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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成21年10月

利用が低調となっていて整備・運用等に係る経費に対してその効果が十分発現していない電子申請等関係システムについて、システムの停止、簡易なシステムへの移行など費用対効果を踏まえた措置を執るよう内閣官房等11府省等の長に対して意見を表示したもの


別紙5

電子申請等関係システムの利用状況について

(平成21年9月18日付け 総務大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 電子申請等関係システムの概要

(1) 電子申請等関係システムの整備・運用

 政府は、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(平成12年法律第144号)に基づいて、平成13年1月、内閣に、内閣総理大臣を長とした高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(以下「IT戦略本部」という。)を設置し、高度情報通信ネットワーク社会の形成に関するe-Japan重点計画を作成するなどして、国民の利便性の向上を図るとともに、行政運営の簡素化、効率化及び透明性の向上に資するため、国及び地方公共団体の事務におけるインターネットその他の高度情報通信ネットワークの利用の拡大等行政の情報化を積極的に推進することとしている。
 そして、各府省等は、その一環として、国民が国の行政機関とこれまで書面を用いてやり取りしてきた申請、届出等(以下「申請等」という。)について、インターネット等を経由した電子的な申請等を行うための電子申請等関係システムを整備・運用してきている。

(2) 貴省における電子申請等関係システムの概要

 貴省が21年4月時点で運用している電子申請等関係システムは、次のとおりとなっている。

ア 電子政府の総合窓口(e-Gov)電子申請システム

 このシステムは、各府省に対するオンライン申請・届出等の手続の窓口サービスの提供を行う政府のポータルサイトとして、「行政機関が共有する情報システムの整備及び管理に関すること」(総務省設置法(平成11年法律第91号)第4条第12号)を所掌する貴省が18年度から運用しているもので、21年5月末現在で申請可能な手続は、約13,000手続となっている。

イ 総務省電子申請・届出システム

 このシステムは、申請者がインターネットを経由した電子的な申請等を行うために14年度から運用しているもので、20年度末における処理可能な手続は、無線従事者の免許の申請等の810手続となっている。なお、このシステムに係る申請等の手続の窓口は、18年度に、申請者の利便向上を図るため貴省が運用している上記電子政府の総合窓口(e-Gov)電子申請システムに統合されている。

ウ 総務省電波利用電子申請・届出システム

 このシステムは、電波を利用する無線設備等を備えた無線局の免許申請等の手続について、申請者がインターネットを経由した電子的な申請等を行うために14年度から運用しているもので、20年度末における処理可能な手続は、無線局の開設申請等の147手続となっている。

エ 政府統計共同利用システム(政府統計オンライン調査総合窓口)

 このシステムは、各府省で開発・運用されていた統計情報システムを集約した政府統計共同利用システムを構成するサブシステムの一つとして、調査票の配布・回収等をインターネット経由で電子的に行うために20年度から運用しているもので、同年度末における処理可能な手続には、科学技術研究調査等がある。

オ 政治資金・政党助成関係申請・届出オンラインシステム

 このシステムは、政治資金規正法(昭和23年法律第194号)等に基づく各種届出書類や収支報告書等の提出に関する手続について、申請者がインターネットを経由した電子的な申請等を行うために16年度から運用しているもので、20年度末における処理可能な手続は、政治団体設立の届出等の7手続となっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、参議院からの検査要請に基づき、18年10月に、「各府省等におけるコンピュータシステムに関する会計検査の結果について」として、その検査結果を報告している。そして、同報告において、電子申請等関係システムの電子申請件数を全申請件数(電子申請件数と書面による申請件数の計)で除した率(以下「電子申請率」という。)が全体では低い状況にあることから、各府省等において、手続のオンライン化の必要性、経済性を十分検討するとともに、利便性に対する国民の意見、要望も広く聴取して、そのニーズを的確に把握するなどしてシステムの利用の拡大を図り、もって国民の利便性の向上に努めることが必要であり、本院は、今後とも多角的な観点から検査を実施していくとしている。
 そして、検査要請に基づいて実施した上記の18年の検査以降、IT戦略本部及び各府省等は、電子申請等関係システムに係る行政の情報化を推進するため、「オンライン利用促進のための行動計画」(18年3月、19年3月改定)、「オンライン利用拡大行動計画」(20年9月)等を策定している。
 本院は、上記のことなどを踏まえ、経済性、効率性、有効性等の観点から、システムの利用が拡大しているか、システムの見直しが行われているかなどに着眼して会計実地検査を行った。
 検査に当たっては、21年4月時点で貴省が運用している前記5システムのうち、各府省等に対する窓口サービスの提供を行う電子政府の総合窓口(e-Gov)電子申請システムを除いた4システムについて、電子申請等関係システムに係る調書を徴するとともに、各システムの利用状況、電子申請率向上のための施策等について関係資料により実地に検査した。

(検査の結果)

