効果の測定方法の見直し

 農林水産省では、経済効果の測定方法について、既存施設の更新による効果をより適切に評価できる手法に改善するなどのため、平成19年3月に「土地改良事業の費用対効果分析に関する基本指針の制定について」(平成19年18農振第1596号農村振興局長通知)等を発して、従来の投資効率方式から新たに効果の発生時期を見直すなどした総費用総便益比方式に変更するなどの見直しを行っている。しかし、新規整備事業における効果額の算定については、事業実施前後の状況を比較して算定する従前の算定手法と同様なものとなっており、その算定に当たっての留意事項も従前と同様なものとなっている。

2 検査の結果

(検査の観点及び着眼点)

 土地改良事業の実施に当たっては、その効率的かつ効果的な実施を図るため、投資効率に基づく同種事業間の優先順位の適切な把握と予算執行が重要である。
 そこで、有効性等の観点から、都道府県が行う主な土地改良事業のうち農道整備事業及び区画整理事業について、投資効率は算定通知に基づき適切に算定されているか、事業実施後において実績値が計画値を下回っていないかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 本院は、農林水産省及び24道県(注4) において会計実地検査を行った。そして、24道県が事業主体となって行っていて、9年度から18年度までの間に事業が完了し、又は18年度末において事業が継続中である農道整備事業534地区(計画延長計3,414km、事業費計1兆5028億6085万円、国庫補助金計7772億0846万円)及び区画整理事業1,076地区(受益面積計128,897ha、事業費計1兆7307億9620万円、国庫補助金計8563億2406万円)を対象として、事業計画概要書等の書類及び現地の状況を検査するとともに、事業主体である道県に対して投資効率の算定内容等についての報告を求め、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 農道整備事業について

 12道県(注5) の25地区(計画延長計149km、事業費計732億4459万円、国庫補助金計381億1586万円)について、投資効率が適切に算定されていなかったり、事業実施後において実績値が計画値を下回っていたりしていた。これを態様別に示すと次のとおりである。

ア 投資効率が適切に算定されていなかったもの

9道県 21地区 計画延長計140km 事業費計707億9746万円

国庫補助金計368億9230万円


 これらは、事業実施前の現況の輸送経路として最も経済的な経路と異なる経路を選定するなどしていて、走行経費節減効果額が過大に算定されていたものなどである。

<事例1>

 A県では、平成6年度に採択された「広域営農団地農道整備事業B地区」(計画延長13.5km、事業費計44億5468万円、国庫補助金計22億2734万円)において、事業計画の作成に当たり、ライスセンターから米を出荷する際の輸送距離が本件農道完成後には短縮されるなどとして走行経費節減効果額を8億1160万円と算定するなどして、投資効率を1.32と算定していた。
 この事業実施前の現況の輸送経路として選定した経路は、ライスセンターから市道等を経由して有料道路へ接続するものであり、その距離を図測により20kmとしていた。
 しかし、現況の輸送経路について調査したところ、ライスセンターから有料道路までの距離がより短く幅員が市道より広い県道を経由する経路があり、この距離を実測すると16kmであった。
 したがって、事業実施前の現況の輸送経路として最も経済的な経路を選定して走行経費節減効果額を算定すると4億9147万円となり、3億2012万円が過大に算定されていた。そして、これに基づき投資効率を算定すると、投資効率は1.02となる。

イ 事業実施後において実績値が計画値を下回っていたもの

3県 4地区 計画延長計9km 事業費計24億4713万円

国庫補助金計12億2356万円


 これらは、畜産農家から発生する家畜排せつ物の輸送量について、農家の意向等の調査を十分に行わないまま、そのほぼ全量が農家からたい肥処理施設に運搬されるものとして事業計画を作成するなどしていたが、自家処理を行う農家が多かったことなどから、事業実施後において実績値が計画値を下回っていて、計画上の事業効果が十分に発現していなかったものである。

(2) 区画整理事業について

 19道県(注6) の155地区(受益面積計15,711ha、事業費計2622億1677万円、国庫補助金計1286億7673万円)について、投資効率が適切に算定されていなかったり、事業実施後において実績値が計画値を下回っていたりしていた。これを態様別に示すと次のとおりである(ア及びイの態様には、地区が重複しているものがある。)。

ア 投資効率が適切に算定されていなかったもの

15道県 44地区 受益面積計5,342ha 事業費計798億6899万円

国庫補助金計383億4079万円

 これらは、純益率や労務単価の適用を誤るなどしていて、作物生産効果額や営農経費節減効果額が過大に算定されていたものなどである。

<事例2>

 C県では、昭和60年度に採択されて平成12年度に完了した「ほ場整備事業D地区」(受益面積149ha、事業費計29億2390万円、国庫補助金計13億1575万円)において、8年度の事業計画の変更に当たり、事業実施前後の作物生産の増減量に、算定通知で作物ごとに定められた過去5年間の統計値に基づく純益率を乗じて、作物生産効果額を4918万円と算定するなどして、投資効率を1.05と算定していた。
 しかし、上記の純益率は、当初計画時のものを誤って適用したものであり、計画変更時の純益率を適用して算定すべきものであった。
 したがって、計画変更時の純益率を適用して作物生産効果額を算定すると2392万円となり、2526万円が過大に算定されていた。そして、これに基づき投資効率を算定すると、投資効率は1.01となる。

