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  • 平成19年12月

裁判員制度に係る広報業務の実施状況について


 裁判員制度に係る広報業務の実施状況について

検査対象 (1) 最高裁判所
(2) 法務省
裁判員制度に係る広報業務の概要 裁判員制度についての国民の理解と関心を深め、国民の主体的な参加が行われるようにするため、政府及び最高裁判所において制度の意義、裁判員の選任の手続等について周知するもの
検査の対象とした裁判員制度に係る広報業務の契約件数及び金額 (1)  14件 21億5899万円 (平成17、18両年度)
(2)  6件 2億2885万円 (平成17、18両年度)

1 検査の背景

(1) 裁判員制度の概要

 司法制度改革の一環として、平成16年5月28日に裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成16年法律第63号。以下「裁判員法」という。)が公布され、公布後5年以内に裁判員制度が実施されることとなった。
 裁判員制度は、国民の中から選任された者が裁判員として刑事訴訟手続に参加し、裁判官と共に被告人が有罪か無罪か、有罪の場合にはその量刑を決める制度である。19年6月に裁判員の参加する刑事裁判に関する規則(平成19年最高裁判所規則第7号)が制定され、具体的な選任手続の詳細、日当の額等が定められた。今後は、施行期日を定める政令等が整備される予定となっている。

(2) 裁判員制度に係る広報業務の概要

ア 連携体制

 裁判員制度では、国民が裁判員として刑事訴訟手続に関与していくことから、制度に対する国民の理解を深めていくことが不可欠である。このため、裁判員法附則第2条の規定においては、政府及び最高裁判所は、制度実施までの期間において、国民が裁判員として裁判に参加することの意義、裁判員の選任の手続、事件の審理及び評議における裁判員の職務等を具体的に分かりやすく説明するなど、制度についての国民の理解と関心を深め、国民の主体的な参加が行われるようにするための措置を講じなければならないとしている。そこで、裁判員法の公布以降、最高裁判所と法務省は協議を行い、裁判員制度の広報に当たり、裁判所では裁判手続周知の広報、法務省では制度周知の広報を中心に行うこととした。さらに、16年8月、従来、刑事訴訟手続に関与している裁判官、検察官及び弁護士(以下、これらを「法曹三者」という。)が協力・連携して広報活動に取り組むよう、最高裁判所、法務省及び日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)により、裁判員制度広報推進協議会(以下「協議会」という。)が設置された。協議会は同年10月に「裁判員制度広報のスケジュール」を策定し、17年12月までに地方裁判所所在地ごとに裁判員制度推進地方協議会を設置し、各年度の計画に基づいて各種広報活動を実施している。
 これまでの法曹三者による連携としては、裁判員制度ロゴマークの共用、法の日週間における記念行事や模擬裁判の共催、パンフレットの共同作成、印刷物等の相互利用のほか、互いのイベントに法曹関係者・パネリストなどとして出席するなどの取組を行っている。

イ 裁判所における実施状況

 前記のとおり、裁判所では、主に裁判員制度における裁判手続の周知を目的とした広報業務を行っている。
 最高裁判所では、裁判員制度全国フォーラム(以下「フォーラム」という。)の開催、新聞・雑誌等各種媒体への広告掲載(以下「メディアミックス」という。)、広報用映画等の制作、裁判員制度を周知するためのウェブサイトの構築等を実施している。
 これらのうち多額の予算が投じられているフォーラム、メディアミックス及び広報用映画の概要は次のとおりである。

(ア) フォーラム
 全国の地方裁判所所在地50会場において、広く一般国民から参加者を募集し、ビデオ、パネルディスカッション等により、裁判員制度の概要、手続を紹介するなどしたもの
(契約金額17年度3億4126万余円、18年度3億3998万余円)

(イ) メディアミックス
 新聞、雑誌、インターネットなど各種媒体にタレントを起用した広告を掲載するなどしたもの
(契約金額17年度5億9955万円、18年度5億9997万円)

(ウ) 広報用映画
 裁判員制度の実施に当たり裁判員が行うこととなる評議の模様や、裁判員の選任手続を60分程度の映画形式で紹介したもので、17年度は「評議」、18年度は「裁判員」をそれぞれ制作し、ビデオテープやDVDを貸出用として各地方裁判所等に配布するなどしたもの
(契約金額17年度6999万余円、18年度6888万円)
 また、最高裁判所における広報業務のほか、全国の地方裁判所等では、出張説明会、模擬裁判等を実施している。

