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  • 平成19年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 厚生労働省|
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  • 保険給付

雇用保険の失業等給付金を不正に支給していたもの


(90) 雇用保険の失業等給付金を不正に支給していたもの

会計名及び科目 労働保険特別会計(雇用勘定) (項)失業等給付費
部局等 厚生労働本省(平成12年度から14年度までの間は香川労働局。11年度以前は香川県)(支給庁)
高松公共職業安定所(支給決定庁)
支給の相手方 2人
失業等給付金の支給額の合計 22,944,456円 (平成10年度〜19年度)
不正に支給した失業等給付金の支給額 22,944,456円 (平成10年度〜19年度)

1 保険給付の概要

(1) 失業等給付金の支給等

 厚生労働省は、雇用保険法(昭和49年法律第116号)の規定に基づき失業等給付金の支給を行っている(前掲の「雇用保険の失業等給付金の支給が適正でなかったもの」 参照)。そして、労働者が事業所に就職してから離職して基本手当の支給を受けるまでの主な手順は、次のとおりとなっている。
〔1〕  事業主は、雇用保険の被保険者としての要件を満たす労働者を雇用した場合、公共職業安定所(以下「安定所」という。)に雇用保険被保険者資格取得届(以下「資格取得届」という。)を提出する。なお、事業主が資格取得届を相当期間提出していなかった場合、安定所は出勤簿等の関係書類等により雇用の事実を確認の上、資格取得届を受理して当該労働者に対してさかのぼって雇用保険を適用すること(以下「そ及適用」という。)ができる。
〔2〕  離職した当該労働者は、求職者として安定所に出頭して、離職票、求職票等を提出する。そして、安定所は、被保険者期間等の要件を満たしている場合に、当該求職者を基本手当の受給資格者と決定するとともに職業相談等を行う。
〔3〕  受給資格者は、4週ごとの失業認定日に安定所に出頭して失業認定申告書を提出する。そして、安定所は、失業認定申告書に記載されている就職の有無等の事実について確認して、当該受給資格者について失業認定を行った上で基本手当の支給決定を行う。
〔4〕  厚生労働本省(平成12年度から14年度までの間は都道府県労働局。11年度以前は都道府県)は、〔3〕 の支給決定に基づいて基本手当を支給する。

(2) 不正支給事案について香川労働局が実施した調査結果の概要

 香川労働局(以下「香川局」という。)は、管内の高松公共職業安定所(以下「高松安定所」という。)が失業認定を行った受給者夫妻(以下、夫を「A」、妻を「B」という。)に対する基本手当の支給について、19年10月以降に、関係者に対する聴取、関係書類等による調査を行い、20年3月及び7月にその調査結果を公表している。これによると、A及びBは事業所に雇用保険の被保険者として雇用された事実がないにもかかわらず、高松安定所職員に虚偽のそ及適用の手続を繰り返し行わせるなどして基本手当を受給する手口で、10年4月から19年9月までに基本手当計22,944,456円を不正に受給していたとしている。

2 検査の結果

 本院は、香川局から上記の調査状況の報告を受けて直ちに香川局において会計実地検査を行うとともに、会計検査院法第27条の規定に基づく厚生労働大臣からの報告を受けて、合規性等の観点から、香川局の調査結果も踏まえて、基本手当の支給が適正に行われているかなどに着眼して、香川局の関係職員から事実関係を聴取したほか失業認定申告書等の書類により検査した。
 検査の結果、A及びBに対する基本手当の支給額22,944,456円全額が不正に支給されていて、不当と認められる。
 すなわち、Aは、以前に高松安定所において統括職業指導官であった職員Cとの職業相談の過程でそ及適用により被保険者資格を取得して基本手当を受給できることを知ったことから、10年3月に、他の部署に異動していた職員Cに対して、雇用された事実がないBに対してもそ及適用により基本手当の支給が受けられるよう強要した。職員Cから相談を受けた高松安定所の幹部はAの要求を受け入れて、Bが9年4月に資格取得したかのように、部下の職員に虚偽の資格取得届等の書類を作成させて、不正にそ及適用した。そして、4週ごとの失業認定日には、Bが一度も高松安定所に出頭しなかったにもかかわらず、Bが作成すべき失業認定申告書を高松安定所の職員が作成して、これに基づき高松安定所は失業認定、支給決定を行っていた。その結果、10年4月から11年4月までの間に基本手当2,006,520円がBの金融口座に振り込まれて、不正に支給されていた。
 高松安定所は、その後もAの圧力に屈して不正支給を途中で断ち切ることができず、同様の手口により事業所に雇用された事実がないのにA及びBが交互に就職及び離職したこととした10年度から19年度までの間に、上記のBに対するそ及適用を含めてA及びB合わせて9回の不正なそ及適用を繰り返し行うなどして基本手当の支給決定を行っていた。
 その結果、10年度から19年度までの間に、A及びBに対して基本手当計22,944,456円が不正に支給されていた。
 このような事態が生じていたのは、Aが高松安定所の統括職業指導官に対して不正に基本手当の支給が受けられるよう強要したことにもよるが、次のことなどによると認められる。
ア 高松安定所の関係職員に法令遵守の意識が欠如していたこと
イ 高松安定所において、外部からの不当な要求への対応策が著しく欠如しており、担当者が上司に相談しても適切な指導をしなかったり、黙認したりしたため、非違行為が継続する職場環境となっていたこと
ウ 香川局において、高松安定所に対する雇用保険に係る事務処理等についての指導監督が十分でなかったこと
 なお、これらの不正支給額については、本院の指摘により、すべて返還の処置が執られた。