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  • 平成19年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第14 防衛省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(2) 海外を納地とする艦船用燃料油の調達において、契約相手方の取引実態に応じた為替レートを適用するなどして精算する仕組みを採用するよう改善させたもの


(2) 海外を納地とする艦船用燃料油の調達において、契約相手方の取引実態に応じた為替レートを適用するなどして精算する仕組みを採用するよう改善させたもの

所管、会計名及び科目
防衛省所管 一般会計 (組織)防衛本省 (項)防衛本省
平成18年度以前は、
防衛省所管 一般会計 (組織)防衛本省 (項)防衛本庁
平成17年度以前は、
防衛省所管 一般会計 (組織)防衛本省 (項)防衛本庁
部局等
海上幕僚監部
横須賀地方総監部
契約の概要
海外を納地とする艦船用燃料油の調達契約
契約の相手方
3社
テロ対策特措法下における海外を納地とする艦船用燃料油の調達契約金額
358億0803万円
(背景金額)(平成13年度〜19年度)
補給支援特措法下における海外を納地とする艦船用燃料油の調達契約金額
33億0557万円
(背景金額)(平成19、20両年度)
テロ対策特措法下における海外を納地とする艦船用燃料油の調達契約について取引実態を考慮した為替レートを適用して試算した場合との開差額
2億4190万円
(平成14年度〜19年度)

1 海外を納地とする艦船用燃料油の調達の概要

(1) テロ対策特措法及び補給支援特措法に基づく艦船用燃料油の調達の概要

 海上自衛隊は、「平成十三年九月十一日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法」(平成13年法律第113号。以下「テロ対策特措法」という。)に基づき、平成13年11月から19年11月までの間に、インド洋に補給艦等の艦船を派遣して、テロリスト等の移動を阻止するなどのための海上阻止活動に従事する諸外国の軍隊等の艦船に対して艦船が使用する特殊な燃料油(以下「艦船用燃料油」という。)等の補給を行う協力支援活動等を実施してきた。その後、テロ対策特措法が19年11月1日に失効した後、新たに1年間の時限立法として成立した「テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法」(平成20年法律第1号。以下「補給支援特措法」という。)に基づき、20年1月16日から再びインド洋に補給艦等を派遣して、諸外国の軍隊等の艦船に対して艦船用燃料油等の補給を行う補給支援活動を実施している。
 海上自衛隊は、これらの活動に必要となる艦船用燃料油のインド洋等の海外を納地とする調達を、「装備品等及び役務の調達実施に関する訓令」(昭和49年防衛庁訓令第4号)に基づき、防衛大臣(19年1月8日以前は防衛庁長官)の承認を得て実施してきた。そして、これらの調達に係る契約事務は横須賀地方総監部が実施してきた。
 海上自衛隊は、艦船用燃料油の納入について、調達契約の相手方に対して、1か月から3か月までの契約期間中に数回、納入数量及び納入日を指示している。そして、契約相手方は、バージ船(燃料等の近距離用輸送船)を手配の上、艦船用燃料油を搭載して、洋上にて補給艦へ納入している。契約相手方は、納入までの燃料保管、輸送、関係器材の手配等及びこの役務を遂行する上で必要となる一切の関係諸手続等を行うこととされている。

(2) 随意契約による艦船用燃料油の調達

 海上幕僚監部は、テロ対策特措法下における調達について、13年11月及び16年3月に燃料供給能力調査を実施して、商社であるA社及びB社のみが現地での確実な供給能力があると判断した。また、海上幕僚監部は、安定的な供給を確保するために2社による供給態勢を採ることとした。これを受けて横須賀地方総監部は、両社との間でそれぞれ随意契約により契約を締結していた。
 予定価格の算定は、「調達物品等の予定価格の算定基準に関する訓令」(昭和37年防衛庁訓令第35号)に基づき、一般に市場に流通している軽油の価格指標の変動率や過去の実例、業者見積り、契約相手方の実情等を参考にするなどして、艦船用燃料油代及びバージ船代等の諸費用から構成される米ドル建ての単価に為替レート及び数量を乗じて算定している。
 横須賀地方総監部は、契約方法については、補給実績や派遣部隊の行動により艦船用燃料油の数量が変動することなどから概算契約(契約金額が契約締結時に確定しておらず、概算額で契約して、履行が完了した段階で額を確定させるもの)として、契約履行後、実績に基づき精算することとした。そして、契約に際して代金の実費精算に関する特約条項を定めて、数量については実績数量、諸費用については実績額とすること、為替レートについては艦船用燃料油の補給艦への納入日におけるTTSレート(注) 相当とすることなどの計算基準を定めていた。そして、精算に当たっては、契約履行後に、契約相手方から提出される実績を証する書類を確認した上で、代金を支払うこととした。
 また、横須賀地方総監部は、補給支援特措法下における調達について、後述のとおり指名競争契約によることとしているが、契約を希望する業者が1社のみの場合には、その社と随意契約により契約を締結している。そして、テロ対策特措法下と同様に、概算契約として代金の実費精算に関する特約条項を定めて、為替レートを確定する際は、艦船用燃料油の納入日ごとで実施することとしていた。