ウ 法務省における実施状況

 前記のとおり、法務省では、主に裁判員制度の周知を目的とした広報業務を行っている。
 法務省では、裁判員制度シンポジウム(以下「シンポジウム」という。)の開催、広報用映画等の制作、ポスター・パンフレットの作成、交通広告の掲載等を実施している。
 また、全国の地方検察庁等では、出張説明会、模擬裁判等を実施している。

エ その他の関係機関における実施状況

 日弁連では、協議会の構成員として広報業務を行っており、パンフレットの制作、ウェブサイトの整備等を実施している。
 このほか、裁判員制度の実施は司法制度改革の重要な柱であることから、政府はこれまで、内閣府の政府広報や、司法制度改革タウンミーティング(16年度から18年度まで開催)の実施により、裁判員制度の広報を行っている。

(3) 国の契約手続

 国の物品の購入、役務請負等の契約に係る会計事務手続は、会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号。以下「予決令」という。)等に基づき行われることとなっている。国の契約手続の概要は次のとおりである。

ア 契約方式

 契約の方式については、会計法第29条の3第1項の規定により、契約担当官及び支出負担行為担当官(以下「支出負担行為担当官等」という。)は、契約を締結する場合においては、原則として、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならないとされている。ただし、同条第4項の規定により、契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合等においては、政令の定めるところにより、随意契約によるものとするとされている。
 近年、実務においては、複数の業者から仕様書案や企画書等(以下「提案書」という。)を提出させるなどして、これらの内容や業務遂行能力が最も優れた者を選定する手続(以下「企画競争」という。)により選定した者を契約の相手方とする随意契約(以下「企画競争随契」という。)が行われるようになってきているが、この場合も上記の会計法上の随意契約による場合の要件を備えることが必要である。

イ 予定価格の算定等

 支出負担行為担当官等は、予決令第79条の規定により、競争入札に付する事項の価格を当該事項に関する仕様書、設計書等によって予定することとされており、同令第80条第1項の規定により、予定価格は、原則として競争入札に付する事項の価格の総額について定めなければならないとされている。そして、同条第2項の規定により、予定価格は、契約の目的となる物件又は役務について、取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めなければならないとされている。
 また、同令第99条の5の規定により、支出負担行為担当官等は、随意契約によろうとするときは、あらかじめ同令第80条の規定に準じて予定価格を定めなければならないとされている。このような取扱いとなっているのは、特定の者と自由に契約を結ぶことができる状況では、価格について公正を欠くものとなるおそれがあることから、相手方の申出に係る価格の適否を判断する基準を定めることで、適正な価格による契約の締結を実現するためである。

ウ 契約書の作成

 会計法第29条の8第1項等の規定により、支出負担行為担当官等は、競争により落札者を決定したとき、又は随意契約の相手方を決定したときは、契約金額が少額であるなどの場合を除いて、遅滞なく契約の目的、契約金額、履行期限等を記載した契約書を作成しなければならないとされている。また、同条第2項の規定により、契約書を作成する場合においては、支出負担行為担当官等が契約の相手方とともに契約書に記名押印しなければ、当該契約は確定しないものとするとされている。

エ 監督・検査

 会計法第29条の11第1項の規定により、支出負担行為担当官等は、工事又は製造その他についての請負契約を締結した場合には、原則として、自ら又は補助者に命じて、契約の適正な履行を確保するため必要な監督をしなければならず、また、同条第2項の規定により、自ら又は補助者に命じて、その受ける給付の完了の確認をするため、必要な検査をしなければならないとされている。
 上記の監督については、予決令第101条の3の規定により、立会い、指示その他適切な方法によって行うものとするとされており、また、上記の検査は、同令第101条の4の規定により、契約書、仕様書等に基づいて行うものとするとされている。そして、相互牽制のため、同令第101条の7の規定により、検査の職務は特別の必要がある場合を除き監督の職務と兼ねることができないとされている。
 そして、同令第101条の9第1項の規定により、検査を完了した場合においては、原則として検査調書を作成しなければならないとされ、同条第2項の規定により、検査調書を作成すべき場合においては、当該検査調書に基づかなければ、支払をすることができないとされている。