(1) 電子申請等関係システムの整備・運用等に係る経費と利用状況

 貴省が運用している前記4システムの17年度から20年度までの整備・運用等に係る経費(注1) は、表1のとおり計63億9276万余円となっている。

 整備・運用等に係る経費  各システムに関係する開発及び運用に係る保守・運用費、機材購入費、ソフト開発費等の支出金額である。この金額の算出に当たっては、他システムとの共通的費用をあん分して算出したり、当該システムの経費のみを切り分けることが困難なため電子申請以外の機能を含めたシステムの支出金額を計上したりしているものがある。


表1 電子申請等関係システムの整備・運用等に係る経費

(単位:円)

システム名
17年度
18年度
19年度
20年度
合計
総務省電子申請・届出システム
222,222,000
110,462,000
85,533,766
124,563,600
542,781,366
総務省電波利用電子申請・届出システム
653,205,437
746,555,239
586,068,421
347,061,611
2,332,890,708
政府統計共同利用システム(政府統計オンライン調査総合窓口)
132,014,999
751,697,250
675,697,306
753,082,000
2,312,491,555
政治資金・政党助成関係申請・届出オンラインシステム
362,460,000
281,820,000
285,600,000
274,720,740
1,204,600,740
総務省合計
1,369,902,436
1,890,534,489
1,632,899,493
1,499,427,951
6,392,764,369

そして、これら4システムのうち、各府省等の電子申請の利用状況をシステム上運用管理機関において把握する仕組みがないため申請件数が把握できない政府統計共同利用システム(政府統計オンライン調査総合窓口)を除いた3システムの利用状況等を検査 したところ、次のような事態が見受けられた。

ア 電子申請率の推移

 貴省が整備・運用している電子申請等関係システムの17年度から20年度までにおける電子申請率は、表2のとおり、総務省電波利用電子申請・届出システムでは電子申請率が向上しているものの、総務省電子申請・届出システム及び政治資金・政党 助成関係申請・届出オンラインシステムでは電子申請率がいずれも1%以下と著しく低迷しており、また、政治資金・政党助成関係申請・届出オンラインシステムでは年間の電子申請件数も100件以下となっている。

表2 電子申請率

(単位:件、%)

システム名 17年度 18年度 19年度 20年度
システムに係る手続の全申請件数 左のうち電子申請件数 電子申請率 システムに係る手続の全申請件数 左のうち電子申請件数 電子申請率 システムに係る手続の全申請件数 左のうち電子申請件数 電子申請率 システムに係る手続の全申請件数 左のうち電子申請件数 電子申請率
総務省電子申請・届出システム 254,279 1,474 0.5 219,085 894 0.4 188,154 476 0.2 195,843 688 0.3
総務省電波利用電子申請・届出システム 423,292 49,303 11.6 403,030 72,922 18.0 520,011 134,113 25.7 497,344 161,750 32.5
政治資金・政党助成関係申請・届出オンラインシステム 6,321 0 0 6,048 0 0 6,210 0 0 6,354 2 0.0
総務省合計 683,892 50,777 7.4 628,163 73,816 11.7 714,375 134,589 18.8 699,541 162,440 23.2
(注)
 手続によっては、件数が確定実績値ではないものもある。


 貴省は、総務省電子申請・届出システムの電子申請率の向上を図るため、ホームページやリーフレットなどを通じた広報、普及活動等を行っているものの、申請に際して必要な住民基本台帳カード等の普及が進んでいないこと、郵送等による申請が可能であること、申請者のメリットが少ないこと、対象としている手続の過半数を占める恩給関係の申請等における申請者が高齢であり電子申請の利用促進が実態として難しい状況にあることなどから、電子申請率が低迷しているとしている。
 また、政治資金・政党助成関係申請・届出オンラインシステムについては、郵送等による申請が可能であること、電子申請によるインセンティブを与えることができないこと、関係する自治体の準備が整っていないことなどから電子申請率が低迷しているとしている。なお、貴省は、国会議員関係政治団体について、電子申請の努力義務を課す内容の法律が成立したことも踏まえ、業務・システムの最適化計画を策定し、22年1月までに新たなシステムを構築するなどして電子申請の利用を促進することとしている。

イ 電子申請が可能となった手続の利用状況

 オンライン化によって電子申請が可能となった貴省の前記3システムの手続について、19年度の全申請件数の申請件数区分ごとの分布状況をみると、表3のとおり、全940手続中、全申請件数が0件のものが468手続(構成比49.7%)、1件以上50件以下のものが246手続(同26.1%)となっていて、申請そのものが極めて少ない手続が714手続(同75.9%)と相当数を占めている。

表3 手続の全申請件数の分布状況(19年度)

(単位:手続、%)

区分 電子申請が可能となった手続の全申請件数 電子申請が可能となった手続数計
0件 1件〜50件 51件〜100件 101件〜1,000件 1,001件〜10,000件 10,001件〜99,999件 10万件以上 注(1)
把握できないなど
注(2)
手続数
468 246 45 108 27 11 2 33 940
714
構成比 49.7 26.1 4.7 11.4 2.8 1.1 0.2 3.5 100
75.9
 手続ごとの申請件数が把握できない場合は、「把握できないなど」として集計している。

 行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成14年法律第151号)第10条の規定に基づき各府省等が電子申請等の利用に関する状況について公表している資料等により集計した。

