ページトップ
  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成20年10月

我が国政府開発援助における無償資金協力及び技術協力において被援助国が実施する施設の建設や資機材の調達等の契約に関する会計検査の結果について


第1 検査の背景及び実施状況

1 検査の要請の内容

 会計検査院は、平成18年6月7日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月8日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、 会計検査及びその結果の報告を求める事項

(一) 検査の対象 内閣府本府、警察庁、金融庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、独立行政法人国際協力機構、各府省が所管する公益法人

(二) 検査の内容

 我が国政府開発援助における無償資金協力及び技術協力において被援助国が実施する施設の建設や資機材の調達等の契約についての次の各事項

〔1〕  契約の競争性・透明性の向上に向けた我が国援助実施機関の取組の状況

〔2〕  落札率の状況 (予定価格、入札、落札、不落随契等契約の状況)

 また、18年6月15日の参議院決算委員会理事会で、「国会法第105条に基づく会計検査院に対する検査要請(18.6.7)について」として、
〔1〕  技術協力については、我が国援助実施機関が実施する、海外での施設の建設や海外向けの資機材の調達等の契約
〔2〕  ベトナムにおける、ベトナム交通運輸局第18事業管理局(PMU18)が関係する我が国の政府開発援助
の両事項が含まれることが確認され、報告については、19年次及び20年次に行うよう求めることとされた。
  会計検査院は、これを受けて、19年次は、無償資金協力において被援助国が実施する施設の建設や資機材の調達等の契約及びベトナム交通運輸局第18事業管理局(PMU18)が関係する我が国の政府開発援助について検査を実施し、報告することにした。また、20年次は、技術協力において被援助国が実施する施設の建設や資機材の調達等の契約及び我が国援助実施機関が実施する海外での施設の建設や海外向けの資機材の調達等の契約についてそれぞれ検査を実施し、報告することにした。

2 前回の会計検査の実施状況

 上記の要請等により実施した19年次の会計検査の結果 については、19年10月17日に、会計検査院長から参議院議長に対して報告した(以下、この報告を「19年報告」という。)。
 そして、19年報告の検査の結果に対する所見において、会計検査院としては、20年次は、技術協力を中心に、内閣府本府、警察庁、金融庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省の各府省庁(以下「13府省庁」という。)、独立行政法人国際協力機構(Japan International Cooperation Agency。以下「JICA」という。)及び各府省が所管する公益法人を対象として引き続き検査を実施して、その検査の結果については、取りまとめが出来次第報告することとした。

3 政府開発援助(ODA)の概要

 政府開発援助は、政府又は政府の実施機関によって開発途上国又は国際機関に供与されるもので、開発途上国の自助努力を支援し、経済及び社会の発展並びに福祉の向上に役立つことを目的として行う資金及び技術の提供による協力である。 これを形態別に分類すると、二国間援助と国際機関に対する出資、拠出とがあり、このうち二国間援助には贈与である無償資金協力及び技術協力並びに政府貸付である有償資金協力がある(図1 参照)。

図1 政府開発援助の分類

図1政府開発援助の分類

 このうち、技術協力は、開発途上国の経済及び社会の開発の担い手となる人材を育成するため、我が国の有する技術、技能、知識を開発途上国に移転するなどし、技術水準の向上、制度・組織の確立・整備等に寄与するものである。具体的には、開発途上国の技術者や行政官等に対する技術研修の実施、専門的な技術や知識を有する専門家やボランティアの派遣、技術移転に際して必要な機材の供与等がある。外務省は各府省庁等が実施する技術協力の調整等を行い、JICAは技術協力の実施に当たり中核的な役割を果たしている。
 政府開発援助に係る19年度一般会計予算の額は、図2のとおりである。

図2 政府開発援助に係る19年度一般会計予算の額
(単位:億円)

