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  • 平成19年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第1節 国会及び内閣に対する報告|
  • 第1 裁判員制度に係る広報業務の実施状況について

<参考:報告書はこちら>

第1 裁判員制度に係る広報業務の実施状況について


第1 裁判員制度に係る広報業務の実施状況について

検査対象
(1) 最高裁判所
(2) 法務省
裁判員制度に係る広報業務の概要
裁判員制度についての国民の理解と関心を深めて、国民の主体的な参加が行われるようにするために、政府及び最高裁判所において制度の意義、裁判員の選任の手続等について周知するもの
検査の対象とした裁判員制度に係る広報業務の契約件数及び金額
(1) 14件
21億5899万円
(平成17、18両年度)
 
(2)  6件
2億2885万円
(平成17、18両年度)

1 検査の背景

(1) 裁判員制度の概要

 司法制度改革の一環として、平成16年5月28日に裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成16年法律第63号。以下「裁判員法」という。)が公布されて、公布後5年以内に裁判員制度が実施されることとなった。
 裁判員制度は、国民の中から選任された者が裁判員として刑事訴訟手続に参加して、裁判官と共に被告人が有罪か無罪か、有罪の場合にはその量刑を決める制度である。

(2) 裁判員制度に係る広報業務の概要

ア 連携体制

 裁判員法附則第2条の規定においては、政府及び最高裁判所は、制度実施までの期間において、国民が裁判員として裁判に参加することの意義、裁判員の選任の手続、事件の審理及び評議における裁判員の職務等を具体的に分かりやすく説明するなどして、制度についての国民の理解と関心を深めて、国民の主体的な参加が行われるようにするための措置を講じなければならないとしている。そこで、最高裁判所と法務省は協議を行って、裁判員制度の広報に当たり、裁判所は裁判手続周知の広報、法務省は制度周知の広報を中心に行うこととした。さらに、16年8月、従来、刑事訴訟手続に関与している裁判官、検察官及び弁護士(以下、これらを「法曹三者」という。)が協力・連携して広報活動に取り組むように、最高裁判所、法務省及び日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)により、裁判員制度広報推進協議会(以下「協議会」という。)が設置された。
 これまでの法曹三者による連携としては、裁判員制度ロゴマークの共用、法の日週間における記念行事や模擬裁判の共催、パンフレットの共同作成、印刷物等の相互利用のほかに、互いのイベントに法曹関係者・パネリストなどとして出席するなどの取組を行っている。

イ 裁判所における実施状況

 前記のとおり、裁判所は、主に裁判員制度における裁判手続の周知を目的とした広報業務を行っている。最高裁判所は、裁判員制度全国フォーラム(以下「フォーラム」という。)の開催、新聞・雑誌等各種媒体への広告掲載(以下「メディアミックス」という。)、広報用映画等の制作、裁判員制度を周知するためのウェブサイトの構築等を実施している。また、全国の地方裁判所等は、出張説明会、模擬裁判等を実施している。

ウ 法務省における実施状況

 前記のとおり、法務省は、主に裁判員制度の周知を目的とした広報業務を行っており、裁判員制度シンポジウム(以下「シンポジウム」という。)の開催、広報用映画等の制作、ポスター・パンフレットの作成、交通広告の掲載等を実施している。また、全国の地方検察庁等は、出張説明会、模擬裁判等を実施している。

エ その他の関係機関における実施状況

 日弁連は、協議会の構成員として広報業務を行っており、パンフレットの制作、ウェブサイトの整備等を実施している。このほか、政府はこれまでに、内閣府の政府広報や、司法制度改革タウンミーティング(16年度から18年度まで開催)の実施により、裁判員制度の広報を行っている。

(3) 「国の広報業務の実施状況について」平成16年度決算検査報告に掲記した概要

 本院は、国が実施している広報業務について、平成16年度決算検査報告に特定検査対象に関する検査状況として「国の広報業務の実施状況について」 を掲記している。この中では、競争契約の拡大を図ること、複数の業者から仕様書案や企画書等(以下「提案書」という。)を提出させるなどして、これらの内容や業務遂行能力が最も優れた者を選定する手続(以下「企画競争」という。)において、参加者の公募、広報実施部局以外の者を加えた提案書の審査、複数の具体的な採点項目の設定等により競争性、透明性の確保を図ること、予定価格の算定において複数の者からの参考見積書の徴取や同種の実例の調査等により積算の合理性の向上に努めること、他省庁の事例等の参照等により実効性のある検証を行うことなどが望ましいとしている。

