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  • 平成21年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第10 厚生労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

検疫所で実施する予防接種の手数料が適正なものとなるよう改善させたもの


(1) 検疫所で実施する予防接種の手数料が適正なものとなるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計(部)租税及印紙収入 (款)印紙収入
   (項)印紙収入
部局等 厚生労働本省
予防接種手数料の概要 海外渡航者等に対し検疫所が実施している黄熱等の感染症を対象とする予防接種の手数料
徴収された手数料の額 2億8567万余円 (平成19、20両年度)
適時適切に改定していた場合の手数料の増加額 7723万円 (平成19、20両年度)

1 制度の概要

(1) 検疫所における予防接種の実施

 厚生労働省は、検疫法(昭和26年法律第201号。以下「法」という。)第26条第2項及び第26条の2の規定に基づき、検疫所(検疫所支所及び出張所を含む。以下同じ。)において、海外渡航者等が手数料を納めて予防接種を求めたときは、これに応ずることができることとなっており、10種類の感染症を対象として予防接種(注1) を実施している。
 検疫所で実施する予防接種は、「検疫所で行う予防接種実施要領」(平成11年衛検第43号通知。以下「実施要領」という。)により実施されており、問診、検温及び診察により健康状態を調べた上、予防接種を行うこととされている。

 予防接種は平成11年度以降10種類の感染症(コレラ、ペスト、急性灰白髄炎、ジフテリア、A型肝炎、黄熱、狂犬病、日本脳炎、破傷風、麻しん)を対象に実施していたが、ペストについては17年2月以降一時中止しており、コレラについては19年6月に廃止した。そのため、19年4月及び5月は9感染症、19年6月からは8感染症の予防接種を実施している。

(2) 予防接種の手数料

 検疫所で実施する予防接種の手数料(以下「手数料」という。)については、法第26条及び法第26条の2の規定により、実費を勘案して政令で定めることとなっており、同法施行令(昭和26年政令第377号。以下「施行令」という。)の別表第2及び別表第2の2に定められている。
 そして、厚生労働省は、予防接種が、問診、注射等の診療行為であることから、手数料を、健康保険法(大正11年法律第70号)に基づく医科診療報酬点数表による報酬(以下「診療報酬」という。)の算定方法に準じて、初診料、注射料、皮内反応検査料及び薬剤料を合算して算定することにしている。
 このうち、初診料、注射料及び皮内反応検査料については、医科診療報酬点数表により算定することにしており、薬剤料については、薬価基準に収載されているものは薬価基準により、同基準に収載されていないものは、調達した価格等により算定することにしている。そして、予防接種の対象となる感染症のうち黄熱の薬剤は厚生労働本省が一括して調達しているが、その他の薬剤は各検疫所がそれぞれ調達している。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 近年、検疫所における予防接種件数は増加傾向にある。また、医科診療報酬点数表及び薬価基準は、隔年で改定されているが、現行の手数料は平成16年3月を最後に改定されていない。
 そこで、本院は、経済性等の観点から、施行令に定められた手数料は適正なものとなっているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、19、20両年度に徴収された手数料2億8567万余円について、厚生労働本省及び5検疫所(注2) において会計実地検査を行うとともに、この5検疫所を含む19検疫所(注3) から薬剤購入に係る契約書等の関係書類の提出を受けるなどして検査を行った。

(注2)
 5検疫所  仙台、東京、横浜、大阪、神戸各検疫所
(注3)
 19検疫所  小樽、仙台、成田空港、東京、横浜、新潟、名古屋、大阪、関西空港、神戸、広島、福岡、那覇各検疫所、千歳空港、中部空港、福岡空港、長崎、鹿児島各検疫所支所、高知出張所

(検査の結果)

 検査したところ、手数料の算定について次のような事態が見受けられた。

(1) 初診料

 黄熱、コレラ及びペストについては、手数料の算定に当たり初診料を算定の対象に含めていなかった。しかし、実施要領によると、これらの感染症についても、他の感染症と同様に予防接種を受ける者に対して問診等を行うこととされており、これらの行為は初診に相当することから、初診料2,700円を含めて手数料の算定を行う必要があると認められた。
 また、これら以外の感染症については、初診料を含めて手数料の算定を行っていたものの、初診料を、現行の診療報酬と比べ200円安価な2,500円としていた。

(2) 注射料

 注射料は、経口接種の急性灰白髄炎の場合を除き、これを含めて手数料の算定を行っているが、黄熱以外の感染症においては、注射料を現行の診療報酬の180円と比べて20円安価な160円としていた。
 また、医科診療報酬点数表では、生物学的製剤の注射を行った場合、生物学的製剤注射加算150円を加算することとなっており、予防接種に使用される薬剤も生物学的製剤であることから、手数料の算定に当たっては同様に生物学的製剤注射加算をすべきであったのにこの加算をしていなかった。

(3) 薬剤料

 薬剤料については、前記のとおり、薬価基準に収載されている場合は、薬価基準により算定することにしている。しかし、手数料の算定に用いている狂犬病の薬剤料3,330円は、薬価基準に基づき算定される薬剤料と比べて、19年度1,560円、20年度6,160円安価となっていた。
 また、薬価基準に収載されていない薬剤の薬剤料については、厚生労働省が一括して調達している黄熱を除き、各検疫所の調達価格を加重平均した価格等と比べて、差額が発生している状況となっていた。

 このように、手数料の算定に当たり、初診料を含めていなかったり、現行の医科診療報酬点数等に即したものとしていなかったりなどしている事態は適切とは認められず、改善を図る必要があると認められた。

(手数料の増加額)

 黄熱等の感染症について初診料を含めるなどして適正な手数料の算定を行い、適時適切に改定していたとすれば、19、20両年度に徴収した手数料2億8567万余円は、計3億6290万余円となり、その差額計7723万余円が増加することになると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、厚生労働省において、次のことなどによると認められた。

ア 手数料の算定が実際に行っている診療行為に即したものとなっているかなどの検討が十分でなかったこと
イ 医科診療報酬点数表、薬価基準等の改定が行われた際に手数料の見直しを行ってこなかったこと
ウ 各検疫所で調達している薬剤の調達価格を把握する体制を整備していなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省は、手数料が適正なものとなるよう、次のような処置を講じた。

ア 22年7月に施行令を改正し、同年10月以降の手数料について、実際に行っている診療行為、最新の医科診療報酬点数、薬価基準、薬剤の調達価格等に基づくものに改定した。
イ 医科診療報酬点数表等の改定がある場合等には、手数料について速やかに検討を行い、必要な改定を行うこととした。
ウ 22年5月に検疫所に対して事務連絡を発し、各検疫所で調達する薬剤の調達価格を厚生労働本省が把握できるよう体制を整備した。