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  • 平成21年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第4節 国民の関心の高い事項等に関する検査状況

国民の関心の高い事項等に関する検査状況


1 国民の関心の高い事項等に関する検査の取組方針

 近年、行政においては、財政健全化に向けて、安定的な財源確保、財政赤字の縮減、歳出の見直しなどを行うこととして、歳出の無駄の排除に資するため、事務・事業の執行状況の的確な把握及び開示による透明性の確保等の取組がなされている。また、国会においては、国会による財政統制を充実・強化する視点から、予算の執行結果を把握して次の予算に反映させることの重要性等が議論されている。
 このような中、本院は、その使命を的確に果たすために、毎年次、会計検査の基本方針を策定して、我が国の社会経済の動向、財政の現状、行政における様々な取組等を踏まえて国民の期待にこたえる検査に努めており、特に、国会等で議論された事項、新聞等で報道された事項その他の国民の関心の高い事項については、必要に応じて機動的、弾力的な検査を行うなど、適時適切に対応することとしている。

2 検査の状況

 国民の関心の高い事項等に関する検査の結果、「第3章個別の検査結果」及び「第4章国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等」に掲記した主なものを示すと、次のとおりである。

(1) 不適正な会計経理に関するもの

 平成18年から19年にかけて、一部の府県において、長年にわたり不適正な経理処理による資金のねん出が行われていた事態が明らかになり、公金の経理処理について社会的関心が高まってきた。そこで、本院は、20年次及び21年次に、物品等の購入や事務費等の執行等の基本的な会計経理に重点を置いて検査を実施した。その結果、7府省並びに38道府県、2政令指定都市及び13市において、虚偽の内容の関係書類を作成するなど不適正な会計経理を行って物品の購入等に係る庁費等を支払うなどの事態が判明し、これらの事態を平成19年度及び20年度の決算検査報告にそれぞれ掲記した。
 本院は、上記の状況を踏まえて、22年次においても、合規性等の観点から、国の機関や地方公共団体等における会計経理が法令等に基づき適正に行われているかなどに着眼して検査を実施した。
 上記に関する22年次の検査結果としては、次のような事項を検査報告に掲記した。

〔1〕 情報処理システム関係業務に係る請負契約において、契約相手方を決定する前に契約の対象となるべき業務の履行を開始させたり、契約の履行が完了する前に契約代金を支払ったりしていたもの(国会(参議院))

〔2〕 物品の購入等に当たり、虚偽の内容の関係書類を作成するなど不適正な会計経理を行って庁費等を支払っていたものなど

〔3〕 科学技術総合研究業務に係る委託費の経理が不当と認められるものなど

〔4〕 契約を締結せずに災害復旧に伴う工事を実施し、翌年度に架空の契約を締結してその代金を当該工事の請負代金の支払に充てるなど不適正な会計経理を行っていたもの (厚生労働省)

〔5〕 不適正な経理処理となっていたもの及び補助の対象とならないもの

 以上のとおり、これまでの本院による会計検査の結果、国の機関や地方公共団体等において、多数の不適正な会計経理の事態が明らかになった。
 したがって、国の機関等においては、上記の事態を踏まえ、会計事務手続における職務の分担による相互牽(けん)制機能の強化、職員に対する基本的な会計法令等の遵守に関する研修指導の徹底を図るなどして内部統制を機能させ、不適正な会計経理の再発防止を推進することが重要である。
 本院は、国の機関等において再発防止策が適切に執られているかフォローアップするとともに、不適正な会計経理の発生を抑止するための内部統制が有効に機能しているかなどについて引き続き注視していく。