(4) 裁判員制度広報に係る最高裁判所及び法務省における企画競争随契

 最高裁判所及び法務省は、裁判員制度に係る広報業務の企画・実施についてのノウハウ等の蓄積がないなどの理由により、直ちに競争入札を実施することは困難であることから、業者選定の競争性、透明性の向上等の取組の一環として、企画競争を実施している。裁判員制度広報に係る企画競争により選定した者を契約の相手方とする随意契約(以下「企画競争随契」という。)の件数は、17、18両年度で最高裁判所において14件、契約金額計21億5899万余円、法務省において6件、契約金額計2億2885万余円となっている。

(5) 裁判員制度広報に係る一連の問題の概要

ア フォーラム及びシンポジウムに係る不適切な募集

 17、18両年度の最高裁判所主催のフォーラム及び18年度の法務省主催のシンポジウムについては、企画競争により、株式会社電通(以下「電通」という。)が実施業務を請け負っている。そして、電通は任意団体である全国地方新聞社連合会と提携して事業を実施しており、同会に加盟する地方新聞社(46社47紙)が地元で開催されるフォーラム及びシンポジウムの運営を行っている。
 上記フォーラムの実施に際して、17年度の3会場(大阪市、和歌山市、千葉市)及び18年度の1会場(大阪市)において、参加者の応募状況が低調だったことなどから、開催を運営した新聞社(2社)が人材派遣会社に金銭を支払うなどして参加者を募集していた事態が、19年1月に発覚した。また、18年度のシンポジウムについても、1会場(和歌山市)において同様の事態が、19年2月に発覚した。

イ 最高裁判所における裁判員制度広報に係る契約手続の問題

 最高裁判所が実施したフォーラムにおける上記の不適切な募集について、衆議院予算委員会等の審議で、17年度フォーラム等において契約年月日が事実と異なる可能性が高いなどの事項が指摘されて、最高裁判所は19年2月、同委員会から、内部調査を行ってその結果を報告するよう要請された。最高裁判所が19年2月28日に同委員会に対して提出した「裁判員制度広報費調査報告書」(以下「最高裁報告書」という。)では、契約書未作成の間に契約の履行行為が存在した裁判員制度広報に係る契約が、17年度フォーラムを含めて17、18両年度で計14件、契約金額計21億5899万余円あったなどとされている。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

 前記の裁判員制度広報に係る一連の問題等を踏まえて、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、フォーラム及びシンポジウムにおける新聞社による不適切な募集に係る経費を国が負担していないか、契約手続は会計法令等にのっとり適正に行われているか、広報業務の実施状況は契約書類の内容と合致しているか、広報業務の実施に際して関係局課間の連絡体制は十分にとられているか、最高裁判所と法務省との連携は十分図られているかなどに着眼して検査した。

(2) 検査の対象及び方法

 17、18両年度において最高裁判所及び法務省が締結した裁判員制度広報に係る広告物の制作、広報活動の企画・実施の請負等の企画競争随契(最高裁判所14件、契約金額計21億5899万余円、法務省6件、契約金額計2億2885万余円)を対象として、最高裁判所及び法務省において、契約書、決裁書類、各事業の報告書等の関係書類により会計実地検査を行った。また、5地方裁判所(注) において、フォーラムの実施状況を確認するなどして検査した。

 5地方裁判所  東京、岐阜、松江、札幌、徳島各地方裁判所

3 検査の状況

(1) 最高裁判所

ア フォーラムにおける新聞社による不適切な募集

 検査した範囲では、2新聞社が不適切な募集に要した経費について、最高裁判所がフォーラムの請負業者である電通を通じて請求を受けて経費を負担している事態は、現時点で見受けられなかった。

