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  • 平成19年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第14 防衛省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(5) 住宅防音工事の助成事業の実施に当たり、工事施工の直前に転入した者が含まれている助成に関する審査等の手続を見直すことにより、事業が適切に実施されるよう改善させたもの


(5) 住宅防音工事の助成事業の実施に当たり、工事施工の直前に転入した者が含まれている助成に関する審査等の手続を見直すことにより、事業が適切に実施されるよう改善させたもの

所管、会計名及び科目
内閣府所管 一般会計 (組織)防衛施設庁 (項)施設運営等関連諸費
部局等
9防衛施設局等(平成19年9月1日以降は9防衛局等)
補助の根拠
防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律(昭和49年法律第101号)、予算補助
補助事業の概要
自衛隊等の航空機により生ずる音響に起因する障害を防止又は軽減するために、住宅の所有者等が施工する住宅防音工事に関して助成の措置を執るもの
防音工事に対する国庫補助金交付額
651億6482万余円
(平成16、17両年度)
直前転入した者が含まれている防音工事に対する国庫補助金交付額
46億6061万余円
(平成16、17両年度)
上記のうち防音工事実施期間中に転出した者が含まれている防音工事に対する国庫補助金交付額
7億2810万円
(背景金額)

1 住宅防音工事の助成事業の概要

 防衛施設庁(平成19年9月1日以降は防衛省)は、防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律(昭和49年法律第101号)等に基づき、自衛隊等の航空機の離着陸等の頻繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しいと認めて防衛施設庁長官(19年9月1日以降は防衛大臣)が指定する飛行場等の周辺の区域において、指定の際に既に所在する住宅について、その所有者等が、上記の障害を防止又は軽減するために施工する住宅防音工事に関して助成の措置を執っている。そして、この助成の措置として、住宅に遮音等の機能を附加する住宅防音工事(以下「防音工事」という。)を実施する者に対して、教育施設等騒音防止対策事業費補助金(以下「補助金」という。)を交付しており、その交付件数、交付額は、16年度11,269件、355億1200万余円、17年度9,278件、296億5282万余円、計20,547件、651億6482万余円となっている。
 防音工事における補助金の交付の対象とする経費は、「防衛施設周辺住宅防音事業補助金交付要綱」(昭和50年防衛施設庁訓令第3号。以下「交付要綱」という。)等により、防音工事に必要な工事費、設計監理費等とされ、工事費等の合算額に10分の10を乗じて得た額が補助金の交付額とされており、それぞれの経費は防音工事を実施する居室数等に基づいて定めた額を超えないものとされている。また、防音工事の補助対象居室数(以下「対象居室数」という。)は、補助金の交付申請時において、現に居住する世帯人員に応じたもの(5居室を限度として、世帯人員に1を加えた居室数)などとされており、その世帯人員は、原則として住民基本台帳に登載された世帯の人員とされている。
 そして、9防衛施設局等(注1) (19年9月1日以降は9防衛局等(注2) 。以下「防衛施設局」という。)は、上記のように対象居室数の基となる世帯人員を、次の方法により確認するなどしている。
〔1〕  補助金の交付申請の前に防音工事の希望者から提出される交付申込書に、原則として住民票を添付させる。
〔2〕  住民票の世帯人員は、住民の様々な事情から現実の世帯人員と相違する場合があることから、補完的に現地調査を行い、現地調査において不自然な家族形態又は同居形態と思われるような転入者がある場合には、その事情を聴取する。
〔3〕  補助金の交付申込書に記載された内容について変更があった場合には、変更事項が確認できる書面を添えて速やかに報告させる。
〔4〕  補助金の交付申請の際に、世帯人員を書面により報告させる。
 その上で防衛施設局は、補助事業者が防音工事の完了検査後に提出した補助事業等実績報告書に基づき完了確認を行い、補助金の額を確定して、補助事業者に対して補助金を交付している。

2 検査の結果

(検査の観点及び着眼点)

 防衛施設局は、前記のとおり、毎年度約10,000件に上る防音工事に対して補助金を交付しているが、防音工事を希望する届出の件数は18年度末現在でなお約65,000件と多数に上っている状況である。
 そこで、本院は、防衛施設局において、合規性、効率性等の観点から、補助事業の審査が適切に行われているか、審査の際に徴するなどした資料を十分活用することにより、防音工事の希望者に補助金が効率的に交付されているかなどに着眼して会計実地検査を行った。

