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  • 平成20年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第14 防衛省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

陸上自衛隊における即応予備自衛官の訓練の実施に当たり、訓練招集命令の発令を適切に行わせることなどにより、即応予備自衛官手当の支給が効果的なものとなるよう改善させたもの


(3) 陸上自衛隊における即応予備自衛官の訓練の実施に当たり、訓練招集命令の発令を適切に行わせることなどにより、即応予備自衛官手当の支給が効果的なものとなるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)防衛本省 (項)人材確保育成費
  平成19年度は、
  一般会計 (組織)防衛本省 (項)防衛本省
  平成18年度は、
  一般会計 (組織)防衛本省 (項)防衛本庁
部局等 陸上幕僚監部
即応予備自衛官手当の概要 即応予備自衛官に対して、防衛招集等に応ずる義務を負うことに対する対価として支給するもの
即応予備自衛官手当の支給額 31億9444万余円 (平成18年度〜20年度)
上記のうち支給することが適切でなかった額 4392万円  

1 即応予備自衛官制度の概要

 陸上自衛隊においては、自衛隊法(昭和29年法律第165号)等の規定に基づき、有事等の際に必要な防衛力を急速かつ計画的に確保するため、即応予備自衛官及び予備自衛官の制度が設けられており、この両者の身分は非常勤の特別職国家公務員とされている。
 このうち、即応予備自衛官は、平素は別の職業に従事しているが、防衛招集命令等に基づき招集された場合、あらかじめ指定された部隊(以下「指定部隊」という。)において自衛官として勤務することとされている。そして、即応予備自衛官は、常時勤務する常備自衛官とともに第一線部隊としての任務に当たることとされており、予備自衛官が駐屯地警備、後方支援等の任務に当たるのに対して、より高い練度と即応性を要求されている。
 即応予備自衛官は、必要とされる練度を維持するため、防衛大臣が発する訓練招集命令(以下「命令」という。)に基づき、指定の日時及び場所に出頭して訓練招集に応ずることとされており、1年当たりの訓練招集の期間は30日とされている。命令は、訓練招集命令書(以下「命令書」という。)により発令されることとなっており、命令書は、訓練を実施する前に、指定部隊の長が即応予備自衛官に交付することとなっている。そして、訓練招集の日程については、指定部隊の長が、部隊全体の年度及び各期の訓練計画を即応予備自衛官本人及びその雇用企業等に事前に通知して、複数の訓練日程の中から最も都合の良い訓練日程を選択させるなどの調整をした上で決定している。また、各都道府県に置かれている地方協力本部(平成18年7月30日以前は「地方連絡部」)は、即応予備自衛官等の募集活動や広報活動を担当しており、雇用企業等の協力を得て、即応予備自衛官が訓練招集等に応じやすい環境を整備するよう努めることとされている。
 命令を受けた即応予備自衛官が訓練招集に応ずることができなくなった場合には、所定の申出書にその事由を証明する書面を添えて防衛大臣に申し出なければならないこととされており、防衛大臣の委任を受けた指定部隊の長は、当該申出が正当な事由(心身に故障を生じたとき、出産したときなどや、これらに準ずる場合で真にやむを得ない場合に限定されている。)によるものであると認めるときには、当該命令の取消しなどを行うこととされている。
 即応予備自衛官に対しては、防衛省の職員の給与等に関する法律(昭和27年法律第266号)等により、防衛招集等に応ずる義務を負う対価として、月額16,000円の即応予備自衛官手当(以下「即自手当」という。)が四半期ごとにまとめて支給されることとなっている。ただし、命令を受けたにもかかわらず正当な事由によらないで訓練招集に応じなかった場合(以下「不出頭」という。)等には、既に支給した分の翌月以降の分は支給されないこととなっている。
 そして、即応予備自衛官に対する即自手当の支給額は、18年度11億4769万余円、19年度10億4139万余円、20年度10億0536万円、計31億9444万余円となっている。
 なお、即自手当のほかには、実際に訓練に従事した場合の対価として、階級に応じて1日当たり10,400円から14,200円までの訓練招集手当が支給されることとなっている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、効率性等の観点から、陸上幕僚監部及び11駐屯地33指定部隊等において、即自手当が制度の趣旨に沿って適切に支給されているかなどに着眼して会計実地検査を行った。そして、検査に当たっては、上記の即自手当の支給額を対象として、会計実地検査を実施し なかった指定部隊等も含めて陸上幕僚監部から18、19、20各年度における支給状況等につ いて報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。