イ 企画競争随契に係る不適切な契約手続

(ア) 契約書の事後作成

 最高裁判所は、14件の契約において、事業の実施を先行させて、契約書の作成等を事後に行っており、このうち3件については、契約書の作成を履行の完了後に行っていた。そして、上記14件のうち10件において、事後に契約書を作成する際に、契約書の日付を実際の日付よりさかのぼって記載していた。なお、上記14件中の残りの4件については、上記のような事態が国会で指摘された時点(19年2月14日)では契約書を作成していなかったがその後契約書を作成したものである。
 また、14件の契約については、最高裁報告書の記載のほかに、内部決裁等についても、起案及び決裁の日付をさかのぼって記載していたり、ホームページ又は官報に事実と異なる契約年月日を公表又は公示していたりするなどの事態が見受けられた。
 これら不適切な契約手続の状況を態様別に整理すると次表のとおりとなる。

表 14件の契約における不適切な契約手続の状況
番号
年度
契約名
契約
金額
(千円)
態様
1
2
3
4
5
6
1
平成17
裁判員制度広報用ビデオの制作
14,000
 
 
 
2
17
裁判所ウェブサイトリニューアル等業務一式
31,198
 
 
 
3
17
裁判員制度タウンミーティングの企画及び企画実施業務
341,268
 
 
 
 
4
17
裁判員制度広報用ロゴ等の製造
2,880
 
 
 
5
17
裁判員制度広報のメディアミックス企画及び企画実施業務
599,550
 
 
 
6
17
裁判員制度広報用映画の制作
69,997
 
 
 
 
7
18
裁判員制度タウンミーティングの企画及び企画実施業務
339,983
 
 
 
 
8
18
裁判員制度広報メディアミックス企画及び実施業務
599,970
 
 
 
9
18
映画予告編広告(シネマアドバタイジング)用コンテンツの制作
19,700
 
 
 
10
18
裁判員制度広報用映画の制作
68,880
 
 
 
 
11
18
映画予告編広告(シネマアドバタイジング)用コンテンツ上映の実施業務
25,993
 
 
 
12
18
裁判員制度広報用イラスト入りパンフレットの製造
12,957
 
 
 
 
13
18
裁判員制度広報用アニメーションの制作
27,996
 
 
 
 
 
14
18
裁判員制度メールマガジン開設等作業請負業務
4,620
 
 
 
 
 
3
10
4
9
3
4
注(1)
 態様欄の1から6までの区分は次のとおりである。
1 履行完了後に契約書が作成されていたもの
2 契約書を作成する際に事実と異なるさかのぼった契約年月日を記載していたもの
3 本件事態が国会において指摘された日(平成19年2月14日)以降に契約書を作成したもの
4 事実と異なる契約年月日をホームページに公表していたもの
5 ホームページでの公表の有無が確認できないもの
6 特例政令の適用があるもので、事実と異なる契約年月日を官報に公示していたもの
 変更契約についてもさかのぼった契約年月日を記載していた。

 また、上記の14件以外の契約についても、確認できた範囲において、17、18両年度における他の企画競争随契(21件、契約金額計3億5891万余円)及び企画競争随契以外の裁判員制度広報関連契約(2件、契約金額計656万余円)についても、契約書の作成等の手続を実際には履行の着手後に行っているなどの事態が見受けられた。

(イ) 随意契約理由の妥当性の検討

 最高裁判所は、企画競争の実施に際して、企画競争随契とする理由の妥当性についてりん議を行うことになっているが、企画競争の実施伺等の決裁書類中に競争入札によらない理由についての具体的な記述がないために、随意契約とする理由の妥当性についてどのような検討がなされていたかを、事後に確認できない状況となっていた。