(検査の対象及び方法)

 検査に当たっては、工事施工年度の前年度の4月1日以降に防音工事を実施する住宅に転入(以下「直前転入」という。)した者が含まれている防音工事を対象に検査した。すなわち、16、17両年度の防音工事のうち、交付申込書に添付された住民票の写しにより、直前転入した者が含まれている防音工事を選定して、その防音工事、16年度970件(国庫補助金26億0528万余円)、17年度703件(同20億5532万余円)、計1,673件(国庫補助金計46億6061万余円)を対象に、直前転入した者のその後の居住状況について、当該市町村より交付を受けた住民票の写しを確認するとともに、防衛施設局より現地調査の状況を確認するなどの方法により検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。
 直前転入した者が含まれている防音工事1,673件における世帯人員は、表1のとおり、計4,791人であり、このうち直前転入した者は3,573人であった。そして、これらの防音工事のうち、直前転入して、交付申込書の提出から補助金の額の確定までの間(以下「防音工事実施期間」という。)に当該住宅から転出していた者が含まれている防音工事は、295件(国庫補助金計7億2810万余円)となっていた。
 上記295件の防音工事における世帯人員は計814人であり、このうち半数以上の490人が直前転入して、防音工事実施期間中に当該住宅から転出していた。また、この490人のうち318人は交付申込書の提出前3か月以内に当該住宅に転入していた。

表1 直前転入した者が含まれている防音工事のうち、直前転入して、防音工事実施期間中に当該住宅から転出した者が含まれている防音工事の件数等
年度
直前転入した者が含まれている防音工事
左のうち直前転入して、防音工事実施期間中に当該住宅から転出していたもの
件数
(件)
国庫補助金交付額
(千円)
世帯人員
(人)
左のうち直前転入した者
(人)
件数
(件)
国庫補助金交付額
(千円)
世帯人員
(人)
左のうち直前転入した者(うち交付申込書の提出前3か月以内に転入した者)
(人)
平成
16
970
2,605,288
2,788
2,080
162
360,555
448
247(140)
17
703
2,055,325
2,003
1,493
133
367,552
366
243(178)
1,673
4,660,613
4,791
3,573
295
728,108
814
490(318)

 これら防音工事実施期間中に転出した490人について、その転出時期及び転出先を調査したところ、表2のとおり、154件の防音工事における転出者265人(54.1%)が補助金の交付申請前に転出していたり、184件の防音工事における転出者306人(62.4%)が直前転入の前と同じ住宅に転出していたりなどしていた。

表2 防音工事実施期間中に転出した490人の転出時期及び転出先
区分
年度
転出の時期
合計
補助金の交付申請前
補助金の交付申請から額の確定まで
直前転入の前と同じ住宅に転出した者
平成
16
件数
51
人数
84
件数
47(2)
人数
64
件数
96
人数
148
17
55
107
34(1)
51
88
158
106
191
<39.0>
81(3)
115
<23.5>
184
306
<62.4>
直前転入の前と異なる住宅に転出した者
16
30
49
38(2)
50
66
99
17
18
25
33(6)
60
45
85
48
74
<15.1>
71(8)
110
<22.4>
111
184
<37.6>
合計
16
81
133
85(4)
114
162
247
17
73
132
67(7)
111
133
243
154
265
<54.1>
152(11)
225
<45.9>
295
490
<100>
注(1)
 同一の防音工事において、世帯人員が複数で、転出の時期が異なるもの(表中の( )書きで内数)があるため、件数の合計は一致していない。
注(2)
 < >書きは、転出した490人に対する割合(%)である。

 そして、防衛施設局は、交付申込書に添付された住民票の写しにより確認した後、補完的に現地調査を行っているが、中にはその記録を保管していない防衛施設局もあるなど、この調査結果がその後の世帯人員の確認において、有効に活用できていなかった。また、上記の490人について、交付申込書に記載された内容に変更があったにもかかわらず、補助事業者から報告を受けた実績もなかった。

