日本放送協会における不祥事に関する会計検査の結果について

---

１　検査対象の概要

（１）　番組制作費等の概要

　協会の損益計算書における経常事業収支の支出の経費科目には、国内放送費、国際放送費、契約収納費等がある。
　番組制作費は、国内放送費と国際放送費に属するもので、番組の制作に要する経費である。そして、国内放送費に属する番組制作費は、テレビやラジオ・ＦＭの全国及び地域放送番組の制作に要する直接経費、報道取材に要する経費、番組の制作に伴い共通して要する経費からなっている。また、国際放送費等の場合も同様の経費からなっている。
　上記については図２－１ のとおりであり、国内放送費に属する番組費を構成する主な経費及びその１８年度実績額は、表２－１　のとおりとなっている。

図２－１　番組制作費等の構成

経費	経費の内容	１８年度実績額 （百万円）
出演・委嘱料	放送番組出演者、作家、作曲家、芸能法人に対する出演料及び旅費、日当、宿泊料、文芸作品及び音楽作品制作者に対する委嘱料、旅費、日当、宿泊料、著作権所有者に支払われる文芸作品著作権使用料及び買取料など	49,595
旅費・交通費	出張旅費支給要領等により支給する国内出張旅費、自動車料など	6,402
謝礼・会議費	報酬、講演料、手数料、手当・謝礼、打合せ・会議費など	1,787
役務費	労働者派遣に対する報酬、長期短期スタッフの雇上げ経費、通訳・翻訳・速記として役務の提供に対する報酬など	10,297
美術費	舞台セット等の製作、小道具類製作、衣装の借用、メイク・かつら等の経費、コンピュータグラフィックス等の制作経費など	7,742
番組制作諸費	放送用ビデオテープや録音テープの購入、照明・音声収録作業者や映像・音声編集作業者、効果音作成作業者に対する報酬経費、通信・運送費、総支局取材費など	33,518
業務委託費	関連団体への各種委託業務に要する要員費、物件費、管理費など	60,357
海外業務費	海外における交渉経費、旅費等、撮影機器等の借料、役務の提供に対する報酬など	3,459
その他	消耗品、印刷・資料費、借用料など	22,367
合計		195,528

（２）　協会における不祥事、経理適正化策及び内部調査の概要

ア　不祥事の概要

　１６年７月、協会の芸能番組担当チーフ・プロデューサー（以下、チーフ・プロデューサーを「ＣＰ」という。）による番組制作費不正支出問題が発覚した。そして、これ以降も次々と不祥事が発覚したため、協会は、新規の不祥事の発生防止に努めてきたが、さらに１８年４月、スポーツ報道担当ＣＰによる架空出張等が発覚した。
　これまでに発覚した協会の経理に関する不祥事の主なものの概要は、以下のとおりとなっている。

〔1〕 芸能番組担当CPによる番組制作費不正支出
部局の名称	不正行為者の職務	不正行為期間	損害額	損害金の種類	処分
本部 大阪放送局	芸能番組部CP 放送センター(芸能)CP	H8.9〜13.6 H13.9〜13.11	192,235,701円	委嘱料等	免職
・知人と共謀し自己の担当する番組において仕事をさせたように装うなどして、知人の銀行口座に振り込ませるなどした委嘱料等を領得したもの。

〔2〕 音響デザイン職員による不正支出
部局の名称	不正行為者の職務	不正行為期間	損害額	損害金の種類	処分
本部	(音響デザイン) 専任ディレクター	H4.8〜13.11	12,416,889円	委嘱料等	免職
・制作会社の社長である知人と共謀し自己が作曲した音楽を同会社に依頼して作曲させたように装うなどして、同会社の銀行口座に振り込ませるなどした委嘱料を領得したもの。

〔3〕 放送部長による不正経理
部局の名称	不正行為者の職務	不正行為期間	損害額	損害金の種類	処分
岡山放送局	放送センター放送部長	H8.2〜9.12	833,755円	打合費	免職
・実際に行っていないのに、外部有識者との打合せを行ったこととして、支払を受けた現金を領得したもの。

〔4〕 スポーツ報道担当CPによる架空出張等
部局の名称	不正行為者の職務	不正行為期間	損害額	損害金の種類	処分
札幌放送局 本部	(放送)職員 放送部チーフ･ディレクター スポーツ報道センターCP	H12.10〜15.6 H15.6〜17.6 H17.6〜18.4	19,959,846円	旅費等	免職
・架空の出張申請を行うなどして、旅費等を領得したもの。

〔5〕 チーフ・カメラマンによるビール券の着服
部局の名称	不正行為者の職務	不正行為期間	損害額	損害金の種類	処分
福井放送局	(放送)チーフ･カメラマン	H12.6〜16.12	3,545,220円	謝礼	免職
・取材協力者への謝礼を装い、支払請求票を作成し、支払決定を受けて購入したビール券を領得したもの。