(ウ) 業者の選定手続

 審査基準の評価項目の設定状況等についてみると、次のとおりとなっていた。

a 審査基準における評価項目の設定等

 最高裁判所の前記14件の企画競争随契では、審査基準が複数の評価項目から構成されており、そのうち大項目の配点については、10件が説明会時に参加業者に示されていたが、更にこれを区分した小項目についてそれぞれの配点が示されていないものが見受けられた。今後、最高裁判所においては、審査基準の小項目ごとの配点を示したり、評点の指標について明確な基準を設けたりするなど、透明性の確保に向けて評価者の評価と採点との結び付きがより明確となるような工夫が求められる。

b 提示額に対する評価

 最高裁判所における前記14件の企画競争随契では、いずれも、説明会において、文書又は口頭で契約の上限金額等として目安となる金額が参加業者に示されていた。そして、参加業者が企画案の見積りとして提示した額(以下「提示額」という。)は、一部を除きおおむね最高裁判所の示した目安となる金額に近接していた。また、実際の採点において、提示額の多寡を直接採点に反映していたものは、14件中5件となっていた。企画競争随契による場合に、上限金額等として目安となる金額を示しつつ、経費面における競争性、透明性をより高めていくためには、審査基準中の「経費」の項目において、参加業者の提示額の多寡がどの程度評価されるかについて、できる限り明確にしていくなどの工夫が望まれる。

c 企画の採点方法及び審査手続

 最高裁判所においては、関係局課のメンバーによって、参加業者の提案に対する検討を行って、その後に、検討結果に沿って担当者が作成した評点案を素案として、関係局課においてそれぞれ決裁を経る手続が行われ、最終的には刑事局長等が業者を選定するという方式が採られていた。
 しかし、企画の審査に当たって、前記aのとおり、審査基準において小項目ごとの配点を示したり、評点の明確な基準を設けたりなどしていれば、企画の検討を行ったメンバーが各項目を採点して、これを集計することでより客観的で透明性のある評点の算定が可能となると思料される。

(エ) 予定価格

 予定価格の積算方法及び算定の妥当性について、次のような事態が見受けられた。

a 積算方法

 選定業者が提出した見積書の総額と最高裁判所が積算資料等に基づいて算定した積算額とを比較して、総額が安価な見積額をそのまま採用しているものや、選定業者の見積額と最高裁判所が算定した積算額とを内訳項目ごとに比較して、項目ごとに安価な方を採用して積み上げているものがあるなど、同種の契約に対して積算方法が統一されていない状況となっていた。また、新聞広告掲載料の積算に当たり、複数の者から参考見積書を徴することなどにより予定価格を低減させることが可能な場合があるのに、各新聞社が料金表等で示している金額のみにより算定していた。

b 予定価格の算定

 予定価格の算定に当たり、過大な積算となっていたり、算定すべき費用を加算していなかったりしていたものが見受けられた。また、業者の選定後に、仕様の詳細や予定価格が改定されて、契約締結に至るまでの過程で企画、仕様等が変更になる場合には、その変更内容を積算に反映すべきところを、これを反映しないまま予定価格を算定していたものが見受けられた。
 また、最高裁判所の積算額が、選定業者の見積書の金額と著しく異なったため、項目ごとに金額を増減させるなどして調整を行ったと推測されるものが見受けられたが、このような処理を経た積算は、実態を的確にとらえたものとはなっていないと認められる。

ウ 広報業務の実施

(ア) 契約書類の内容

 前記のとおり、最高裁判所は契約書類の作成を事後に行っており、また、事後に作成された契約書類についても、請負業者から納品された制作物に係る使用期間等を契約書類に明記していなかったり、契約後に生じた変更内容等を反映した契約の変更が適切に行われていなかったりするなど、契約書類の記載事項について十分な検討・チェックがなされていないものがあった。

(イ) 監督・検査体制

a 履行完了時の検査における契約書等の不備

 前記のとおり仕様が明確でないか、適切に変更されていない状態であったり、契約内容の履行が完了した時点で契約書が作成されていなかったりしていたことから、検査が適正な契約書類に基づいて実施されていなかった。

b 監督・検査の相互牽(けん)制等

 契約履行時の立会い、指示等の監督の職務及び給付の完了を確認する検査の職務については、相互牽制のため特別の必要がある場合を除き両者を兼ねることはできないとされている。しかし、監督職員が任命されずに担当局課の職員が事実上の監督行為を行っていて、またそのうちの1名が検査職員に任命されているなど、監督の職務と検査の職務の区別が明確でないものが見受けられた。
 また、フォーラムにおける現地での確認状況についてみると、検査職員は現地で当日立ち会った地方裁判所の総務課長等から報告を受けて、業者からの報告書と併せて確認するだけで検査を行っていたが、このような場合は、フォーラムを開催した地方裁判所ごとに監督職員を任命するなどして、現地での確認を実施する職員の責任を明確にする必要があったと思料される。