<事例>

 A防衛施設局は、平成17年度に、B市に居住する補助事業者Cが実施する4居室の防音工事に対して435万余円の国庫補助金を交付していた。補助事業者Cが17年7月15日に同局に提出した交付申込書によれば、世帯人員は、補助事業者C本人及び同居している2人の計3人であることから、対象居室数は4居室としていた。そして、交付申込書に添付されていた住民票の写しによれば、補助事業者Cは、同年7月1日にD市の住宅から、同居している2人は、16年9月17日にB市内の住宅から直前転入していた。その後、同局の審査を受けて、補助事業者Cは、17年12月7日に補助金の交付申請を行い、防音工事を実施して、18年3月28日に同局から補助金の額の確定を受けていた。
 しかし、今回確認した住民票の写しによれば、当該住宅の所有者である補助事業者Cは、補助金の交付申請前の17年8月16日には既に直前転入の前と同じ住宅に転出していたが、世帯人員等の変更事項が確認できる書面は同局に提出されておらず、補助金の交付申請の際に世帯人員を報告する書面においても世帯人員は3人であると報告していた。そして、同局の審査においても上記の状況を確認できておらず、現地調査を実施した際の記録も保存されていなかった。

(参考図)

補助事業者Cの異動状況

補助事業者Cの異動状況

 上記のように、直前転入して、防音工事実施期間中に転出した者が含まれている防音工事において、転出した者が補助金の交付申請前に転出していたり、直前転入の前と同じ住宅に転出していたりするなどの事態が多数見受けられた。このような事態は、対象居室数を増やすために意図的に直前転入を行っている補助事業者等が存在する可能性を排除し得ず、他の補助事業者との公平性の面から、また、防音工事の希望者が多数待機する中、限られた予算の効率的な執行の面からも適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、防衛施設局における審査体制が、次のように十分でなかったことなどによると認められた。
ア 交付申込書とその添付書類の内容を確認するために行った現地調査の際に、補助事業者から聴取した内容の記録を保存していない防衛施設局があるなど、補助金の交付決定以降の世帯人員の確認において、その情報を有効に活用していなかったこと
イ 補助事業者に対して、補助事業が完了するまでの間、補助金の交付申請時と世帯人員等の内容に変更があった場合の報告をさせることとしているものの、報告の時期及び方法について具体的に示していなかったこと
ウ 補助事業者に対して、偽りその他不正の手段により補助金の交付を受けた場合は交付決定の取消し、補助金の返還等の措置が講じられることとなる旨を、周知徹底していなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、防衛省は、20年3月に、交付要綱を改正して、防音工事の助成事業に関する審査等の手続を見直すとともに、各防衛局長等に対して、通達等を発して、次のような処置を講じた。
ア 補助金の交付申込書の提出を行った者(世帯人員を含む。)のうち、当該申込書の提出前3か月以内に転入してきた者については、現地調査において転入理由及び今後の異動の可能性を聴取してその内容を記録に残した上、助成の可否を判断することとした。特に、当該申込書の提出前1か月以内に転入してきた者については、原則として、世帯人員の対象外とすることとした。
イ アにより防音工事の助成の対象とする者については、
(ア) 補助金等交付申請書及び世帯人員を報告する書面の提出に併せて、世帯人員の住民票等を提出させて、上記アの記録を参考に世帯人員の確認を行うこととした。
(イ) 補助事業等実績報告書の提出時に世帯人員を報告する書面を提出させて、その後に、世帯人員の住民票を公用で取得して、上記アの記録を参考に世帯人員を報告する書面と世帯人員の住民票が合致しているか確認することなどにより、補助金の額の確定を行うこととした。また、世帯人員に変更がある場合にはその理由について確認するとともに、必要に応じて現地調査等を行い補助金の額の確定を行うこととした。
ウ 防音工事を希望する住宅に、居住していない者の住民票を移すなどして世帯人員を偽り補助金の交付を受けた場合には、交付決定の取消し、補助金の返還等の措置が講じられることとなる旨を記載した「交付決定に係る留意事項」を補助事業等交付決定通知書とともに補助事業者に送付して、補助事業者等に対して周知徹底を図ることとした。

 9防衛施設局等  札幌、仙台、東京、横浜、大阪、広島、福岡、那覇各防衛施設局、名古屋防衛施設支局
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