 また、3システムの19年度における電子申請件数計134,589件について、手続ごとの内訳を調査したところ、前記940手続のうち、電子申請があったものは49手続にすぎず、これらの中で電子申請件数が最も多いのは、表4のとおり、総務省電波利用電子申請・届出システムの「無線設備変更工事等の許可又は届出」の71,796件で、全体の53.3%を占めており、また、電子申請件数の多い上位3手続の電子申請件数128,447件が全体の電子申請件数に占める割合は95.4%となっていて、電子申請件数の相当数が特定の手続によるものとなっている。


表4 電子申請件数の状況(19年度)

(単位:件、%)

電子申請件数
a
電子申請件数が最も多い手続
(「総務省電波利用電子申請・届出システム」の「無線設備変更工事等の許可又は届出」)
電子申請件数の多い上位3手続 その他46手続
電子申請件数
b
左の占める割合
c=b/ax100
電子申請件数
d
左の占める割合
e=d/ax100
電子申請件数
f
左の占める割合
g=f/ax100
134,589 71,796 53.3 128,447 95.4 6,142 4.5
(注)
 複数の手続が1件の申請等によって行われている場合は、手続ごとの申請件数が把握できないため、1手続による申請等として集計している。

 このように、電子申請が可能となっていても申請そのものが極めて少ない手続が相当数を占めていて、利用される電子申請の手続が特定の手続に偏っているのは、 IT戦略本部が12年度に策定したe-Japan重点計画等の政府の施策において、「国民等と行政との間の実質的にすべての申請・届出等手続を、2003年度までのできる限り早期にインターネット等で行えるようにする」とされたことなどを受け、各府省等が、これまで原則としてすべての手続をオンライン化してきたことなどによると認められる。

(2) オンライン申請1件当たりの経費

 IT戦略本部に置かれている電子政府評価委員会は、各府省等における電子申請等関係システムの整備経費・運用経費(注2) やオンライン申請件数等について調査し、その結果を「電子政府評価委員会平成20年度報告書」として21年3月に公表している。そして、同報告書において、電子申請等関係システムを、〔1〕 経費を比較的容易に把握できるシステム(類型I)、〔2〕 整備経費については比較的容易に把握することができるが、運用経費については、正確な数値が把握できないシステム(類型II)及び〔3〕 整備経費及び運用経費ともに正確な数値が把握できないシステム(類型III)の3類型に分類した上で、各システムの年間運用経費に1年当たりの整備経費を加えた額をオンライン申請等件数で除するなどしたオンライン申請1件当たりの経費(注3) を公表している。そして、類型Iに該当するシステム全体でのオンライン申請1件当たりの経費は、144円となっていて、また、類型II及び類型IIIを合わせたシステム全体でのオンライン申請1件当たりの経費は、391円となっている。
 この報告書によると、電子申請率が低迷している総務省電子申請・届出システム及び政治資金・政党助成関係申請・届出オンラインシステムは、類型I及び類型IIIに分類されていて、19年度におけるオンライン申請1件当たりの経費は、総務省電子申請・届出システムが253,834円となっており、政治資金・政党助成関係申請・届出オンラインシステムは電子申請が1件もなかったことなどから算出されていない。そして、これらシステムの電子申請の現状がこのまま推移すると、費用対効果が十分発現されないこととなると認められる。

 整備経費・運用経費  システムの整備経費については、19年度までの累積額を基に、このうちのオンライン申請に係る分の経費を推計し、これを当該システムの予定使用期間で除して1年当たりの整備経費を算出しているなど、本院が調査したシステムの整備・運用等に係る経費とは一致しない。

 オンライン申請1件当たりの経費  整備経費や運用経費の正確な数値が把握できないため、オンライン申請1件当たりの経費については、システムの実情に応じて推計・算出した値を含む概算値であり、単純比較はできないなどとされている。


(改善を必要とする事態)

 電子申請等関係システムの整備・運用等に係る経費が多額に上っているにもかかわらず、電子申請率が1%以下と著しく低迷しているシステムが2システム(17年度から20年度までの整備・運用等に係る経費計17億4738万余円)見受けられ、このうち1システムは年間の電子申請件数が100件以下となっており、システムの整備・運用等に係る経費に対してその効果が十分発現していない事態は適切でなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴省において、IT戦略本部が策定した政府の施策を受け原則としてすべての手続を一律にオンライン化してきたこと、電子申請等に対する国民のニーズの的確な把握や利用拡大への取組が十分でないことなどのほか、電子申請率が低迷しているシステムについて費用対効果の検討が十分でなく、抜本的な見直しを行っていないことなどによると認められる。。

3 本院が表示する意見

 貴省は、国民の利便性の向上、効率的な電子行政サービスの提供等を図るため、今後とも電子申請等関係システムを運用していくこととしている。
 ついては、貴省において、オンライン利用拡大行動計画に沿った利用の拡大に向けた諸施策の着実な推進を図るとともに、電子申請率が低迷していてシステムの整備・運用等に係る経費に対してその効果が十分発現していないシステムについては、システムの停止、簡易なシステムへの移行など費用対効果を踏まえた措置を執るよう意見を表示する。