政府開発援助
7293
二国間援助
6421
贈与
4831

無償資金協力
1861

技術協力
2970

政府貸付
1591

有償資金協力
1591

国際機関に対する出資、拠出
872

技術協力2970億円には、予算科目に政府開発援助の名が冠されない「私立大学等経常費補助金」が含まれている。

4 技術協力の概要

(1) 技術協力における外務省の役割

 外務省設置法(平成11年法律第94号)は、外務省の任務を、平和で安全な国際社会の維持に寄与するとともに主体的かつ積極的な取組を通じて良好な国際環境の整備を図ること並びに調和ある対外関係を維持し発展させつつ、国際社会における日本国及び日本国民の利益の増進を図ることと定めている。そして、外務省は、その任務を達成するため、政府開発援助全体に共通する方針に関する関係行政機関の行う企画の調整や、政府開発援助のうち技術協力に関する関係行政機関の行う企画及び立案の調整に関する事務等をつかさどることとされている。また、外務省は、定期的に「技術協力連絡会議」を開催するなどして、技術協力に関する関係行政機関の行う企画及び立案の調整を行っている。

(2) 13府省庁による技術協力

 13府省庁は、それぞれの予算により技術協力を実施している。技術協力のうち主なものは、外国人留学生、技術研修員等の受入事業や専門家の派遣事業等である。
  外務省によると、13府省庁は、政府開発援助大綱(平成4年6月30日閣議決定。15年8月29日改定閣議決定。)等が定める範囲を超えないところで、13府省庁の設置法等に規定されている政策を実現するために、所掌事務の範囲内で独自の事業を国際協力として実施しているとしている。
 19年度の一般会計により実施された13府省庁の政府開発援助のうち、技術協力に係る予算額及び決算額は、表1のとおりである。なお、厚生労働省は、国立高度専門医療センター特別会計(19年度予算額7億2998万余円)及び労働保険特別会計(労災勘定同444万余円及び雇用勘定同6億9521万円)によっても技術協力を実施している。

表1 19年度一般会計による13府省庁の技術協力の予算額及び決算額

(単位:円)

府省庁名 当初予算額 歳出予算現額 支出済額
内閣府本府 37,399,000 37,399,000 18,062,989
警察庁 29,926,000 29,926,000 25,774,477
金融庁 60,643,000 60,643,000 50,309,387
総務省 768,996,000 761,130,000 741,765,947
法務省 342,158,000 340,678,000 331,873,574
外務省 220,790,170,000 228,079,921,000 223,786,259,829
財務省 1,662,301,000 1,485,483,000 1,080,817,320
文部科学省 37,406,594,000 37,279,707,911 37,026,494,599
厚生労働省 1,208,222,000 1,208,222,000 1,195,495,730
農林水産省 2,682,138,000 2,682,138,000 2,667,690,680
経済産業省 26,025,208,000 25,149,440,000 23,996,195,568
国土交通省 680,166,000 680,166,000 661,776,523
環境省 66,943,000 66,943,000 61,177,730
291,760,864,000 297,861,796,911 291,643,694,353

(3) JICAによる技術協力

 JICAは、独立行政法人国際協力機構法(平成14年法律第136号)に基づき、条約その他の国際約束に基づく技術協力等の実施機関として、開発途上にある海外の地域に対する技術協力の実施等に必要な業務を行い、もってこれらの地域の経済及び社会の発展又は復興に寄与し、国際協力の促進に資することを目的として設立されている。そして、JICAは、その目的を達成するために、技術協力の手段として技術研修員受入、専門家派遣、機材供与等を実施している。
 このうち、技術研修員受入は、開発途上国の中核的な役割を担う行政官や技術者、研究者等を研修員として我が国に招き、それぞれの地域で必要とされている知識や技術に関する研修を行うものである。専門家派遣は、開発途上国の協力の現場に我が国の専門家を派遣して、その地域の行政官や技術者と一緒に、その地域の実情に即した技術の開発、普及を行うものである。機材供与は、開発途上国からの要請に基づき専門家が技術を移転し、普及させるに当たって必要な機材を相手国に供与するものである。
 なお、これら三つの手段による協力は、在外公館を通じて要請書が提出されることにより行われている。
 19年度のJICAの予算額及び決算額は、表2のとおりである。

表2 19年度のJICAの予算額及び決算額

(単位:円)