(2) 資産、剰余金等のストックに関するもの

 国や独立行政法人等が保有している土地・建物等の資産、利益剰余金、補助金等によって造成された基金等については、国会、報道等で、土地・建物等の保有資産の処分や有効活用の促進が求められたり、剰余金、基金等の保有規模の見直しにより一般会計の財源等として活用する必要性が議論されたりするなど様々な問題が指摘されている。
 本院は、効率性、有効性等の観点から、未利用となっていて今後も利用される見込みのない資産はないか、社会情勢の変化等を踏まえた資産の活用が図られているか、国庫納付することが可能な利益剰余金等はないか、補助金等により造成された基金等の規模が適切なものとなっているかなどに着眼して、検査を実施している。
 上記に関する22年次の検査結果としては、次のような事項を検査報告に掲記した。

ア 土地・建物等の資産に関するもの

〔1〕 在外公館において長期間利用されていない行政財産や用途廃止したが処分されていない普通財産等について早期処分に向けた措置を講ずるよう意見を表示したもの(外務省)

〔2〕 廃校又は休校となっている公立小中学校の校舎等について、活用効果等を周知するなどして、社会情勢の変化、地域の実情等に応じた一層の有効活用を図るよう改善の処置を要求したもの(文部科学省)

〔3〕 補助事業で取得した下水道用地について、必要性の見直しが適時適切に行われ、その活用が図られるよう意見を表示し、並びに今後の取得が適時適切に行われるよう、また、財産処分に当たって適正な手続がとられるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの(国土交通省)

〔4〕 国立大学法人が保有している未利用の土地や建物等について、当該資産を保有する合理的な理由の有無を検討して具体的な処分計画又は利用計画を策定するなどし、これにより資産の有効活用を図るよう改善の処置を要求したもの

国立大学法人東北大学、国立大学法人東京学芸大学、国立大学法人東京芸術大学、国立大学法人琉球大学

イ 利益剰余金等に関するもの

〔1〕 株式会社整理回収機構が保有する平成11、12両年度の整理回収業務から生じた利益に係る資金について、その有効活用を図るため、預金保険機構を通じて国に納付させるなど、国の財政に寄与する方策を検討するよう意見を表示したもの(内閣府(金融庁))

〔2〕 国立大学法人における目的積立金の計上や使途について具体的な基準等を定めるなどすることにより、目的積立金の取扱いが合理的なものとなるよう意見を表示したもの(文部科学省)

〔3〕 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の特例業務勘定における利益剰余金につき、国庫納付が可能な資金の額を把握し、将来においても、余裕資金が生じていないか適時に検討することとするとともに、これらの資金が国庫に納付されることとなるように適切な制度を整備するよう意見を表示したもの(国土交通省)

ウ 補助金等によって造成された基金、事業の委託等先の内部留保等に関するもの

〔1〕 農林水産省及び独立行政法人農畜産業振興機構が公益法人等に補助金等を交付して設置造成させている基金が保有する資金について有効活用を図るよう改善の処置を要求したもの(農林水産省、独立行政法人農畜産業振興機構)

〔2〕 独立行政法人中小企業基盤整備機構が第2種信用基金により実施している債務保証業務について、その利用実態に応じた事業規模となるように、基金の額を適切に見直すよう意見を表示したもの(経済産業省)

〔3〕 経済産業省が都道府県等に補助金を交付して都道府県所管の公益法人に造成させている基金について、事業継続の必要性等を検討するための基準等を都道府県等に提示し、これにより不要となる基金のうち国庫補助金相当額を国庫に返納させるなどして、適切かつ有効な活用を図るよう改善の処置を要求したもの(経済産業省)

〔4〕 塩の備蓄量を見直すことにより、保有する投資有価証券等のうち余剰となる資産を国庫に納付するなどの措置を講ずるよう意見を表示したもの(財団法人塩事業センター)

(3) 特別会計に関するもの

 特別会計については、多額の剰余金等が存在し財政資金の効率的な活用が図られていないのではないか、国民による監視が不十分となって無駄な支出が行われやすいのではないか、固有の財源により不要不急の事業が行われているのではないかなどの問題が指摘されるなど、社会的関心が高いものとなっている。
 本院は、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、特別会計の歳入である一般会計からの繰入れは適切かつ効率的に行われているか、特別会計において行われている事務・事業が効率的、効果的に実施されているかなどに着眼して、特別会計を所管する府省等に対して検査を実施している。
 上記に関する22年次の検査結果としては、次のような事項を検査報告に掲記した。

