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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成19年12月

裁判員制度に係る広報業務の実施状況について


4 所見

(1) 検査の状況の概要

 今回、最高裁判所及び法務省の契約状況等について検査したところ、次のような事態が見受けられた。
ア フォーラム又はシンポジウムにおける新聞社による不適切な募集行為については、新聞社から人材派遣業者等に対して支払われた経費はフォーラム契約又はシンポジウム契約から支払われていないことを最高裁判所又は法務省において確認したとしており、また、検査した範囲では最高裁判所又は法務省が確認した内容と異なる事態は、現時点で見受けられなかった。
イ 企画競争随契の手続については、次のとおりとなっていた。
(ア) 最高裁判所において、事業の実施を先行させ、契約書等の作成を事後に行うなど会計法令に反する処理が検査の対象とした14件のすべての契約で行われていた。また、法務省において、企画競争随契における招請の公示が十分でないものが見受けられたが、18年財務大臣通知後はこれにのっとり公示が行われている。
(イ) 随意契約とする理由の妥当性については、最高裁判所において、その検討結果が決裁書類に記録されていない状況となっていた。また、法務省において、17年度の契約の中に競争入札が可能であると認められるものが見受けられたが、その後の同種の調達については競争入札を実施している。
(ウ) 業者選定については、最高裁判所及び法務省において、審査基準の設定、採点方法等が区々となっていたり、法務省において広報実施局課以外の者の関与がなかったりしている状況が見受けられた。
(エ) 予定価格の算定については、複数の者からの見積書の徴取を行うなどして適正に行う必要があるのに、最高裁判所及び法務省においてその取組が十分でない状況となっていた。また、最高裁判所において、積算方法が統一されていなかったり、積算誤りがあったり、同様の事業についてそれぞれの項目の金額が年度間で著しく変動しているなど積算が実態を反映していなかったりしている事態が見受けられた。
ウ 契約書類の内容については、最高裁判所において、タレントを起用した制作物の使用期間が明示されていなかったり、契約後に生じた変更内容等を反映した契約変更が適切に行われていなかったりしている事例も見受けられた。監督・検査については、仕様が明確でなかったり、契約書が作成されていなかったりしたまま検査調書を作成している事態や、監督の職務と検査の職務について明確な区別がなされていない状況が見受けられた。また、制作物の使用計画の検討等が十分でなかった結果、ほとんど使用されていないものも見受けられた。
エ 最高裁判所における裁判員制度広報の実施体制については、広報実施局課と契約担当局課との連絡調整が十分なされていないなど、速やかに仕様書を確定させ契約書を締結するような体制となっていなかった。また、不適切な契約事務処理について内部牽制が機能していない状況となっていた。最高裁判所では、不適切な契約事務処理の再発防止等に向けて、改善策を実施したとしている。
オ 最高裁判所と法務省との連携状況については、協議会の計画等に基づき法曹三者による連携が図られている事業がある一方、最高裁判所と法務省との間で企画の実施において、より一層の連携を図ることが可能な状況が見受けられた。

(2) 所見

 裁判員制度は、司法制度改革の柱の一つとして位置付けられており、国民に対する制度の周知、説明のため、最高裁判所及び法務省においては、これまで多額の予算により様々な広報業務を実施している。最高裁判所における多数の契約においてさかのぼり契約が行われていたことは遺憾なことであり、予定価格の算定を含め適切な事務処理を行う必要があると認められた。これに対し、最高裁判所では、裁判員制度広報業務に係る会計事務について改善への取組を行っているとしており、速やかにかつ徹底した方策の推進が図られる必要がある。一方、法務省においては、企画競争随契の手続や予定価格の算定等について、競争性、透明性の確保に向けた取組を行っているとしており、引き続き所要の取組がなされる必要がある。
 裁判員制度広報については、制度の実施まで重点的に周知活動が行われることから、最高裁判所及び法務省では、19年度においても、18年度と同様の予算規模で様々な広報業務を実施することとしており、制度開始後も引き続き啓発活動を行うこととなる。
 したがって、最高裁判所及び法務省においては、広報業務の実績を重ねてきたことから、18年財務大臣通知の趣旨を踏まえ、一般競争入札を念頭に置いて、今後とも契約の競争性、透明性を高めるとともに、相互の協力・連携をより緊密なものとし、効率的、効果的な広報業務の実施に努める必要がある。
 会計検査院としては、裁判員制度の実施に向けて、広報業務がより重要性を増していくことにかんがみ、改善策が確実に実施されているか確認していくとともに、裁判員制度広報について引き続き検査していくこととする。