 即応予備自衛官は、18年度末においては69指定部隊に5,987名が、19年度末においては68指定部隊に5,873名が、20年度末においては68指定部隊に5,853名が在籍している状況となっていた。
 しかし、このうちの18年度においては27指定部隊の259名に、19年度においては31指定部隊の396名に、20年度においては26指定部隊の299名に対して、各指定部隊の長が、本来であれば年間で30日の命令書をそれぞれに交付すべきところ、訓練招集に応ずるための調整がつかなかったなどとして当初より命令書を交付していなかったり、正当な事由に当たるかどうかの検討が十分でないまま一度発令された命令を取り消したりしていた。
 そして、これらの者については、命令そのものが発令されていないため、制度上即自手当の支給停止の要件である不出頭はないこととなることから、出頭日数が年間で30日に満たなかったにもかかわらず、即自手当が継続して支給されていた。
 また、各地方協力本部においても、指定部隊と連携を図っていなかったため、即応予備自衛官の訓練への出頭状況が十分に把握されておらず、即応予備自衛官が雇用企業等において訓練招集等に応じやすい環境を整備することが十分に図られていない状況となっていた。
 しかし、即応予備自衛官は必要とされる練度を維持するため、年間で30日の訓練招集に応ずることとなっているのであるから、指定部隊の長はこれに係る命令書を交付するとともに、地方協力本部と連携して、即応予備自衛官が訓練招集に応じやすい環境の整備を図るべきであると認められた。そして、その上で正当な事由がないのに命令に応じなかった者については不出頭として取り扱い、それ以降の即自手当は支給しないようにすべきであり、前記の者18年度259名、19年度396名、20年度299名について、それぞれ18年度1230万余円、19年度1846万余円、20年度1315万余円、計4392万円の即自手当を支給していたのは適切でなかったと認められた。
 このように、多数の指定部隊において、即応予備自衛官に対して年間30日の命令書を交付することが徹底されていなかったり、正当な事由に当たるかどうかの検討が十分でないまま一度発令された命令を取り消したりしていたことにより、即応予備自衛官が訓練招集に応じた日数が不足していて、必要な練度の維持に支障が生じたり、これらの者に対して、即自手当が継続して支給されていたりしている事態は、即自手当の支給を効果的かつ公平なものとする視点等から適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
ア 陸上幕僚監部において、年間で30日の命令書を即応予備自衛官に交付することを徹底させることについての指定部隊に対する指導及び即応予備自衛官の訓練への出頭状況の把握が十分でなかったこと、また、指定部隊において、即応予備自衛官制度に対する理解が十分でなかったこと
イ 即応予備自衛官に対する命令を取り消すことができる正当な事由の判断基準が明確になっておらず、指定部隊において、正当な事由に当たるかどうかの検討が十分でないまま、命令を取り消していたこと
ウ 地方協力本部と指定部隊との連絡、調整が十分でなく、地方協力本部において即応予備自衛官の訓練への出頭状況が把握されておらず、即応予備自衛官が雇用企業等において訓練招集等に応じやすい環境を整備することが十分に図られていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、陸上幕僚監部は、21年9月に各方面総監部等に対 して通達を発するなどして、次のような処置を講じた。
ア 指定部隊における命令書交付状況を把握するとともに、即応予備自衛官として必要な練度及び即応性の確保を図るため、指定部隊に対して年間で30日の命令書の交付を徹底させることとした。
イ 即応予備自衛官に対する命令を取り消すことができる正当な事由についての判断基準を明確化して、命令の取消しを適確、厳正に行わせることとした。そして、指定部隊等に対して、判断基準に照らして正当な事由なく命令に応じない場合には不出頭として取り扱い、即自手当を支給しないことについて周知徹底を図った。
ウ 即応予備自衛官の訓練への出頭状況等に関する指定部隊と地方協力本部との間の連絡、調整要領を具体化して、地方協力本部に対して、即応予備自衛官が雇用企業等において訓練招集等に応じやすい環境を整備することについて周知を図った。