オ 契約内容の公示・公表

 国の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令(昭和55年政令第300号。以下「特例政令」という。)第14条等の規定により、契約の予定価格が基準額以上の物品調達や広告等の役務に係る随意契約については、相手方を決定した日の翌日から起算して72日以内に官報に所定の事項を公示しなければならないとされている。そして、これ以外の随意契約についても、公共調達における透明性の確保等の観点から、「随意契約に関する事務の取扱い等について」(平成17年2月25日財計第407号財務省主計局長から各省各庁会計課長あて。以下「17年財務省通知」という。)により、予定価格が少額であることを理由としたものを除く随意契約については契約相手方等の所定の事項をホームページで公表すること、随意契約の理由について内部監査を重点的に実施することなどとされている。

カ 競争性、透明性の向上

 上記のオに加え、「公共調達の適正化について」(平成18年8月25日財計第2017号財務大臣から各省各庁の長あて。以下「18年財務大臣通知」という。)において、従来随意契約としてきたものについても、広報等の技術的要素等の評価を行うことが重要であるものについては、価格以外の要素と価格とを総合的に評価して、落札者を決定する方式(以下「総合評価方式」という。)による一般競争入札を拡充するなど、原則として競争入札へ移行するものとするとされている。また、随意契約の際にも企画競争を経ること、企画競争においては、特定の者が有利にならないよう参加者を公募したり、業務を担当する部局だけではなく契約を担当する部局も業者選定に関与したり、審査に当たってあらかじめ具体的に定めた複数の採点項目により採点を行ったりすることなどにより、競争性及び透明性を担保するものとするなどとされている。

(4) 「国の広報業務の実施状況について」平成16年度決算検査報告に掲記した概要

 会計検査院では、国が実施している広報業務について、平成16年度決算検査報告に特定検査対象に関する検査状況として「国の広報業務の実施状況について 」を掲記している。この中では、競争契約の拡大を図ること、企画競争において参加者の公募、広報実施部局以外の者を加えた提案書の審査、複数の具体的な採点項目の設定等により競争性、透明性の確保を図ること、予定価格の算定において複数の者からの参考見積書の徴取や同種の実例の調査等により積算の合理性の向上に努めること、他省庁の事例等の参照等により実効性のある検証を行うことなどが望ましいとしている。

(5) 裁判員制度広報に係る最高裁判所及び法務省における企画競争随契

ア 企画競争の実施状況

 最高裁判所及び法務省では、裁判員制度に係る広報業務の企画・実施についてのノウハウ等の蓄積がないなど、直ちに競争入札を実施することは困難であることから、業者選定の競争性、透明性の向上等の取組の一環として、企画競争を実施している。裁判員制度広報に係る企画競争随契の件数は表1及び表2のとおり、17、18両年度で最高裁判所において14件、契約金額計21億5899万余円、法務省において6件、契約金額計2億2885万余円となっている。

表1
 最高裁判所における企画競争随契(工事関係を除く)の件数及び金額

年度 平成17 18
企画競争随契の件数 18 17 35
  うち裁判員制度広報 6 8 14
契約金額(千円) 1,224,138 1,293,772 2,517,910
  うち裁判員制度広報 1,058,894 1,100,100 2,158,995

表2
 法務省における裁判員制度広報に係る企画競争随契の件数及び金額

年度 平成17 18
企画競争随契の件数 3 3 6
契約金額(千円) 69,095 159,756 228,851

 そして、最高裁判所及び法務省では、特例政令等に基づき、該当する契約について官報に公示し、また、17年財務省通知及び18年財務大臣通知に基づき、随意契約により締結した契約の件名、金額、契約相手方、契約年月日、随意契約の理由等についてホームページで公表している。

イ 企画競争随契の手続

(ア) 最高裁判所

 最高裁判所では、企画競争随契の締結に当たり、予定価格の算定、契約書の作成等の会計事務手続については、専ら事務総局経理局用度課(以下「用度課」という。)が行い、裁判員制度広報の企画選定や仕様の決定については広報実施局課(事務総局総務局、事務総局刑事局及び事務総局広報課)が中心となって行っている。
 最高裁判所では、企画競争随契の手続について、特段の内部規程等を作成していないが、おおむね次の手順で事務処理を行うことになっている。
〔1〕  招請の公示(庁舎掲示板及びホームページに掲示)
〔2〕  説明会の開催
〔3〕  参加業者からの提案書の提出・プレゼンテーション
〔4〕  企画選定、業者への通知
〔5〕  仕様の詳細決定
〔6〕  予定価格の算定・見積書の徴取
〔7〕  契約書の締結
〔8〕  契約内容の履行
〔9〕  履行の完了(成果物納品・報告書提出等)、検査調書作成
〔10〕  請求書の受領・支払