〔1〕 特別会計への一般会計からの繰入れについて、繰入超過額を減額して繰り入れることとするよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求め、並びに繰入れの対象となる利子の支払に実際に必要となる額のみを繰り入れることにより繰入れを適切かつ効率的なものとするよう改善の処置を要求したものなど

〔2〕 特別交付税の交付の対象となる経費の算定に当たり、国庫補助金、県費補助金等の特定財源を控除しないで計算していたなどのため、特別交付税が過大に交付されていたもの(総務省)

〔3〕 厚生年金保険等の適用事業所から提出された全喪届の処理に当たり、実地調査対象事業所を的確に把握した上で事業実態の確認を確実に行うことなどにより、全喪届の事務処理等を適切に実施するよう改善の処置を要求したもの(厚生労働省、日本年金機構)

(4) 独立行政法人及び公益法人に関するもの

 独立行政法人や行政と密接な関係のある公益法人については、国等から補助金や交付金の交付を受けたり、国等と契約を締結したりして実施している事務・事業に関して、業務運営が非効率となっているのではないか、不要な事業が実施されているのではないかなど様々な問題が指摘されている。
 本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、独立行政法人及び公益法人が実施する事務・事業が効率的、効果的なものとなっているかなどに着眼して検査を実施している。
 上記に関する22年次の検査結果としては、次のような事項を検査報告に掲記した。

〔1〕 承継債権に係る回収金等の入金の時期等を把握して、早期に運用を開始することにより運用収入の増加を図るとともに、取引先金融機関の選定に当たり競争性の拡大に努めるよう改善させたもの(独立行政法人福祉医療機構)

〔2〕 関係法人に行わせている賃貸住宅団地内の駐車場事業の経営及びその資産を承継することにより駐車場と賃貸住宅を一体的に管理して事業の一層の効率化を図るとともに、投資の利益を回収して事業運営に資するよう意見を表示したもの(独立行政法人都市再生機構)

〔3〕 独立行政法人及び国立大学法人における会計監査人の監査の状況について(特定検査対象に関する検査状況)

 また、国等が独立行政法人や公益法人と締結している契約等に係る経費の算定及び支払が業務の実態を反映した適切なものとなっているかなどに着眼して検査した結果として次のようなものがある。

(5) 行政経費の効率化、事業の有効性等に関するもの

 本格的な人口減少社会の到来、少子高齢化に伴う社会保障費の増大や、内外経済の構造的な変化、地球環境問題等の難しい課題に直面している社会経済状況の中、行政においては、事務の簡素・効率化による行政経費の低減や国等が行う事業の効率的、効果的な執行が求められている。
 本院は、このような認識の下、経済性、効率性、有効性等の観点から、事務が効率的に執行されているか、事業が目的を達成しているか、予算執行の効果が上がっているかなどに着眼して検査を実施している。
 上記に関する22年次の検査結果としては、前記(2)から(4)までに掲げた各事項のほか、次のような事項を検査報告に掲記した。

〔1〕 地域情報通信基盤整備推進交付金等により整備した情報通信設備について、利用者の需要を喚起するための加入促進活動を積極的に行わせることなどにより、利用率の一層の向上を図り、もって地域の住民がブロードバンドサービス等の利便性を享受することができるよう意見を表示したもの(総務省)

〔2〕 政府開発援助の実施に当たり、援助の効果が十分に発現するよう意見を表示したもの(外務省、独立行政法人国際協力機構)

〔3〕 夜間対応型訪問介護の利用の促進を図るなど、地域介護・福祉空間整備推進交付金等による事業の効果が十分発現する措置を執るよう意見を表示したもの(厚生労働省)

