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  • 平成20年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 財務省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

所得税の申告書とともに提出される譲渡所得の内訳書等を課税資料として確実に活用することなどにより、事業用建物の譲渡がある場合の消費税の課税が適正なものとなるよう改善させたもの


(1) 所得税の申告書とともに提出される譲渡所得の内訳書等を課税資料として確実に活用することなどにより、事業用建物の譲渡がある場合の消費税の課税が適正なものとなるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 国税収納金整理資金 (款)歳入組入資金受入
(項)各税受入金
部局等 国税庁
課税の根拠 消費税法(昭和63年法律第108号)
事業用建物の譲渡に係る消費税の課税の概要 事業を行う個人及び法人が事業として対価を得て行う事業用建物の譲渡に対して消費税を課するもの
消費税の課税が適正でなかった納税者 18人
徴収不足となっていた税額 1億0417万円(平成16年度〜19年度)

1 制度の概要

(1) 消費税の概要

 消費税は、事業を行う個人及び法人が事業として対価を得て行う資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(以下「資産の譲渡等」という。)に対して課税されるものである。事業者は、課税期間(注1) の終了後2か月以内に税務署に消費税及び地方消費税の確定申告書(以下「消費税申告書」という。)を提出して、課税売上げに係る消費税額から課税仕入れに係る消費税額を控除した金額を納付し、又は還付を受けることとなっている。ただし、個人事業者については、消費税申告書の提出期限が課税期間の翌年の3月末日とされている。
 なお、事業者の納税事務の負担等を軽減するため、基準期間(個人事業者は課税期間の前々年、法人は課税期間の前々事業年度)の課税売上高が1000万円以下の事業者については、納税義務を免除することとされている。

課税期間  納付する消費税額の計算の基礎となる期間で、原則として、個人事業者は暦年、法人は事業年度

(2) 事業用建物の譲渡

 消費税は、前記のとおり、事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等を課税対象としている。この「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡等が反復、継続して行われることであるとされており、法人の場合にはその行う取引すべてが該当する。しかし、個人事業者の場合には、事業者の立場で行う取引のみが対象とされ、自宅の売却等、消費者の立場で行う取引には消費税は課せられないものの、事業の用に供している建物(以下「事業用建物」という。)の譲渡など事業に付随して対価を得て行われる資産の譲渡等については「事業として」に該当するとされている。

(3) 税務署における課税資料の作成及び活用

 前記のとおり、基準期間の課税売上高が1000万円を超える個人事業者は消費税申告書を課税期間(暦年)の翌年の3月末日までに税務署に提出することとされている。また、個人事業者は毎年の所得税の確定申告書(以下「所得税申告書」という。)を翌年の2月16日から3月15日までの間に税務署に提出することとされている。そして、土地や建物を譲渡した譲渡所得がある場合には、所得税申告書とともに「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)」(以下「内訳書」という。)等を提出することとされている。
 税務署においては、個人課税部門が所得税及び個人事業者に係る消費税の賦課事務を、また、資産課税部門が所得税のうちの譲渡所得及び相続税の賦課事務をそれぞれ担当している。このため、個人事業者から消費税申告書、所得税申告書及び内訳書等の提出を受けた場合の事務は、両部門において次のとおり行うこととされている。
ア 個人課税部門は、消費税申告書及び所得税申告書について整理番号、住所、氏名等の確認を行った後、それぞれの申告書のデータ入力を行う。ただし、所得税申告書のうち譲渡所得のある所得税申告書については、申告書のデータ入力の前に、内訳書等とともに資産課税部門へ回付する。
イ 資産課税部門は、回付を受けた譲渡所得のある所得税申告書の内容の確認等を行った後その申告書を個人課税部門へ返付する。また、消費税の課税の対象となる事業用建物の譲渡について記載のある内訳書等については、消費税の課税資料として活用できるようその写しを個人課税部門に回付する。
ウ 個人課税部門は、返付を受けた譲渡所得のある所得税申告書について、その申告書のデータ入力を行う。また、回付を受けた内訳書等の写しは消費税の課税資料として活用し、消費税申告書においてその事業用建物の譲渡価額が課税売上高に含まれているかなどを調査して、含まれていない場合にはそれを是正するなどの課税処理を行う。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、合規性等の観点から、個人事業者に対して事業用建物等の譲渡に係る消費税の課税が適正に行われているかなどに着眼して、平成19年1月から21年6月までの間に、325税務署において会計実地検査を行った。その結果、事業用建物等の譲渡価額に対して消費税が課されていない事態を決算検査報告に不当事項として掲記している(平成19年度決算検査報告 及び前掲 を参照)。
 そこで、上記のうち事業用建物の譲渡価額に対して消費税が課されていない16税務署(注2) の納税者18人に係る徴収不足となっていた消費税額104,175,500円を対象として、合規性、効率性等の観点から、事業用建物の譲渡に係る消費税の課税資料の活用が適切に行われているかなどに着眼して、会計実地検査時に収集した関係書類により検査するとともに、国税庁に対して調査、報告及び関係資料の提出を求めるなどして実地に検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、上記の納税者18人は、いずれも事業用建物の譲渡に係る譲渡所得があるとした所得税申告書を提出していた。
 しかし、上記の納税者18人は、当該譲渡は、消費税の課税対象となることから、譲渡価額を課税売上高に含めた消費税申告書を提出する要があったのに、消費税申告書において譲渡価額を課税売上高に含めていなかったり、消費税申告書を提出していなかったりしていた。
 そこで、税務署における課税資料の活用状況等を検査したところ、いずれの税務署においても、資産課税部門は上記の納税者18人から提出された内訳書等の写しを消費税の課税資料として個人課税部門に回付しておらず、課税資料が適切に活用されていなかった。

16税務署  紋別、郡山、佐野、西川口、芝、四谷、横浜中、横浜南、大和、鎌倉、富山、一宮、昭和、伏見、八幡、香椎各税務署

 このように、税務署において、資産課税部門は事業用建物を譲渡していることが記載された内訳書等の写しを消費税の課税資料として個人課税部門に回付することとされているのに、これが行われていないために消費税の課税の処理がなされておらず前記の104,175,500円が徴収不足となっていた事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、納税者において、事業用建物の譲渡が消費税の課税の対象となる資産の譲渡等に該当することについての理解や認識が不足していたことにもよるが、次のことによると認められた。
ア 税務署において、資産課税部門は事業用建物を譲渡していることが記載された内訳書等については、その写しを消費税の課税資料として個人課税部門に回付することとなっているのに、その趣旨が徹底されておらず、具体的な手続が定められていなかったこと
イ 国税庁、国税局等及び税務署において、事業用建物の譲渡は、消費税の課税対象となることについて、納税者等に対する周知が十分なものとなっていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、国税庁は、21年6月及び8月に、資産課税部門及び個人課税部門の事務処理手続を定めている資産税事務提要及び個人課税事務提要を改正したり、国税局等に通知を発したりするなどして、事業用建物の譲渡に係る消費税の課税が適正なものとなるよう、次のような処置を講じた。
ア 税務署に対して、資産課税部門において事業用建物を譲渡していることが記載された内訳書等の写しを個人課税部門に回付しているか確認する手続を定めるなどして、内訳書等が消費税の課税資料として確実に活用されるよう事務処理体制の整備を図った。
イ 事業用建物の譲渡は消費税の課税対象となることについて国税庁のホームページに掲載するとともに、税務署等において、説明会等を通して納税者等に対する周知を十分に図ることとした。