(ウ) 制作物の利用状況

 17、18両年度の裁判員制度広報用映画制作に係る請負契約において取得した35mmフィルム3本(取得価額相当額計1714万余円)について、取得することについての事前の具体的な調査・検討及び取得後の使用計画の検討や、貸出しなどについての市町村等の関係機関に対する周知が十分でなかったことなどのため、1本が一度使用されたのみで貸出しの実績は全くなく、取得の目的に沿った利用がなされていなかった。 (平成18年度決算検査報告「裁判員制度広報用映画制作に係る請負契約において取得した35mmフィルムについて、具体的な使用計画を検討するなどして有効に利用するよう改善させたもの」 参照)

エ 裁判員制度広報の実施体制、内部牽制等の状況

 最高裁判所の裁判員制度広報における各局課間の連携及び内部牽制についてみると、次のとおりとなっていた。

(ア) 広報実施局課と契約担当局課との連絡調整

 広報実施局課(事務総局総務局、事務総局刑事局及び事務総局広報課)は、予定価格及び契約書の作成に必要な仕様の確定について、契約事務の担当である事務総局経理局用度課(以下「用度課」という。)に対して、決裁等を経た文書による依頼通知を行っていないなど、適時適切な連絡調整がなされていなかった。そして、広報実施局課は、業者選定後に契約書が未作成のままで、当該業者に企画内容を履行させていた。一方、用度課においても、契約書の作成を事後に行っていた。

(イ) 内部牽制等の状況

 最高裁判所は、当該案件が会計法令にのっとって適切に行われているかを事前に確認するために、契約締結に係る内部決裁を行う際にはすべて事務総局経理局監査課(以下「監査課」という。)を経由することになっているが、監査課は、決裁書類に事実と異なる起案日、契約年月日等が記載されていたにもかかわらず、そのまま決裁するなどしており、監査課による内部牽制が機能していない状況となっていた。

オ 再発防止策等の状況

 最高裁判所は、これまでに、不適切な契約事務処理の再発防止、企画競争における業者選定手続の工夫、関係局課の連携の強化等に向けて、19年度の裁判員制度広報の実施に当たり、以下の措置を講ずることとした。
(ア) 職員の増員等による事務態勢の整備、用度課と広報実施局課との間の連携強化、実現可能な調達スケジュールの策定及び管理
(イ) 企画競争の評価項目、基準、配点等の明示、審査基準の作成及び企画選定における外部有識者等の意見の反映
(ウ) 予定価格積算方法の統一、新聞広告掲載料等の積算における複数の者からの参考見積書の徴取等
(エ) 監督職員及び検査職員の任命の明確な区別、監督職員及び検査職員に対する説明会の開催(19年4月)

(2) 法務省

ア シンポジウムにおける新聞社による不適切な募集

 検査した範囲では、新聞社が不適切な募集に要した経費について、法務省がシンポジウムの請負業者である電通を通じて請求を受けて、経費を負担している事態は、現時点で見受けられなかった。

イ 企画競争随契に係る不適切な契約手続

(ア) 招請

 法務省が17、18両年度に締結した裁判員制度広報に係る企画競争随契6件について、招請に係る周知方法を確認したところ、3件は取引実績のある業者等に電話により参加を打診しているのみで、庁舎掲示板やホームページでの公示を行っていなかった。また、1件は庁舎掲示板への公示は行っていたが、ホームページでの公示は行っていなかった。しかし、「公共調達の適正化について」(平成18年8月25日財計第2017号財務大臣から各省各庁の長あて。以下「18年財務大臣通知」という。)により、企画競争においては、特定の者が有利にならないよう参加者を公募することとされた後に行われた招請(1件)は、庁舎掲示板やホームページによる公示が行われている。