〔4〕 航空気象観測所における運航従事者等からの照会に応対する業務に係る費用の積算が業務の実態に即した経済的なものとなるよう是正改善の処置を求めたもの(国土交通省)

〔5〕 高額所得者等に対する明渡しの促進等の措置を適切に実施し、公営住宅を真に住宅に困窮する低額所得者の居住の安定を確保するために有効に活用するよう意見を表示したもの(国土交通省)

〔6〕 ごみ固形燃料(RDF)化施設の運営に資する情報を提供するなどして、施設の健全な運営及び市町村のごみ処理事業の安定化に資するよう意見を表示したもの(環境省)

〔7〕 高速道路3会社におけるトンネル内のジェットファンの設置工事の施行に当たり、各会社が発生材として管理しているジェットファンを会社間で利活用できる仕組みを構築することなどにより、工事費の節減を図るよう改善させたもの

東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構

 また、公共事業等の費用対効果に関するものについて次のような事項を検査報告に掲記した。

〔8〕 府省共通業務・システムについて、最適化の実施及びその評価等を適切に行い、費用対効果を踏まえた同業務・システムの構築等を図ることができるようにするとともに、担当府省との間で所要の調整を行うよう意見を表示したものなど (内閣国土交通省672

〔9〕 森林整備事業における林道整備の実施に当たり、事前評価及び新規採択の判断を行うための費用対効果分析が適切に実施されるよう意見を表示したもの(農林水産省)

〔10〕 ダム建設事業における費用対効果分析の算定方法を明確にするなどして、費用対効果分析が適切に実施されるよう意見を表示したもの(国土交通省)

〔11〕 国が実施する道路整備事業における便益及び費用の算出根拠を明確にするなどして、費用便益分析が適切に実施されるよう意見を表示したもの(国土交通省)

(6) その他

 以上の(1)から(5)までのほか、会計検査に関連する問題としては、租税特別措置についての問題、国民健康保険組合に対する国庫補助金の問題、年金記録問題、簡易生命保険の加入者福祉施設等の問題、牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策の施策等の問題等が、国会、報道等で取り上げられている。
 本院は、従来、会計検査に関連する問題が国会、報道等で取り上げられた際などには、必要に応じて関係府省等に対する会計実地検査を行い、関係者から説明を受けたり、資料を徴したりするなどの方法により検査を実施しており、上記に関する22年次の主な検査結果としては、次のような事項を検査報告に掲記した。

〔1〕 租税特別措置の趣旨に照らして有効かつ公平に機能しているかの検証を踏まえ、中小企業者に適用される租税特別措置の適用範囲について検討するなどの措置を講ずるよう意見を表示したもの(財務省、経済産業省)

〔2〕 国民健康保険の療養給付費補助金等が過大に交付されていたもの(厚生労働省)

〔3〕 「ねんきん特別便」の作成及び発送準備業務に係る委託契約において、委託業者に対する指示等が適切でなかったため、共済組合に発送した「ねんきん特別便」が組合員へ配布できずに返送されており、再度、発送するための費用を支出するなどしていたもの(厚生労働省)

〔4〕 年金記録相談等において判明した年金記録について、基礎年金番号への統合を適切に行うことにより、老齢厚生年金等を適正に支給するなどするよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの

〔5〕 簡易生命保険の加入者福祉施設等の譲渡等について(国会からの検査要請事項に関する報告)

〔6〕 牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策の施策等について(国会からの検査要請事項に関する報告)

〔7〕 在外公館に係る会計経理について(国会からの検査要請事項に関する報告)

3 本院の所見

 本院は、今後も我が国の社会経済の動向、財政の現状等を踏まえて国民の期待にこたえる検査に努めるために、国会等で議論された事項、新聞等で報道された事項その他の国民の関心の高い事項については、必要に応じて機動的、弾力的な検査を行うなど、適時適切に対応するとともに、我が国の財政の健全化に向けた様々な取組について留意しながら検査を行っていくこととする。