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国民健康保険の療養給付費負担金の交付が不当と認められるもの


(2) 国民健康保険の療養給付費負担金の交付が不当と認められるもの

44件 不当と認める国庫補助金 915,095,346円

 国民健康保険は、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)等が保険者となって、被用者保険の被保険者及びその被扶養者等を除き、当該市町村の区域内に住所を有する者等を被保険者として、その疾病、負傷、出産又は死亡に関し、療養の給付、出産育児一時金の支給、葬祭費の支給等を行う保険である。
 市町村の国民健康保険の被保険者は、一般被保険者と退職被保険者(注1) 及びその被扶養者(以下「退職被保険者等」という。)とに区分されている。そして、国民健康保険の被保険者の資格を取得している者が退職被保険者となるのは、当該被保険者が厚生年金等の受給権を取得した日(ただし、国民健康保険の資格取得年月日以前に年金受給権を取得している場合は国民健康保険の資格取得年月日。以下「退職者該当年月日」という。)とされている。退職被保険者等となったときは、年金証書等が到達した日の翌日から起算して14日以内に市町村に届出をすることなどとなっている。

 退職被保険者  被用者保険の被保険者であった者で、退職して国民健康保険の被保険者となり、かつ、厚生年金等の受給権を取得した場合に老人保健法による医療を受けるまでの間において適用される資格を有する者である。

 国民健康保険については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、市町村が行う国民健康保険事業運営の安定化を図るため、療養給付費負担金(以下「国庫負担金」という。)が交付されている。
 国庫負担金の交付の対象となるのは、一般被保険者に係る医療費(老人保健法(昭和57年法律第80号。平成20年4月以降は「高齢者の医療の確保に関する法律」。以下同じ。)による医療を受けることができる者に係る医療費(被用者保険の保険者等が拠出する老人保健医療費拠出金等で負担)を除く。)であり、退職被保険者等に係る医療費については、被用者保険の保険者が拠出する療養給付費等交付金等で負担することとなっていることから、国庫負担金の交付の対象とはなっていない。
 毎年度の国庫負担金の交付額は、「国民健康保険の国庫負担金及び被用者保険等保険者拠出金等の算定等に関する政令」(昭和34年政令第41号。平成20年4月以降は「国民健康保険の国庫負担金等の算定に関する政令」)等により、次により算定することとなっている。

一般被保険者に係る医療給付費-保険基盤安定繰入金の1/2=国庫負担対象費用額、国庫負担対象費用額×国の負担割合=交付額注2注3

(注2)
 保険基盤安定繰入金  市町村が、一般被保険者の属する世帯のうち、低所得者層の負担の軽減を図るため減額した保険料又は保険税の総額について、当該市町村の一般会計から国民健康保険に関する特別会計に繰り入れた額
(注3)
 国の負担割合  平成16年度までは40/100、17年度は36/100、18年度以降は34/100

 このうち一般被保険者に係る医療給付費は、療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額及び入院時食事療養費、療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額の合算額とされている。
 ただし、届出が遅れるなどしたために退職被保険者等の資格がさかのぼって確認された場合には、一般被保険者に係る医療給付費から、退職者該当年月日以降に一般被保険者に係るものとして支払った医療給付費を控除することとなっている。
 また、都道府県又は市町村が、国の負担金等の交付を受けずに自らの負担で、年齢その他の事由により被保険者の全部又は一部について、その一部負担金に相当する額の全部又は一部を、当該被保険者に代わり保険医療機関等に支払う措置(以下「負担軽減措置」という。)を講じている場合がある。この負担軽減措置の対象者の延べ人数が一定の規模以上の場合には、負担軽減措置の対象者に係る療養の給付に要する費用の額等に、被保険者の負担の軽減の度合いに応じた所定の率を乗じて減額調整(注4) を行うこととされている。