(イ) 法務省

 法務省では、企画競争随契の締結に当たり、予定価格の算定、契約書の作成等の会計事務手続については、大臣官房会計課(以下「会計課」という。)が行い、裁判員制度広報の企画選定や仕様の決定については、刑事局総務課裁判員制度啓発推進室(以下「啓発推進室」という。)が行っている。
 法務省では、企画競争随契の手続について、特段の内部規程等を作成していないが、最高裁判所と同様の手順で事務処理を行うことになっている。

(6) 裁判員制度広報に係る一連の問題の概要

ア フォーラム及びシンポジウムに係る不適切な募集

 17、18両年度の最高裁判所主催のフォーラム及び18年度の法務省主催のシンポジウムについては、企画競争により、株式会社電通(以下「電通」という。)が実施業務を請け負っている。そして、電通では任意団体である全国地方新聞社連合会と提携して事業を実施しており、同会に加盟する地方新聞社(46社47紙)が地元で開催されるフォーラム及びシンポジウムの運営を行っている。
 上記フォーラムの実施に際して、17年度の3会場(大阪市、和歌山市、千葉市)及び18年度の1会場(大阪市)において、参加者の応募状況が低調だったことなどから、開催を運営した新聞社(2社)が人材派遣会社に金銭を支払うなどして参加者を募集していた事態が、19年1月に発覚した。また、18年度のシンポジウムについても、1会場(和歌山市)において同様の事態が、19年2月に発覚した。

イ 最高裁判所における裁判員制度広報に係る契約手続の問題

 最高裁判所が実施したフォーラムにおける上記の不適切な募集について、衆議院予算委員会等の審議で、契約手続において次のような事項が指摘され、最高裁判所は19年2月、同委員会から、内部調査を行いその結果を報告するよう要請された。
(ア) 17年度フォーラムは、17年10月1日から開催されているが、請負業者との契約年月日が同年9月30日となっており、一日で開催の準備等を行うことは不可能であることから、契約年月日は事実と異なる可能性が高いこと
(イ) 18年度広報用映画の制作等について、契約書が未作成であるにもかかわらず、ホームページでは契約が既に締結されている旨公表されていること
(ウ) 17年度フォーラム契約では、企画競争により請負業者を選定していたが、企画競争に参加した業者5者の見積額のうち3者の見積額が同額であること

ウ 最高裁判所による内部調査の結果

 前記の要請を受け、最高裁判所は19年2月28日に同委員会に対し「裁判員制度広報費調査報告書」(以下「最高裁報告書」という。)を提出した。
 最高裁報告書の概要は次のとおりである。
(ア) フォーラムにおいて、新聞社2社が金銭を支払って参加者を募集するという、フォーラムの趣旨、目的に沿わない不適切な事態があった。
(イ) 17年度フォーラム契約は、契約書では契約年月日が17年9月30日となっているが、実際に契約書の記名押印が行われたのは同年12月28日ないし18年1月初めごろであった。同様に、契約書未作成の間に契約の履行行為が存在した裁判員制度広報に係る契約が、17、18両年度で計14件、契約金額計21億5899万余円あった。
(ウ) 契約書未作成の間に契約の履行が行われた原因は、次のようなことなどによるものである。
a 契約事務担当者が、企画競争随契を処理した経験がなく、企画選定後に仕様を確定する作業や予定価格を算定する作業が相当量に及ぶことの認識が十分でなかったこと
b 裁判員制度広報は、これまで例を見ない多額の予算を投ずる案件である上、複数の案件が並行して行われたこと
c 企画内容の確定に時間を要し、契約内容の確定が遅れたこと
d 予定価格の厳密な積算や業者見積りの厳しいチェックが要求される一方、広報業務について、それらに必要なノウハウを持ち合わせていなかったこと
e 契約事務は用度課の主に役務調達係(4名)で行っていたが、従来の契約業務等に広報業務が加わり、事務負担が増大したこと
(エ) 17年度フォーラムに関する企画競争において、参加業者5者のうち3者の見積金額が同額であった件については、各者に対してその原因をただしたところ、談合等を否定する回答を得た。また、企画競争の審査基準では、見積金額の多寡だけで評点が決まるものではなく、企画自体も各者異なることなどから、競争に参加した業者間で談合が行われた可能性は極めて低い。
(オ) 業者から提出された見積りのチェックを厳格に行うことに傾注する余り、契約手続に必要な書類等を整備する作業が後手に回り、契約書の記名押印が未了のまま、契約が履行されるような事態を招いたことを深く反省し、今後は、会計・契約事務の効率化・適正化を図っていく。