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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成20年10月

我が国政府開発援助における無償資金協力及び技術協力において被援助国が実施する施設の建設や資機材の調達等の契約に関する会計検査の結果について


第3 検査の結果に対する所見

(1) 検査の結果の概要

 会計検査院は、政府開発援助の無償資金協力及び技術協力における契約入札手続等についての検査の要請を受け、19年次の無償資金協力に引き続き、20年次は、技術協力において被援助国政府が実施する施設の建設や資機材の調達等の契約の状況、我が国援助実施機関が実施する海外での施設の建設や海外向けの資機材の調達等の契約の状況について検査した。
 検査の結果、表30のとおり、13府省庁が行う技術協力において、被援助国政府が実施する施設の建設や資機材の調達等の契約は見受けられなかった。また、13府省庁が実施する海外での施設の建設や海外向けの資機材の調達等の契約も見受けられなかった。
 JICAが行う技術協力において、被援助国が実施する施設の建設や資機材の調達等の契約は見受けられなかった。また、JICAが、会計規程により契約書を作成して行う海外での施設の建設に係る契約は99件、海外向けの資機材の調達等に係る契約は本邦調達397件と現地調達1,847件を合わせて2,244件あり、合計は2,343件であった。
 各府省が所管する公益法人のうち、技術協力として海外での施設の建設や海外向けの資機材の調達等の契約を締結しているのは、農林水産省所管の財団法人海外漁業協力財団のみであり、同財団が、財団会計規程等により契約書を作成して行う海外での施設の建設に係る契約は9件あり、また、海外向けの資機材の調達等に係る契約は本邦調達101件と現地調達57件を合わせて158件あり、合計は167件であった。一方、財団の予算により被援助国が実施する施設の建設や資機材の調達等の契約は見受けられなかった。

表30 援助実施機関別の施設の建設や資機材の調達等に係る契約の件数

(単位:件)

援助実施機関 施設の建設 資機材の調達等 合計
被援助国が実施 我が国援助実施機関が実施 被援助国が実施 我が国援助実施機関が実施
本邦調達 現地調達 本邦調達 現地調達
13府省庁
JICA 99 397 1,847 2,244 2,343
財団法人海外漁業協力財団 9 101 57 158 167

ア JICA

 会計検査院は、JICAにおける契約の競争性・透明性の向上に向けた取組及び落札率の状況について分析を行った。

(ア) JICAにおける契約の競争性・透明性の向上に向けた取組の状況

 JICAは、本邦調達を行う際は、原則として一般競争入札に付すことにしている。また、現地調達を行う際も、調達業務の透明化・適正化に努めることにしているが、開発途上国における調達環境は我が国と大きく異なり、現地調達の契約の相手方は現地法人であり、国によっては入札の方法が異なったり、入札という考え方自体が商慣習として存在していなかったりするなどの課題も多いため、すべての在外事務所で一律に一般競争入札等を行うことは困難であり、随意契約にせざるを得ない場合が多いとしている。しかし、そのような場合であっても、複数業者から見積りを徴し、価格競争を行う指名見積競争を実施することにより、可能な限り競争性を高めるよう努めることとしている。そのため、在外事務所は、内規により業者登録制度を設けることとしているが、業者登録簿を整備している事務所は全事務所の約3割であった。
 また、JICAは、他の契約の予定価格が類推されるおそれがあるとして予定価格を公表してこなかったが、入札結果等の調達関連情報を迅速に公表し、透明性の確保を図ることとして20年4月から、他の契約の予定価格が類推されるおそれがある場合等を除き、本邦調達及び現地調達のいずれの場合も競争に付した案件及び一部の随意契約案件について同年1月分にさかのぼり、予定価格を公表することにしている。

(イ) JICAにおける落札率の状況(予定価格、入札、落札、不落随契等契約の状況)