 TTSレート  Telegraphic Transfer Selling Rate(銀行等の対顧客電信売相場)の略で、邦貨を米ドル貨に両替する場合には、外国為替取引手数料として1米ドル当たり通常1円を銀行間市場で取引される電信相場の仲値(TTMレート)に転嫁した外国為替レート

(3) 指名競争契約による艦船用燃料油の調達

 横須賀地方総監部は、補給支援特措法下における調達については、「公共調達の適正化について」(平成18年財計第2017号)に従い契約の透明性を重視することとして、契約を希望する業者が複数の場合には指名競争を実施して、落札した1社と契約している。そして、契約に当たっては、各種指標等及び業者見積りを参考に、艦船用燃料油代及びバージ船代等の諸費用から構成される米ドル建ての単価に為替レート及び数量を乗じて予定価格を算定しており、これを基に総価(邦貨)で入札を実施して確定契約(契約金額が契約締結時に確定しているもの)としている。このため、諸費用の額については契約時に確定しており、精算の対象とはなっていない。また、為替レートについては、予定価格算定時に直近1週間の為替レートの平均を基に算出した為替レートを採用しており、契約後に見直すこととはしていない。ただし、契約履行後に契約数量と実績数量が異なる場合には、契約時に確定した単価に実績数量を乗じた額を基に変更契約を締結していた。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、海外を納地とする艦船用燃料油の調達について、経済性等の観点から、予定価格や支払額は市場の動向や業者の取引実態等を適切に反映したものとなっているか、入札等において透明性や競争性が確保されたものとなっているかなどに着眼して検査した。そして、横須賀地方総監部が、テロ対策特措法下において13年度から19年度までの間に、海外を納地としてA社又はB社との間で締結した162契約計358億0803万余円及び補給支援特措法により補給支援活動を開始した19年度以降に締結した4契約計33億0557万余円を対象として、同地方総監部及びインド洋上での艦船用燃料油の納入等の現場において、契約に関する書類等により会計実地検査を行うとともに、A社及びB社に対して、会計検査院法第23条第1項第7号の規定により検査することに決定して会計実地検査を行った。

(検査の結果)

 検査したところ、艦船用燃料油の調達について、次のような事態が見受けられた。

(1) 為替レートについて

ア 随意契約における為替レートの取扱い

 テロ対策特措法下で随意契約により締結した契約では、横須賀地方総監部は、前記の特約条項に基づき、契約相手方の取引銀行が証明した納入日におけるTTSレートを採用するとともに、市中の金融機関が外国為替取引金額や信用度等を総合的に勘案して、顧客ごとに外国為替取引手数料を決定しているという取引慣行を踏まえて、A社及びB社それぞれの同手数料を精算に反映させるための検討を行い、同手数料を、A社については1円、B社については0.75円としていた。
 一方、A社及びB社の仕入先への支払は次のように行われていた。
 両社は、艦船用燃料油を、補給艦への納入ごとに必要数量を仕入れたり、補給艦への予定数量や在庫等を勘案して適宜仕入れたりしていた。
 そして、A社は、支払のための外貨を十分に保有していないことなどから、納入日の前後に、納入日の属する月の1、2か月程度後の日を決済期日として為替レート(以下「為替予約レート」という。)を定めて金融機関と外貨の売買を予約する為替予約をしており、これにより支払に必要な外貨の多くを確保して仕入先に支払っていた。為替予約は、決済期日における為替レート及び取引金額を事前に予約することにより、その後の為替相場の変動リスクを軽減できるほか、前記の取引慣行等により、予約日のTTSレートと比べて、より低いレートでの外貨調達が可能となる場合も多く、横須賀地方総監部が採用した納入日のTTSレートに比べて、A社の為替予約レートはおおむね低い結果となっていた。
 また、B社は、外貨での取引も多いことから外貨預金を保有していて、艦船用燃料油の仕入先に対して、外貨預金から直接送金していた。このため、B社は、金融機関に対して、送金手数料の支払は要するものの、外貨買いが生じないことから外国為替取引手数料は発生していなかった。
 横須賀地方総監部が締結した艦船用燃料油調達契約(14年度〜19年度)における外国為替取引手数料相当額について、仮に同地方総監部が採用した前記のTTSレートと、A社については前記の為替予約レート等を基に、B社については外国為替取引手数料を除いた為替レートを基にそれぞれ計算すると、A社については1億4601万余円、B社については9589万余円、計2億4190万余円の開差が生ずることとなる。
 このように、テロ対策特措法下では、艦船用燃料油の仕入先への送金方法、送金時期等は、特約条項等が想定している取引実態とは必ずしも一致していない状況となっており、外国為替取引手数料相当額において開差が生じていることから、実際に支払った際の為替レートを用いるなど、契約相手方の取引実態に応じた為替レートを適用して精算することなどを定めた特約条項を作成するなどして精算する必要があると認められた。
 また、補給支援特措法下で随意契約により締結した契約では、特約条項により、為替レートを確定する際は、艦船用燃料油の納入日ごとで実施するとしていたが、契約相手方の仕入先への送金方法、送金時期等の取引実態に応じた為替レートを適用して精算すること及び契約相手方が提出すべき証票等が明示されておらず、契約相手方の取引の実態に応じた為替レートを適用して適切に精算することが困難となるおそれがあると認められた。