(イ) 一般競争入札実施の可能性

 法務省は17年度の広報用の配布物の調達契約について、数量と予算額を提示して、製品の種類、デザイン等を提案させる企画競争を実施していて、最も優れた企画を提案した業者と契約を締結していた。しかし、広報用の配布物として使用される製品は品目が限られており、法務省が事前に配布物に係る情報を収集した上で、発注者側で製品・仕様を特定して競争入札により調達することについて検討して、その結果によっては、一般競争入札を実施することも可能であったと認められた。
 法務省は、本件調達の後に調達することとした広報用の配布物について、一般競争入札による調達を行っていて、19年度には一部の契約において総合評価方式による一般競争入札を実施するなど、より競争性を高めた手法を導入することとしている。

(ウ) 業者の選定手続

 前記6件の企画競争随契に係る審査基準の評価項目の設定状況等についてみると、次のとおりとなっていた。

a 審査基準における評価項目の設定等

 法務省の前記6件の企画競争随契の審査基準について、17年度においては、複数の評価項目が設定されていなかったり、評価項目の設定があるものの項目ごとの配点がなかったりしていたが、18年度においては、評価項目が配点とともに設定されていて、その内訳である小項目ごとの配点についても設定されてきている。しかし、上記の設定された項目等が説明会時に参加業者に示されていないものも見受けられた。

b 審査手続

 企画競争参加業者が提案書等により提示した企画に対する審査手続については、17年度は、原則として広報実施局課である刑事局総務課裁判員制度啓発推進室(以下「啓発推進室」という。)の職員が審査して、その結果を契約締結伺と共に会計課に送付するという手順になっており、審査に当たって契約担当局課である会計課や外部審査員等の関与はない状況となっていた。そして、審査における具体的な採点方法については、17年度は、点数等によらずに啓発推進室全体で1者を選定しているもの、同室職員が各々企画に順位を付して、順位ごとに付与された点数の合計で決しているものなど区々となっていた。
 なお、上記のうち採点方法については、18年度において、同室職員が各々あらかじめ定められた審査基準に基づき採点した上で、それらを合計して決する方法が採られてきている。

(エ) 予定価格の算定

 法務省は、業者選定後に予定価格を算定する際に、17、18両年度の6件のうち1件については、業者の見積書の単価に査定率を乗じた額を予定価格としていたが、残りの5件については、自ら積算を行わずに、予定価格を業者提示額と同額としていた。
 しかし、できるだけ複数の者から参考見積書を徴するとともに、公表資料等との比較検討を行うなどして、予定価格を適正に算定する必要があると思料される。

(3) 最高裁判所と法務省との連携等

ア 広報業務の実施における連携

 最高裁判所と法務省との連携については、最高裁判所又は法務省がそれぞれの広報業務を実施するに当たり、法務省又は最高裁判所に対して、企画内容の情報提供を行い、相互の広報目的に沿った内容となっているかなどについて連絡調整して連携を図ることとしていて、その実績も見受けられた。
 しかし、最高裁判所及び法務省が実施した企画において、例えば、最高裁判所が自ら制作した映画に加えて法務省制作の映画の周知を積極的に行うことや、最高裁判所で実施したメディアミックスに係る制作物等の図柄を法務省においても利用できるようにするなど、より一層の連携を図ることが可能な状況が見受けられた。

イ 会計・契約事務における情報交換等

 前記のとおり、最高裁判所と法務省とでは企画競争随契の手続に当たり、業者選定後の履行の着手時期、審査基準の評価項目の構成、審査方法、予定価格の積算方法等が異なっていた。そして、裁判員制度広報については、最高裁判所、法務省双方が補完し合うことが必要であることなどから、最高裁判所と法務省において、裁判員制度広報業務を効率的に実施するため、広報業務の実施での連携以外に、会計・契約事務における情報交換等も求められている。

4 所見

(1) 検査の状況の概要

 今回、最高裁判所及び法務省の契約状況等について検査したところ、次のような事態が見受けられた。

ア フォーラム又はシンポジウムにおける新聞社による不適切な募集行為については、新聞社から人材派遣業者等に対して支払われた経費はフォーラム契約又はシンポジウム契約から支払われていないことを最高裁判所又は法務省において確認したとしており、また、検査した範囲では最高裁判所又は法務省が確認した内容と異なる事態は、現時点で見受けられなかった。