 JICAにおける落札率の状況のうち予定価格については、本邦調達での資機材の調達等に係る契約397件のうち、会計規程に基づき予定価格の設定が省略されていた場合等を除く318件は、予定価格が設定されていた。一方、現地調達の場合、施設の建設に係る契約99件のうち、予定価格の設定が省略されていた場合等を除く78件は予定価格が設定されており、また、資機材の調達等に係る契約1,847件のうち予定価格の設定が省略されていた場合等を除く1,039件は予定価格が設定されていたが、32件は現地の商慣習等の理由により予定価格が設定されておらず、この中には会計規程に基づく事務手続をとることなく予定価格の設定を省略しているものが見受けられた。
 JICAの在外事務所においては、入札や契約の事務に携わったことのない職員や現地採用職員が多いため、調達のための体制は十分ではない。また、現地調達において仕様の決定や予定価格の設定等を行う際の事務は、当該国の法令、慣習等により、我が国で行う場合と異ならざるを得ない場合が多い。
 入札については、競争性があるとされる契約は本邦調達においては397件のうち198件(49.8%)であったが、現地調達においては1,946件中802件(41.2%)であった。そして、一般競争入札が実施されていたのは、本邦調達においては397件中145件(36.5%)であったが、現地調達においては1,946件中92件(4.7%)と極めて少なかった。
 落札については、本邦調達の場合は、すべて資機材の調達等に係るものであり、15年度から19年度までの落札件数130件の平均落札率は83.73%であった。そして、現地調達の場合は、施設の建設に係る契約で予定価格が設定されていた落札件数38件の平均落札率は91.52%、資機材の調達等に係る契約で予定価格が設定されていた落札件数155件の平均落札率は90.27%であった。資機材の調達等に係る落札に至った入札における入札参加者数をみると、本邦調達にあっては平均3.8者、現地調達にあっては平均2.9者であった。不落随契については、本邦調達で15件、現地調達で32件、計47件あった。
 随意契約の状況については、施設の建設に係る現地調達99件中47件、資機材の調達等に係る本邦調達397件中252件及び現地調達1,847件中1,658件、計1,957件が随意契約であった。そして、これらのうち614件は見積競争によるものであった。見積競争が実際に競争性を高めたものとなっていたか分析したところ、競争入札を行った場合と平均落札率に大きな差は見受けられなかった。

イ 財団法人海外漁業協力財団

 会計検査院は、財団における契約の競争性・透明性の向上に向けた取組及び落札率の状況について分析を行った。

(ア) 財団における契約の競争性・透明性の向上に向けた取組の状況

 財団は、原則として一般競争入札により契約することとし、より多くの入札参加者を確保するため、業界紙に競争入札公告を行うことなどにより多くの企業への情報提供を行っているとしている。

(イ) 財団における落札率の状況(予定価格、入札、落札、不落随契等契約の状況)

 財団における落札率の状況のうち予定価格については、財団は、一般競争契約又は指名競争契約においてはすべて予定価格を設定していたが、外国で契約する場合等は随意契約を認めており、現地調達の大部分を占める随意契約においては、開発途上国における調達環境の違いなどにより、事前に見積書を徴することが困難であるとして予定価格の設定を省略していた。
 入札については、一般競争契約又は指名競争契約が本邦調達においては72.2%であったが、現地調達においては4.5%にすぎなかった。
 落札については、平均落札率が年々高くなる傾向にあり、19年度には95.95%になっている。このことについて財団は、事業予算が年々縮小傾向にあり、1件当たりの契約金額が少額となり受注業者にとって魅力がなくなってきたこと、納入先が島しょ国等で交通の利便性が悪く経費がかさむことなどから、入札に参加する業者数が年々減少しているためであると説明している。不落随契については、本邦調達において21件あった。

(2) 所見

ア JICA

 JICAにおいては、現地調達の32件の中には、会計規程に基づく事務手続をとることなく予定価格の設定を省略しているものが見受けられた。これは、在外事務所の特殊事情を考慮しても適切とは認められない。
 現地調達を行う際は、一般競争入札又は指名競争入札に付すことができるものは限定的であるとして、随意契約を締結せざるを得ない場合が多いとしているが、入札に付し難い場合には可能な限り指名見積競争により契約を締結するよう努力し、契約の競争性を高めていくことが望まれる。そのためにも、指名業者の選定がし意的にならないように、在外事務所において、業者の登録制度を確立しておく必要がある。
 JICAは、他の契約の予定価格が類推されるおそれがあるとして、予定価格を公表してこなかったが、20年から他の契約の予定価格が類推されるおそれがあるなどの場合を除き予定価格を公表している。JICAにおいては、契約の競争性・透明性の向上に向けて、落札率の状況(予定価格、入札、落札、不落随契等契約の状況)について引き続き公表するなどの努力を行っていく必要がある。
 JICAの在外事務所においては、現地調達を行う際の事務は、我が国で行う場合と異ならざるを得ない場合が多いことから、そのような場合は、理事長の指定により、又は理事長の承認を受けて会計規程と異なる処理をすることができるとした規定に従い、適正な手続をとるなどして、適切な処理を行う必要があると認められる。

イ 財団法人海外漁業協力財団

 財団においては、入札参加業者数が年々減少しているが、これに歯止めをかけるため、引き続きより多くの企業への情報提供に努め、入札参加業者の確保を図っていくことなどが望まれる。
 財団は、随意契約の場合には、一定金額以上の調達に当たっては予定価格を設定することなど、契約の競争性・透明性の向上に向けた一層の努力が望まれる。

 以上のとおり報告する。

 そして、会計検査院としては、20年10月に政府開発援助の一元的な実施機関として新JICAが発足することにかんがみ、今後とも無償資金協力及び技術協力において、契約の競争性・透明性の一層の向上に向けた取組が着実に行われ、施設の建設や資機材の調達等の契約が適切に実施されているか多角的な観点から引き続き検査していくこととする。