〔6〕 映像デザイン職員による不正請求
部局の名称	不正行為者の職務	不正行為期間	損害額	損害金の種類	処分
本部	(映像デザイン)職員	H16.3〜16.10	5,578,888円	役務費等	免職
・親族を委託業務に従事させたように装い、協会から委託会社を通じて、当該親族名義の銀行口座に振り込ませた役務費等を領得したもの。

〔7〕 職員による備品盗難
部局の名称	不正行為者の職務	不正行為期間	損害額	損害金の種類	処分
甲府放送局	(放送)職員	H14.9〜15.1	350,000円	備品	依願退職のため処分なし
・放送局の備品であるノートパソコン、プリンター等を窃取したもの。

〔8〕 職員による公金着服
部局の名称	不正行為者の職務	不正行為期間	損害額	損害金の種類	処分
京都放送局	(営業)職員	H11.2〜13.1	2,081,340円	現金・預金	免職
・訪問集金で支払を受けた受信料に係る現金を領得したもの。

〔9〕 職員による公金着服
部局の名称	不正行為者の職務	不正行為期間	損害額	損害金の種類	処分
北九州放送局	放送センター職員	H9.9〜9.9	1,000,000円	現金・預金	免職
・協会の銀行口座から不正に現金を引き出すなどしてこれを領得したもの。

〔10〕 支局長による不適切な経理処理
部局の名称	行為者の職務	期間	金額	費目	処分
ソウル支局	支局長	H5.7〜9.6	43,997,120円	総支局取材費	停職6箇月
・外部プロダクションに経費を水増しした領収書を作らせ、これにより本部から送金を受けたもの。なお、水増しされた資金は取材活動費に流用したとしている。

〔11〕 「宇宙新時代プロジェクト」担当CPによる不適切な経理処理
部局の名称	行為者の職務	期間	金額	費目	処分
本部	編成局CP 編成局CP	H10.4〜13.2 H11.6〜13.2	1,219,760円 1,950,940円	旅費	出勤停止 7日間
・架空の出張申請を行って、旅費の支払を受けたもの。なお、支払を受けた旅費は宇宙関係情報を収集するための経費に流用したとしている。

〔12〕 駐在事務所特派員による不適切な経理処理
部局の名称	行為者の職務	期間	金額	費目	処分
シンガポール 駐在事務所	特派員 特派員	H7.6〜10.3 H10.3〜14.6	400,000円 2,620,000円	総支局取材費	停職3箇月 停職6箇月
・契約カメラマンの報酬金額について、水増しした領収書を作成し、これにより本部から送金を受けたもの。なお、水増しされた資金は取材活動費等に流用したとしている。

イ　経理適正化策の概要

　協会では、不祥事が発覚した直後の１６年７月から８月にかけて、経理適正化のための業務総点検を実施している。その結果、経理処理の不正を未然に防止するために、同年１０月に放送作家等審査委員会を設置することにより、放送作家等の起用について事前審査制度を導入したり、同年１１月に所定の書式による出張報告書の提出を義務化したり、同月に番組制作部局に経理審査を担当する専任管理職を配置したりするなどの経理適正化策を講じている。

ウ　不祥事を契機とした調査の概要

　協会では、１８年４月に発覚したスポーツ報道担当ＣＰによる架空出張等が、過去の一連の不祥事の発覚後も継続して行われてきたことにかんがみ、すべての経費等の見直しを行うこととし、これまでに次のような調査を実施してきている。

（ア）　緊急業務調査

　上記の架空出張問題発覚直後の１８年４月１７日から５月２８日にかけて、協会は緊急業務調査を実施し、その調査結果を５月２９日に発表している。この調査に当たっては、協会内に外部専門家（監査法人）を含む「緊急業務調査プロジェクト」を編成し、１８年４月に発覚した架空出張等の不祥事の関係部局である報道局スポーツ報道センター及び札幌放送局の１１年度から１７年度までの間に支払われたすべての経費を対象に、書面及び聞き取りによる調査を実施した。緊急業務調査の概要は、表２－２のとおりとなっている。

調査対象組織	・報道局スポーツ報道センター ・札幌放送局
調査期間	平成18年4月17日〜18年5月28日
調査対象期間及び対象経費	平成11年度から17年度までの間に支払われたすべての経費
調査方法	外部専門家(監査法人)の協力を得て、不正につながりかねない業務・事務処理について、リスクが高いと考えられるものを重点的に調査
調査結果	・報道局スポーツ報道センター 　出張旅費の精算・戻入処理を怠っていたもの 32件　490,020円 　自動車料等を重複して支払っていたもの 2件　57,290円 ・札幌放送局 　出張旅費の精算・戻入処理を怠っていたもの 1件　12,500円 　出演・委嘱料等を重複して支払っていたもの 4件　69,592円