イ 企画競争随契の手続については、次のとおりとなっていた。

(ア) 最高裁判所において、事業の実施を先行させて、契約書等の作成を事後に行うなど会計法令に反する処理が検査の対象とした14件のすべての契約で行われていた。また、法務省において、企画競争随契における招請の公示が十分でないものが見受けられたが、18年財務大臣通知後はこれにのっとり公示が行われている。

(イ) 随意契約とする理由の妥当性については、最高裁判所において、その検討結果が決裁書類に記録されていない状況となっていた。また、法務省において、17年度の契約の中に競争入札が可能であると認められるものが見受けられたが、その後の同種の調達については競争入札を実施している。

(ウ) 業者選定については、最高裁判所及び法務省において、審査基準の設定、採点方法等が区々となっていたり、法務省において広報実施局課以外の者の関与がなかったりしている状況が見受けられた。

(エ) 予定価格の算定については、複数の者からの見積書の徴取を行うなどして適正に行う必要があるのに、最高裁判所及び法務省においてその取組が十分でない状況となっていた。また、最高裁判所において、積算方法が統一されていなかったり、積算誤りがあったり、同様の事業についてそれぞれの項目の金額が年度間で著しく変動しているなど積算が実態を反映していなかったりしている事態が見受けられた。


ウ 契約書類の内容については、最高裁判所において、タレントを起用した制作物の使用期間が明示されていなかったり、契約後に生じた変更内容等を反映した契約変更が適切に行われていなかったりしている事例も見受けられた。監督・検査については、仕様が明確でなかったり、契約書が作成されていなかったりしたまま検査調書を作成している事態や、監督の職務と検査の職務について明確な区別がなされていない状況が見受けられた。また、制作物の使用計画の検討等が十分でなかった結果、ほとんど使用されていないものも見受けられた。

エ 最高裁判所における裁判員制度広報の実施体制については、広報実施局課と契約担当局課との連絡調整が十分なされていないなど、速やかに仕様書を確定させ契約書を締結するような体制となっていなかった。また、不適切な契約事務処理について内部牽制が機能していない状況となっていた。最高裁判所は、不適切な契約事務処理の再発防止等に向けて、改善策を実施したとしている。

オ 最高裁判所と法務省との連携状況については、協議会の計画等に基づき法曹三者による連携が図られている事業がある一方、最高裁判所と法務省との間で企画の実施において、より一層の連携を図ることが可能な状況が見受けられた。

(2) 所見

 裁判員制度は、司法制度改革の柱の一つとして位置付けられており、国民に対する制度の周知、説明のため、最高裁判所及び法務省においては、これまで多額の予算により様々な広報業務を実施している。最高裁判所における多数の契約においてさかのぼり契約が行われていたことは遺憾なことであり、予定価格の算定を含め適切な事務処理を行う必要があると認められた。これに対して、最高裁判所は、裁判員制度広報業務に係る会計事務について改善への取組を行っているとしていて、速やかにかつ徹底した方策の推進が図られる必要がある。一方、法務省においては、企画競争随契の手続や予定価格の算定等について、競争性、透明性の確保に向けた取組を行っているとしていて、引き続き所要の取組がなされる必要がある。
 裁判員制度広報については、制度の実施まで重点的に周知活動が行われることから、最高裁判所及び法務省は、19年度においても、18年度と同様の予算規模で様々な広報業務を実施することとしていて、制度開始後も引き続き啓発活動を行うこととなる。
 したがって、最高裁判所及び法務省においては、広報業務の実績を重ねてきたことから、18年財務大臣通知の趣旨を踏まえて、一般競争入札を念頭に置いて、今後とも契約の競争性、透明性を高めるとともに、相互の協力・連携をより緊密なものとして、効率的、効果的な広報業務の実施に努める必要がある。
 本院としては、裁判員制度の実施に向けて、広報業務がより重要性を増していくことにかんがみて、改善策が確実に実施されているか確認していくとともに、裁判員制度広報について引き続き検査していくこととする。