支出区分 予算額 決算額
一般管理費
業務経費
 うち国・課題別事業計画関係費
技術協力プロジェクト関係費
フォローアップ関係費
無償資金協力関係費
国民参加型協力関係費
海外移住関係費
災害援助等協力関係費
人材養成確保関係費
事業評価関係費
事業附帯関係費
事業支援関係費
施設整備費
受託経費
寄付金事業費
11,981,138,000
144,281,987,000
4,906,259,000
79,751,816,000
1,608,413,000
4,517,626,000
26,117,286,000
489,702,000
800,000,000
3,282,605,000
811,488,000
7,976,060,000
14,020,732,000
1,615,851,000
2,989,625,000
20,000,000
12,288,636,548
143,589,533,582
4,818,843,464
80,706,977,843
1,435,753,519
3,864,135,008
25,694,299,918
476,289,763
489,029,598
3,161,366,089
607,998,564
8,404,582,543
13,930,257,273
1,040,984,763
2,560,286,883
96,675
160,888,601,000 159,479,538,451

 専門家が技術移転を行うのに必要な施設の建設や資機材の調達等は、表2の支出区分の業務経費のうち、技術協力プロジェクト関係費807億0697万余円及びフォローアップ関係費14億3575万余円、計821億4273万余円の中から行われる。しかし、その内訳としては技術研修員や専門家の旅費、滞在費等が大きな比重を占めている。

(4) 各府省が所管する公益法人による技術協力

 13府省庁から19年度に補助金、委託費の交付を受けて技術協力を実施した公益法人数及び交付額を府省庁別に示すと、表3のとおり、10省が所管する延べ78法人が補助金103億4218万余円、委託費26億7497万余円の交付を受けている。

表3 平成19年度に補助金、委託費の交付を受けて技術協力を実施した公益法人数及び交付額

(単位:法人、円)

府省庁名 補助金 委託費
公益法人数 交付額 公益法人数 交付額
内閣府本府
警察庁
金融庁
総務省 2 76,237,417
法務省 1 49,883,500
外務省 7 220,916,413 3 1,221,352,000
財務省 1 27,636,069
文部科学省 4 240,510,000 4 68,824,637
厚生労働省 4 238,949,000 4 461,704,751
農林水産省 10 1,803,854,000 6 255,833,653
経済産業省 6 7,564,459,783 15 495,106,856
国土交通省 4 147,374,830 5 129,729,609
環境省 2 14,786,000
38 10,342,184,943 40 2,674,973,575

5 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点、着眼点及び対象

 会計検査院は、20年次は、13府省庁、JICA及び各府省が所管する公益法人を検査の対象とし、前記のとおり、我が国政府開発援助における技術協力において被援助国が実施する施設の建設や資機材の調達等の契約及び我が国援助実施機関が実施する海外での施設の建設や海外向けの資機材の調達等に係る契約について検査した。
 そして、契約の競争性・透明性の向上に向けた我が国援助実施機関の取組の状況については、合規性、経済性、効率性等の観点から、我が国援助実施機関は契約の競争性・透明性を向上させるためにどのような取組を行っているかなどに着眼して検査した。
 また、落札率の状況(予定価格、入札、落札、不落随契等契約の状況)については、合規性、経済性、効率性等の観点から、我が国援助実施機関は契約に当たり会計法令等を遵守して予定価格を設定しているかなどに着眼して検査した。

(2) 検査の方法

 会計検査院は、13府省庁及びJICAに対して、技術協力を実施する根拠法令、政府開発援助のうち技術協力に係る15年度から19年度までの予算額及び決算額、該当する契約の有無等について報告を求めた。また、13府省庁に対して、所管する公益法人が補助金、委託費の交付を受けて技術協力を実施した15年度から19年度までの実績等について報告を求めた。一方、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき13府省庁及びJICAから提出された証拠書類等により、上記の契約の状況等について報告内容を確認した。
 そして、会計検査院は、13府省庁、JICA及び各府省が所管する公益法人が15年度から19年度まで(JICAについては独立行政法人化された15年度下半期から19年度まで)に、海外での施設の建設や海外向けの資機材の調達等を行うために締結した契約2,510件を分析した。その内訳は、JICAが締結していた契約2,343件と農林水産省が所管する公益法人である財団法人海外漁業協力財団が締結していた契約167件である。
 上記の契約について、JICA及び財団法人海外漁業協力財団から契約内容に関する調書を徴して、基礎資料の提出を受けるなどして検査した。
 会計検査院は、本件事案の検査において、在庁して関係書類の分析等の検査を行ったほか、84.2人日を要して、外務本省、JICAの本部及び12在外事務所並びに財団法人海外漁業協力財団に対する会計実地検査を行った。