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厚生年金保険の老齢厚生年金の支給が適正でなかったもの


(48) 厚生年金保険の老齢厚生年金の支給が適正でなかったもの

会計名及び科目 年金特別会計(厚生年金勘定) (項)保険給付費
部局等 厚生労働本省(平成21年12月31日以前は社会保険庁)
厚生年金保険の事業に関する事務の一部を委任又は委託している相手方 日本年金機構(平成22年1月1日以降)
支給の相手方 78人
老齢厚生年金の支給額の合計 88,855,208円(平成21年度〜24年度)
不当と認める支給額 31,139,594円(平成21年度〜24年度)

1 保険給付の概要

(1) 厚生年金保険の給付

 厚生労働省は、平成22年1月1日に社会保険庁が廃止されたことに伴い、従来、社会保険庁が所掌していた厚生年金保険の事業に関する事務を所掌している。そして、同省は、当該事業に関する事務の一部を日本年金機構(以下「機構」という。)に委任又は委託し、機構は、同省の監督の下に、本部、全国9ブロック本部、312年金事務所等において当該委任又は委託された事務を実施している。
 厚生年金保険(前掲の「健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの」 参照)において行う給付には、老齢厚生年金等がある。

(2) 老齢厚生年金

ア 老齢厚生年金の支給の原則

 老齢厚生年金では、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)により、厚生年金保険の適用事業所に使用された期間(以下「被保険者期間」という。)を1月以上有し、老齢基礎年金に係る保険料納付済期間が25年以上ある者等が65歳以上である場合に受給権者となる。

イ 特別支給の老齢厚生年金

 特別支給の老齢厚生年金では、当分の間の特例として、原則60歳以上で被保険者期間を1年以上有し、老齢基礎年金に係る保険料納付済期間が25年以上ある者等が受給権者となっている。

ウ 特別支給の老齢厚生年金の給付額

 特別支給の老齢厚生年金の給付額(以下「年金給付額」という。)は、〔1〕 受給権者の被保険者期間、その期間における報酬、生年月日等を基に算定される額(以下「基本年金額」という。)と〔2〕 配偶者等について加算される額との合計額となっている。

エ 特別支給の老齢厚生年金の支給の停止

(ア) 特別支給の老齢厚生年金の受給権者が、厚生年金保険の適用事業所に常用的に使用されて被保険者となった場合において、総報酬月額相当額(注) と基本月額(基本年金額を12で除して得た額)との合計額が280,000円を超えるときなどには、基本年金額の一部又は年金給付額の全部の支給を停止することとなっている。

 総報酬月額相当額  標準報酬月額と、受給権者が被保険者である日の属する月以前1年間の標準賞与額(総額)を12で除して得た額との合算額

(イ) この場合の支給停止の手続は次のとおりである。

〔1〕 厚生年金保険の適用事業所の事業主は、常用的に使用している者が受給権者であるときは、その者の年金手帳により氏名、基礎年金番号等を確認した上で、資格取得年月日、報酬月額等を記載した被保険者資格取得届を年金事務所(21年12月31日以前は、社会保険庁地方社会保険事務局の社会保険事務所又は地方社会保険事務局社会保険事務室)に提出する。
〔2〕 年金事務所は、これを調査確認の上、届出内容を機構本部(21年12月31日以前は社会保険庁)に伝達する。
〔3〕 機構本部が届出内容に基づいて算定した受給権者に係る年金の支給停止額を厚生労働本省(以下「本省」という。)が確認し、決定する(21年12月31日以前は社会保険庁がこれらの機構本部及び本省が行う事務を行っていた。)。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点及び対象

 全国9ブロック本部の管轄区域内に所在する312年金事務所のうち9ブロック本部の176年金事務所が管轄する区域内において、21年に特別支給の老齢厚生年金の裁定を受けて年金給付額の全部を支給されている受給権者等580,618人のうちに、厚生年金保険の適用事業所からの給与収入が確認されて調査の必要があると認められた者が1,006人見受けられた。そこで、本院は、合規性等の観点から、これらの受給権者等を使用している498事業所について、被保険者資格取得届等の提出は適正になされているかに着眼して、21年度から24年度までの間における特別支給の老齢厚生年金等の支給の適否を検査した。

(2) 検査の方法

 本院は、本省においては、機構本部から提出された年金の支給額に関する関係書類により、また、上記の176年金事務所においては、事業主から提出された厚生年金保険に係る届け書等の書類により会計実地検査を行った。そして、適正でないと思われる事態があった場合には、更に年金事務所に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。

(3) 不適正支給の事態

 検査したところ、6ブロック本部の管轄区域内に所在する48年金事務所が管轄する56事業所の78人については、当該事業所において常用的に使用されて厚生年金保険の被保険者資格要件を満たしていて、総報酬月額相当額と基本月額との合計額が280,000円を超えるなどしていることから、機構本部において、基本年金額の一部又は年金給付額の全部の支給を停止するための手続をとるべきであったのに、被保険者資格取得届が提出されなかったなどのためこの手続がとられておらず、本省(21年12月31日以前は社会保険庁)は、これらの者について、基本年金額の一部又は年金給付額の全部の支給を停止していなかった。したがって、特別支給の老齢厚生年金等の受給権者78人に対する支給(支給額88,855,208円)のうち31,139,594円は支給が停止されていなかったもので、支給が適正でなく、不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、受給権者又は事業主が制度を十分理解していなかったり、誠実でなかったりして、事業主が前記の届出を怠るなどしていたのに、上記の48年金事務所においてこれに対する調査確認及び指導が十分でなかったこと、また、本省において機構に対する監督が十分でなかったことによると認められる。
 前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

 受給権者Aは、平成20年4月に裁定を受け、同月分から23年5月分まで、特別支給の老齢厚生年金を全額支給されていた。
 しかし、AはB事業所に20年6月2日に就職し、労働時間及び労働日数からみて当初から常用的に使用されており、年金事務所に対して厚生年金保険の被保険者資格取得届の提出が必要であるのに、同事業所の事業主がその提出を怠っていた。このため、Aが同事業所に就職した後の基本年金額の一部1,011,162円の支給が停止されていなかった。

 なお、これらの不当と認める支給額については、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。
 以上をブロック本部ごとに示すと次のとおりである。

ブロック本部名 年金事務所   本院の調査に係る受給権者等数 不適正受給権者数 左の受給権者に係る支給額 左のうち不当と認める支給額
      千円 千円
東北 山形等 2 27 4 5,784 2,644
北関東・信越 大宮等 10 124 16 17,882 5,939
南関東 千葉等 11 83 15 14,172 4,978
中部 富山等 10 92 11 12,340 3,528
近畿 堀江等 11 68 25 32,620 12,434
九州 東福岡等 4 25 7 6,054 1,613
48か所 419 78 88,855 31,139

 上記の事態については、本省及び機構は、従来、発生防止に取り組んでいるとしているところであるが、さらに、機構において、事業主に対する指導・啓発の強化を図るとともに、高年齢労働者等が多いと見込まれる事業所に対する調査を重点的に実施するなどの必要があると認められる。また、本省において、機構に対する監督を適切に行う必要があると認められる。