イ 事業実施後において実績値が計画値を下回っていたもの

10道県 117地区 受益面積計10,776ha 事業費計1905億9474万円

国庫補助金計944億9176万円


 これらは、営農計画等が農業者の高齢化等を十分に踏まえた実効性のあるものとなっていなかったり、各地区において事業実施後における事業計画の達成状況を把握した上で必要に応じた適切な指導を行うことをしていなかったりなどしていたため、事業実施後において、計画作物が作付けされていないなど、実績値が計画値を下回っていて、計画上の事業効果が十分に発現していなかったものである。

<事例3>

 E県では、平成10年度に採択されて14年度に完了した「ほ場整備事業F地区」(受益面積40ha、事業費計6億4600万円、国庫補助金計3億2300万円)において、13年度の事業計画の変更に当たり、水田がほ場整備により乾田化されることなどにより、トマト等を新たに作付けする計画作物として作物生産効果額を1726万円と算定していた。
 このトマト等の計画作物は、営農計画等の作成時において、当該地区が所在するG市、農業協同組合及び受益農家代表者と協議した結果を踏まえ同県が選定したものであり、これらの作付面積は当該地区の目標転作率に基づき算定していた。
 しかし、トマトは、多大な労働力を確保できないこと、出荷価格が不安定であること、初期投資に多額の費用を要することなどの理由により、ほ場整備後一度も作付けされていなかった。これは、営農計画等の作成時において、農家の将来の営農に係る意向確認を十分に行っておらず、営農計画等が実効性のあるものになっていなかったことによると認められた。
 また、同県では、当該地区において、トマトの作付実績がほ場整備後皆無であるという実態を十分に把握しておらず、このため、その原因の調査及び原因に対応した適切な指導が十分に行われていなかった。
 仮に、18年度における作付実態に基づき作物生産効果額を算定すると563万円(計画額の33%)となり、計画上の事業効果が十分に発現していない状況となっていた。
 上記(1)及び(2)のように、農道整備事業及び区画整理事業において、投資効率が適切に算定されていなかったり、事業実施後において実績値が計画値を下回っていて計画上の事業効果が十分に発現していなかったりしている事態は適切とは認められず、改善を図る必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
ア 道県において、年効果額の算定等に当たり、事業実施地域内の道路状況の把握、調査を十分に行っていないなど適切な投資効率の算定に対する認識が十分でなかったり、事業実施後における事業計画の達成状況を把握することなどの重要性に対する認識が十分でなかったりなどしていたこと
イ 農林水産省において
(ア) 道県に対し、投資効率の算定において不適切となる事例を具体的に示すなど投資効率の適切な算定を図るための方策が十分に執られていなかったり、事業実施後における事業計画の達成状況を把握することなどの重要性について周知徹底を十分に行っていなかったりしていたこと
(イ) 補助事業の採択時の審査において、投資効率の算定の基礎となる年効果額の内容等に関する審査を十分に行っていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、19年9月に各地方農政局等に対して通知を発し、投資効率及びこれに替わる総費用総便益比の算定の趣旨等について道府県における一層の周知徹底を図り、その適切な算定及び事業効果の十分な発現に資するため、次のような処置を講じた。
ア 道府県に対し、年効果額の算定等に当たり、事業実施地域内の道路状況の把握、調査を十分に行うなど適切な投資効率及び総費用総便益比の算定に対する認識を十分に持つことなどについて、不適切となる事例を具体的に示すなどしてその周知徹底を図ることなどとした。
イ 道府県に対し、営農計画等の作成に当たり、農家の意向を十分に反映させたより実効性の高いものとすることについて周知徹底を図るとともに、事業実施後における事業計画の達成状況を把握し、実績値が計画値を下回っている場合にはその原因の調査及び原因に対応した方針の検討を行い、適切な指導を行うことの重要性について周知徹底を図ることなどとした。
ウ 地方農政局等が補助事業の採択時に行う審査において、投資効率又は総費用総便益比が1.0以上であることの確認と併せて、年効果額の内容等についても十分に審査を行うこととするよう審査内容の一層の充実を図ることなどとした。

 24道県  北海道、青森、岩手、宮城、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟、石川、福井、岐阜、愛知、滋賀、兵庫、和歌山、岡山、徳島、香川、高知、福岡、長崎、熊本、鹿児島各県
 12道県  北海道、岩手、宮城、埼玉、千葉、新潟、石川、兵庫、和歌山、徳島、高知、鹿児島各県
 19道県  北海道、青森、岩手、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟、石川、福井、岐阜、愛知、滋賀、徳島、高知、福岡、長崎、熊本、鹿児島各県