 減額調整  被保険者が医療機関等の窓口で支払う一部負担金を軽減させると、一般的に受診が増え医療給付費の波及増が認められるとされており、これにより増加した医療給付費を国庫負担対象費用額に含めると、他の市町村との公平を欠くことから、波及増の分を減額するための調整

 国庫負担金の交付手続については、〔1〕 交付を受けようとする市町村は都道府県に交付申請書を提出して、〔2〕 これを受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また必要に応じて現地調査を行うことにより審査の上、厚生労働省に提出して、〔3〕 厚生労働省はこれに基づき交付決定を行い国庫負担金を交付することとなっている。そして、〔4〕 当該年度の終了後に、市町村は都道府県に実績報告書を提出して、〔5〕 これを受理した都道府県は、その内容を審査の上、厚生労働省に提出して、〔6〕 厚生労働省はこれに基づき交付額の確定を行うこととなっている。
 本院は、41都道府県の239市区町村において、14年度から19年度までの間に交付された国庫負担金について、会計実地検査を行った。その結果、20都府県の44市区町村において、そ及して退職被保険者等となった者に係るそ及期間中の医療給付費を控除していなかったり、一般被保険者に係る医療給付費の算定を誤っていたり、負担軽減措置の対象となっている医療給付費に係る減額調整を誤っていたりなどして、国庫負担金交付額計107,090,826,443円のうち計915,095,346円が過大に交付されていて、不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、上記の44市区町村において制度の理解が十分でなかったり事務処理が適切でなかったりしたため、適正な実績報告等を行っていなかったこと、また、これに対する上記の20都府県の審査が十分でなかったことによると認められる。
 前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

 東京都練馬区は、平成18年度の国庫負担金の実績報告に当たり、一般被保険者に係る医療給付費の算定において、そ及して退職被保険者等の資格を取得した者について、退職者該当年月日以降に一般被保険者に係るものとして支払った18年度分の医療給付費の一部527,838,236円を控除していなかったなどのため、国庫負担対象費用額を過大に算定していた。
 その結果、国庫負担金が369,803,030円過大に交付されていた。

<事例2>

 新潟県妙高市は、平成18年度の国庫負担金の実績報告に当たり、一般被保険者に係る医療給付費の算定において、基礎資料からの転記を誤って高額療養費を55,750,000円過大に計上するなどしたため、国庫負担対象費用額を過大に算定していた。
 その結果、国庫負担金が20,335,011円過大に交付されていた。

<事例3>

 岡山市は、平成18年度の国庫負担金の実績報告に当たり、一般被保険者に係る医療給付費の算定において、岡山県が実施している負担軽減措置であるひとり親家庭等医療費助成の対象者に係る療養の給付に要する費用の額等に対する減額調整率の適用を誤ったため、国庫負担対象費用額を過大に算定していた。
 その結果、国庫負担金が3,658,505円過大に交付されていた。