（イ）　出張旅費の緊急総点検調査

　協会は、上記の調査と並行して、各部局ごとに調査チームを編成し、全部局を対象に出張旅費の緊急総点検調査を実施することとし、経理適正化策により出張報告書の提出を義務付けることとした１６年１１月から１８年３月までの間に支払われた出張旅費について書面及び聞き取りによる調査を実施した。出張旅費の緊急総点検調査の概要は表２－３のとおりとなっている。

調査対象組織	全部局
調査期間	平成18年4月17日〜18年5月25日
調査対象期間及び対象経費	平成16年11月から18年3月までの間に支払われた宿泊及び日帰り出張旅費(調査対象件数180,416件)
調査方法	各部局において、調査責任者を選定し、管理職を中心とした調査チームを編成し実施 　本部より配布された宿泊出張及び日帰り出張の旅費チェックリストに、次の点の確認結果を記載 宿泊出張について 1　出張報告書提出の有無の確認 2　出張報告書と勤務記録との照合確認 3　出張報告書に領収書添付が必要な宿泊区分の場合は、添付の有無を確認 　出張報告書に領収書添付の必要がない宿泊区分の場合は、出張内容を示す文書や記録を調査したり、同行者に確認したりするなどして出張の事実関係を確認 日帰り出張について 1　旅費請求内容を確認、勤務記録と照合 2　航空機を利用している場合は、特に出張の事実を重点的に確認
調査結果	宿泊出張の宿泊区分の変更や日帰り出張旅費の交通費の誤請求などにより、 　戻入処理したもの 　248件　2,928,885円 　追給処理したもの 　115件　894,995円

（ウ）　全部局業務調査

　協会は、前記のとおり、１８年４月に発覚した架空出張等の不祥事の関係部局である報道局スポーツ報道センター及び札幌放送局については直ちに緊急業務調査を実施したものの、他の部局についてはすべての経費を対象とした調査を行っていなかったことから、１８年８月３日から１２月１９日にかけて、上記の報道局スポーツ報道センター及び札幌放送局以外のすべての部局を対象に、全部局業務調査を実施した。この調査は、本部の監査室、コンプライアンス室、編成局、視聴者総局、労務・人事室、技術局、経理局、総務局、それに外部監査法人からなる「全部局業務調査プロジェクト」及び各部局で編成した調査チームにより、証ひょう書類が保存されている１１年度から１７年度までの間に支払われたすべての経費を対象として実施した。全部局業務調査の概要は表２－４のとおりとなっている。

調査対象組織	全部局
調査期間	平成18年8月3日〜18年12月19日
調査対象期間	平成11年度から17年度までに支払われたすべての経費
調査方法	ア　出張旅費(16年11月以降の分は出張旅費の緊急総点検調査を実施したため、16年10月以前の分を対象) 　・各部局ごとに出張者別に経費データの抽出を行い、勤務表等により、出張の事実関係の確認 　・出張期間とタクシー乗車券利用日が不整合となっているデータを調査 イ　打合せ・会議費 　・各部局ごとに起票者別、業者別に経費データの抽出を行い、実施伺票等により、使用内容の妥当性などを確認 ウ　謝礼 　・各部局ごとに起票者別に経費データの抽出を行い、購入伺票等により、業務内容と贈呈先の整合性などについて確認 エ　役務費 　・各部局ごとに業者別に経費データの抽出を行い、契約書、日報、成果物などにより、業務内容を確認 オ　出演・委嘱料(13年度から15年度までの間に支払われた分は東京国税局の税務調査が実施されたため確認済みであるとして、これを除く期間を対象) 　・各部局ごとに経費データのうち、出演者・放送日・金額等が一致しているものを抽出し、重複払の有無を確認 カ　自動車料 　・各部局ごとに使用者別に経費データの抽出を行い、タクシー乗車券控により、使用内容の妥当性などについて調査し、さらに必要な場合には、タクシー会社へ日報等の照会を実施 キ　固定資産・備品・リース物件 　・各部局が保有する固定資産、備品、リース物件について現物と台帳を確認
調査結果	出張旅費の精算・戻入処理を怠っていたもの 433件　9,224,300円 日帰り出張の日当を誤請求や重複請求していたもの 253件　942,360円 タクシーを不適切に使用していたものなど 377件　1,203,359円 出演・委嘱料を重複して支払っていたもの 57件　3,397,142円 　計 1,120件　14,767,161円 備品等の台帳との不符合 29件