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  • 平成21年度|
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  • (3) 工事の設計が適切でなかったもの

橋脚の耐震補強工の設計が適切でなかったもの


橋脚の耐震補強工の設計が適切でなかったもの

(1件 不当と認める国庫補助金 36,319,360円)

  部局等
補助事業者等
(事業主体)
補助事業等 年度
事業費
(国庫補助対象事業費)
左に対する国庫補助金等交付額
不当と認める事業費
(国庫補助対象事業費)
不当と認める国庫補助金等相当額
          千円 千円 千円 千円
(748) 兵庫県 神戸市 地方道路交付金 20 45,444
(45,399)
36,319 45,444
(45,399)
36,319

 この補助事業は、神戸市が、須磨区西落合地内において、地震時における緊急輸送道路に指定されている市道垂水妙法寺線の上に架かる市道名谷環状線の西落合橋(昭和47年度築造、橋長59.0m、幅員18.8m)の下部工として橋脚2基の耐震補強工を、また、上部工として床版の補修工等をそれぞれ実施したものである。
 このうち耐震補強工は、地震時における橋脚の損傷を防止するため、鉄筋コンクリート造りの橋脚の柱部のうち鉛直方向の主鉄筋の配筋量が変化する箇所(以下「段落とし部」という。)を包含する基部からの高さが2.6mから4.3mまでの範囲(以下「補強範囲」という。)の全周に、炭素繊維を一方向に配列した炭素繊維シート(以下「シート」という。)を炭素繊維の方向が鉛直方向となるように合成樹脂により接着するなどして、段落とし部の曲げ耐力を補強するものである(参考図参照)。
 本件耐震補強工の設計は、「道路橋示方書・同解説」(社団法人日本道路協会編)、「既設橋梁の耐震補強工法事例集」(財団法人海洋架橋・橋梁調査会発行。以下「事例集」という。)等に基づいて行われており、これらによると、地震時における段落とし部の損傷を判定する式により算定した値(以下「判定値」という。)が1.2を下回る場合は、段落とし部の曲げ耐力が不足することになることから、当該曲げ耐力の補強が必要になるとされている。
 そして、本件耐震補強工の設計計算書では、判定値が1.1となっていたことから、段落とし部の曲げ耐力を補強する必要があるとして、事例集に基づき、補強範囲に、炭素繊維の方向が鉛直方向となるように所定の規格のシートを接着した上で、更にこのシートと橋脚のコンクリートとの一体性を強化することを目的として、このシートに重ねて同じ規格のシートを炭素繊維の方向が水平方向となるように接着することとしていた。
 しかし、同市は、誤って、補強範囲に、炭素繊維の方向が鉛直方向となるようにシートを接着せずに、水平方向となるようにシート1層を接着することのみをもって本件耐震補強工を施工することとして設計図面を作成して、これにより施工していた。
 このため、本件耐震補強工により接着したシートは、段落とし部の曲げ耐力を補強するものとなっておらず、本件橋脚2基は、地震時において段落とし部の曲げ耐力が不足する状態のままとなっていた。
 したがって、本件耐震補強工は設計が適切でなかったため、橋脚2基は所要の安全度が確保されていない状態になっていて、耐震補強工及び床版の補修工等(これらの工事費45,444,000円、うち国庫補助対象額45,399,200円)は工事の目的を達しておらず、これに係る国庫補助金36,319,360円が不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、同市において、シートによる橋脚の耐震補強に対する認識が十分でなかったことによると認められる。

(参考図)

炭素繊維シートによる橋脚段落とし部の曲げ耐力補強の概念図

炭素繊維シートによる橋脚段落とし部の曲げ耐力補強の概念図

 図のように炭素繊維の方向が鉛直方向となるようにシートを接着し、このシートに重ねて炭素繊維の方向が水平方向となるようにシートを接着する。