 以上を都府県別・交付先(保険者)別に示すと次のとおりである。

  都府県名 交付先
(保険者)
年度 国庫負担対象費用額 左に対する国庫負担金 不当と認める国庫負担対象費用額 不当と認める国庫負担金 摘要
        千円 千円 千円 千円  
(80) 岩手県 奥州市 18 4,620,706 1,562,064 51,720 19,804 そ及退職被保険者等のそ及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(81) 岩手郡岩手町 18 860,514 289,290 15,693 5,335
(82) 福島県 郡山市 18 12,021,865 4,083,555 4,190 1,676
(83) 茨城県 石岡市 18 3,236,236 1,089,496 28,702 10,694
(84) 東茨城郡城里町 18 911,329 309,711 5,171 1,913
(85) 千葉県 佐倉市 18 4,671,136 1,587,270 23,500 8,600
(86) 香取郡神崎町 18 263,888 89,271 21,141 8,456
(87) 東京都 練馬区 18 26,813,663 9,088,518 1,032,892 369,803
(88) 葛飾区 18 21,665,206 7,364,290 109,071 37,105
(89) 神奈川県 逗子市 18 1,809,259 606,472 40,522 15,342
(90) 新潟県 十日町市 18 2,211,175 750,809 43,032 16,296
(91) 妙高市 18 1,253,202 424,882 55,701 20,335 一般被保険者の医療給付費を過大に算定していたもの
(92) 南魚沼市 18 2,268,167 770,287 3,872 1,316
(93) 山梨県 南都留郡忍野村 19 362,334 123,193 15,737 5,936 そ及退職被保険者等のそ及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(94) 長野県 駒ヶ根市 18 796,425 268,709 17,839 7,135
(95) 北安曇郡松川村 18 263,123 89,310 49,598 18,729
(96) 静岡県 静岡市 18 24,452,212 8,306,439 10,207 3,686
(97) 焼津市 18 3,145,485 1,056,202 17,115 6,031
(98) 伊豆市 18 1,580,548 537,738 6,163 2,553
(99) 御前崎市 18 1,458,473 495,527 59,712 22,198
(100) 田方郡函南町 18 1,394,179 474,201 322,508 120,054
(101) 愛知県 名古屋市 17 75,034,934 26,866,141 47,546 17,983
(102) 豊川市 18 3,788,140 1,284,555 47,966 18,070
            (注5)    
(103) 西尾市 18 3,104,451 1,056,214 1,232 そ及退職被保険者等の医療給付費の控除額の計算を誤ったもの
(104) 北名古屋市 18 2,599,748 881,742 75,484 29,404 そ及退職被保険者等のそ及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(105) 大阪府 泉南郡熊取町 18 1,321,698 450,186 107,823 41,052
(106) 泉南郡岬町 18 964,325 328,016 18,609 6,567
(107) 南河内郡太子町 18 534,031 181,602 9,957 3,718
(108) 奈良県 奈良市 18 11,253,000 3,812,379 33,746 13,198
(109) 島根県 益田市 14〜17 6,022,071 2,338,980 10,051 3,890 負担軽減措置の対象とした医療給付費の減額調整を誤ったもの
(110) 岡山県 岡山市 18 20,055,168 6,808,376 10,758 3,658
(111) 倉敷市 15 11,450,075 4,580,030 3,912 1,564
(112) 津山市 15〜18 12,385,886 4,602,281 9,811 3,665
(113) 山口県 光市 18 1,597,064 542,769 6,399 2,175 一般被保険者の医療給付費を過大に算定していたもの
(114) 香川県 坂出市 18 2,001,529 670,855 26,494 9,543 そ及退職被保険者等のそ及期間中の医療給付費を控除していなかったもの
(115) さぬき市 18 2,010,461 682,717 6,611 2,584
(116) 高知県 高知市 18 11,396,323 3,871,347 2,601 1,040
(117) 宮崎県 宮崎市 18 14,452,034 4,910,940 62,660 23,205
(118) 日南市 18 2,231,069 758,786 4,775 1,804
            (注5)    
(119) 鹿児島県 枕崎市 18 1,319,156 456,365 11,247 そ及退職被保険者等の医療給付費の控除額の計算を誤ったもの
(120) 出水市 18 3,100,783 1,054,037 18,018 7,175 そ及退職被保険者等の医療給付費の控除額の計算を誤ったもの
(121) 指宿市 18 2,932,136 995,827 4,633 1,775
(122) 垂水市 18 1,175,670 399,012 10,175 3,437
(123) 肝属郡東串良町 18 560,036 190,412 10,455 4,091
(80)—(123)の計   307,348,933 107,090,826 2,462,586 915,095

 西尾市及び枕崎市は、国の負担割合を乗ずる計算を誤ったため、国庫負担金を過大に算定していたが、国庫負担対象費用額には誤りはなかったことから、本表の「不当と認める国庫負担対象費用額」欄には計数を掲げていない。

 上記の事態については、厚生労働省は、従来発生防止に取り組んでいるところであるが、さらに、通知等により市町村の事務処理の適正化に努めるとともに都道府県の実績報告等に係る審査等の強化を図る必要があると認められる。