イ 指名競争契約における為替レートの取扱い

 補給支援特措法下で指名競争契約により締結した契約では、予定価格算定時に採用した為替レートを契約後に見直すこととはしていなかった。
 ちなみに、横須賀地方総監部が20年2月に指名競争を実施した契約についてみると、予定価格算定時から精算時まで為替レートを1米ドル106.58円としていたが、2回の納入日における市中金融機関の為替レートは、1米ドル102.88円及び99.90円となっていた。
 このため、海外を納地とする艦船用燃料油の調達契約においては、業者は、外貨建てにより仕入先に代金を支払うことが通例であるため、為替相場の変動によっては大きな影響を受けることとなる。

ウ 今後の調達における為替レートの取扱い

 以上のことから、契約方式にかかわらず、契約相手方の取引実態に応じた為替レートを適用して精算することなどを定めた特約条項を作成するなどして精算する必要があると認められた。
 また、入札等において、邦貨で表示される予定価格及び入札者の入札価格に対する適用為替レートの影響をなくして、調達する物品等の価格のみを対象として比較が可能となるよう、あらかじめ入札時に為替レートの条件を入札予定者に示すなどして、契約の透明性及び競争性を確保する必要があると認められた。

(2) 指名競争契約におけるバージ船代等の諸費用について

 補給支援特措法下で指名競争契約により締結した契約では、バージ船代等の諸費用を精算の対象としていなかったことから、横須賀地方総監部は、諸費用の実績額を証する書類等の提出を求めていなかった。
 そして、これらの価格の指標となるものが国内等ではほとんど入手できないことから、横須賀地方総監部は、諸費用の予定価格を、事前に業者から徴した見積りを基に算定していた。
 しかし、これらの諸費用について、専ら業者見積りを基に予定価格を算定していて、実績額を証する書類の提出を求めないまま支払額を確定することは、仮に、契約後、実際の業務で契約相手方が要した費用と事前に確定していた費用に開差を生じていたとしても、発注者である海上自衛隊はそのことを確認することができず、予定価格及び支払額の適正性を担保することが困難となる。さらに、以後の契約においても、見積価格を基に予定価格を算定し続けることになる。
 また、諸費用のうち、契約相手方の立会業務の回数や納入時に必要となる諸器材の使用の有無等は、専ら発注者である海上自衛隊の要請により変動するものであり、これらの費用についても代金の精算の対象とせず事前に確定額とすることは、契約相手方に対して想定外の費用を負担させることとなったり、不要となった場合でもその費用を支払うこととなったりすることとなり、契約価格の適正性を担保することが困難となると認められた。

(3) 改善の必要があると認められた事態

 上記(1)、(2)のように、艦船用燃料油の調達に当たり、契約相手方の取引の実態に応じた為替レートを適用して精算する仕組みが十分でない事態や、入札時等における為替レートの条件により契約の透明性及び競争性が確保されていない事態、また、諸費用について価格の適正性を担保することが困難となっている事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められた。
ア 横須賀地方総監部において、海外を納地とする艦船用燃料油の調達について、入札時等における為替レートを入札予定者に提示するなど為替レートの条件を同一にするために配慮すること、契約相手方の取引の実態に応じた為替レートを適用して精算すること、及び諸費用に係る契約価格の適正化を図ることなどの認識が十分でなかったこと
イ 海上幕僚監部において、海外を納地とする燃料油の調達に関して、外国為替取引の実態や諸費用の取扱いについての認識及び指導が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、海上幕僚監部及び横須賀地方総監部は、次のような処置を講じた。
ア 横須賀地方総監部は、海上幕僚監部と協議の上、20年8月に、指名競争契約により締結した海外を納地とする艦船用燃料油の調達契約において、入札予定者に対して、予定価格算定時に用いる為替レートを提示するとともに、為替レートの適用については、契約相手方の取引実態に応じて精算を行うよう特約条項を定めた。また、諸費用についても精算の対象として、契約履行後、契約時に定めた上限価格の範囲内で精算することとした。
イ 海上幕僚監部は、海外を納地とする燃料油の今後の調達に係る上記のような手続を周知するため、20年9月に各地方総監部に対して通知を発した。